多文化共生のまちづくり

~地域でくらす生活者として
外国につながる中高生・若者が抱える課題、解決策を考えよう~

監修:子どもの夢応援ネットワーク

制作:教育委員会事務局生涯学習担当

本学習コンテンツは…

・2021年10月28日に実施した「多文化共生のまちづくり~地域でくらす生活者として外国につながる中高生・若者が抱える課題、解決策を考えよう~」をタイトルとして、「子どもの夢ネットワーク」に参加しているメンバーによる支援者、当事者からそれぞれの立場で話していただいた内容をもとに編集したものです。

・本資料をとおして、地域でくらす市民の立場で、国籍や民族、文化、言葉の「ちがい」を認め合い、ともに暮らしていくために、私たちが何を心がけていくべきかを考える機会となれば幸いです。

資料の構成

第一部:支援者の立場から~力を引き出す支援と場づくり~

支援者の立場から、外国につながる中・高校生、若者の世代がどういった課題を抱えているか、将来の生活に展望が持てるための支援づくりについて、取組事例をもとに見ていきます。

中学生まで ~ 坪内好子さん(西淀川インターナショナルコミュニティー)

高校生世代 ~ 橋本義範さん(NPO法人おおさかこども多文化センター)

若 者 世 代 ~ 石田みどりさん(公益財団法人とよなか国際交流協会)

第二部:外国につながる若者の立場から~大阪で育つ~

大阪で育ち支援を受けた若者の立場から、学生時代、どのように過ごしてきたのか、就職し社会人となった今、感じていることなど、聴き手の坪内好子さんのお話とともに見ていきます。

JB Vicenteさん(フィリピン食材店 サリサリストア)

聴き手:坪内好子さん(西淀川インターナショナルコミュニティー)

第三部:外国につながる教員の立場から~多様な出会いを学び(インタビュー動画)

外国につながる教員の立場から、外国につながる生徒への思い、保護者や周りがどうかかわっていけばよいか、教員として感じたことを動画で紹介していきます。

韓文亨さん(大阪市立大池小学校小学校教諭[指導専任])

パレル ハンズ さん(大阪府立成美高校教員)

金仁淑さん(大阪市教育委員会民族講師)

進行:岩城あすかさん(公益財団法人箕面市国際交流協会)

「子どもの夢応援ネットワーク」とは

2016年の夏にスタート。最初は(公財)箕面市国際交流協会、コリアNGOセンター、新聞記者が集まって話をする中で、個々の団体の取組でできることももちろんあるけれども、横のつながりの中でこそ、大きな課題に取り組めるだろうと、「マイノリティ性をもつ、子ども・若者の教育や就労を支援する人たちのネットワーク&実践づくり」をテーマに、活動を始めました。

「子どもの夢応援ネットワーク」 これまでの取組

①若者トークイベント

・ネットワーク発足記念イベント(2017.7)
「にっぽんのハタラクを考える」

・トークイベント「いま自分何してる?」(2019.7)

②年に1度のパネルトーク&語り合い

・「ともに生きるシンポ」(4回実施)

③さまざまな勉強会

・文科省担当課長を招いた勉強会(2019.6、2020.11)

・箕面市障害者事業団の見学 (2018.8)

・大阪府若者サポートステーション見学相談会(2020.11)

④その他

・外国にルーツを持つ高校生へのアンケート&インタビュー調査
(2018年度)

・大阪市教育委員会主催研修会の開催(受託事業)
(2019.10、2020.10、2021.10)

第一部

支援者の立場から
~力を引き出す支援と場づくり~
中学生まで

坪内好子さん
(西淀川インターナショナルコミュニティー)

中学生まで

ともに生きる若者たち
外国につながる子どもたち編

【外国につながる子どもたちって】

外国籍の子ども、両親またはどちらかの親が外国籍の子ども、オールドカマー、ニューカマー、日本語を母語としない子ども、外国につながる子ども、帰国・来日等の子ども、海外帰国児童生徒、渡日児童生徒、等々いろいろな言葉が使われています。海外か日本かという二択で捉えきれない様々な子どもたちが増えています。

外国につながる子どもたちは、
大阪市にどのくらいいるの?

大阪市内の外国籍・外国につながる児童生徒

大阪市内の全小中学生 約166,000人

日本籍の子ども    約160,000人

外国にルーツのある子ども(日本国籍)約5,400人

外国籍の子ども およそ4,000人弱

日本以外にルーツのある子ども 約9000人(令和2年現在 大阪市教育委員会調べ)

大阪市の外国人住民数の現状

大阪市では143の国や地域を出身とする144,123人の外国人住民が居住し、全市民の約5.3%を占め政令指定都市の中で最多である(大阪市HPより)

子どもたちの日本の学校への編入は、保護者の就労、国際結婚等、国や地域、状況によって経過はさまざまです。

近年、編入増の区は、淀川区、北区、中央区、浪速区、生野区、天王寺区、平野区です。ルーツのある国の数は43か国となっています。※大阪市教育委員会調べ

次ページからは外国につながる子どもたちの課題や支援について見ていきます。

1.外国につながる子どもたちの実態は?

○日本語指導が必要な子どもたち

○外国につながる子どもたちの受入れ・共生のための教育推進事業

2.高校進学について

○進路選択に向けて

○高校入試の配慮事項、ダイレクト入試

1.外国につながる子どもたちの実態は?

日本語指導 ~外国につながる子どもたちの実態~

日本語指導が必要な外国籍の児童生徒は、40,755人、10年で約1.4倍です。また、日本語指導が必要な日本籍の児童生徒は10,371人で10年で約2.1倍です。公立学校に在籍する外国籍の児童生徒数は93,133人、約半数の外国籍の児童生徒が日本語指導が必要とされています。大阪市における日本語指導が必要な児童生徒の数は、2003年度から15年間では約4倍の増加です。(参考:文科省「日本語指導が必要な児童生徒の受け入れ状況等に関する調査(平成30年度)他)

近年増加している日本生まれや日本と母国を複数回移動しているが日本滞在の方が長い児童生徒の中にも、日本語指導が必要な場合が見受けられます。個人の努力や能力以外の、言語的な要因が考えられることがあります。

公立学校における外国籍の日本語指導が必要な児童生徒数の割合
平成30年度文科省統計より グラフ作成(筆者)

日本語指導が必要と
集計されない児童生徒数
56%

日本語指導が必要な
児童生徒数
44%

日本語指導を必要としてい
るのは外国籍の子どもたち
だけじゃないんですね。

施策~

文科省

●外国人児童生徒等教育を進める枠組みが令和2年7月に決定
参考:外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策

●日本語教育の推進に関する法律(令和元年法律第48号)及び「基本方針」
令和3年6月23日に閣議決定

●「外国人児童生徒等教育の現状と課題」令和3年5月文部科学省総合教育
政策局国際教育課

大阪市

日本語指導の保障、母語・母文化の保障、多文化共生教育の推進

① 市内4か所の共生支援拠点で、プレクラス、JSLカリキュラム/
教科における支援

② 集住地域の学校では、教員加配

③ 日本語指導が必要な子どもの教育センター校

④ 日本語指導協力者による支援

⑤ ※JSLカリキュラム日本語指導員及び教科における母語支援員による支援

※JSLとは、Japanese as a Second Languageの略で「母語ではない第二言語としての日本語」を指します。

大阪市での外国につながる子どもたちの
受入れ・共生のための教育推進事業につ
いて、次ページで見ていきます。

2020年度からの日本語に関わる支援(大阪市)

①プレクラスの実施

大阪市内4か所に共生支援拠点 日本語指導、通訳者の依頼、教育相談受け付け
小1~中3対象 初めて日本の学校に編入する子どもへの簡単な日本語や日本
文化の指導 外国から編入する小1~中3までの子どもを対象とした支援や共生
のための教育推進を図るキーステーション

日本語指導員/プレクラス/母語支援員の各コーディネーター

②日本語指導教員加配校の設置

小学校8校と中学校2校

③日本語指導が必要な子どもの教育センター校

2021年度より小中7校ずつに
小4~中3対象 在籍校から週2~3回、1~1年半通級
日本語指導、高校への進路支援、母語・母文化支援

④日本語指導協力者支援

小1~小3対象 週2回 45分×25回在籍校で指導

⑤JSLカリキュラム日本語指導員及び教科における
母語支援員派遣

初期の日本語指導を終えた5年生以上対象

③日本語指導が必要な子どもの教育センター校

中学校

小学校

2.高校進学について

保護者は母国の制度から考えるため教育制度の理解が困難になり、
情報が伝わりにくく判断が難しくなります。

ニーズに合った情報伝達を通訳者とともに行っていく必要があります。

<事例>

大阪市西淀川区での「たぶんか高校進学セミナー2021」…2021年10月24日参加者53名
区役所、学校、共生支援拠点、市民団体等の実行委員会が主催

日本語指導が必要といわれる生徒とその保護者に限らず、日本生まれや母国と日本を
複数回移動している生徒とその保護者を含むセミナー

主な内容

□高校の種類と入試スケジュール

 (2月私立高校入試、公立高校特別選抜 3月公立
  高校一般選抜)

□諸費用と奨学金 いつ、いくらお金がいるのか
 (諸費用が準備できない時の相談先)

□入学試験の問題例

□先輩からのメッセージ

□個別相談

公立高校入試    参考:大阪府教育庁「進路選択に向けて」

海外から帰国した生徒の
入学者選抜
日本語指導が必要な帰国生徒
外国人生徒入学者選抜
一般入試
対象 原則として、外国に2年以上住み、
帰国してから2年以内の人
中国等から帰国または外国籍で
小学校4年生以上の学年に編入した人
日本で生まれた、
あるいは小学校4年より前に来日し、編入学した人
試験日 2022年2月17日(木) 2022年2月17日(木) 2022年3月9日(水)
合格発表 2022年2月28日(月) 2022年2月28日(月) 2022年3月17日(木)
実施校 東,大阪市立,日新(英語科),旭,枚方,佐野,花園,長野,住𠮷,千里,泉北(国際文化),和泉,箕面(グローバル探求科),住𠮷,千里,泉北(総合科学科),南(英語探求科)次年度募集なし 東淀川,福井,門真なみはや,八尾北,成美,長吉,布施北,大阪わかばの各高校 特別選抜をしないすべての学科
内容

数学,英語と面接(日本語)

和訳辞書1冊持ち込みできる

英語の試験では英和辞典及び英語が記載されているものは使えない

自己申告書…アドミッションポリシーに沿って書く(母語可)

面接…自己申告書に沿って日本語で答える

作文,数学,英語(リスニングあり)

作文は日本語以外で書くことができる 

テスト問題の漢字にふりがながある

作文の問題理解のためのキーワードを母語で教えてくれる

辞書を2冊まで使える

英語の試験で英語の入った辞書は使えない

国語,社会,数学,理科,英語(リスニングあり)の5教科※

A問題(基礎的問題)

B問題(標準的問題)

C問題(発展的問題)

自己申告書

中学校からの調査書

※定時制(国語,数学,英語)※通信制(面接)

高校入試の配慮事項

配慮事項1

対象:帰国または入国後、
   原則として小学校1年生以上の学年に編入学した人

対象となる高校:すべての公立高校

内容:

A 時間延長(約1.3倍)

Aが認められた場合

B 2冊の辞書が使える。

  但し、英語が入っている辞書は英語の試験には使えない。

  電子辞書は使えない。辞書を使う場合、国語の「漢字の
  読み書き」の問題は除かれる。

C 試験問題の漢字にふりがながつく。

  但し、国語の試験で「漢字の読み」の問題は除かれる。

D 作文や小論文の問題を理解するためのキーワードを
  母語でおしえてくれる。

配慮事項2

対象:原則として外国に継続して2年以上住み、
   その後、帰国してから2年以内の人

対象となる高校:すべての公立高校

内容:自己申告書を書くとき、先生や保護者に
   代筆してもらうことができる。代筆が不可能な場合は
   日本語以外のことばを使って書くことができる。

   参考:進路選択に向けて

ダイレクト入試生

母国で9年間の学習を終えて帰国・来日し、
高校受験を希望する人

大阪府教育庁で

12月…事前相談(予約制)

  1月…資格審査、承認書交付

  2月…承認書をもって出願、入試、
    合格発表

必要書類

・母国での卒業(就学)証明書

・住民票の写し

・パスポートの写し

・出入国記録等の書類

・他に大阪の公立高校受験を希望する申請書類等

中学校に在籍できないため、諸々の書類等の準備は、保護者・本人・支援者が通訳者を準備して行うため時間を要し、早めの対応が必要です。

子どもたちの環境作り

学習・文化習慣の違い
待ったなしの卒業後の進路選択
こぼれ落ちる子ども
親の超詰め込み教育にあえぐ子ども
経済的に余裕がない親も
(関心がないわけではない)

地域の声掛けを

共生支援拠点

教育委員会/
区役所

在籍校

NPO/地域の
教室

子ども・
保護者

子どもたちが将来に希望を持って進路選択できるように、
学校、保護者、地域、行政での環境作りが必要です。

第一部

支援者の立場から
~力を引き出す支援と場づくり~
高校生世代

橋本義範さん
(NPO法人おおさかこども多文化センター)

高校生世代

外国につながる高校生が抱える課題、支援について、大阪での取組み例を紹介しながら見ていきます。

1.外国につながる高校生が抱える課題

将来の自己実現を果たすための重要な学力的・精神的成長が期待
される高校生は、どのような課題・困難を抱えているのか

2.将来の生活に展望を持てるための支援と場づくり

社会進出への準備世代でもある高校生が課題・困難を克服し、生活者
としてスムーズに成長できる力を引き出すには、どのような支援
と場づくりが必要か

1.外国につながる高校生が抱える課題

1-1 高校生活を送る上での課題

・多くの外国につながる高校生(以下高校生)は小中学校時代は学校で孤立、いじめなど辛い経験をしており、高校でも不安を持ちながら学ぶ

・外国語である日本語による学習は理解度が低くなりがち

・母国で学習したことがないカリキュラム(特に地歴・公民、理科関係など)は基礎的知識がないので、
習得に苦労する

・ロールモデルが身辺に少なく、進路情報へのアクセスが難しいので将来への展望を描きにくい

結果として

日本語教育が必要な生徒の高校中退率は9.6%

公立高の全国一般生徒の平均1.3%の7倍を超える

『日本語指導が必要な児童生徒の受け入れ状況等に関する調査』(文科省 2018年5月調査)

1.外国につながる高校生が抱える課題

1-2 高校卒業後の展望(就職、進学)

一部の生徒は日本社会と関わった経験や、ロールモデルとの出会いが少なく、さらに家庭及び周辺からの助言も得にくい環境下で、将来展望を描く材料が少ないことから進路目標を立てにくい

・就  職

職場が求めるコミュニケーション力で一般生徒に比べ劣る

親戚・友人・知り合い等からの情報による縁故就職になりがち

一方で積極的に採用する企業もわずかであるが存在

・進  学

大学入学共通テストは日本の学校での長期の学習歴が必須であり、この制度を利用しての受験は困難

高度な日本語力や日本での長い生活経験を必要とする科目(国語、地歴・公民、理科関係など)は
不利

母語を活用してAO入試等で外国人生徒特有の力を発揮したり、外国人特別枠などを利用して
合格する生徒もわずかであるが存在する

1.外国につながる高校生が抱える課題

1-3 母語力低下への不安(母語の学習機会喪失)

母語は学校で学習する機会はなく、家庭以外の社会生活でも使用することがなくなることにより、母語力が低下する

・母語力低下などを契機として外国につながる子どもにありがちなアイデンティ形成期の迷いや揺れを経験する場合もある

・親は家庭内コミュニケーションの困難化への不安
親が母国で培った教育力、社会常識などの文化資産を子どもに十分引き継げない

例:社会の慣習についての助言、宿題などの学習支援

進学・就職の際のアドバイスなど

2.将来の生活に展望が持てるための支援と場づくり

2-1 学校教育での支援

・日本社会への適応力を育む

日本語教育の充実

2023年度より高校でも「特別の教育課程」導入を契機に前進が期待される

・自己肯定感を育む

アイデンティティ確立への支援

母語教育の充実

中央教育審議会の答申(2021.1)に「これまで以上に母語、母文化の
学びに対する支援に取り組むことも必要である。」

大阪府の「特別枠校」では設立当初から導入(全国的に注目)

                       (次ページ資料参照)

・ロールモデルの提示

同じ境遇で育ち日本社会で活躍する人物などの情報や、出会いの機会を提供する

資料:母語が得意な生徒は自尊感情が比較的高い

大阪のいわゆる「特別枠校」に在籍する日本語指導が必要な高校生約100人へのアンケートからの分析。日本語と自尊感情に関連はみられないが、母語と自尊感情には関連がみられる。母語が得意な生徒の方が、「自分の性格は好きだ」「自分には自信のある能力がある」と答える傾向にある。これは大阪の特別枠校では母語を学ぶ機会があり、「地下鉄ボランティア」など母語を日本社会の中で使える機会が確保されていることなどが自尊感情を育むことにつながっていると考えられる。

自分には自信のある能力がある
あてはまらない あてはまる 合計
日本語
の得意・
不得意
苦手 3
15.8%
16
84.2%
19
ふつう 13
26.5%
36
73.5%
49
得意 13
38.2%
21
61.8%
34
合計 29
28.4%
73
71.6%
102
自分の性格は好きだ
あてはまらない あてはまる 合計
日本語
の得意・
不得意
苦手 5
26.3%
14
73.7%
19
ふつう 10
20.0%
40
80.0%
50
得意 10
27.8%
26
72.2%
36
合計 25
23.8%
80
76.2%
105
自分には自信のある能力がある
あてはまらない あてはまる 合計
母語
の得意・
不得意
苦手 16
37.2%
27
62.8%
43
得意 13
22.0%
46
78.0%
59
合計 29
28.4%
73
71.6%
102
自分の性格は好きだ
あてはまらない あてはまる 合計
母語
の得意・
不得意
苦手 15
32.6%
31
67.4%
46
得意 10
17.0%
49
83.1%
59
合計 25
23.8%
80
78.2%
105

NPO法人おおさかこども多文化センター

『外国につながる子どもを元気にするための実態調査報告書』(2019年3月)より

(日本万国博覧会記念事業助成金利用)

2.将来の生活に展望が持てるための支援と場づくり

2-2 力を引き出す場づくり(社会での支援)

・日本社会とのつながりを生む場づくり

「府内高校生による地下鉄通訳ボランティア」活動

外国につながる高校生が地下鉄主要駅で母語を駆使して
訪日観光客に交通案内を行う

母語による日本社会への貢献により、母語の可能性を実感

日本社会の一員としての意識や自尊感情を育む

・日本社会の「内なる国際化」

将来、移住者(マイノリティ)も日本社会を支えることの認識必要

一般の人々(マジョリティ)の少しの意識改革がマイノリティを救う

例:コミュニケーション方法の改善(やさしい日本語、通訳アプリ活用)

公共機関、施設の多言語化等

つうやくします

多様化社会を実現するには

マイノリティにだけ大きな努力を求めるだけでなく、
マジョリティからの「合理的配慮」と社会構造の小さな改革が
マイノリティにとって「生きづらさ」がない多様化社会を実現できる

※「合理的配慮」

2006年国連総会で採択された「障害者権利条約」で規定

一人ひとりの特徴や場面に応じて発生する障害、困難さを
取り除くための個別の調整や変更

※外国で生まれ育ったり、日本生まれでも家庭内言語が日本語以外である高校生などを一般に「外国につながる高校生」と呼ぶが、このうち、18ページから25ページにおいては、学業途中で外国より日本の小中高等学校に編入したことで、より困難を抱えやすい高校生を取り上げている。

第一部

支援者の立場から
~力を引き出す支援と場づくり~
若者世代

石田みどりさん
(公益財団法人とよなか国際交流協会)

若者世代

・外国につながる若者が置かれている状況

・とよなか国際交流協会での若者支援事業
『わかもののたまりば』の活動や、
若者たちの声を見ていきます。

外国につながる若者

・国籍はさまざま(日本国籍の人も含む)

・両親、または親のどちらか一方が外国籍
(在日コリアン、渡日生徒、いわゆる“ダブル”…等)

・両親ともに日本人だが、海外生活の長い人(いわゆる帰国子女)

日本生まれ・日本育ちの人、日本との行き来を繰り返す人、
呼び寄せで来日する人、留学・仕事のために来日する人
・・・等、背景はより多様に。

若者が置かれている状況

悩みがあるけど、
相談相手がいない。

同じ外国につながる仲間がほしい。

たくさん話をしたい!
聞いてほしい!

家にいても学校や仕事でも、
なんだかしんどい。

みんなで楽しいことをしたい。

「外国につながる若者」と言っても様々な背景をもつ若者がいます。日本で生まれ育ち、教育も日本で受けている若者もいれば、途中で来日した若者もいます。さらに海外で義務教育を修了してから来日する若者もいます。義務教育を終えているので、高校入学・編入を目指すにしてもハードルが高く、仕事も簡単に見つからず、どこにも所属先がない若者も少なくありません。

15歳以上の義務教育対象年齢を超えた外国につながる若者たちは、所属や社会背景も異なり、ニーズも多様です。

学校など連携が取りやすい環境とは異なり、必要な日本語支援やキャリア支援につなぐことが難しく、また、自分の想いを表現したり、互いに聞き合ったりする場も限られているのが現状です。

若者支援事業

外国につながる10代、20代の若者のための日本語指導、
居場所づくり(2012年~)

たまりば(毎週日曜17時~20時)※第1日曜日は休み
学習支援・・・日本語学習、高校入学の支援

相談対応・・・仕事、学校、人間関係等

次ページからは
若者支援事業『わかもののたまりば』
の活動、若者たちの声を見ていきます。

『わかもののたまりば』

対象:外国につながる若者

   (高校生以上~39歳ごろまで)

日時:日曜日 17:00 ~ 20:00

     ※第1日曜日は休み

場所:とよなか国際交流センター

・外国につながる若者のための居場所づくりを様々な角度から行っています。

・集まった人で一緒にご飯をつくったり、やりたいことをみんなと見つけたりチャレンジしたり、みんなが楽しむ居場所づくりが「たまりば」です。

『わかもののたまりば』での活動内容

ふだんの活動

・簡単な料理を作って一緒に食べる(パスタ、カレー、フライドポテトなど)

・作ってみたかったお菓子を作って食べる(マカロン、パウンドケーキなど)

・ボードゲームやビリヤードをして遊ぶ

・テーマについて話し合う

・レジンでキーホルダー、アクセサリー作り

イベント

・フィリピン食材店やコリアタウンへフィールドワーク

・フェスティバルを企画、開催

・地域のお祭りに出店(自分たちで焙煎したコーヒーや世界のビール)

・ネパールの子どもと若者交流会

若者たちの声(1)

近年来日した若者

・専門学校への進学。
日本語で願書や作文を書かなくちゃいけない。
一人では難しいので手伝ってほしい。

・まだ日本語があまりできないけれど、働きたい。
仕事探しはどうやってしたらいい?

・親の通院のために毎回通訳として付き添っている。
日常会話の日本語は出来るけれど、
お医者さんが話す専門用語はわからない。
正しく理解できているか不安。
バイトに入れる日も減ってしまう。

若者たちの声(2)

日本生まれ・育ちの若者

・就職活動で、自分のやってきたことや能力ではなく、
ルーツの国のことばかり聞かれる。
自分自身を見てほしい。

・バイトの面接で、「ハーフなん?」「顔濃いと思った」と
言われた。それって仕事内容に関係あるの?

・バイトの同僚にルーツの国を聞かれて言うと
「え、それどこ?」 と言われた。
同じようなことが何回もあり、ルーツを言いたくなくなった。

「マイクロ・アグレッション」(微細な攻撃):
ひとつひとつは小さな言動だが、積み重なってマイノリティ
(少数派)にとって大きなダメージとなる。

・親(移民1世)との感覚のちがいから衝突することもある。

・日本にも、ルーツの国にも属していない感覚、
アイデンティティのゆらぎの悩み。

『たまりば』の活動で大切にしていること

ピア(仲間)、ロールモデル、安全な居場所

【ピア】

お互い分かり合える、励まし合える、支え合える
つながり続けられる仲間・・・とよなか国際交流センター以外での“場”が生まれる

【ロールモデル】

近い将来を考えられる身近な存在
いろいろな生き方(=多様な選択肢)がある

【安全な居場所】

じっくり話を聞いてもらえる、否定されない

自分のことを分かってもらえる
  →ルーツを大切にできる

自分の“やりたい”が実現できる
  →自己肯定感が高まる

ひとりじゃ
ない

自分を
みてくれる

ありのままで
いられる

・安心して過ごせる『居場所』

・自分を受けとめてくれる仲間がいる
『たまりば』の活動が大切なんですね。

第二部

外国につながる若者の立場から
~大阪で育つ~

JB Vicenteさん
(フィリピン食材店 サリサリストア)
聴き手:坪内好子さん
(西淀川インターナショナルコミュニティー)

  JB Vicente (JBビセンテ)さん

【自己紹介】
日本に来て10年くらい。大阪で育ちました。
今はフィリピン食材店(サリサリストア)
で働いています。

JBビセンテさん

日本の小学校・中学校、高校生活で感じたこと、
家族、友達、学校の先生とのこと、
社会人となった今、出身国フィリピンでの
ボランティア活動などについてお話を聞いていきます。

聴き手:坪内好子さん

  (西淀川インターナショナルコミュニティ―)

日本の小学校・中学校で

小学校、中学校での勉強はどのようにしましたか?

坪内好子さん

小学校4年生から6年生まで西九条小学校の日本語センター校でひらがな、カタカナ、漢字の順でやりましたがすごく難しいなと思いました。

中学校ではセンター校には行かないで、野球をしてから日本語が上手になっていきました。コミュニケ―ションが重要だと思い大事にしています。

日本語ができないと、はずかしいということがあるけれども、僕は勇気を絞って何でも伝えるようにしています。

自分が分かる日本語をちょっとずつゆっくり伝えるということをやっていて、日本語をしゃべれるようになりました。

JBビセンテさん

中学校から高校へ①

家から多文化進学塾まで、遠くて大変でしたね。

お母さんもすごく頑張って応援してましたよね。

坪内好子さん

中学2年生の時から、よい高校に入りたい、よい大学に入りたい、よい専門学校に行きたい、と自分のなかでスイッチが入り、多文化共生センターの坪内さんに一緒に勉強させてもらいたいってお願いして、ずっと勉強してすごく大変でした。家から多文化進学塾まで、遠かったのでバスで40分くらいかかりました。

お母さんも受験するとき半年間ぐらい店を閉めて、ずっと僕のことを見守ってくれました。

JBビセンテさん

中学校から高校へ②

好きな野球が高校進学に影響しましたね。

JB君は後輩の面倒もよく見ていましたね!

坪内好子さん

高校は、門真なみはや高校で、ずっと野球していました。

でも最後の2年間は一生懸命勉強しました。

野球も仕事も同じで、最後まであきらめなかったらよい結果が残るかなって最後まで頑張りました。

JBビセンテさん

高校で

高校生活とその後のことを教えてください。

坪内好子さん

ずっと野球と勉強をしていました。でも野球だけじゃなく、生徒会も書記とか頑張っていました。いろいろなことをやるのが好きで、何でも経験だと思うので何でもやろうって感じでやっていました。

高校卒業後、専門学校でトレーナーの勉強で子どもに野球を教えているうちに、フィリピンの子どもに野球道具を贈るボランティアを始めました。

フィリピンでは野球ができない環境です。日本で月18~25万円もらえるということがあるけれども、フィリピンでは月2万円という生活で子どもが野球をしたくても道具を買えない。そこで、高校を卒業してからフィリピンの子どもを助けようと思って、いろんな高校に行き、要らない野球道具があればもらってフィリピンの子どもに届けさせていただきたいとお願いをしました。

けっこう集まってフィリピンでけっこう上の人からも、いいことをやってくれてありがとうって言われて、これからもどんどん活動していきたいと思います。

JBビセンテさん

社会人としての今

社会人になってボランティア活動はどうしていますか。

坪内好子さん

高校の時の野球部の友達とか5人くらいのグループで続けています。今はコロナで行けないけれども、いつもは毎年12月やお正月に、マニラとかで学校を回って野球道具を渡してみんなと野球をするということをしています。

「セカンドハンドプロジェクト」っていうのを調べてもらったら、それがグループの名前です。クラウドファンディングも行って活動しています。

グループのメンバーは、フィリピン人も日本人もいて社会人になってからも続けています。

JBビセンテさん

社会人としての今

同年代の若者や後輩に伝えたいことはありますか。

坪内好子さん

小学校中学校の頃から僕的に一番大事なのは友達を作ることです。

日本語ができないから話せないということがあると思います。でも、それができないのは自分自身がないことだと思うので、しっかり自分が前向きにやっていくというのが必要だと思うんです。

生徒たちにも先生たちにも伝えたいことで、外国人が日本語ができないからってゆっくり喋るとかじゃなくて、しっかり1対1で納得させるまで説明することが大事ですね。小学校センター校の先生がずっとやってくれたのを覚えています。

コミュニケーションをとることで、うまくいく、よいことが起きると思っています。

JBビセンテさん

第三部

外国につながる教員の立場から
~多様な出会いを学び~
(インタビュー動画)

韓文亨さん
(大阪市立大池小学校小学校教諭 指導専任)
パレル ハンズ さん
(大阪府立成美高校教員)
金仁淑さん
(大阪市教育委員会民族講師)

韓文亨さん(大阪市立大池小学校小学校教諭[指導専任])

在日外国人教育や国際理解教育が盛んな町であり、かつ、自分が生まれ育った大阪市で教員をして19年になる。生野区で在日の仲間とともに育った経験や、読本「にんげん」を通した学習などが、今の自分の興味を育んだと思う。

新任教員のとき、先輩教員から「あなたのよさが全くでていない。本当にやりたいことは?」と叱咤激励され、視界が広がった。学習活動に自分らしさを出すことで、韓国ルーツの保護者と出会い、子どもの外国への興味関心を高めることができた。

大阪市は、管理職になれない制約はあるが、教諭(指導専任)という肩書きで担任を担うこともできる。教員以外にも外国ルーツの人々が学校で働いていて、異なる文化との出会いが得られる。

パレル ハンズ さん(大阪府立成美高校教員)

私のルーツはフィリピンで、2009年に来日しました。

大阪府立成美高校の英語科の教員として勤務して4年目です。

フィリピン語、日本語、英語ができます。長吉高校の出身で、そこでは3年間多文化クラブに所属し、自分たちの文化を紹介する活動をしていました。活動を通じて、自分も外国にルーツのある生徒をサポートしたいと思い、教員になることを決めました。長吉高校の先生方の厚いサポートのお陰で、頑張って大学を卒業できました。

今、高校で外国にルーツを持つ生徒の支援をしています。

一番力を入れているのは、日本語指導ですが、日本の学校・社会に慣れるための指導もしています。日本で暮らす子どもには、日本語学習や日本の文化・制度など日本について学ぶことは大事だと思います。

保護者へのお願いとして、子どもの通っている学校に興味を持ってほしいです。

教員と一緒に、日々学校で頑張っている子どもたちをサポートしていきましょう!

金仁淑さん(大阪市教育委員会民族講師)

私は現在民族講師として活動しています。大阪市内には100校を超える民族学級(国際クラブ)が設置されていますが、韓国・朝鮮のみならず、近年では中国、フィリピン、ベトナム、多文化学級など多様な学びの場が広がっています。

本来民族の言葉や文化・風習などは、親から子へ代々と受け継がれていくものですが、私たち在日朝鮮人の場合、一世の祖父母の世代が日本に渡ってくる歴史的経過の中で、民族的なものを封じ込められ、語ることが許されない状況にありました。その後も排他的な社会の影響を受け、韓国・朝鮮との繋がりを否定的に捉えたり、周りに隠さないといけないと思ってしまう子どもたちも多くいました。そんな子どもたちが、同じつながりを持つ仲間と出会い、学ぶ中で自尊感情を育んできました。

周りの日本人の子どもたちにとっても、互いに生きていこうという豊かな心を育むことに繋がっています。このような環境がどこに住んでいても保障される日本社会であってほしいと願います。

これからにむけて ~私たちが考え行動していくこと~

地域にくらす外国につながる若者が
自分を失うことなくキャリアを重ね夢を
実現するためには、社会や大人に何ができるか。

〇明らかな「立ち位置の差」があることを知ること

〇当事者の若者に向き合い、話をよく聞くこと

→本人たちは超人的ながんばりを求められがち

○「ありのまま」を受け入れる。寄り添う姿勢

→変わるべきは「マジョリティ」側であることを常に意識し、
少しでも社会を変える存在になること

進行:岩城あすか

平成29年度中の進路状況①

参考資料

(文科省発表および大阪府教育庁への聞き取りから)

① 高校中途退学率(以下各表は特別支援学校の高等部は除く)

在籍生徒数 中途退学
生徒数
中退率
全国の日本語指導が必要な高校生等 3,933 378 9.6%
大阪府の日本語指導の必要な高校生等 341 21 6.2%
全国の高校生等 2,295,416 28,929 1.3%

② 上級学校への進路状況

高校を卒業した
生徒数
上級進学等した
生徒数
進学率
全国の日本語指導が必要な高校生等 704 297 42.2%
大阪府の日本語指導の必要な高校生等 93 62 66.7%
全国の高校生等 750,315 533,118 71.1%

※ここでいう「高校生等」とは、公立の全日制・定時制高等学校、通信制高等学校、中等教育学校後期課程及び特別支援学校高等部の生徒をいう。

平成29年度中の進路状況②

参考資料

③ 就職者における非正規就職率

高校卒業後、
就職した生徒数
高校卒業後、
非正規又は
一時的に
就職した生徒数
就職者における
非正規就職率
全国の日本語指導が必要な高校生等 245 98 40.0%
大阪府の日本語指導の必要な高校生等 16 7 43.8%
全国の高校生等 158,135 6,746 4.3%

④ 進学も就職もしていない者の率

高校卒業した
生徒数
高校卒業後、
進学・就職・
帰国していない
生徒数
進学も就職もし
ていない者の率
全国の日本語指導が必要な高校生等 704 128 18.2%
大阪府の日本語指導の必要な高校生等 93 9 9.7%
全国の高校生等 750,315 50,373 6.7%

※ここでいう「高校生等」とは、公立の全日制・定時制高等学校、通信制高等学校、中等教育学校後期課程及び特別支援学校高等部の生徒をいう。

おわりに

大阪市には、政令指定都市の中で最も多い、人口の約5.3%、約14万人の外国人住民が暮らしており、従来から主に人権の尊重の観点から多文化共生について先駆的な取り組みが行われてきました。

しかし、外国人住民の文化的・歴史的背景、抱える課題やニーズが多様化している中、教育や行政サービスをはじめ、社会参加の問題など、依然として多くの課題があります。

それらを的確に把握し、市民・NPO・企業等と行政が協働して、多文化共生社会の実現に向けて取り組むことが必要になっています。

リンク集

◆多文化共生(大阪市ホームページより)

 大阪市で行っている多文化共生の取組、相談窓口等のホームページです。

  https://www.city.osaka.lg.jp/shimin/category/3054-1-2-21-3-0-0-0-0-0.html

◆子どもの夢応援ネットワークFacebook

  https://ja-jp.facebook.com/kodomonoyume.ouen.nw/

◆NPO法人おおさかこども多文化センター

  http://okotac.org/

◆公益財団法人大阪国際交流センター

  https://www.ih-osaka.or.jp/i-house/about/