レセプトの確認処理の未実施(第20-90-155号)
2024年3月18日
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大阪市公正職務審査委員会からの勧告(平成21年7月13日)
大阪市公正職務審査委員会から、職員等の公正な職務の執行の確保に関する条例第9条第1項の規定に基づき、大阪市長に対して勧告を行いました。
1 通報概要
2 制度の概要
生活保護の受給者が医療の給付(医療扶助)を受ける場合、生活保護法第15条の規定により、基本的に全額が公費によって賄われている。
そのため、生活保護の受給者が、医療扶助を受ける場合には、基本的には、事前に所管の区保健福祉センター又は更生相談所(以下「区保健福祉センター等」という。)に対して医療扶助の申請を行って「医療券」・「調剤券」(以下「医療券等」という。)の発行を受け、指定医療機関での診察を受けることになる。
診察を行った指定医療機関は、診療報酬明細書(以下「レセプト」という。)に必要事項を記載の上、大阪府社会保険診療報酬支払基金(以下「支払基金」という。)へ診療報酬の請求を行う。支払基金による審査が終わったレセプトについては、健康福祉局から委託を受けた財団法人大阪市民共済会において点検が行われ、点検後のレセプトは同局を通じて医療券等を発行した区保健福祉センター等に返却される。
区保健福祉センター等では、「生活保護法による医療扶助の診療報酬明細書の点検について」(平成12年12月14日社援保第72号厚生省社会・援護局保護課長通知。以下「厚生省通知」という。)に基づき、「生活保護法による医療扶助費の適正な支出を図るとともに、被保護患者の適切な処遇の確保を図ること」を目的として、返却されたレセプトの点検を行うこととされている。
大阪市においては、この返却された膨大な量のレセプトについて、効率的・効果的に点検を実施するため、平成15年4月に稼動した電子計算機処理による生活保護システムを活用したレセプト点検処理を、同年7月から実施している。システムによるレセプトの点検の手順としては、支払基金及び大阪市民共済会でのレセプトの審査・点検後に作成されたレセプト情報と医療券発行情報とを電算処理によって照合し、発行済みの医療券等があるか、発行済みの医療券等と内容が一致しているかなどを点検する。その際に、正常に照合できなかったものが存在する場合については、「レセプトエラーリスト」※1、「照合候補チェックリスト」※2及び「診療日数超過請求リスト」※3(以下併せて「レセプトエラーリスト等」という。)が作成され、健康福祉局を通じて区保健福祉センター等に送付される。
区保健福祉センター等の医療事務担当者は、返却されたレセプト原紙及びレセプトエラーリスト等を、担当のケースワーカーに配付する。ケースワーカーは、レセプトエラーリスト等に記載された、「医療券なし」、「医療機関からの重複請求」、「ケースワーカーによる医療券複数発行」など、エラー原因ごとに、出力された受給者番号を基に、その被保護者の医療台帳、ケース記録等と照合し、受給者名、指定医療機関、診療科、診療月、医療券発行実績などに間違いがないかを点検する。レセプトに疑義がある場合や、受給者番号等の転記ミス等が判明した場合には、当該指定医療機関に対して、必要な照会、連絡を行う。
以上の点検作業において、医療券の発行実績がないにもかかわらず診療報酬が支払われている場合や、医療機関からの同一被保護者に対する同月内の重複請求などが疑われる場合には、区保健福祉センター等から、健康福祉局を通じて、レセプトの審査を行った支払基金に対して再審査等請求を行う。
支払基金は、再審査等請求の結果、指定医療機関による過誤請求等が判明した場合には、当該指定医療機関に対して過誤調整等を講じる。
(注)
※1「レセプトエラーリスト」 医療券の発行を行っていないにもかかわらず指定医療機関が診療報酬を請求した場合や、指定医療機関が同一被保護者に対して同月内に複数のレセプトを作成していた場合等について、システム上、「券なし」、「同月内重複請求」として出力される。
※2「照合候補チェックリスト」 受給者番号の変更があったにもかかわらず指定医療機関が変更前の受給者番号で請求してきた場合やケースワーカーの医療券発行入力時の誤り等により医療券情報が確定できない場合、医療機関が処理月以前に請求済みのものを再度請求してきた場合等について、システム上、「券なし(候補)」、「券情報不確定」、「重複請求」等として出力される。
※3「診療日数超過請求リスト」 指定医療機関が医療券の有効期間を超えて受診又は1日に2回の診療により診療報酬を請求した場合について、システム上、「診療実日数超過」として出力される。
| レセプトエラーリスト | 照合候補チェックリスト | 診療日数超過請求リスト | 合 計 |
住吉区 | 4,871件 | 14,583件 | 16件 | 19,470件 |
全 市 | 75,721件 | 202,242件 | 610件 | 278,573件 |
3 調査結果
本件の調査によって、次の事実が確認できた。
(1) 生活保護システムによるレセプトエラーリスト等を活用したレセプト点検の実施は、平成15年7月から開始された。住吉区保健福祉センターでは、当初はマニュアルに沿った事務手続が行われていたとのことであるが、エラーの多くが受給者番号の転記誤り等の単純ミスによるものであると独自に判断し、明確な時期は特定できないが、平成17年頃から、今回の通報に基づく調査が行われるまで、前記厚生省通知、大阪市生活保護システム運用マニュアルに反して、レセプトエラーリスト等を活用しての照合、レセプト原紙の点検が全く実施されていなかった。
(2) 抽出で聞き取り調査を実施した住吉区以外の複数の区保健福祉センターにおいても、レセプトエラーリスト等及びレセプト原紙を担当のケースワーカーに配付しているものの、その照合・点検を各ケースワーカー任せにしており、組織としての一元的な管理が行われていない状況であったことが確認された。
住吉区保健福祉センターでは、レセプトエラーリスト等を活用してのレセプト原紙の点検を実施していなかったため、現時点では、過去にどの程度、指定医療機関からの重複請求等の過誤請求があったのか、その件数・金額が不明であるため、通報にある「不正請求や過大請求がやり放題となっており、大阪市に多大な損害を与えている」との事実は現在のところ確認されていない。4 判断
以上の確認できた事実に対して、検討の結果、次のとおり判断するに至った。
(1) 各区保健福祉センター等に配付されるレセプトエラーリスト等を照合・点検する趣旨は、医療券等の情報がないものや、同月内の重複請求等について、ケースワーカーが把握している被保護者の病状や生活実態との確認を行い、疑義のあるレセプトに関して支払基金に再審査等請求を行うことによって、医療機関による過誤請求等を防止し、医療扶助費の適正な支出を確保するものである。
(2) しかるところ、レセプトエラーリスト等の照合・点検が全く行われていない、あるいは個々のケースワーカー任せにして組織としての一元的管理が実施されていないことは、医療機関による過誤請求等が行われていたとしても、それがそのまま処理されてしまう危険性が高く、過誤請求等を行った医療機関に対する返還請求の機会を逸することになり、極めて問題である。
大阪市における生活保護費は、高齢化の進展等により生活保護受給者が毎年増加を続けていることから、平成9年度には1,212億円であったものが、決算が確定した最新年度である平成19年度には2,324億円と10年間で約2倍に急増し、そのうち医療扶助費については平成19年度では約1,129億円に達するなど、生活保護費の約5割を占め、非常に多額の公費が費やされている。こうしたことからすれば、医療扶助費の適正な支出を担保することは極めて重要であり、住吉区保健福祉センターにおいて、レセプトエラーリスト等及びレセプト原紙の照合・点検を行っていなかったという業務実態は、単に厚生省通知や大阪市マニュアル通りの運用が為されていなかったことにとどまらず、医療扶助費の過誤請求防止等の観点から、看過し難いものであり、大阪市が組織全体として真摯に取り組むべき課題である。5 勧告
上記判断に基づき、次のとおり改善されるよう勧告を行う。
(1) レセプトエラーリスト等を活用したレセプト原紙の照合・点検及び再審査等請求の手続が、厚生省通知及び大阪市生活保護システム運用マニュアルに基づいて適正に実施されているか否かについて、全ての区保健福祉センター等において調査するとともに、組織として適切な管理が行われるよう努められたい。
上記(1)の調査において、照合・点検及び再審査等請求等の手続の不備が判明した場合は、保存年限内の資料に基づいて、過去に遡って必要な処理を実施されたい。付記
本件通報によって、指摘されているものではないが、最近医療扶助に係る診療報酬の詐取により医療法人の理事長が逮捕されるという事件が報じられる等、公費負担による医療扶助の不正請求防止に社会的関心が高まっている。
このような状況下、今回の勧告で指摘した、レセプトエラーリスト等の照合及びレセプト点検の事務処理を確実に行い、保健福祉センター等において過誤請求等を厳正にチェックすることはもとより必要であるが、それ以上に、指定医療機関や指定施術機関(あん摩マッサージ指圧師、針師、きゅう師、柔道整復師)による不正請求を防止する取組みが求められる。
大阪市の生活保護事務を統括する健康福祉局では、毎年、市内の指定医療機関のうち一定数を抽出して、サンプリング調査を行い、平成20年度からは新たに指定施術機関も対象として聴き取り調査をした結果、合わせて860件、約1873万円の不適切な診療報酬の返還をさせているなど、医療機関等による不正請求の防止に取り組んでいることは認められる。
ただし、上記の返還対象額は、約7000箇所の指定医療機関の中から29箇所を抽出してのサンプリング調査によるもので、調査の結果、サンプリング対象機関29箇所中12箇所において、90件(これとは別に施術者は152人・770件)の不適切受給が発見されたとのことである。
一地方公共団体で行える取組みに限界があるのは承知するが、大阪市の医療扶助費は、平成19年度決算で約1,129億円にも達しており、サンプリング母数に見合ったサンプル数を合理的に決定するなど現行の調査手法を改善し、サンプリング調査の精度・信頼性を高めることによって、指定医療機関等による不正請求等の防止の取組みをさらに推進されることを付言する。ダウンロードファイル
勧告文(pdf, 18.32KB)
勧告文を掲載しています。
参考図(pdf, 5.56KB)
参考図を掲載しています。
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終結宣言(平成22年8月16日)
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