2014年4月

島成園《祭りのよそおい》

島成園 しませいえん (1892–1970)
《祭りのよそおい》

1913年(大正2) 絹本着色 142.0×284.0cm

カワイイ服を着たい。それは時代や地域を問わず、少女に共通する永遠の願いといえるでしょう。スタイルには流行がありますが、その時代や環境のなかで、上質で華やかなものに対する憧れ、あるいは手が届かないことへの哀しみは、年齢にかかわらず女性の心に潜んでいます。今は気軽で安価にファッションを楽しめる世の中ですが、百年前の「装い」は、「食」や「住まい」と同様、出自とともに定められた宿命に近いものでした。

《祭りのよそおい》の舞台は大阪・船場(現在の中央区)の商家の軒先です。夏祭りを迎えた大きな商家では家紋を染めた幔幕(まんまく)を吊るす習慣があり、三つ柏の紋の前に、着飾った三人の少女が床几(しょうぎ)に座っています。向かって左に座る年上の少女は肩上げした振袖(大胆な人物文様)をまとい、柄の凝った半衿に、帯揚げは総絞り。藍色の上等な草履は白足袋から片方脱げて、髪は大きなリボンで飾られています。隣の幼女は妹でしょうか、簡単な着付けですが着物や帯は上等で、紅白の鼻緒に黒塗りのぽっくりを履き、赤い飾りを付けたカチューシャがお洒落です。二人と並んで、赤と黒の亀甲繋ぎの絞り染めの着物をまとう少女は、単色の兵児帯(へこおび)を締め、羨ましそうに姉妹を見ています。さらに右方の少し離れたところから、質素な身なりの少女が三人をじっと見つめています。横顔しか見せないその子は、祭りのための特別な装いではなく裸足に普段着で、野辺の花を髪に挿しています。そして三人の装いに気後れしたのか、祭り用の団扇を後ろに隠して立っています。一見すると愛らしい少女の群像ですが、子どもの世界にも親の社会階層を反映して残酷な貧富の差があることを、21歳の女性画家・島成園は着物や髪飾り、子どもの表情などを細やかに描き分けて表現しました。

堺市に生まれた島成園は13歳頃に大阪市の島之内に家族とともに転居し、兄・島御風の図案の仕事を手伝いながら日本画を独習します。早熟な才能に恵まれ、住居が近かった北野恒富たちと行動を共にして、20歳の若さで画壇にデビューしました。《祭りのよそおい》は第7回文展に入選した秀作です。手馴れた美人画を描くことに気乗りせず、子どもをテーマに描いたとのことです。モデルとなったのは北野恒富の娘や近所の女の子で、じっとしていないため制作中は苦労したようです。1918年(大正7)に描いた成園の自画像《無題》(大阪市立美術館蔵)も女性画家ならではの作品ですが、少女の痛々しい心情を描いた《祭りのよそおい》にも自身の体験や思いが込められているのではないでしょうか。

ところで、絵のモデルとなった当時6歳前後と思われる少女たちは、その後の激動の時代をどのように過ごしたのでしょう。大戦もありましたが、幸せな生涯を送れたのでしょうか。絵を眺めながら、彼女たちに時々そっと語りかけています。

(主任学芸員 小川知子)