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木造阿弥陀如来立像(宗念寺) 1躯

2019年1月9日

ページ番号:9127

木造阿弥陀如来立像

もくぞうあみだにょらいりゅうぞう

分野/部門

有形文化財/美術工芸品[彫刻]

所有者

宗教法人 宗念寺(そうねんじ)

所在地

大阪市天王寺区下寺町1

紹介

 法量 : 像高 99.9cm
木造阿弥陀如来立像 写真

 宗念寺は、元禄8年(1695)に成立した『蓮門精舎旧詞』によれば、慶長9年(1604)の創建という浄土宗の寺院である。本尊である阿弥陀如来立像は約3尺の立像である。元禄14年(1701)の地誌である『摂陽群談』には、次のように記載されている。「本尊弥陀(立身三尺二寸)役行者の彫刻なり 行基菩薩の弥陀(立身三尺) 聖徳太子手造の地蔵(立身二尺六寸)尊等を宝物とす」。宗念寺は第二次世界大戦の際に全焼し、唯一残ったのが、当時の本尊であった本像である。『摂陽群談』に記される役行者作といわれる元禄当時の本尊像に対応するものと思われるが、行基菩薩の弥陀と称される像にあたる可能性もある。
 本堂中央須弥壇上に安置される。螺髪(らほつ)は矧ぎ付けによる。粒はやや大振りで、旋毛が彫出されている。髪際は中央部がわずかに下がる。玉眼を嵌入し、目尻がやや上がる。鼻筋は太く、口元に髭を墨であらわす。鼻孔は彫出され、耳朶は環状である。三道相をあらわす。
 大衣、褊衫(へんさん)、裙(くん)を着す。大衣は左肩からかかり、右肩をその一端が覆う。左肩から腹前にかかる大衣は1段折り返されている。褊衫は右腹前でたくしこまれ垂下する。腹前から脚部にかけては、U字形の衣文が繰り返しあらわされる。衣文の彫り口は深く明快である。腹前の衣文線の間隔は狭く、脚部に下がるほど広くなっている。両袖は裾先まで垂下する。両袖とも左右の振幅が大きく、波打つように表現されている。右腕は掌を正面に向けて垂下し、第1指と第2指を捻じる。左腕は屈臂して、やはり第1指と第2指を捻じる。鎌倉時代から室町時代にかけて流行した、いわゆる逆手来迎印の像である。腰のひねりはわずかで、両足をほぼ揃えて蓮台上に立つ。
 螺髪部は群青で彩色されていたと思われるが、現状では古色を呈する。肉身部は金泥(こんでい)により彩色され、衣部は漆箔(しっぱく)で覆われるが、剥落が見られる。光背、台座、観音・勢至(せいし)の両脇侍を伴う。
 構造については、頭部は正中で材を寄せる。体部の根幹材もやはり正中で材を寄せる。さらに両体側に縦に別材を寄せる。左体側材のみ像底まで通っている。右手首先は別材である。右袖の外側と内側もそれぞれ別材を寄せる。また、右袖口外側の縁に別材の小材を寄せる。右前膊部分も別材の可能性がある。左袖の前膊にかかる部分は、外側と内側にそれぞれ別材を寄せている。左前膊から先も別材である。左手首先についても別材と思われるが、金泥の彩色が厚いため断定はできない。両足首先は足首部分で別材を根幹部前面材に差し込んでいる。頭部及び体部根幹材ともに、一木を割矧いでいるのか、あるいは別材を寄せているのかは不明である。足ホゾも含めて銘記はない。
 後補部分は、肉髻珠、白毫珠、右手首先、左前膊から先、右袖口外側の縁、両足首先、肉身部の金泥彩色、衣部の漆箔、蓮台、光背、及び両脇侍である。このうち、蓮台、光背、両脇侍は第二次世界大戦後の後補である。
 面相部は後補の彩色の影響もあるためか、いくぶん硬い表情となっているが、やや幅広の面相に彫出される目尻の吊り上がった意志的な表情は特徴的である。
 全体として、衣文の彫り口は深く鋭い。大衣の袖における衣文線の処理などに装飾的な要素が見られ、動的な雰囲気を的確に表現している。右胸前にのみ褊衫のたくしこみが見られ、左胸前には褊衫もしくは内衣のたるみは表現されない。この胸前の様式は、快慶の中期の様式に共通するものである。腹前からは脚部にかけては、U字形の衣文線を反復する。腹前では衣文線の間隔は狭いが、脚部に下るに従って次第に広くなっている。快慶の制作した阿弥陀如来立像の通例は、大腿部にアーモンド形の衣文線をあらわし、それを囲むように縦に衣文をあらわしていくことが多い。快慶の様式を踏襲した安阿弥様においても、大腿部から下方では縦方向の衣文線が支配的である。しかし、逆手来迎印の像においては、快慶作として著名な兵庫県小野市の浄土寺像や、奈良市の唐招提寺像など、U字形の衣文が繰り返される形で表現される。本像もこの様式に連なる作品である。
 衣文線の深く鋭い彫り口、両袖の垂下部分などに見られる動的な要素の的確な処理、目尻の上がった特徴のある表情などを踏まえると、14世紀代に遡る制作と考えられる。逆手来迎印の阿弥陀如来立像の事例としても貴重であり、浄土教信仰が盛んであった大阪に伝来する異形の阿弥陀である。

用語解説

須弥壇(しゅみだん) 仏堂内で仏像や龕(がん)を安置する壇で、 須弥山(しゅみせん)に象って称する

螺髪(らほつ) 巻き毛状になった如来の髪。彫り出したものと別に作って貼り付けたものがある

玉眼(ぎょくがん) 木彫像で、刳りぬいた目に眼を描いた水晶を入れ、和紙または綿で押さえて現実感を出す技法。鎌倉時代に盛行した

三道(さんどう) 仏像の首にある三本のしわ

金泥(こんでい) 金粉をにかわで溶いた顔料

肉髻(にっけい) 如来の頭部の盛り上がり部分

白毫(びゃくごう) 仏像の額中央にある白色の巻き毛。水晶などで表現する

参考文献

大阪市教育委員会 『大阪市文化財総合調査報告書26 宗念寺阿弥陀如来立像について』(2000)

 

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