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【第19号】うちの子、ちょっと変わってるかも?2 ~アスペルガ―の子どもたち その支援のヒントを探る~  六甲カウンセリング研究所 所長 井上 敏明

2022年10月30日

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アスペルガ―の子どもたち

前回、特別支援教育の対象になっています4タイプの説明と、アスペルガー系の特性をもっている子ども達のことを書きました。

引き続き、天才と称されている偉人や逆に家庭裁判所や刑事裁判で問われる立場の問題の青少年など、例に挙げて、その特有なキャラクターに触れてみたいと思います。

 ところで、五年前にもなりますが、ある日私のところに、「僕はアスペルガーですか」と、母親を伴って相談にみえた青年がいました。

対人関係だけというより、どうも他の人たちと較べ、普通のように生きて行けないという訴えでした。

「何故なのか教えてほしい。ちょっと遅くに外に出て歩いても、警察官と出会うと、必ず不審尋問を受けたりするのです。」

こう言って、来談して見えた青年、半年以上はかかりましたが、カウンセリングを経て、元気になりマイペースの生活を確保したのです。その思いを彼は一冊の本にしました。タイトルは『アスペルガー症候群と共に生きる僕の勇気』でした。

 前書きの一部を紹介します。

「アスペルガー症候群とは知的障害を伴わない高機能自閉症の一種で、診断が非常に難しい。そのため、僕も含めた多くの人が長い間、健常者と見なされる生活していくことになり、多くの悲劇もその社会から生まれた。僕も幼い頃からいじめの標的とされ20才を過ぎても依然として心無い不良少年に誹りを受け続け、そのうえ心から打ち解けあえる友人も見つけられぬまま、人として人の中で生きていくことに非常に苦しんだ。」

この青年が、私のところに来て、自分がアスペルガーの特性をもっていたのだと分かって、これまでの生活の大変さに気付き、自分を取り戻していったのです。

 そういえば、北アイルランドに生まれ、育ったケネス・ホール君が10才の時『ぼくのアスペルガー症候群』という本を書いているのです。(野坂悦子訳 東京書籍)その中で、おおぜいの人の中にいるのがむずかしい、一つのことでしか集中できない、他の人の感じ方が分かりにくい、決めるのに迷い、いったん決めたら転換がきかない、そして舌ざわり、肌にふれる、音などに敏感すぎるなど、他の子どもと、どうしても違っている、と訴えています。

 どの人も、アスペルガー系の人は五感がとても鋭敏なのです。

だからでしょうか、他の人よりも関心をもつ度合いが深くして、粘り強く、事をやり遂げるまで諦めない長所が偉大さを生むことになるのです。それはそれで素晴しいことですが、一方で裏目に出ると、しつこい人、空気の読めない人、冷たい人、変な人などと思われてしまいます。昔から、天才と狂気は紙一重と言われます。だからでしょう、欧米では「偉大な天才には狂気の気味がない人はいない」と言われているようです。

 先に紹介した青年もこんなことを書いています。

「平成9年に起きた、神戸連続児童殺傷事件の犯人の少年や平成17年の大阪府寝屋川市小学校教諭殺傷事件の犯人の少年もそれに該当するらしい。もし彼らの特異性の理由をもっと早くに周囲が理解していれば、このような凶行を未然に防ぐこともできたかもしれない。」


アスペルガ―の子どもたちへの支援のヒント

私は2009年10月に、M・フィッツジェラルドという人の『芸術的創造性の才能』という本を『天才の秘密(世界思想社)』と題して、翻訳を何人かでやり遂げ監訳者として出版しました。

 アスペルガー系の特性というのは、人格の骨組みに「自閉的」なところがあって、マイペースタイプ、まわりの空気を掴むのが苦手、また、言語には特別関心があり、記憶に勝れ、粘り強く、疲れ知らずに頑張る、裏表がなくて根は優しい。

しかし、興味関心の幅が極端に狭く、一つのことにこだわると最後まで徹底してやろうとするので、まわりと波長合わず対人関係でトラブルを起こしやすい。うまく行けば天才的な偉業を、悪いときはまわりが驚くような犯罪など、両極端なところがあるともいえます。

大事なのは、まわりの大人が、そのような回路を生まれながらに資質として親から貰っているということを理解するという捉え方です。

優劣の差はあるとしましても、普通ですと大半が同じような考え方や感じ方で生きています。しかし中には、その普通の範囲からはみ出る人がいるのも、現実です。

そう言えば、小4の男の子がクラスでまわりから嫌われていて、親も困っている、と相談に見えた若いお父さんがいました。どうしてご子息さんは嫌われるのですか、と尋ねますと、こんな話をされたのです。

「昔から小動物が好きなのでよく飼っていました。しかし、しばらくしますと中が見たいといって、いつの間にか解剖していたりするのです。生き物は大切に育てるのですが、成長してしまうと、興味や関心が変わるのです。」

そして一人で、あぁこれが骨か、などと感心して図鑑と較べたり、学者的なところがあったのです。それはいいのですが、学校はまだ田園地帯、登校の途中で、蛇など見付けると掴まえて学校へ持って行ってはクラスメイトにこれが骨だとか言いだし、大問題となったのです。これは、本などに書いてあるアスペルガー人間かなと考え、学校の先生に分って貰うため、子の心理診断をお願いしたい、といった相談だったのです。そして一番の心配は、将来のことでした。

いろいろとご相談にのりましたが、頭はよくて理数系の子どもさんでしたから、将来は、医学部へ進み、「解剖学者」の道がありますよ、と話しました。

幸い医学部在学生の中で解剖や司法医学に進む人は、どこも6年目ごとにようやく一人希望者が出るといったところで、大学教官への道も早いのです。父親は私の話で、大変に喜んで、帰られたのでした。

問題の人とか、変だとか、奇妙だなどといった見方でなく、ユニークでおもしろい特性の持ち主といった視点で、アスペルガー系の子どもたちに対して、あたたかく接して頂きたいものです。

 


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