参考資料1-2 高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準 別冊 建築プロジェクトの当事者参画ガイドライン 令和7(2025)年5月 国土交通省 目次  1.はじめに 1 (1) ガイドラインの目的 (2) ガイドラインの対象となる建築物 (3) 当事者参画とは (4) 当事者参画により期待される効果 2.基本原則 2 (1) 総論 (2) 当事者参画における「公平性」 (3) 当事者参画における「透明性」 (4) 当事者参画における「効果検証」 3.当事者参画の企画 3 (1) 実施方針の作成等 (2) 当事者参画の方法の検討 (3) 参加者の人選 (4)必要な工期・予算の確保 4.当事者参画の留意事項 9 (1) 事業者等が留意すべき事項 (2) 当事者が留意すべき事項 5.各段階における実施内容 13 (1) 総論 (2) 基本構想・基本計画段階 (3) 基本設計段階 (4) 実施設計段階 (5) 施工(初期・中期)段階 (6) 施工(最終)段階 (7) 維持管理・運営段階 6.普及促進 21 (1) 取組内容の共有・公表 (2) 知見の蓄積 (3) 人材育成 本ガイドラインでの用語の定義 ○当事者  :高齢者、障害者等を含む全ての施設利用者を指す。 ○事業者等 :建築主(発注者)、設計者、施工者、施設管理者及び施設運営者を指す。 ※事業者等についても、施設利用者からのニーズを受ける側として、広義の意味で当事者といえるが、本ガイドラインでは当事者には含めない。 1.はじめに (1) ガイドラインの目的 ・「共生社会」を実現するため、誰もが安心して快適に利用できる建築物の整備を進めることが重要である。これにより、障害者等がこれまで利用できなかった施設を障害のない人とともに利用し、楽しむことができるようになり、ひいては障害者等の社会参加が推進される。 ・障害の有無にかかわらず、全ての利用者にとって使いやすい建築物を整備するためには、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に基づく基準や基準を補完する内容を記載した「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」による整備を進めることにとどまらず、建築プロジェクトの構想、設計、施工、維持管理・運営の各段階において施設利用者が参画して、施設固有の事情や立地に対するユーザビリティを確認しながら、検討・整備を進めることが有効である。 ・本ガイドラインは、当事者並びに建築主(発注者)、設計者、施工者、施設管理者及び施設運営者における当事者参画の重要性の理解増進を図るとともに、建築プロジェクトにおける当事者参画の自発的な実施を促進することを目的とする。 ■本ガイドラインの位置づけ 法令に基づく基準  建築物移動等円滑化基準(最低限のレベル)  建築物移動等円滑化誘導基準(望ましいレベル) 建築設計標準(本編)  建築物移動等円滑化基準に相当する整備内容、建築物移動等円滑化誘導基準に相当する整備内容  標準的な整備内容   「~とする。」積極的に備えることが求められるもの   「~が望ましい。」備えること、付加・考慮することが望ましいもの   「留意点・参考」バリアフリー設計にあたり理解すべき事項  設計例・設計手法・事例 建築プロジェクト当事者参画ガイドライン(別冊)  建築プロジェクトにおける当事者参画の自発的な実施を促進することを目指したもので、「基本原則」「留意事項」「各段階における実施内容」等を記載 (2) ガイドラインの対象となる建築物 ・本ガイドラインの対象となる建築物は、不特定多数の者が利用する建築物又は主として高齢者・障害者等が利用する建築物を対象とし、公共建築物、民間建築物の別を問わない。 例:庁舎等の事務所、劇場、集会場、スポーツ施設、病院、福祉施設 等 ・その他の建築物においても、可能な限り本ガイドラインを適用することが望ましい。 (3) 当事者参画とは ・当事者参画とは、建築プロジェクトのプロセスにおいて、当事者が意見表明すること、当事者間で意見交換すること、ワークショップ等に参加すること等を通じて、施設の整備・運営の完成度を高めることに関与することである。 ・建築プロジェクトの各段階で当事者参画が実施されることが望ましいが、まずは、どんなことからでも取り組みやすい当事者参画を始めることが重要である。 (4) 当事者参画により期待される効果 ○当事者と事業者等の相互理解(必要性と課題の理解)が深まることにより、多様なニーズを反映した納得感のある質の高い施設整備につながる。 ○事業者等にとっては、当事者のニーズに対する理解が深まる。 ○当事者にとっては、施設整備の全体像や施設整備に係る制約(建築条件、法令等の制約、予算、工期等)に対する理解が深まる。 ○当事者間でニーズが一致しない場合に、当事者参画のプロセスを通じて、相互理解が深まる。 2.基本原則     (1) 総論 ・当事者参画の実施に当たっては、「公平性」、「透明性」、「効果検証」を基本原則とすることが求められる。 (2) 当事者参画における「公平性」 ・当事者の人選や意見の取り扱いに関して、「公平性」を確保することが望ましい。 ・参画を求める当事者の人選にあたっては、できるだけ多様な当事者が参画することが望ましい。 ・事業者等の都合により、参画を求める団体と求めない団体を区別することがないようにする。 ・意見が一致しないこと(当事者間での不一致、当事者と事業者等との間での不一致)も考えられるが、それぞれの意見を丁寧に議論することが重要である。物理的制約、予算上の制約、ニーズのトレードオフを関係者が認識した上で、実現性の高い解決策を検討することが重要である。 ・参画の機会がないその他の当事者からも意見が表明できる機会を付与する等により検討内容が深まることが期待される。 (3) 当事者参画における「透明性」 ・当事者参画においては様々な意見が出ることが想定されるが、どのような意見が出てきているのか、また、当該意見に対する対応の可否や対応できない場合にはその理由を明らかにする等、「透明性」を確保することが望ましい。 (4) 当事者参画における「効果検証」 ・事業者等は、当事者参画を実施した建築プロジェクトの終了後、当事者参画に関わった担当者だけでなく、組織内の他の担当者が携わる他の建築プロジェクトに当事者参画の経験を活かすことができるよう、実施した当事者参画の「効果検証」を行うことが望ましい。また、当事者においても同様に「効果検証」を行うことが望ましい。 ・「効果検証」に当たっては、当事者参画における意見、当該意見に対する対応結果、対応結果に至ったプロセス・理由、得られた効果等について、整理・分析を行うとともに、その記録を組織内で蓄積・共有することが重要である。 3.当事者参画の企画 (1) 実施方針の作成等 ①当事者参画の実施方針の作成 ・多様なニーズを反映した質の高い施設整備を進めるためには、可能な限り早い段階から当事者参画を実施することが重要であり、基本構想・基本計画段階や設計段階等から当事者参画が実施されることが望ましい。 ・そのためには、国、地方公共団体を含む事業者等において、当事者参画を実施するプロジェクトの選定の考え方や当事者参画の実施目標等、当事者参画の実施の基本的な考え方を定めた実施方針を策定することが望ましい。 ・また、当事者参画の実績等を踏まえ、対象となるプロジェクトを拡大したり、目標水準を徐々に高めたりすること等により、実施方針を随時見直していくことも重要である。 ②当事者参画の位置づけ ・公共建築物の発注においては、自ら定めた実施方針に基づき、事業者から当事者参画の方法等の具体的な提案がなされるよう、個々の建築プロジェクトの要求水準書に当事者参画の実施を盛り込むこと、バリアフリー基本構想に基づく建築物特定事業計画に当事者参画の実施を位置づけること、地方公共団体の福祉のまちづくり条例等において包括的に公共建築物の発注における当事者参画の実施を位置づけること等が考えられる。 ・民間の建築プロジェクトにおいても、自ら定めた実施方針に基づき、発注者が設計や施工の仕様書等に当事者参画の実施を位置付けることが望ましい。 ・また、設計者が建築主(発注者)に対して当事者参画の実施を提案することも考えられる(設計コンペ、PFI事業提案時等)。 事例 要求水準書に当事者参画の実施を位置づけた例(新国立競技場整備事業) ・本事業では要求水準書に、整備の基本的な考え方として「世界最高のユニバーサルデザインを導入した施設を目指す」ことを掲げていた。 ・この基本的な考え方に基づき、ユニバーサルデザインに関する性能に係る要求水準の一つとして、「ユニバーサルデザインの実現に最も重要な点は多様な利用者ニーズの把握である。そのため、設計から施工段階において、高齢者、障がい者団体及び子育てグループ等の参画を得てユニバーサルデザイン・ワークショップを開催し、関係者の意見を集約した上で業務を進める。」との規定を設けた。 https://www.jpnsport.go.jp/newstadium/tabid/497/Default.aspx 事例 障害者団体等の意見を反映して基本計画や要求水準書を策定し、設計施工者が当事者参画の実施を提案して市とともに実施した例(広島市 サッカースタジアム等整備事業(広島サッカースタジアム)) ・広島市が基本計画策定にあたって開催した「サッカースタジアムについて意見を聴く会」では、市内の障害者団体等が委員として参加し、ユニバーサルデザインに向けた機能・仕様について意見が挙がった。 ・これらの意見等を踏まえ、本事業の要求水準書では、センサリールームを常設すること(サッカースタジアムでは国内初)や集団補聴設備を900席以上に整備すること等ユニバーサルデザインに関する高い水準を提示した。 ・上記を実現する方法として、設計施工者が当事者参画(ユニバーサルデザインワークショップ)の実施を提案し、市とともに実施した。 https://www.city.hiroshima.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/013/153/126035.pdf 事例 福祉のまちづくり条例に当事者参画の実施に努めるよう規定した例(横浜市) ・横浜市では、障害者差別解消法の改正等を踏まえて「横浜市福祉のまちづくり条例」を改正(令和7年4月1日施行)し、以下の規定を追加した。 第18条 市民等の参画の確保 2 市長は、不特定かつ多数の者が利用し、又は主として高齢者、障害者等が利用する施設の整備計画を策定する場合は、高齢者、障害者等その他市長が必要と認める者が参画する機会を確保するための措置を講ずるよう努めるものとする。 https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/fukushi-kaigo/fuku-machi/jorei/kaisei/fukumachjorei-kaisei.html (2) 当事者参画の方法の検討 ・当事者参画の方法は、用途、規模、新築/改修、あるいは検討のタイミングにより一律ではないため、プロジェクトの各段階において適切な方法を選択して、実施することが望ましい。 ・当事者参画の方法は、当事者と事業者等が意見交換するワークショップの実施を軸に、現地での確認・類似施設の見学、アンケート・ヒアリング、パブリックコメント、説明会等の様々な方法を組み合わせながら実施することにより、当事者参画の効果が高まることが期待できる。 ・また、当事者が一堂に会して実施するワークショップのほか、障害特性に応じた説明資料の準備や運営方法により、障害者団体ごとに個別に実施することも考えられる。 ■当事者参画の方法 ワークショップ ・当事者と事業者等が意見交換しながら、対象施設の計画内容の方向性を定めるもので、当事者からのニーズとその背景・理由が示されるとともに、対象施設の物理的条件や予算等の制約を踏まえ、相互理解を深めることができる点で有効な方法である。 ・当事者が一堂に会することで、当事者間のニーズが一致しない場合に、相手の意見を聞き、意見交換ができる点で有効な方法である。 現地での確認・類似施設の見学 ・対象施設や類似事例を現地で実際に利用することで、設計図書を見ても理解できない使い勝手等を確認するもので、当事者は実感をもとに具体的な提案ができるとともに、事業者等は意見の趣旨を確認することができるため、誤解の少ない正確な意見を収集できる点で有効な方法である。 アンケート・ヒアリング ・アンケートは、当事者団体等を通じて当事者の意見や要望を聴取するもので、当事者の多様なニーズを広範に収集することができる点で有効である。 ・ヒアリングは、アンケート結果の深掘りやより具体的な意見を確認することができる点で有効な方法である。 パブリックコメント ・インターネットを活用し、対象施設の整備内容に関する公表資料に対して、意見を募集して回答を行うもので、幅広い意見を収集することができる点で有効な方法である。 説明会 ・概要資料、図面、模型等を用いて、対象施設のバリアフリーに関する対応状況について説明し、質疑応答を行うもので、当事者の生の意見を聞くことができる点で有効な方法である。 (3) 参加者の人選 ①総論 ・当事者参画は、参加者の相互理解のもと多様なニーズを反映した質の高い施設整備を進めることを目的としたものである。 ・このため、参加者は、施設利用者として想定される当事者を代表して意見することが可能な人を人選することが重要である。 ・人選に当たっては公平性及び透明性の確保を図るとともに、参加者が固定化されないことにも留意する必要がある。(一つの建築プロジェクト内では、最後まで参加できる人を選任することが望ましい。) ・当事者と事業者等の意見が一致しない可能性があることから、当事者と事業者等の間に立って調整を行うことができるファシリテーターやアドバイザーを設置することも有効である。 ・参加者は、当事者と事業者等のそれぞれで立場や意見が異なる場合であっても、それぞれの意見を尊重し合い、互いに理解する姿勢で意見を交わすことに留意する必要がある。 ・また、当事者参画により整備された建築物が利用しやすいものとして十分機能を発揮するためには、施設管理者による利用者対応にも関係してくるため、予め施設管理者が決められている場合は施設管理者も参加することが有効である。  施設利用者として想定される当事者の例 ・劇場、競技場等の客席・観覧席を有する施設においては、客席・観覧席の利用者(観客)となる高齢者、障害者等のほかに、舞台や競技スペースの利用者(演者・競技者等)となる高齢者、障害者等の意見を聴取することが考えられる。 ・ホテル又は旅館においては、宿泊客(客室の利用者)となる高齢者、障害者等、宿泊はしないがレストラン・食堂、宴会場・バンケットホール、共同浴室等を一時的に利用する高齢者、障害者等の意見を聴取することが考えられる。 ②当事者の人選 ・当事者とは、原則としてすべての施設利用者を指すが、多様なニーズを反映したり質の高い施設整備を進めるためには、施設の利用にあたって多くの制約を受ける障害者からのニーズを丁寧に吸い上げることができる人選を行うことが重要である。 ・当事者の人選にあたっては、対象施設の用途・規模等に留意して行う必要があり、また、幅広いニーズを的確かつ効果的に把握できるよう以下のような方法で行うことが考えられる。 <障害者、高齢者、子育て等の団体あてに参加を依頼> ・対象施設が大規模で圏域が広い等の場合には、広域で活動する団体(移動等円滑化評価会議地域分科会等)に対して、行政(都道府県)の福祉担当部局やファシリテーターを通じて依頼することが考えられる。 ・対象施設が中小規模で圏域が狭い等の場合には、対象施設が立地する地域で活動する各種団体に対して、行政(市町村)の福祉担当部局やファシリテーターを通じて依頼することが考えられる。 <公募その他の方法> ・団体を通じた人選だけでなく、行政の人材登録制度がある場合や事業者等・福祉担当部局で把握している当事者がいる場合には、本人に直接依頼することも考えられる。 ・このほか、関心の高い人を公募により選定することも考えられる。 ・人選をいずれの方法で行った場合でも、個人的な意見とならないよう、幅広いニーズに精通した人が望ましい。また、同じ種別の障害でもニーズが異なることに留意する必要がある。 障害特性の例 ・下肢障害の人には、車椅子を使用する方や杖を使用する方がいる。 ・視覚障害の人には、全盲の方や弱視の方がいる。 ・聴覚障害の人は聞こえの度合いが異なり、手話を使用する方や筆談を要する方がいる。 ③ファシリテーターの人選 ・ファシリテーターは、第三者の立場での進行役として、参加者それぞれの視点や意見を確認して論点を整理し、合意できる点や難しい点の検討結果を明らかにする役割を担うことから、当事者参画の成功の鍵を握るキーマンである。 ・ファシリテーターは、公平中立な立場が求められるとともに、当事者及び事業者等の意見を適切に引き出し、整理するスキルが求められる。 ・ファシリテーターとしては、建築に関する情報や技術に加え、バリアフリー(施設のハード・ソフトのバリアフリー化、高齢者、障害者等の特性等)に関する情報や技術を有した者(学識経験者、建築士、NPO職員、コンサルタント等)から人選することが考えられる。 ファシリテーターの役割 ・ファシリテーターは当事者参画全般に関して適切なアドバイスを行い、ワークショップの運営等を行う。ファシリテーターの役割は下記が想定される。 ① 当事者参画が円滑に行われるよう運営する。 ② 事業者等から当事者の紹介を求められた場合は、意見を聴く施設の用途・規模を勘案して、相応しい人を紹介する。 ③ 当事者へ情報がきちんと伝わるようにするため、事業者等が準備する手話通訳、資料の文字の大きさ等について指導・助言する。 ④ 事業者等と当事者の間に起こりがちな緊張関係を解き、信頼し合える関係づくりに努める。 ⑤ 当事者間で意見が一致しない等の場合に、より良いアイディアや代替案を示し、合意形成されるよう努める。当事者の意見について、意見の趣旨が正確に伝わるよう必要に応じて補足説明する。 ⑥ 当事者からの意見が当事者参画の目的から外れた場合に、主旨を説明しなおし舵取りを行う。 (4) 必要な工期・予算の確保 ・建築主(発注者)は、当事者参画の内容を効果的に実施・反映していくために、①当事者参画の準備・意見調整等のための期間・工期の確保、②当事者参画の実施及び意見反映のための予算の確保も重要である。 ・例えば一堂に会した当事者参画を実施する場合、一般的には、会場使用料、ファシリテーターや手話・文字通訳者等に係る費用、当事者等への謝金及び実費(交通費等)等の費用が必要となる。 ・また、施工段階等で用いるモックアップ作成には費用が掛かるため、あらかじめ費用を工事費に計上し、仕様書等に記載しておく必要がある。 4.当事者参画の留意事項 (1)事業者等が留意すべき事項 ①事前準備に関する留意事項 ・当事者参画を実施するに当たっては、①当事者参画の方法の検討、②当事者参画の人選、③当日に向けた資料作成・情報提供の準備等を行う。 ②当日に向けた資料作成・情報提供の準備 ・当事者参画の実施方法は、前述の通り、ワークショップ、現地での確認・類似施設の見学、アンケート・ヒアリング、パブリックコメント、説明会が想定されるが、いずれの場合においても、当事者に対して分かりやすい資料等で説明し、理解されているかを随時確認しながら進める必要がある。 分かりやすい資料の例 ・設計図面等に慣れていない人に配慮して、主要な要素のみの線と彩色による分かりやすい図面、模型、3Dイメージ等を準備することが有効である。 ・準備段階において、類似事例を含む情報収集を行っておくことが有効である。 ・一概に障害者といっても一般的に想定する情報提供で十分とは限らないため、事前に参加者本人に対して情報提供における必要な配慮を確認して対応することも重要である。情報提供における必要な配慮には、下記のような例が挙げられる。 視覚障害者への情報保障の例 ・文字をPCソフトやスマートフォンアプリで読み上げて把握できる資料を用意する。 ・図面、写真等については補足説明を追加する。 ・触れる図面(立体コピー)や模型、素材のサンプルを用意すると、触りながら説明を聴くことで、正確に伝わりやすくなる。 聴覚障害者への情報保障の例 ・円滑なコミュニケーションを図るため、手話・文字通訳、音声自動翻訳等を用意する。 ③会場・サポートの準備 ・説明会、ワークショップの会場の選定に際して、最寄り駅等から会場に至るまでエレベーター等で円滑に移動でき、使用可能なバリアフリートイレが設置されていること等に配慮する。また、車椅子使用者用駐車施設があることが望ましい。 ・現地での確認を実施する際、肢体不自由者、視覚障害者、乳幼児連れの参加者等の移動支援について、必要に応じてサポートを実施する。 参考:JIS S 0042(高齢者・障害者配慮設計指針-アクセシブルミーティング) ・JIS S 0042(高齢者・障害者配慮設計指針-アクセシブルミーティング)には、高齢者及び障害者等が参加する会議を行う場合に、会議主催者が、安全かつ円滑に会議を運営するための支援機器の利用方法等に関する配慮事項が示されている。 ④当事者参画の場での留意事項 ・立場は異なっても当事者参画を行う目的は同じであり、当事者参画を行う際は、お互いを理解するという姿勢で臨む。 ・当日の議事録や写真は、参加者個人が特定されないように適切に対処する旨を説明する。 ・建築プロジェクトには、新規取組や独自のノウハウ等が含まれることから、参加者と守秘義務契約を結ぶ等の対応も考えられる。 ・多様なニーズを反映した質の高い施設整備を進めることを目的としていることを共通の認識となるよう説明する。 ・参加者がどの段階でどのような意見を言ったら良いかを把握できるよう、建築プロジェクトの全体像と各段階で決定する事項等について予め説明する。 ・事業進捗状況やコスト、統一仕様等により反映が難しい可能性がある旨を当事者に事前に伝える。 ・当事者が答えやすいよう、聞きたい内容や前提条件を明確にする等の工夫をした上で、積極的に発言の機会を作る。また、当事者によっては、意見の伝達に時間を要することがあることを理解した上で意見を求める。 ・当事者の意見が偏った意見でないか判断に迷う場合は、学識経験者、関係する当事者団体等へ確認・意見を求めることも考えられる。 ⑤当事者参画の実施後の留意事項 ・当事者からの意見に対して、実現の妥当性及び可能性を検討し、当該施設に可能な限り反映するよう努める。 ・整理された意見は、次の段階(設計段階から施工段階へ、施工段階から運営段階へ)へ引き継がれるよう留意する。 ワークショップの運営方法 ・ワークショップを円滑に実施するためには、当日のプログラムをあらかじめ決めておく必要がある。グループワークの内容や役割分担等を関係者と綿密に調整した上で、効率的に参加者の意見を集約できるようにする。 1.当日のプログラム(例) ①対象施設の整備概要の説明(初回) 二回目以降は、前回のふり返りや到達点の確認 ②検討テーマ及び論点の説明 ③グループワーク 対象施設や類似施設での確認・検証等 ④意見集約 2.グループワークの進め方 ・少人数(多くても10人程度以下)のグループに分かれ、検討テーマに関しての意見を付箋に記載する、模造紙の上で分類する等のワークを行う。 ・解決策について、グループの意見を整理して結果を取りまとめ、全員で共有する。 3.ファシリテーターの配置と役割(P.8参照) 4.意見の集約 ・意見の集約に当たっては、当事者同士が受け入れられる適切なゴールを見据えながら実施することが望ましい。 ・意見への対応について、採用できること、採用が困難で継続的に検討すること等があるが、採否の理由を示すことで双方が納得し、参加者が合意できることが望ましい。 ・当事者からの意見を採用できない場合は、ニーズに応えるための代替案を検討し、次善策として提案する。 ・このような当事者との協働による作業が参画のプロセスであり、継続することで、相互の信頼関係を築くことが可能となる。 (2) 当事者が留意すべき事項 ①事前準備に関する留意事項 ・事前に資料や質問内容が示されているときは、資料等に目を通し、意見をまとめておく。 ・当日の資料や情報提供のされ方を事業者等に確認する。 ②当事者参画の場での留意事項 ・多様なニーズを反映した質の高い施設整備を進めることを目的としていることを認識する。 ・立場は異なっても当事者参画を行う目的は同じであり、お互いを理解する姿勢で臨む。 ・建築プロジェクトの全体像を理解した上で、実現性や他の参考例を示す等して、施設整備の進行段階を踏まえた適切な意見を述べるよう心がける。 ・介助者等が意見を述べる時には、当事者としての意見なのか介助者等としての意見なのかを明確にする。 ・事業者等に理解されやすく対応の幅も広がる可能性があるため、意見の背景・理由を伝える。 ・事業進捗状況やコスト、統一仕様等により反映が難しい可能性がある旨を理解し、意見が事業者等にとって過度の負担を強いることにならないかを意識する。 ・障害の特性や程度等により要望する意見も異なるため、互いの理解を深めるために当事者間でも対話をする。 ・使いづらいところを指摘するだけではなく、良い所も伝える。(より良い配慮に繋げる。) ・意見の伝え方に困ったときは、ファシリテーターに相談する。 ・他の参加者の意見を最後まで聞く。 ③当事者参画の実施後の留意事項 ・意見を述べた完成施設をよく利用し、配慮された措置を試してみることにより、さらによい施設となるよう、機会を捉えて意見を述べると良い。 5.各段階における実施内容 (1) 総論 ・当事者参画は、建築プロジェクトの各段階で実施することが望ましく、構想段階・設計段階、施工段階にとどまらず、建築物が竣工した後の維持管理・運営段階においても実施することが望ましい。 ・設計が固まった段階や施工が始まった段階での意見反映には多大な労力とコストが生じる等、実施のタイミングにより実現可能な対応が変わるため、建築プロジェクトに意見を反映するためには、可能な限り早い段階から当事者参画を実施することが望ましい。 ・各段階で実施した当事者参画の結果が、途切れることなく次の段階に繋がるよう、各段階での意見に対する対応結果を適切に当事者にフィードバックすることが望ましい。 ・設計段階、施工段階、維持管理・運営段階において当事者参画を円滑に実施するため、設計者から施工者に、施工者から施設管理者や施設運営者に適切に引継を実施することが重要である。 ・建築主(発注者)、施設管理者及び施設運営者は、当事者参画の実施には一定の時間を要するとともに、竣工後も手直し等が発生する可能性があることを理解する必要がある。 図 事業段階と当事者参画の取り組み 当事者参画の企画 ・当事者参画の計画づくり ・ファシリテーターへの依頼(任意) 基本構想・基本計画段階 ・当事者参画参加への呼びかけ ・当事者参画 ・検討~反映~結果報告 ・意見を踏まえた基本計画とりまとめ 基本設計段階 ・当事者参画 ・検討~反映~結果報告 ・意見を踏まえた基本設計とりまとめ 実施設計段階 ・当事者参画 ・検討~反映~結果報告・確認 ・意見を踏まえた実施設計とりまとめ 施工段階 ・当事者参画(モックアップ検証、現地確認、ヒアリング等) ・検討~反映~結果報告 ・意見反映結果の確認 引き渡し ・施設管理者・施設運営者への当事者参画の成果の周知 ・事前情報の提供 維持管理・運営段階 ・当事者参画(現地確認、ヒアリング等) ・人的対応等の運営面での対応等 (2) 基本構想・基本計画段階 ①期待できること ・施設整備のコンセプトを決める基本構想段階で、ユニバーサルデザイン(以下「UD」という。)を目標に加えることにより、施設整備の方針を共有することができる。 ・施設整備のベースとなる配置・規模・形状等を決める基本計画段階では、工期や予算変更を伴うUDの提案が可能となる。 ②当事者参画の内容等 ・設計者等から、目的、施設概要、スケジュール(各段階で決定が必要な事項を含む。)、予算、参加者に求めることを説明する。 ・ゾーニングや空間構成、動線等に関する基本的な当事者のニーズを把握する。 ③参画後の意見調整等 ・設計者等において、当事者からのニーズに対応する機能、ボリューム、コスト等について検討し、建築主(発注者)と協議の上、当該プロジェクトの基本構想・基本計画に盛り込むUD・バリアフリー方針を整理し、当事者参画の参加者と共有する。 事例  構想段階からUD目標を掲げ、当事者参画を各段階で実施した例(水戸市新庁舎建設) ・旧水戸市本庁舎は東日本大震災で大きな被害を受けた。平成24年5月、本庁舎の整備に当たり市長の諮問委員会として本庁舎等の整備に係る市民検討委員会が設置された。この委員会には、都市計画やまちづくり等に関する学識経験者、住民組織や防災関係団体、福祉関係団体(市社会福祉協議会、市障害者団体代表)、経済関係団体等が参画し、本庁舎のあるべき姿~理想の本庁舎~、本庁舎等のあり方及び機能について等が議論され、防災機能、窓口等の利便性、ユニバーサルデザインの導入、環境との共生等の整備方針と、庁舎の整備に当たってはできる限り市民の声を取り入れながら進めていくことが取りまとめられた(平成24年11月検討結果報告書)。 ・報告書には「本庁舎等は、子どもからお年寄り、障がい者や外国人など、さまざまな人が訪れる場所であることから、ユニバーサルデザインを導入し、バリアフリー化を推進する必要があります」と記されている。 ・上記による市民意見等の聴取や検討結果が庁舎整備基本計画(平成25年11月)に反映され、設計者を決めるプロポーザルコンペにおいても、各設計業者からはユニバーサルデザインを目指したさまざまな整備プロセスが示された。 ・こうした経緯を受け、市はユニバーサルデザインの整備業務を遂行するために、「水戸市新庁舎ユニバーサルデザイン・レビュー、実施要領」を定め、「全ての人にやさしい庁舎の実現に向け、ユニバーサルデザインの考え方を導入するため、設計及び施工段階において、関係団体等から意見等を聴取し、新庁舎建設に反映させる」ことを明確にした。 ・その後、平成26年8月から、基本設計、実施設計、施工、運用・管理の各段階において、障害者団体6名、高齢者団体6名、子育て関係団体6名の当事者、水戸市建設担当者、設計者(JV)、施工者(JV)、コーディネーター(ユニバーサルデザインを専門とする学識経験者1名)が参加したユニバーサルデザイン・レビューが計5回開催され、平成30年11月に竣工した。 (3) 基本設計段階 ①期待できること ・構造形式や空間構成の方針や設備の基本的な内容を決める基本設計段階で、基本設計図面の修正を伴うUDの提案が可能となる。 ②当事者参画の内容等 ・設計者等から、平面図・パース・模型等を用いて、①施設の設計概要、②道路や駐車場から施設までのアクセス、③敷地に係る動線計画(常時・非常時)、④施設に係る動線計画(常時・非常時)、⑤車椅子使用者用トイレ等の建築物特定施設に係る配置や利用者の考え方等を説明する。 ・当事者に対して、上記説明事項のほか、必要な室等の種類・規模・数・配置、機器の選定、サイン計画等について意見を求める。 ※例えば、段差の解消や空間の確保(エレベーターのかごやトイレのブースの大きさ、設置数)等は、設計が進んでしまってからは対応することは困難な場合が想定される。 ※スケッチや模型、モックアップ、メーカーの工場、ショールームの利用、類似施設の見学等分かりやすい当事者参画に努める。(実施設計時共通) ③参画後の意見調整等 ・設計者等において、当事者からの意見に対する対応案を検討し、建築主(発注者)と協議の上、基本設計に反映可能な事項について整理し、当事者参画の参加者と共有する。 (4) 実施設計段階 ①期待できること ・寸法、建築材料、各設備等の最終的な設計を決定する実施設計段階で、詳細図面の修正を伴うUDの提案が可能となる。 ②当事者参画の内容等 ・設計者等から、トイレ詳細図、エレベーター詳細図等を用いて設備内容の詳細を説明する。また、案内設備の考え方や案内板、標識等の表記内容を説明する。 ・当事者に対して、上記説明事項のほか、段差の解消、安全性の確保、使いやすさ、色彩計画、案内表示の仕様、室の明るさ、音響等について意見を求める。 ③参画後の意見調整等 ・設計者等において、当事者からの意見に対する対応案を検討し、建築主(発注者)と協議の上、実施設計に反映可能な事項について整理し、当事者参画の参加者と共有する。 事例 基本設計・実施設計に関する当事者参画の実施方法等の例(府中市新庁舎建設) ・府中市は新庁舎建設にあたって、基本設計・実施設計・施工段階等において障害者団体との個別ヒアリングや説明会等を複数回実施した。 ・基本設計完了時には、基本設計の概要について説明する機会として市民説明会を6回開催し、うち3回は、肢体不自由者団体・聴覚障害者団体・視覚障害者団体に向けて個別に実施した。障害者団体との説明会では、これまでの要望への対応状況等について説明を行い、意見交換を行った。 ・なお市ホームページには、当日の配布資料や質疑応答(要約)を公表している。 ■視覚障害者向け説明会の主な実施内容等 ・2種類の模型(建物の外形模型と1階平面を表した模型)を用意し、模型を触ることで、新庁舎の配置や、建物に入るまでの動線や建物に入ってから障害者福祉課までの動線等について確認・意見交換を実施。 ・屋内の床材や視覚障害者誘導用ブロック等について複数のサンプルを用いて実際に手足や白杖で体験・意見交換を実施。 ■肢体不自由者団体向け説明会の主な実施内容等 ・重度障害者向けの介助用リフト付トイレについて、説明会の会場に、おおよその寸法でトイレのレイアウトをテープで再現し、体験を通じて使い勝手等について確認・意見交換を実施(基本設計完了時)。 ・実施設計完了時においては、上記の内容を踏まえてレイアウトやトイレ内の設備(介助用リフト・電動昇降式ベッド等)について再度確認・意見交換を実施。 https://www.city.fuchu.tokyo.jp/gyosei/shincyosha/keii_torikumi/kihon_jissisekkei/kihonsekkeisetumeikaikekka.html https://www.city.fuchu.tokyo.jp/gyosei/shincyosha/shincyoshakoji/bariafurisetumeikai.html (5) 施工(初期・中期)段階 ①期待できること ・実施設計を基に設備部品の製品選定と配置、案内サイン等を決める施工段階では、追加コストが必要な設計変更が難しいため、できることは限られるが、設備の取り付け位置の調整や案内サインの大きさや配置、コントラスト等の修正等が可能となる。 ②当事者参画の内容等 ・設計者・施工者等は、モックアップ等を用いて意見を反映した部分等を中心に説明する。 ・なお、モックアップにより確認等を行う設備等について事前に参加者と共有しておくと、当事者参画のスムーズな運営に繋がる。 説明内容(例) ・インターホンや手すり、案内板の位置等 ※手直しの工事が発生しないように、設置位置を確認してから、取付工事を行う。 ・案内板やサイン等 ※実寸大で見本を作成し、実際に設置する高さに掲示して、文字の大きさ、フォントや絵文字(ピクトサイン)のわかりやすさを確認する。 ・出入口の幅や戸の仕様 ・壁・床の材料や色、インターホン、便器、手すり等(カタログや見本等で) ・当事者は、モックアップ等を確認し、設計者・施工者等に対して感想・意見を伝える。 ③参画後の意見調整等 ・設計者・施工者等は、当事者からの意見に対して、建築主(発注者)と協議の上、対応可能かどうかを検討する。 事例 視覚障害者誘導用ブロック等に関する意見交換・調整を行った例(国分寺市新庁舎建設) ・国分寺市は新庁舎建設にあたって、視覚障害者誘導用ブロック等の突起の高さや敷設方法等について、サンプルによる現物確認等により、視覚障害者・車椅子使用者やユニバーサルデザインアドバイザーの意見等を踏まえて対応方法を検討・調整した。 ■主な意見のやり取り ○視覚障害者の意見:低突起型の視覚障害者誘導用ブロック等は白杖で滑らせると凹凸が認識できるが、靴で踏むと凹凸が分からない。 ○車椅子使用者の意見:一般的な視覚障害者誘導用ブロック等は突起に引っ掛かり動きづらいことがあるが、視覚障害者の方が分からないものを敷設しても仕方がない。 ○ユニバーサルデザインアドバイザーの意見:視覚障害者誘導用ブロックについては、視覚障害者と他の利用者との共存については色々な対応方法が考えられてきた。ベビーカーや車椅子の車輪の幅に合わせてブロックに隙間を設ける、ブロックの突起高を低くする、ブロックの幅を狭くする等の方法である。 (6) 施工(最終)段階 ①期待できること ・現地において、設計段階等で出し合った意見への対応状況を共有することができる。 ※当事者からの意見等に配慮され使いやすい施設になったかどうかは、竣工後施設を利用する中で徐々に明らかになることに留意する。 ②当事者参画の内容等 ・施工者等から、現地において意見を反映した部分等を中心に説明する。 ・当事者は、現地において設備の使い勝手や細部の処理を確認し、施工者等に対して感想・意見を伝える。 ・竣工後の仕様の変更は難しいため、その時点で配慮できていない部分を指摘するのではなく、出し合った意見がどのように反映されたかを確認し、施設運営の工夫等に活かせる意見を伝える。 ③参画後の意見調整等 ・施工者等は、当事者からの意見に対して、建築主(発注者)と協議の上、対応可能かどうかを検討する。 ・施設管理者等は、これまでの意見対応等を踏まえて運営時における留意点や施設のホームページ等における情報発信の方法・内容等について検討する。 (7) 維持管理・運営段階 ①施設管理者・施設運営者への引継ぎ ・設計者・施工者等は、施設管理者・施設運営者に対して、当事者参画で出された意見に対する対応状況(対応できていない場合はその理由を含む。)や、どのような人がどのように使う設備なのか、どのような配慮が期待されていたのかについて、的確に情報を伝える。 ・更に、施設管理者・施設運営者は、従業員等に対しても、当該情報を周知することが望ましい。その手段として障害者への対応を含めた施設運営マニュアルを作成することも有効である。 ・また施設管理者・施設運営者が代わる場合においても、次の施設管理者・施設運営者に適切に引継ぎを実施することが重要である。 ②施設整備に係る事前の情報提供 ・施設管理者・施設運営者は、当事者のニーズに応えて整備した設備等について、ホームページ等で公表し、当事者が対象施設を安心して利用できるかを事前に確認することができる環境を整備することが望ましい。 ③運営段階における当事者参画の実施内容 ・施設の運営開始後にバリアフリーに関する新たなニーズや課題等が見つかることもあるため、施設管理者・施設運営者は、それらのニーズ等の把握や、当事者参画による効果の検証等を行う場を設けることが望ましい。 ・施設の維持管理・運営段階において寄せられる様々なニーズ等について、対応が容易なものについては迅速に対応(運用面での対応を含む。)するとともに、迅速な対応が困難なものについては記録を残し、大規模な改修等を実施する際での対応を検討することが望ましい。 (例)運営開始後に、視覚障害者誘導用ブロック等に看板が置かれてしまい、適切に誘導ができない 事例  車椅子での利用に対応した既存施設の改修の例(武蔵野の森総合スポーツプラザ) ・武蔵野の森総合スポーツプラザでは、運営開始後に、車椅子での利用に対応して、更衣室に車椅子使用者用便房の設置及び洗面台の下部に車椅子使用者の膝が入るスペースを確保する改修を実施した。 事例  竣工後の施設点検を踏まえた改善の例(渋谷区バリアフリー基本構想による進捗管理) ・渋谷区では、バリアフリー基本構想に基づくバリアフリー推進のため、対象地区内の新規施設について、当事者参画による施設点検を実施し、点検後、参加者と事業者の意見交換を経て必要な改善を行った。また、本取組を他の再開発事業者と共有し、今後の施設整備にも活かすこととしている。 6.普及促進 (1)取組内容の共有・公表 ・事業者等は、当事者参画を実施した建築プロジェクトにおける取組内容(主な意見や当該意見の背景・理由、当該意見に対する具体的な対応過程・対応内容)について報告書等にまとめ、関係者間で共有する。 ・また、当該報告書等について、個人情報の扱いに留意して、公表可能な内容としたものをインターネット等を活用して公表する。その際、当事者からの意見は、個人を特定できない範囲でどのような障害特性のある者の意見かが分かるようにすることが望ましい。これにより、当該施設に係る事業者等が携わる次のプロジェクトに活かすことができるだけでなく、当該施設に関わった当事者のレベルも向上することが期待できる。 (2)知見の蓄積 ・事業者等は、個々のプロジェクトで実施された当事者参画の知見をデータベースとして蓄積することで、当事者参画の担当者だけでなく、組織内の他の担当者の人材育成に繋がるとともに、次のプロジェクトにおいて、事業の初期段階から当事者から出されると想定される意見をあらかじめ設計等へ反映しておくことが容易となる。 ・また、当事者参画による知見や情報が地方公共団体の福祉のまちづくり条例等の整備基準やマニュアル等の改訂等に活かされるといった、スパイラルアップにもつながることが期待できる。 (3)人材育成 ・当事者参画を経験したことがある当事者又はファシリテーターは限定的であると想定され、こうした取組に参加する当事者又はファシリテーターの確保が課題であるため、当事者参画の携わり方等に関する研修の実施等により、当事者又はファシリテーターの人材育成を進める必要がある。 ・事業者等の障害等への理解を高めていくため、高齢者・障害者等による講話や、車椅子、視覚障害、聴覚障害等の体験等が受講できる研修の実施等により、事業者等の人材育成を進める必要がある。 事例  当事者参画に基づく普及啓発の取組みの例 (練馬区 「ユニバーサルデザインの整備事例と設計のヒント集1~3」) ・練馬区では、福祉のまちづくり推進条例に基づき、区立施設・公園の新築等の際に、区民の意見を聴取し設計に反映する「区民意見聴取事業」を実施している。 ・区民意見聴取事業の中で出た意見や整備例、整備のポイントを事例集としてまとめている。 多様なニーズがあることの周知や設計等に携わる方の参考になるよう、公表している。 https://nerimachi.jp/about/post_42.php 事例  研修・登録制度による人材育成の例(兵庫県 チェック&アドバイス制度) ・兵庫県では、福祉のまちづくり条例に基づき、県が登録する「福祉のまちづくりアドバイザー」をあっせんし、利用者目線から施設整備と管理運営に関して点検・助言を実施する「チェック&アドバイス制度」を設けている。 ・福祉のまちづくりアドバイザーとして、障害者等である利用者アドバイザーと、建築・福祉の資格を有する専門家アドバイザーの登録を行っている。利用者アドバイザーの登録にあたっては、「アドバイザー養成研修」の受講を原則として義務付けている。 ■福祉のまちづくりアドバイザー 利用者アドバイザー(R7.2:53名) ・施設の点検・助言の経験や、県の主催する福祉のまちづくりアドバイザー養成研修の受講等により、福祉のまちづくりに見識のある障害者等 専門家アドバイザー(R7.2:133名) ・建築・福祉の専門資格を持ち、高齢者・障害者等に配慮した施設の設計・監理の実務や施設の点検・助言の経験を持つ専門家(建築士・社会福祉士・理学療法士・作業療法士、保健師) ■アドバイザー養成研修 ・以下に掲げる事項を内容とする研修。 1福祉のまちづくりに関する施策 2高齢者等の特徴とそれに応じた特定施設の整備及び管理運営 3特定施設の点検及び助言の方法 ■チェック&アドバイスの実績 年度、実績 H23~H30、110件、H31/R1、11件、R2、12件、R3、15件、R4、26件、R4、19件 ※これまで物販店舗、飲食店舗、事務所、官公署、病院などの建築物等に対し、福祉のまちづくりアドバイザーをあっせんし、点検・助言を実施している。 https://web.pref.hyogo.lg.jp/ks18/kendo-toshiseisaku/hukumachi/201209_renewal/check_and_advice.html 障害者等の関連団体(14団体)と行ったユニバーサルデザインワークショップ(UDWS)の意見を踏まえたスタジアムのバリアフリー環境の整備:国立競技場 ①経緯  東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会会場の一つである国立競技場の整備計画では、設計から施工段階において、関係者の意見を聴取するため、高齢者・障害者団体及び子育てグループ等の参画を得て、関係者との合意形成を図るべく、設計・施工JVによるユニバーサルデザインワークショップ(UDWS) が開催された。  UDWSでは、設計図による検証に加え、数々の実物大の検証模型やサンプル等も用いて細部にわたり、障害者団体等をはじめ関係者による確認と検証を行うことで、障害者団体等の要望等にも配慮した。 ②実施方法 ・UDWSの実施主体は、設計・施工JV ・発注者はUDWSに参加の上、施設運営の立場で意見調整を実施 ・テーマ毎にワークショップ形式で意見交換 ③施工段階のUDWSにおける実物大模型等による検証内容 表:項目、検証内容の順に記載する 外部・内部誘導サイン、大きさ視認性・表示内容 観客席(一般の縦通路)、観客席間の縦通路段鼻色(段差の先端)の視認性 観客席(車いす席)、キックガードの設置位置・高さ 誘導ブロック、床仕上げと誘導ブロックのコントラストと視認性 エレベーター、操作ボタンの設置高さ、鏡の見え方 トイレ(一般トイレ)、大型便房の折れ戸の操作性、操作すいっち等の高さ トイレ(アクセシブルトイレ)、各機器の配置と操作性 サイン、ピクト表示内容・音声案内内容 ④ UDWSの意見を踏まえ改善した主な項目 ・エレベーターの階数表示の配置の改善 ・車椅子使用者用客席を各層にバランス良く分散。 ・エレベーターの階数ボタンの改善 ・外部階段の横に、エレベーターやスロープを増設。 ・車椅子使用者用トイレの機器の配置の改善 ・外部に補助犬トイレを設置。    ・男女共用トイレの付添利用対応(カーテン設置)の改善等 東京都大田区における庁舎のユニバーサルデザイン化の取り組み ① 背景 ・大田区本庁舎は開庁から10年以上が経過し、度重なる組織改正によって庁舎内のサインは煩雑になり、抜本的改善が求められていた。 ・2009(平成21)年度の組織改正において組織名称が大幅に改正されたことや、本庁舎のオフ椅子レイアウトが刷新されたことを契機に、本庁舎のサイン(案内板、表示板等)を全面改修することとなった。 ② 取り組みの概要 ・サイン計画の全面改修(以下、プロジェクトという。)にあたっては、大田区施設管理課を中心に大田区の関係部署が定期的に参加し、そこにデザイナーが加わる体制とした。また、市民団体と随時連携し、意見交換や検証実験を行った。 ・プロジェクトの工程は下表の通り。庁舎の全面改修を実施した第1次整備と、更なる改善を実施した第2次整備からなる。 ・第1次整備完了後の2009(平成21)年9月と第2次整備完了後の2010(平成22)年4月に障害当事者による検証実験を実施し、サイン計画の評価を行った。 ◆検証実験ⅰ)(2009(平成21)年9月)の概要 ・被験者は肢体不自由3名、弱視者(ロービジョン)2名、全盲1名、聴覚障害者2名、健常者1名 ・いくつか目的地を設定し、そこに単独で向かう被験者の行動を観察し、迷いや間違いを起こさないかを確認した。 ・結果、弱視者(ロービジョン)・全盲の方が目的地にたどり着けない場合があり、特に弱視者(ロービジョン)がサイン自体を発見できないケースがあることが判明した。 ◆検証実験ⅱ)(2010(平成22)年4月)の概要 ・被験者は弱視者(ロービジョン)4名 ・検証実験ⅰ)を受けて弱視者(ロービジョン)との意見交換等を実施し、弱視者(ロービジョン)にもわかりやすくするため、屋内用点字ブロックの設置や光サインの改善、受付で渡す案内マップの整備を行った上で、再度検証した。検証方法は検証実験ⅰ)と同様。 ・結果、目的地にたどり着くことが容易になったことを確認できた。 ・この後も全盲者を対象に検証を行い、サイン計画改善による効果や課題を確認する等、庁舎ユニバーサルデザイン化に向けた取り組みが進められている。 ○本書の作成にあたって、以下の文献を参照しています。 一般社団法人 日本福祉のまちづくり学会 未来型UD戦略特別委員会「障害当事者参画論」2023.11.19第1版、2024.3.22第2版、2024.11.16 第3版