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紙本墨画釈迦三尊画像(鶴満寺) 1面

2019年1月9日

ページ番号:9088

紙本墨画釈迦三尊画像

しほんぼくがしゃかさんぞんがぞう

分野/部門

有形文化財/美術工芸品〔絵画〕

所有者

宗教法人 鶴満寺(かくまんじ)

所在地

大阪市北区長柄東1

紹介

 法量 : 縦183.6cm × 横454.3cm
紙本墨画釈迦三尊画像 写真

 本堂内陣の本尊背後の壁、いわゆる来迎壁(らいごうへき)の裏側に描かれた画像である。来迎壁の裏側に貼り付けられた紙に直接描かれている。縦約60cm、横約120cmの長方形の紙を、縦に三段、横に四列継いだ、来迎壁一面に及ぶ大きな作品である。
 画面の右上と左上に岩壁が描かれており、洞の中に坐す三尊像を描いていることを示している。画面中央には、頭背に円相(えんそう)を負って、正面を向いて坐す釈迦如来を描く。螺髪(らほつ)の粒は大きく、肉髻相(にっけいそう)と白毫相(びゃくごうそう)をあらわす。頸には三道相(さんどうそう)をあらわす。服制(ふくせい)は大衣(たいえ)、褊衫(へんさん)、裙(くん)を着ける。大衣は左肩からかかり、右肩からさらに胸前を覆う。両手は腹前に置くが、印相は衣に覆われて見えず、拱手(こうしゅ)である。衣の稜線は太めの線で描く。衣の襞は、稜線より少しだけ細めの線で流れるように描かれる。衣の縁と条葉部(じょうようぶ)には薄墨が施される。左肩や腹前の巻き込むように衣が描かれるところでも、総体として見ると、線種やその本数は少ない。線を絞り込んで簡潔化をはかり、要所にのみ配することで、衣の質感とその下の肉身を効果的にあらわすことに成功している。左足を上にして、岩座に茂る芝草の上に結跏趺座(けっかふざ)する。岩座の側面にも草木が描かれる。画面右には、如意(にょい)を持し獅子に騎乗する文殊菩薩(もんじゅぼさつ)が、画面左には、経巻(きょうかん)を持し、白象(はくぞう)に騎乗する普賢菩薩(ふげんぼさつ)が描かれる。両菩薩は幼さの残る若々しい表情が印象的な童子形をとり、宝冠を着け、半跏(はんか)の像容で描かれる。
 画面左隅に墨書による落款(らっかん)がある。5つの方印を伴う。内容は次の通りである。
 
    (朱文方印 印文「雲松山」)
 宝暦三龍集癸酉春三月
  洛西上善寺二十五世住
          智環謹画 (朱文方印 印文「智環」)(白文方印 印文「□□之印」)
  平安     望玉蟾執硯(朱文方印 印文「□□(望系か)之印」)(朱文方印印文「守静」)

 この記述から、宝暦3年(1753)に京都上善寺(じょうぜんじ)の25世であった智環(ちかん)が描いたものであることがわかる。宝暦3年は本堂建立の年であり、本堂の建造にあわせて、来迎壁に描かれた画像と考えられる。作者の智環は、鶴満寺の再興2世であり、鶴満寺の再建に大きな役割を果たしたと考えられる人物である。また、「望玉蟾執硯(ぼうぎょくせんしっけん)」の記述があることから、望月玉蟾(もちづきぎょくせん)が、智環の共作者として制作に関与していることがわかる。
 望月玉蟾は、江戸時代の絵画史上で極めて重要な人物の一人である。漢画の影響を受けた新しい作風の先駆者であり、池大雅(いけのたいが)と並ぶ人物と位置付けられる。京都の望月派の祖とされ、18世紀に活躍したが、その生涯については不明な点が多く、没年は宝暦5年(1755)頃とされている。この釈迦三尊画像は、落款と年紀がともに確認できる玉蟾の最も晩年の作品である。
 江戸時代には、伝統的な仏画のスタイルとは少し異なるかたちの釈迦画像が多く描かれた。本画像もその系統の作品で、岩座に坐した釈迦の姿や、胸元を覆う独特の服制をとる釈迦、童子形の文殊・普賢、ユーモラスな感のある獅子と白象などに、独特の風情を示している。中でも特に印象的なのは、三尊の表情である。微笑を浮かべながらも、少し寂寞とした表情を浮かべる釈迦は、諦念に到達した孤独を感じさせる。他方で、文殊と普賢の無邪気な表情は、若々しい純朴さを漂わせ、釈迦との対比が鮮烈である。
 このような特色は、智環の技量に拠るところよりも、むしろ玉蟾に負うところが多いと思われる。というのは、鶴満寺には智環の作品である釈迦涅槃図(しゃかねはんず)が別に伝来しており、そこでの画風と印象が異なるためである。釈迦涅槃図は制作の年代は明らかでないが、智環の落款がある。通規の涅槃図のスタイルによる作品で、中央に横臥する釈迦如来を描き、周囲を弟子たちや動物が取り囲んでいる。動物の写実的な描写に作者の技量をうかがわせるが、釈迦や弟子たちの表情には、生硬さが残る。釈迦三尊画像における三尊像の印象的な表情とは隔たりがある。従って、この釈迦三尊像の制作には、玉蟾が関与したところが大きいのではないかと推測される。玉蟾との関連だけでなく、本堂の建立との同時性という観点からも貴重であり、市内に残る近世仏画の異色の大作といえる。

用語解説

螺髪(らほつ) 巻き毛状になった如来の髪

肉髻相(にっけいそう) 仏の身体的特徴を現す三十二相の一つ。肉髻は如来の頭頂部に一段高く隆起している部分で、悟りを開いた証とされる

白毫相(びゃくごうそう) 仏の身体的特徴であるの三十二相の一つ。白毫は、額中央の眉間にあって光明を放つという長く白い巻毛

大衣(たいえ) 僧が着る袈裟の一つ。僧の正装衣で、9条から25条の布片を縫い合わせた1枚の布からなる

褊衫(へんさん) 両袖を備えた上半身をおおう法衣。下半身に裙子(くんす)をつける

裙(くん) 僧侶がつける、黒色でひだの多い下半身用の衣服

印相(いんそう) 仏の手の形や組み方をさす。印契

拱手(こうしゅ) 中国の敬礼で、両手の指を胸の前で組み合わせておじぎをすること。また、その様を指す。きょうしゅとも読む

結跏趺坐(けっかふざ) 仏の座り方。両足を組み、両足裏を上に向けて座る。如来が必ずこの座り方をするので「如来座」という

半跏(はんか) 結跏趺坐(けっかふざ)の略式の坐法。足を結んだ形ではなく、片足を他の片足の腿の上に組んで座ること。菩薩坐。半跏趺坐

参考文献

『大阪市文化財総合調査報告書 大阪市内所在の仏像・仏画 鶴満寺の仏画について』(大阪市教育委員会 2004)
黒川 修一「望月玉蟾についての二、三の考察[一]」 (『広島県立美術館研究紀要』3 1996)

 

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