令和4年10月 市営住宅に入居する障がいのある人への対応について 福祉局障がい者施策部障がい福祉課 はじめに 大阪市の障がい者手帳所持者数(令和4年3月末現在) 身体障がい 136,881人 知的障がい 31,633人 精神障がい 44,274人 合計    212,788人 (参考)大阪市推計人口(令和4年4月1日現在) 2,744,847人 ・大阪市には、障がいのある人が多くお住まいです。市営住宅にも障がいのある人が多く入居しておられると考えられ、  障がいのある人が数名で暮らすグループホームもあります。 ・令和3年度には、市営住宅における障がい者差別に関する相談が3件あり、今後も市営住宅にお住いの障がいのある人が  困りごとを抱え、都市整備局管理課の窓口や住宅管理センターの窓口に相談される可能性は高いと考えられます。 ・そこで、今回の研修は、障がい者差別に関する基本的な考え方をみなさまにお伝えすることで、  理解を深めていただき、今後、実際に障害のある人から相談を受けた際に、役立てていただきたいと考えています。 障がいを理由とする差別について ・障がいを理由とする差別の解消に関する法律(以下「障害者差別解消法」という。)は、  障がいを理由とする差別の解消を推進し、すべての国民が、障がいの有無によって分け隔てられることなく、  相互に人格と個性を尊重しあいながら共生する社会の実現をめざし、平成28年4月に施行されました。 ・障害者差別解消法では、「障がいを理由とする差別」を「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の不提供」の2つに分けて考えています。 ・「不当な差別的取扱い」とは、正当な理由がないのに、障がいを理由として、利用を拒否したり、制限したり、  他の人には付けない条件を付けることです。 ・「合理的配慮」とは、障がいのある人が利用を拒否されたり、制限されたりしないようにするための配慮や  工夫のことです。事業者にとって「過重な負担」にはならないのに、合理的配慮を提供しないことは差別にあたります。 合理的配慮の提供の義務化について ・障害者差別解消法は、障がいを理由とする差別の解消の一層の推進を図るため、改正法が令和3年6月に公布され、  「事業者による合理的な配慮の提供」が、努力義務から義務へと改められました。(3年以内に施行されることとなっています。) ・大阪府では「大阪府障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例」を令和3年4月に改正し、  事業者による合理的配慮の提供を義務化しました。 不当な差別的取扱い 行政機関等➡禁止   事業者➡禁止 合理的配慮の提供  行政機関等➡法的義務 事業者➡法的義務(大阪府内)全国的には法の施行後 障がい者、事業者とは 障がい者とは ・身体障がい、知的障がい、精神障がい、その他心身の機能の障がいがある人で、障がいや  社会的障壁により、日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある人  ・障がい者手帳を持っていない人も含まれます。  ・社会的障壁とは、障がいがある人にとって日常生活や社会生活を営むうえで支障となるもののことで、   社会における事物(施設、設備など)だけでなく、慣行や概念(偏見等)も含みます。 事業者とは ・商業その他事業を行う者で、個人か法人・団体か、営利目的か非営利目的かを問わず、同種の行為を  反復継続する意思をもって行う者のこと  ・個人事業主、社会福祉法人やNPO法人といった非営利事業を含み、ボランティアGなども含まれます。  ・市営住宅にある「自治会」も事業者に含まれます。 個人の差別的行為 個人の差別的行為について ・障害者差別解消法が定める、差別の禁止を含む差別の解消のための措置は、行政機関等や事業者を対象にしており、  事業者でない一般私人の行為や個人の思想や言論は、法の規制になじまないとして、対象とされていません。 ・しかしながら、障害者基本法第4条において、すべての人に対して差別行為が禁止されています。  また、障害者差別解消法第4条「国民の責務」においても、すべての人に障がいによる差別をなくしていくことを求めており、  個人の差別的行為は、法の趣旨に反しています。 合理的配慮の提供について 合理的配慮の提供とは ・障がいのある人(その家族や支援者も含む)からなんらかの配慮を求める意思の表明があった場合に、  負担になりすぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要で合理的な配慮を行うこと  ・「合理的配慮」は、障がいの特性や具体的場面や状況に応じて異なり、多様で個別性の高いものです。  ・障がいのある人が置かれている状況を踏まえて、当事者間の建設的な対話による相互理解を通じて、   必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされる必要があります。  ・合理的配慮の提供を求められた側に「過重な負担」が生じる場合は、合理的配慮の不提供にあたりません。  ・障がいのある人から、合理的配慮を求める意思表明がなかった場合でも、配慮を必要としていることが明らかな場合には、   お互いに話し合い、適切な配慮を提案するなど、自主的な配慮に努めることが望まれます。 過重な負担の考え方について 過重な負担かどうかの判断にかかるポイント ・「過重な負担」について、具体的な検討をせずに拡大解釈することは、法の趣旨を損なうこととなり認められません。  このため、「過重な負担」になるかどうかは、事業者の主観だけで判断されるものではなく、個別の事案ごと、  具体的な場面や状況に応じて、総合的・客観的に判断する必要があります。 ・また、経済的・財政的なコストのほかに業務遂行に及ぼす影響、事業者の規模、配慮にあたって求められる専門性や技術水準、  事業の本質的内容を変更するようなものでないかどうかも含め、総合的に判断する必要があります。 「合理的配慮」の考え方 合理的配慮とは ・障がいのある人が障がいのない人と同じように活動することができるようにするため、個々の場面で、  物理的環境や時間および場所等を調整したり、人的支援などを行ったりすることで、同等の機会を提供するためのもの 合理的配慮の提供を受けられる障がいのある人は「優遇」されているのでしょうか? ・障がいのない人にはすでに必要な配慮がされています  例えば…  ・2階建ての建物に階段を設置する(2階にあがるための配慮)   ➡車いすを利用する人が2階にあがるためにエレベーターを設置する(環境の整備)  ・12ポイントの大きさの日本語で通知を送る(通知内容を理解していただけるための配慮)   ➡視覚障がいのある人に通知内容を理解していただけるように点字版の通知を送る ➡障がいのある人への合理的配慮は、決して「障がい者だけの特別な権利」ではありません 不当な差別的取扱いについて ・不当な差別的取扱いとは  障がいを理由として、正当な理由なく、商品やサービス等の提供を拒否したり、制限したり、   条件を付けたりすることで、権利利益を侵害すること 「正当な理由」があるかどうかについては、事業者の主観だけで判断するものではなく、第三者から見ても  「やむを得ない」と納得できる客観性がなければなりません。合理的配慮の「過重な負担」かどうかの判断  と同様に、個々の事案ごとに総合的・客観的に判断することが必要です。 また、「正当な理由」があると判断した場合には、障がいのある人にその「正当な理由」を具体的に説明すること、  理解を得るように努めることが求められます。 実際にあった相談 <相談1> (精神障がいのある人からの相談) 市営住宅に入居が決まったが、自治会⾧より何年かに1回は班⾧をしなければならないと言われた。精神障がいがあり、 難しいと伝えたところ、受け入れてもらえず「それなら入居させない」などの差別的な発言を受けた。障がいのことをわかってもらえず悔しかった。 しんどくて夜も眠れなかった。住宅管理センターや市にも相談したが、納得のいく答えが得られなかった。 <相談2> (精神障がいのある人からの相談) 市営住宅の自治会役員から次期班⾧を引き受けてほしい旨要請があった。精神障がいがあるため班⾧を引き受けることはできないことを 障がい者手帳を提示しながら説明したが、自治会役員から「自分は納得しても同じフロアの皆さんが納得しないこともあるので、 自治会の常会で説明し了承を得てほしい」との依頼があった。人前で話をすることは苦手で、皆さんに理解してもらえるか不安である。  このような相談について、どのように考え、解決に導けばいいでしょうか(実際の対応は次項) 実際にあった相談(対応編) <相談1> 本人、自治会、住宅管理センター職員で話し合いの場を持ち、お互い納得のうえ、自治会に加入し入居することができた <相談2> 住宅管理センターが、相談者及び自治会役員に対し当時のやり取りなどについて聞き取りを実施 福祉局障がい福祉課も、相談者と面談し、相談内容や本人の障がい特性、希望を聞き取り 住宅管理センター(都市整備局)と福祉局が自治会役員と面談し、本人には自治会活動に可能な部分で参加していく意思もあったことから、  今後は本人の障がい特性を理解してもらいながら、本人とできることできないことを会話し、双方が納得できる形で対応していくこととなった 実際にあった相談の特徴について <場面の特徴> 多くが、自治会の役員や当番の割り当ての場面で発生 障がいを理由に「できない」ことを伝えるも、理解をしてもらえない ➡誰しも差別をしてはいけないことは十分理解しています ➡ただし、「よかれ」と思って行ったことが、逆に本人を追いつめたり、苦しめたりすることもあります ➡障がい者差別の考え方(何が差別に当たるのか)について理解いただくことが必要 <相談者の特徴> 精神障がいもしくは知的障がいのある人が多い 比較的若い方が多い ➡身体に障がいがなく、若くて元気に見えるため、理解が得られにくく、自治会活動ができると見られてしまう ➡外見だけではわかりにくいことから、精神障がいや知的障がいなどの特性を知っていただくことが必要 障がい特性について 障がいの状況によって、一人ひとり「苦手なこと」「つらいこと」は違います。 精神障がい、知的障がい、発達障がいなどでは、外見からは理解されないことが多くありますが、 様々な「生活のしづらさ」を抱えています。 たとえば、 自分の気持ちをうまく伝えることや、人の気持ちを理解したり、人との関係づくりが苦手で、人との関わりに強い不安を感じていたりします 日によっては気分が落ち込んだり、体調の「波」があったりして、全く動けない日もあります。それが続く場合は引きこもる場合もあります 人の話を理解したり、読み書きや計算が苦手で、そのことで過去にからかわれたり、いじめられたりした経験を今もひきずっていたりします 障がいへの偏見や誤った見方から、「障がいがあってかわいそう」と同情されたり、障がいがあることで避けられたり、  怖がられたりする中で、障がいがあることにコンプレックスを持っていたりします そんな偏見があるため、自身の障がいのことを他の人に知られたくはありませんし、周囲の人の反応に対して不安や恐れを抱いていたりします 対応にあたって 前頁のような「生活のしづらさ」を抱えている場合があることを理解し、 次の点に留意して対応してください 障がいのことを細かく聞いたり、詮索したりしないで下さい 自治会活動を免除するために(よかれと思って)、住民に対して障がいのことを本人の意思に反して説明させたり、  住民に偏見を与えるような説明をしないでください ・本人にできることとできないことを丁寧に聞いて、できないことを無理にさせないように対応してください 逆に、障がいがあっても、支援や介助があれば自治会活動に参加できる場合もあり、活動への参加を望んでいる場合もあります 車いすを利用しているが支援があれば、○○の自治会活動には参加できる 自分は几帳面で、○○のような活動は得意だから参加したい ★このように、本人の状況や希望を聞くところから、自治会活動について自治会役員と本人の対話が成り立ち、  お互いが理解しあえるように、できるかぎりの「橋渡し」をしてください。 ★対応について迷われる場合は、障がい福祉課に相談してください。 ケーススタディ① 次のような相談があったらどのように対応すればいいでしょう 住民 知的障がいがあり、お金の計算や大勢の人の前で話をするのが苦手でできないが、自治会役員から会費の徴収などを  担当する班⾧になるよう言われ困っている。役員には障がいのことを説明したが、わかってもらえない。  班⾧はできそうにないが、ほかのことでできることあれば関わっていきたい。 ★状況の整理 障がい者が自治会の班⾧決めについて、本人の意思として「班⾧の免除」や「会費徴収の役割の免除」の配慮を求めている 自治会(事業者)が合理的配慮の提供について拒んでいる 本人には、できる範囲で自治会と関わっていく意思がある ケーススタディ① 避けるべき対応 窓口担当者 自治会のことなので関与できません。自治会の方とよく相談してください。 取るべき対応 ➡確かに、自治会は任意の組織であることから、関与が難しい部分があるかもしれませんが、市営住宅の住人である本人が困難に直面しており、  差別の発生を未然に防ぎ、お互いの良好な関係を保つために、一歩踏み込んだ対応が求められます。 まずは、しっかりと傾聴してください(これが一番大事!!) 話の内容から、「障がい者差別」にあたらないか、状況を整理してください できれば、自治会にも状況を確認し、誤解があるようならご本人の意思や希望を伝えていただき、丁寧な話し合いを自治会に促してください 解決が難しい場合は、本人に対し相談窓口や障がい福祉課を紹介してください 対応について迷われる場合などは、相談窓口や障がい福祉課にご相談ください ケーススタディ① 対応する中で住民からこんなことを言われたらどう伝えればいいでしょう?少し考えてみましょう! 住民 みんな班⾧をするのはイヤなのに、その人だけ班⾧を免除し楽をさせるのは不平等だ!ズルい! 班⾧ができないなら、市営住宅に住む資格はない! 考え方のヒント 市営住宅に住む目的は何でしょうか その目的を達成するためには、希望するような配慮は必要でしょうか 自治会には「入居する・しない」を決める権限があるのでしょうか 班⾧を免除することは、事業の本質的内容を変更するような「過重な負担」なのでしょうか 「できないことをしなければならない」とされたときの気持ちはどんなものなのでしょうか ケーススタディ② 次のような相談があったらどのように対応すればいいでしょう 窓口を訪れた住民(支援者の付き添いあり) 市営住宅について今から話を聞きたいが、知的障がいがあるので、ゆっくりと簡単な言葉でわかりやすく説明をしてほしい ★状況の整理  障がい者が窓口対応について、本人の意思として「ゆっくりと簡単な言葉でわかりやすい説明」の配慮を求めている  支援者の付き添いがあるものの、本人が市営住宅について話を聞きたい意思がある ケーススタディ② 避けるべき対応 窓口担当者  すべての住民に対し一律に説明しているので、特別扱いはできません  本人ではなく、付き添いの支援者に向かって説明をする 取るべき対応 まずは、しっかりと傾聴してください(これが一番大事!!) 本人の希望に対し、窓口として何ができるか考えてください 合理的配慮を提供することは行政機関にとって法的義務です 「一律」や「前例がない」を理由に安易に断ることは、避けるようにしてください(個別具体的に考える) 本人の意思がない限りは、原則として本人に対し説明をしてください もし希望する対応が難しい場合は、本人と対話し、代替措置がとれないか検討してください それでもできない場合は、できない理由を丁寧に説明してください 対応について迷われる場合などは、相談窓口や障がい福祉課にご相談ください 相談窓口について 障がいを理由とする差別に関する相談窓口(各区役所) (事業者等による障がいのある方への不当な差別的取扱い等に関する相談窓口) 北区    地域課(防災防犯) 都島区   保健福祉課(障がい者相談)    まちづくり推進課(人権相談)    総務課(広聴相談) 福島区   企画総務課(企画推進)    市民協働課(地域活動支援) 此花区   まちづくり推進課(教育推進・環境) 中央区   保健福祉課(保健福祉) 西区    総務課(教育) 港区    協働まちづくり推進課(教育・人権啓発) 大正区   保健福祉課(福祉) 天王寺区  市民協働課(教育文化) 浪速区   市民協働課(教育・学習支援) 西淀川区  地域支援課(地域支援) 淀川区   政策企画課(広聴) 東淀川区  総務課(総合企画) 東成区   保健福祉課(障がい者福祉)    市民協働課(人権) 生野区   企画総務課(広聴)    地域まちづくり課(人権)    保健福祉課(保健福祉) 旭区    福祉課    地域課    企画課 城東区   保健福祉課(保健福祉)    市民協働課(市民活動支援) 鶴見区   総務課(教育担当) 阿倍野区  総務課(区政企画)    保健福祉課(福祉) 住之江区  保健福祉課(福祉) 住吉区   教育文化課(人権)    保健福祉課(障がい者福祉) 東住吉区  総務課 平野区   政策推進課 西成区   保健福祉課(地域福祉) そのほか、各区障がい者基幹相談支援センター、地域生活支援センター、大阪市人権啓発・相談センターに相談窓口を設置  しています。 詳しくは、下記HPでご確認ください  大阪市:障がいを理由とする差別に関する相談窓口について(…>障がいのある方へ>お知らせ) (osaka.lg.jp) また、対応について迷われる場合については、障がい福祉課(06-6208-8075)にご連絡ください 最後に 二度と同じことが起こらないように 令和元年の秋、平野区の市営住宅で障がいのある人の自死事案が発生しました。 報道によれば、本人は班⾧の免除を要望しましたが、自治会側は他の住民の理解を得る必要があるとして、  障がいの状況などを書面に記すことを求め、本人が「しょうがいがあります」「おかねのけいさんはできません」などと手書きし、  その翌日に自死されたということでした。また、その後、本人のご家族が提訴され、1審、2審では自治会側に賠償を命じています。 この事案では、住宅管理センターへの相談はありませんでしたが、適切な窓口につながっていれば防ぐことができたのかもしれません。 このような事態に至る前に相談・調整に関わり、何とか命を守ることができなかったものかと悔やまれてなりません。 この事案は、本人・ご家族にとって非常につらい出来事であるとともに、自治会や障がい福祉関係者、そして社会全体にも大きな衝撃を与えました。 今後、このような事案が二度と起こらないように、障がいのある人と自治会、住民がお互いを理解しながら、  誰にとっても住みやすい環境を築いていくことが必要です。 ぜひ相談窓口であるみなさまのご協力を何卒よろしくお願いいたします。