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府立中之島図書館

2009年3月16日

ページ番号:1001

 モダンな雰囲気の中之島のなかで、ひときわ目立つ建築のひとつに大阪府立中之島図書館があります。明治三十七年(一九〇四)完成の中央本館と大正十一年(一九二二)に増築された左右両翼からなる石造の建物で、コリント式の石柱が並ぶ玄関ポーチや中央ホールにかかる大きなドームなどに特色がみられます。様式的にはパラディアンスタイルと呼ばれる古典主義に属し、昭和四十八年には国の重要文化財に指定されています。
 さて、この図書館は住友家第十五代当主の住友吉左衛門の寄付により建てられました。明治三十年、七ヶ月にわたり欧米への視察旅行に出かけた吉左衛門は、富豪たちが私財を投じて文化事業や社会事業に協力している姿を目のあたりにし、感銘を受けて帰ってきました。これが図書館を寄付するきっかけでした。明治三十三年二月十日付で大阪府知事宛に出された寄付願書には、大阪は商工業の発展は顕著なものの教育施設の整備が遅れているのは遺憾であるので、地元大阪へ恩を返すために図書館を寄付することにした、と記されています。
 その具体的な方法は、図書館(建築費約十五万円)を住友側で建築した後に大阪府へ引き渡し、さらに図書基金として五万円を寄付する、というものでした。
 当時、住友では建築部門を担当する住友本店臨時建築部が創設され、野口孫市が技師長を努めていました。野口は、明治二十七年に東京帝国大学工科大学造家学科を卒業後、大学院・逓信技師を経て、同三十二年には住友家に招聘されて一年間欧米へ遊学し、帰国後に臨時建築部へ迎えられていました。また同建築部には技師として日高ゆたかがいて、野口を助けていました。図書館の設計にあたったのはこの両名でした。そして工事は明治三十三年九月に着手、その後同三十六年八月には上棟式が挙行されて、翌年一月に竣工しました。
 この時は中央本館部分だけだったのですが、入館者が予想外に多く、すぐに手狭になってきました。そこで大正十一年にはさらに左右の両翼部分が増築されたのです。そしてこの時も住友家が寄付しており、設計は、すでに野口孫市は他界していたので、住友本店工作部(臨時建築部より改組)の日高ゆたかが担当し、長谷部鋭吉が協力していました。
 こうして現在みる府立図書館が完成しました。東隣に建つ大阪市中央公会堂も岩本栄之助の寄付によるもので、これらの建築は中之島を代表するモダン建築というだけでなく、「官」の東京に対する「民」の大阪を象徴しているとも言えるでしょう。
(住まいのミュージアム学芸員 新谷 昭夫)

 

府立中之島図書館

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