事例紹介 はじめに 障がいのある人と接するときは、それぞれの障がい特性に応じた対応が必要です。 ここでは、実際にあった事例※を題材に、どう考えれば適切な配慮ができるのか、 ポイントなどをわかりやすく解説しています。 ※事例は、個人が特定できないように加工しています。 @電動カートの事例 【相談の内容】 ・ ある携帯電話の販売代理店での出来事 ・ ハンドル型電動車いすを利用している肢体不自由の方 ・ 店員から「電動カート」は店舗前に置いて入店するようにと言われ、手動の車いすを借りることや店員の介助を依頼するが、対応できないとされた。 ・ 「電動カート」のまま入店できないのは差別的取扱いではないのか? 【事業者の主張】 ・ 以前に電動車いすの利用者がハンドル操作を誤り、棚に接触し什器が破損した。 ・ 電動車いすの方はそのまま入店可能だが、「電動カートは大きい」ため店舗前に置いて入店していただくことにしている。(マニュアルで決まっている。) ・ 他の代理店が狭いため、電動カートは店舗に入れず、同じ取扱いとしたい。 ・ 必要に応じて、店員が歩行の介助も行っている。 ・これまで十数年間、同様に対応しているが、問題になったことはない。 【対応のポイント】 ・電動カートに対する認識(乗り物・高齢者の歩行補助具) ・電動カートでの入店を断ることは、障がいを理由とした不当な差別的取扱いか? ・「2店舗の共通マニュアル」や「過去の出来事」、「漠然とした危険性」は、正当な理由となるか? 【説明】 ・いわゆる電動カートも電動車いすの一種です。道路交通法の基準(大きさや速度等)を満たす電動車いすの使用者は、「歩行者」として取り扱われ、軽車両である自転車とは取扱いが異なります。また、電動カートは足腰が弱い高齢者が多く利用しており、ちょっとした介助があれば、店舗前に置いて徒歩で入店できる方もいます。 ・正当な理由がなく、障がいのある人が使用する電動車いすを排除することは、障がいを理由とした不当な差別的取扱いにあたります。また、どうしても利用を制限するしかない場合等は、その理由を丁寧に説明し、本人の納得を得ることが大切です。 ・正当な理由に相当するかは、個別の事案ごとに、具体的な場面や状況に応じて総合的・客観的に判断する必要があり、「2店舗の共通マニュアル」や「過去の出来事」、「漠然とした危険性」などは正当な理由にはあたりません。 (結果)事業者と対話し、「一律のマニュアルを見直して、今後は、個別に対応いただく」こととなりました。 A自署するということ 【相談の内容】 ・ ある携帯電話の販売代理店での出来事 ・ 視覚障がい1級であり、配偶者と同行し契約手続きを進めようとしたが、申請書類を自署する必要があるとして、配偶者の代筆が認められなかった。 ・ 本人が出向いているのに、自署でないと手続きができないのは、障がいを理由とした不当な差別的取扱いに当たるのではないか? 【事業者の主張】 ・ マニュアルでは、電話で受付した後、書類を送付することで手続きは可能だが、来店された場合は自署することになっている。 ・ 事前に問い合わせがあったので、そのように説明している。 【対応のポイント】 ・ 申請手続きのマニュアルにより「自署」が条件となっていることは、不当な差別的取扱いにあたるか? ・ 配偶者の代筆は、合理的配慮の提供か? ・ 仮に代理店の店員が代筆する場合の留意点は? 【説明】 ・ 「外形的には中立の規則」(自署が必須)であっても、それが適用されることにより、結果的には他者に比較し、障がいのある人に不利益が生じる場合、間接的ですが不当な差別的取扱いとなります。 ・ 障がいのために自署ができない場合に、障がいのない者と同等の機会を提供するため「配偶者による代筆」を認めることは、合理的配慮の提供と言えます。 ・ 代筆する場合は、複数の店員が確認したうえで記録を残し、どの項目をどのように記入したかを本人に伝える等、トラブルが起こらないよう注意が必要です。  (結果)事業者と対話した結果、配偶者の代筆による契約ができ、本人も納得された。 間接的な差別には、このような事例もあります。 ・ 「犬の同伴は一般的に断っている」といった「外形的には中立な規則」の適用により、盲導犬を伴った視覚障がい者がレストランの入店を拒否される。 ・ クレジットカードの申し込み時の「電話での本人確認」といった「外形的には中立な規則」の適用により、聴覚障がい者がカードの申し込みができない。 B正当な理由 【事例@】 ・ 聴覚障がい者2名で旅行ツアーに申し込もうとした際に、「以前、聴覚障がいのある方がツアーに参加されたとき、集合時間がうまく伝わらなくて、いつまで経っても戻ってこられず、苦情が出たことがあった。本人の費用負担で介助者が同行するなら承る。」と言われ、参加できなかった。 【事例A】 ・ 電動車いすを使用。分譲マンションのモデルルームを見学しに行ったら、「売り物ですので、車いすでモデルルームを見ていただくことはできない。そう決まっている。」と言われた。このマンションはバリアフリーを売りにしている。 【事例B】 ・ 車いすを使用。マンションを借りようと問合せたところ、「タイヤ音で下階の住人から苦情が出る可能性がある。」として、入居できないと言われた。 【事例C】 ・ 盲ろう者。スポーツジムの利用を申込みに行ったところ、同伴の支援者が聴覚障がい者であったため、「何かあったときに困らないように、聞こえる人の同伴が必須」ということで断られた。 【事例D】 ・ 車いすを使用。飲食店に入ろうとすると、ハイテーブルの席しかないので車いすのまま入店はできないと拒否された。配慮できないか尋ねたところ、「備え付けのいすへ移乗が可能ならば」という条件を付けられた。 【事例E】 ・ 発達障がいのある息子。プール施設でスイムキャップの着用が義務づけられているが、帽子類の着用を嫌がりキャップをかぶせてもすぐに取ってしまう。 「キャップをかぶらないとプールを利用できない規定である。」と言われた。 【ポイント】 ・ 正当な理由に相当するか否かは、個別の事案ごとに、障がい者・第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、損害発生の防止等)、事業の目的・内容・機能の維持等の観点に鑑み、具体的な場面や状況に応じて総合的・客観的に判断する必要があります。「マニュアル」や「過去の出来事」、「漠然とした危険性」などは正当な理由にはあたりません。 ・ 正当な理由があると判断した場合には、本人にその理由を説明するものとし、理解を得るようにします。 C申請手続きにおける配慮 【相談の内容】 ・ 知的障がいのある方。 ・ 公営住宅の家賃減免申請手続きにおいて書類の不備があり、減免されなかった。 ・ 本人は家賃が上がったことは知っていたが、「知人に手伝ってもらって手続きを進めたもので、間違っていたと言いたくないので、もういい」と思っていた。 ・ 支援者から「減免申請の際の専門用語による説明や複雑な手続きは、障がいのある人には理解しづらいので、わかりやすいパンフレットを作成するなど配慮してほしい。」と、相談があったもの。 【公営住宅担当部署の対応】 ・ 減免申請件数は年間2万件を超え、新たな説明書を追加で作成したり、申請書類の変更は、システムの改修や経費の観点から、すぐさまの対応は難しい。 ・ 今後に向けて、個別の対応として、この方が「丁寧な対応が必要」であることを、住宅管理システムを通じて担当者が確認できるように措置した。 【よく似た事例】 ・ 下肢に障がいがあり、杖を使用している方。 ・ 病院に行くと、受付や会計などへの移動に時間がかかってしまい、周りの患者にも迷惑をかけているのではと思い、通院することに負担を感じていた。 ・ この方が病院の受付にこの話をし、病院が対応を検討することになった。 ・ その結果、呼出しの際、アナウンスとともに待合室の椅子の所へ職員が行って要件を伝え、必要に応じて書類などをお持ちするように変更し、加えて、院内情報システムに「歩行が困難な方」と記入して職員が共有するようにした。 ・ この方に限らず何度も呼び出すことを防ぐため、「車いすを利用されている方」などの情報を記録、共有し、職員が患者のところへ伺うようマニュアルを変更。 【説明】 ・ 「合理的配慮」は、障がいの特性や具体的場面に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものです。「過重な負担」である場合は、その理由を説明し、「代替措置の選択」も含めて、建設的対話により相互理解が得られるよう、柔軟に対応することが重要です。 ・ 「過重な負担」については、個別の事案ごとに「事務又は事業への影響程度」「実現可能性の程度」「費用・負担の程度」などを考慮し、判断します。 (結果)病院の事例では、当事者のお話から対応方法を見直し、マニュアルの変更もされました。どちらの事例も社会情勢の変化などに応じて対応は変わるものと思われます。 D建設的対話 【相談の内容】 ・ 発達障がいのある児童に関して、保護者からの相談 ・ 週に一度通っている英語教室の担当者が替わって以降、こどもの障がい特性に応じた配慮を求めても対応してくれず、文書(英文)により退会を促されている。 ・ 本人は英語の勉強も得意で、喜んで通っているのに、障がいを理由とした差別的取扱いではないのか? 【事業者の主張】 ・ 当初から、発達障がいがあることは聞いており、保護者が提案する「発達支援の専門家の介入、助言」についても受け入れを進め、一定期間、当該児童がクラスに適応できるのかを見守ることにしているが、結果によっては、退会も視野にする必要があるため、それを通知したもの。 【相談対応のポイント】 ・ 相談者と事業者のやりとりの多くはメールや文書で行われていた。 ・ 保護者としては、この英語教室へ通わせることにこだわっているわけではないが、最善の配慮が得られるのであれば、この先もずっと通わせたいと考えている。 ・ また、この事案に適切に対応することで、英語教室としても役立つ経験として今後に活かしてほしいと考え、相談した。 【相談窓口の対応】 ・ 保護者、英語教室の責任者含む関係者、相談窓口の三者で話し合いの場をもった。 ・ 保護者と英語教室との間で、「これまでの事実関係の確認と事実に対する双方の捉え方」、「認識のずれ」、「保護者の気持ち」、「英語教室の立場」などが話し合われた。 ・ 対話を進めたところ、本件は、英語教室側が障がいを理由に退学を求めたものではなく、また、保護者が求める配慮を提供しないというものでもなく、教室としてどうすることが適切かについて、悩んでいたことがわかった。 ・ こどものことで焦る気持ちがある保護者と、最悪の事態(退会)についても説明をしておく必要があると考えていた英語教室、双方の対話が不十分であったことが、関係を悪化させた要因であったと考えられる。 ・ 英語教室とのコミュニケーション不足によって保護者の不信感が高まっていた状況の中で、障がいのあるこどもの排除を感じ相談に至ったもの。もう少し信頼関係ができていれば、教室との通常の会話の中で解決できた事案ではないかとも思われる。 (結果)最終的には双方が納得する形で、「保護者が求める配慮への対応」が確認された。 E合理的配慮 【事例@】 ・ 車いすを使用。セルフサービスのガソリンスタンドで給油の支援を断られた。 ・ 事業者は「店員を減らして人件費を下げることで、ガソリンの値段を抑えている。給油サービスを受けたければフルサービスのところへ行くべき」と主張。 ・ 相談窓口と事業者間で対話を進めるが、合理的配慮は努力義務であるとして、当該ガソリンスタンドでは給油の支援は得られなかった。 【事例A】 ・ 視覚障がいのある人。姉の住宅ローンの連帯保証人になるため、金融機関に署名の代筆を頼んだところ、代筆は認められないとして断れた。ほとんどの金融機関が代筆を認めているのに、なぜか? ・ 事業者は「預金払出しと融資の手続きでは対応が異なる。融資は署名行為により長年の償還期間にわたる契約が成立するものであり、また、行員の異動や退職によって当時の経緯がわからなくなるおそれがあるため、行員による代筆を認めていない。親族等の信頼できる代筆者を連れてきていただいている。」と回答。(後日のトラブルを避けるため、金額や契約期間によって可否を判断) ・ 同行した親族等による代筆は認める等、可能な範囲で合理的配慮を提供していると考えられるので、相談者と事業者で解決策を再度話し合ってもらった。 【事例B】(※事前に名簿登録、観光バスで一斉に入場、見学することを条件としたツアー) ・ 車いすを使用。バスツアー※の申込時に「観光バスでの移動が必須条件(セキュリティの都合上)、バスに自力で乗れない方の参加は難しい。」と言われた。現地まで自家用車を運転していくことを提案したが受け付けられなかった。 ・ 事業者は「経費の都合上、車いす対応のバスにすること」や「運転手や添乗員が介助すること」は困難であると説明し、相談者もそれについては納得。 ・ 相談窓口も含め3者で対話を続けた結果、対応策が見つかり現地集合が認められ、ツアーに参加できた。当日はツアー客全員にも説明があり理解を得た。 ・ 事業者からは「配慮のあり方について勉強になった。」との謝辞があり、相談窓口としても、合理的配慮の「個別性」の高さや着地点を探す「柔軟性」について、認識を深めることができた事案。 【ポイント】 合理的配慮は、 @「事業所の事務(事業)の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られ」 A「障がいのない人と比較し、同等の機会の提供を受けるためのものであること」 B「事務(事業)の目的・内容・機能の本質的な変更に及ばないこと」 に留意する必要があります。 また、過重な負担を考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応されるものです。