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子どもの貧困と学力保障

2019年10月1日

ページ番号:482575

中川 喜代子(なかがわ きよこ)さん/奈良教育大学名誉教授・社会学者

 いま、日本社会では、子どもの6人に1人(約140万人)が公的な就学援助を受けているなど、子どもの貧困が大きな社会問題となっています。子どもが貧困世帯に育つということは、なぜ問題なのでしょうか?この世に生を受けた子どもたちはみんな、それぞれ充実した豊かな人生を生きる力を身につけるために教育を受ける権利を持っています。しかし、子どもが育つ家庭の暮らし向きと学力との間には明確な相関関係があり、小学校入学時点ですでに社会経済的な状況を背景とした格差が存在することが調査によって指摘されています。格差は学力だけでなく、健康、精神的安定、意欲など子どもの生育環境に深く関わっているのです。

 ノーベル経済学賞を受けたアメリカの経済学者ジェームズ・J・ヘックマンは、今日のアメリカでは、どんな環境に生まれるかが不平等の主要な原因の1つになっていて、「アメリカ社会は専門的な技術を持つ人と持たない人とに両極化されており、両者の相違は乳幼児期の体験に根差している。恵まれない環境に生まれた子どもは、技術を持たない人間に成長して、生涯賃金が低く、病気や十代の妊娠や犯罪など個人的・社会的なさまざまな問題に直面するリスクが非常に高い。機会均等を声高に訴えながら、私たちは生まれが運命を決める社会に生きているのだ。」と指摘し、「生まれた環境が人生にもたらす強力な影響は、恵まれない家庭に生まれた者にとって、ひいてはアメリカ社会全体にとって悪であり、数多くの市民から社会に貢献する可能性を奪っているのだ。」と、近著『幼児教育の経済学』(東洋経済新報社)で述べています。日本でも同じようなことが言えるでしょう。

 公民権運動が盛り上がった1965年、「貧困との闘い」として、結果の平等を目指し、社会的・文化的に恵まれない子どものための補償教育であるヘッドスタート計画(就学前の子どもたちを“特訓”して小学校に就学するスタートを等しくしようという試み)が創設されました。ヘックマンは、その中のペリー就学前プロジェクト〔1960年代にミシガン州で、低所得でアフリカ系の58世帯の子どもを対象に実施〕や、アベセダリアンプロジェクト〔1970年代に生まれたリスク指数の高い家庭の恵まれない4歳の子ども111人を対象に実施〕の対象となった子どもたちの30歳・40歳までの追跡調査の結果から、就学前教育を受けた子どもは、受けなかった子どもよりも学力検査の成績が良く、学歴が高く、特別支援教育の対象者が少なく、収入が多く、持ち家率が高く、生活保護受給率や逮捕者率が低かったという情報や、子どもが1時間に話す言葉の数(語彙)が、家庭の環境によって大きく異なることを明らかにした調査〔1995年にベティ・ハートとトッド・リスレイが42の家族を対象として実施〕などの科学的研究結果を紹介して、恵まれない子どもの幼少期の生活を改善することは、経済効率や労働力の生産性を高めるうえで、単純な経済的援助を行うことよりもはるかに効果的であると主張しています。持つ者と持たざる者とのあいだの、認知的スキル(いわゆる学力など)および非認知的スキル(肉体的・精神的健康、根気強さ、注意深さ、意欲、自信など)の格差は、幼少期の逆境が原因となる部分があり、子どもがどれほどの逆境に置かれているかは、子育ての質によって測られます。両親の収入や学歴といった昔ながらの“ものさし”は、子育ての質と関係はしますが直接的な原因となるわけではありません(家族に経済的援助を行うことが、必ずしも恵まれない子どもの環境を向上させるわけではない)。つまり、大切なのはお金ではなく、愛情と子育ての力であり、成果は子育ての質や幼少期の環境を高めることによって導かれるのであるから、子どもたちに対する社会政策は、家族を尊重し、多様な文化を受け入れ、適応性のある幼少期に重点をおくべきだというのです。政治の課題ではありますが、私たちも将来を託す子どもたちに、そして困難な状況にある家庭や保護者に、愛情ある“まなざし”を注ぎ支援することが大切ではないでしょうか。

     おわりに、人生で成功するかどうかは、認知的スキル(いわゆる学力など)だけでは決まらず、非認知的スキル(肉体的・精神的健康、根気強さ、注意深さ、意欲、自信など)も欠かせません。それどころか、認知的な到達度を測定するために使われる学力テストの成績にも非認知的スキルは影響します。認知的スキルも、社会的・情動的スキルも幼少期に発達し、その発達は家庭環境によって左右されます。とりわけ、両親の収入や学歴などといった要素よりも、生活の質こそが最も基本的な問題であり、そうした家庭環境は世代を超えて蓄積される傾向があるとヘックマンが指摘しているということを付け加えて、みなさんのご賢察を期待したいと思います。

    (「にしなり我が町」平成29年12月号掲載)

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