参考資料2 2025年6月25日 ソジエスクの多様性を前提としてすべての人が生きやすいまちづくり 新設Cチーム企画 濱崎 はるか 1. すべての人が安心してトイレを使う環境の最新動向  専用の独立したオールジェンダートイレが、2025年1月19日に開業した駅の中で、大阪市内の公共交通機関としてはじめて設置されました。同型のトイレは、公共交通機関においては、成田市(空港、2020年)や名古屋市(鉄道、2023年)など他の地域で先に設置が進んでいる状況がありました。大阪市内でも設置する事業者が出てきたことを高く評価します。  エキスポ2025大阪・関西万博では、「多様でありながら、ひとつ」というコンセプトのもと、オールジェンダートイレを含む新しい配置計画のトイレが複数設置されました。今後のトイレの設置において学ぶべき点が多くありました。終了後にほとんどが解体されるのは残念ですが、解体前に、まちづくりに関わる行政や事業者が実際に見学すること、写真や体験などの資料を多く収集・保存すること、そして当事者が参画して評価する場が設けられることを期待します。  オールジェンダートイレの新しい設置や配置計画が模索される過程で、小便器利用者のプライバシーを確保する程度に差が出てきていることが明らかになってきました。 2. 公共トイレの計画とデザインについて 多様なソジエスクのあり方を前提としないまちづくりには、さまざまな支障や制限があります。たとえば、トランスジェンダーやノンバイナリー(男女どちらの性別もあてはまらない等)の方は、外出時にトイレを使おうとしても、自分の望む性別のトイレを使えず、我慢することがあります。日常生活で時間をかけて探す不便があり、中には外出を控える、排泄障害にかかる等、健康上の不利益を被ることがあります。 2023年9月の第6回推進協議会では、バリアフリートイレの配置計画を分類して使いづらさ・使いやすさを整理しました(参考資料)。バリアフリートイレが、男女別に分かれた空間の中にあるケースは使いづらいです(事例1)。距離の長短にかかわらず、男女別に分かれた空間を通らなければならないことは、使いづらい原因のひとつです。 図と写真のタイトル「事例1 バリアフリートイレが、男女別に分かれた空間の中にある」 図と写真の説明:図が2枚、写真が1枚。図の1枚目。女性便所と男性便所が2つあるが、バリアフリートイレが奥に配置されている。図の2枚目。女性便所と男性便所が2つある。バリアフリートイレは男女別に分かれた空間に配置されている。写真は、男性便所の配置図。男性の空間にバリアフリートイレが配置されていて、使いにくい。  男女別に分かれた空間を通ることなく、バリアフリートイレが、すべての人が利用できる位置で、直接出入りできるケースは使いやすいです(事例2)。写真は大阪市役所地下1階です。 図と写真のタイトル「事例2 バリアフリートイレが、すべての人が利用できる位置で、直接出入りできる」 図と写真の説明:図が2枚、写真が2枚。図の1枚目。女性便所と男性便所が2つある。女性と男性の間にバリアフリートイレが手前に配置されていて、すべての人が利用できる位置で、直接出入りできる。図の2枚目。女性便所と男性便所が2つある。バリアフリートイレは少し離れた、すべての人が利用できる位置で、直接出入りできる。写真の1枚目。バリアフリートイレ正面。女性便所と男性便所の手前に、すべての人が利用できる位置で、直接出入りできる。写真の2枚目。配置図。バリアフリートイレが、女性便所と男性便所の手前に、すべての人が利用できる位置で、直接出入りできる。 ただし、利用しやすい配置計画であっても、トイレの出入口付近に設ける表示板(標識)、案内板が男女の別を強調してしまい、使いづらいこともあります。新設Cチーム企画は、男女の別を強調しないこと、「誰が」使うかを示すのではなく、「何が(どんな便器が)」あるかを示すことを推奨しています。富田林市では、性別に関わらず利用できるトイレとして、みんなのトイレが設置され、日本産業規格JIS Z 8210の「洋風便器」に似たピクトグラム(図記号)が採用されています。 しかし、これらのバリアフリートイレが、オールジェンダートイレとしての機能を兼ねることは、利用集中の課題がありました。個数が不足し、待ち時間が発生し、同じトイレを必要とする利用者が互いにストレスを感じていました。 (参考資料)「参考資料6 新設Cチーム(濱崎委員)提供資料(PDF形式, 7.38MB)」(大阪市計画調整局計画部交通政策課、2023年9月13日) https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/cmsfiles/contents/0000577/577243/sankoushiryou6_iinteikyou.pdf 3. さまざまな独立型オールジェンダートイレの事例報告 新設Cチーム企画は、大阪メトロ中央線夢洲駅と万博を見学し、オールジェンダートイレを含む新しいトイレの配置計画について調査しました。 3.1. 従来型の男女別トイレとオールジェンダートイレが独立している事例(夢洲駅、万博) 従来型の男女別トイレとオールジェンダートイレが独立している事例では、大阪メトロ夢洲駅では並列配置され、万博コモンズ館では回遊配置されました(事例3)。 図と写真のタイトル「事例3 従来型の男女別トイレとオールジェンダートイレが独立して配置される」 図と写真の説明:上中下に分かれて、上に写真が2枚、中に図が2枚、下に写真が2枚。上の図の1枚目。配置図。入口からバリアフリートイレ、オールジェンダートイレ、男性便所、女性便所がある。上の写真の2枚目。配置図。女性便所と男性便所が2つある。バリアフリートイレとオールジェンダートイレが女性と男性の間に6個ある。回遊できる。すべての人が利用できる位置で、直接出入りできる。中の図の1枚目。バリアフリートイレ、オールジェンダートイレ、男性便所、女性便所がある。中の図の2枚目。女性便所と男性便所が2つある。バリアフリートイレとオールジェンダートイレが女性と男性の間にある。回遊できる。すべての人が利用できる位置で、直接出入りできる。下の写真の1枚目。夢洲駅オールジェンダートイレの洗面台。すべての人が利用できる。下の写真の2枚目。トイレ内部。バリアフリートイレとオールジェンダートイレが隣接している。すべての人が利用できる。 3.2. 非従来型の男女別トイレとオールジェンダートイレが独立している良い事例(万博)  男女別トイレが従来型から大きく変わっている事例では、西ゲートゾーンのトイレW77(身体性を触発する休憩所+トイレ「fuku fuku」)があります(事例4)。5個のオールジェンダートイレと2個のバリアフリートイレがあります。男子ラウンジには3個の一般便房のほか、10個ある小便器がすべて個室化(便房化)されていて、小便器利用者のプライバシーを十分に確保していました。調査に関わったメンバーの多くがこのトイレを高く評価しました。 図と写真のタイトル「事例4 非従来型の男女別の便房とオールジェンダートイレが独立して配置される」 図と写真の説明:写真が2枚、図が1枚。写真の1枚目。配置図。入口からオールジェンダートイレ、左に男性、右に女性。男性小便器は個室。写真の2枚目。トイレ内部。奥に小便器の便房が見える。手前は男性の一般便房。図は、配置図左から男性小便器、男性便房、オールジェンダートイレ、バリアフリートイレ(オールジェンダートイレ兼ねる)、女性便所が並ぶ。オールジェンダートイレとバリアフリートイレはすべての人が利用できる位置で、直接出入りできる。  この他では、従来の男性便所にある一般便房がなく小便器だけが設置される事例がありました。しかし、この小便器の多くが仕切りや扉がなく、排泄の様子が周囲から見え、プライバシーを十分に確保していませんでした。 3.3. 小便器利用者のプライバシー確保の課題(万博) プライバシーの確保の程度が低いトイレでは、小便器利用ゾーンと他を明確に分ける区別、利用者のプライベートゾーンを隠すための仕切り、排泄の様子が周囲から見えないようにする扉のいずれかがありませんでした(事例5~7)。 図と写真のタイトル「事例5 プライバシー確保の程度が低い(小便器ゾーンとの区別なし、仕切りなし、扉なし)」 図と写真の説明:写真が2枚、図が1枚。写真の1枚目。男性小便器が並んでいる。仕切りがない。図は、配置図。外側にバリアフリートイレ、女性便房。入口からオールジェンダートイレ、奥に小便器。写真の2枚目。配置図。外側にバリアフリートイレ、女性便房。入口からオールジェンダートイレ、奥に小便器。 図と写真のタイトル「事例6 プライバシーの確保の程度が低い(小便器ゾーンとの区別なし、仕切りあり、扉なし)」 図と写真の説明:写真が2枚、図が1枚。写真の1枚目。男性便房とバリアフリートイレの正面。写真の2枚目は、配置図。左から男性便所、バリアフリートイレ、オールジェンダートイレ、女性便房。図は、配置図。左から男性※小便器、小便器利用、男性便房バリアフリートイレ、オールジェンダートイレ、女性便房。 図と写真のタイトル「事例7 プライバシーの確保の程度が低い(小便器ゾーンとの区別あり、仕切りなし、扉なし)」 図と写真の説明:図が1枚、写真が1枚。図は、配置図。小便器利用ゾーン、オールジェンダートイレ、女性便所があり、バリアフリートイレが2個ある。写真は、配置図。小便器利用ゾーン、オールジェンダートイレが4個、女性便房が4個あり、バリアフリートイレが2個ある。 3.4. ピクトグラムのデザインの課題(夢洲駅)  オールジェンダートイレを示すピクトグラムについて、本来の案内用途を外れて使用されることがありました。洋装、和装など見た目の多様性を描いていますが、対となる2つの性の服装の違いにこだわった結果、ジェンダー二元的な見方が強くなっており、ノンバイナリーやジェンダーノンコンフォーミングの方など多様なソジエスクを前提とした表現とは遠いと感じています(事例8)。 写真のタイトル「事例8 ピクトグラムが用途外で使用される」 事例8の説明 光沢のある壁面を撮影。アルファベットでALL GENDER TOILETと書いてある。左から一列に11のピクトグラムが並び、ブラックの女性、ブラックの男性、ブラックのオストメイト、ゴールドのロングスカートの女性、グリーンの膝下丈のスカートの女性、ピンクの和装の女性、ブルーの和装の男性、シルバーのワンピースの女性、ブロンズのワンピースの男性、オレンジの男児、ゴールドの女児。 4. まとめ・要望 4.1. オールジェンダートイレ(男女共用便房)の設置を求めます。 「トイレに入る際に、性別を問われない場所がほしい」「男女別トイレ以外で自分の使いたいトイレを使いたい」などのニーズを満たします。安心して排泄等の行為を済ませられる空間は健康だけでなく、犯罪予防の効果も期待できます。まずは利用集中を軽減するため、バリアフリートイレとともにオールジェンダートイレの個数を増やしてください。独立型のオールジェンダートイレを設置することも検討してください。なお、適切なトイレの配置やレイアウトは建物の用途や状況等環境によって異なります。万博や各地の事例を参考にしながらすべての人が生きやすいトイレの設置を進めてください。 4.2. 小便器利用者のプライバシーの確保の程度を高めてください。 「隣の小便器を故意に使われる」「排泄の様子や性器を見られる」「排泄の様子や性器に関する中傷を受ける」などの性的な加害と被害が日常的に起きています。自分自身や隣の利用者の排泄の様子が見えていることが「平気だ」という方もいますが、「平気ではない」という方の沈黙や抑圧もあります。中には、「便器に押し当てて見えないようにしていた」「個室を使うようにしていたが、毎回使うとおかしいと思われるのではないかと不安だ」などの声もあります。「すべての人」の中には、男性、安心して小便器を利用したい方も当然含まれるはずです。 すべてのトイレで、男性便所、小便器利用者のプライバシーを確保することは重要です。小便器利用ゾーンと他を明確に分ける区別、利用者のプライベートゾーンを隠すための仕切り、排泄の様子が周囲から見えないようにする扉を環境にあわせて設置してください。 4.3. 特定事業、関連事業の指定 オールジェンダートイレの設置(配置)に関する項目は、国等の動向も考慮しながら、推進協議会において継続して検討されるにとどまっています。今後も当事者の視点を共有し、情報提供を続けながら、行政に対しては特定事業、関連事業として指定することを求めます。