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私を変えた“いいね”の力

2025年10月21日

ページ番号:662446

受賞者

 髙田 正和 様

概要

 職場にある「いいね投票」という取り組みを通して自分自身が成長し、人との関わり方が変わった事で同僚に対しだけでなく利用者さんに対しての関わり方が変わった事の体験談

エピソードを通じて伝えたい「福祉・介護の仕事」の魅力

 福祉・介護の仕事は私たちが支えるだけではなく、利用者さんに私たちが支えられている事。そして自分一人ではなく多くのの仲間に支えられている事を実感できる仕事

本文

 私の職場には『いいね投票』というスタッフの良いところを褒めたり、ありがとうと伝える取り組みがあり、その月ごとに一番沢山の“いいね”をもらったスタッフに“いいね”大賞という賞の表彰を行っています。今回はその取り組みを通して私の体験を話したいと思います。

 私はこれまで飲食業やサービス業で20年以上、自分に厳しく、そして他人にも厳しく働きましたが高齢のお客様との関わりの中で介護の業界に興味を持ち40歳を過ぎてこの仕事を始めました。接客には慣れていましたが介護という全く未知の世界に飛び込むのは正直な所、勇気が必要でした。

 初めての介護の仕事に就いた時、私は緊張と戸惑いでいっぱいでした。利用者さんにどう接すればいいのか、職場の雰囲気にどう馴染んでいけばいいのか、全てが手探りでした。本当に自分にこの仕事が向いているのだろうかと毎日不安でいっぱいでした。しかし救いだったのは職場の先輩方が皆、優しく温かい方ばかりだったことで、わからない事も一から丁寧に教えて下さり、失敗しても責めず支えてくれたことです。その環境が私を一歩ずつ前に進むための大きな支えとなりました。

 ある日、休憩室のロッカーに1枚の紙が貼られていました。そこには自分の名前があり「いつも利用者さんの事を考えて一生懸命に動いていて感心します。利用者さんがいい人が入ったねと言ってくれていました。髙田さんが来てくれて本当に良かったと思います」と書かれました。たった数行のメッセージだったけど、心が救われたような気がしました。誰にも気づかれていないと思っていた自分の小さな努力を利用者さんもスタッフ見てくれている人がいる。それに気づかせてくれたのが『いいね投票』でした。その”いいね”が私の中に小さな希望を芽生えさせてくれ、この仕事を続けたいと思えました。

 半年ほど過ぎた頃、仕事に慣れてきた私は、少しずつ他人に対して厳しい目を向けるようになっていました。利用者さんへの対応や仕事への取り組み方、危なっかしい介助をしている同僚に(なんで気付かないんやろ?)と心の中で否定的な言葉を並べたり先輩に愚痴を言ってしまったりして、気がつけば人の悪い所ばかりに目がいっていました。

 同じころ、先輩から「髙田さんもそろそろ、『いいね投票』してみたらどう?」と声をかけてもらいました。しかし、当時の私は自分のような駆け出しが誰かを褒めるなんておこがましい事だし嬉しくないのではないか、と思いすぐに行動出来ずにいました。でも、あの初めての”いいね”を思い出し、あの一言がかつての自分をどれだけ励ましてくれたか・・・そう考えると、今度は私が感謝やその人の努力を伝えられるかもしれないと思い行動してみることにしました。

 勇気を出して、初めての”いいね”をしました。相手の良さをじっくり思い浮かべて、心を込めて言葉を綴りました。すると”いいね”を受け取った同僚から「まさか、髙田さんに”いいね”してもらえるとは思わなかった。普段の利用者さんへの関わり方を見てくれていて本当に嬉しいです。ありがとう」と笑顔で伝えられました。その笑顔を見た瞬間、自分の中の何かがじんわり溶けていくような気がしました。

 それからというもの、私は日々の業務の中で意識的に他のスタッフの良いところを探すようになりました。『いいね投票』を始めた時にやるなら何か目標を立てようと思い自分の目標を「1日1いいね」として取り組み始めました。最初の頃はなかなか、見つけることが出来ず難しかったのですが、いつしかそれが自然となり気がつけば他人を見る目も自分の心の在り方も変わっていました。苛立ちの種であった小さな行動も「その人なりの頑張り」として受け止めれるようになりました。

 『いいね投票』への取り組みを始め、利用者さんへの気づきにも変化がありました。

 ショートステイで来られていたAさんが消灯前に他の利用者さんと話ながら「どうしようかなぁ、さびしいなぁ」と話されていました。以前はテレビを見て話をしていた方ですが、最近は「寂しい」と口にされテレビを見ていないことが多いことに気がつきました。お話し好きの方という事もあり、そっと見守るだけではなく部屋に戻られる時間を楽しんでもらうため冗談を交えて話をしました。その時は、笑ってもらうことができ、「お兄ちゃん、楽しかったわ」「今日はよく寝れそう」と言葉をもらうことができました。その日、普段は部屋に戻られてからも不安になり、スタッフを呼ぶことが多い方でしたがとても安心されて消灯後を過ごされていました。

 その場面を見ていたスタッフから“いいね”をもらい、スタッフの間でもこのことを共有することができ、Aさんに安心を提供する支援のひとつとなりました。

 私が、担当していたBさん。半身麻痺で言葉が出しにくいながらも普段から明るく車椅子を自走され余暇時間にはご自身で立ち上がりの練習をするなど、とても努力家な方です。ある日からトイレでの介助中、少し立ち上がりに苦戦する事が多くなり「もうアカンなぁ」と悲し気に苦笑いされ少し元気がない日が増えました。私は、担当なのに元気づけられない事に悔しさを感じていました。そんな時、利用者さんの好きな事で個別支援を頑張っていた同僚へ“いいね”をして刺激を受け個別支援についてアドバイスを受けた事を思い出し、B様の趣味である将棋を一緒に指すことにしました。「一局どうですか?」と声をかけると満面の笑みで「ええの?ええのか?」と喜ばれ対局後も「ここは良かった、あれがアカンかった」と溌剌と話していました。とても喜んでもらえ活気あるB様を見た私も嬉しく、好きな将棋を日常的に指せる機会を作り出せないかと考えました。ボランティアで将棋を指せる方がいらっしゃると上司から教えて頂き、すぐにその方に声をかけ月に2回、B様と将棋を指していただける事になりました。最初は少し遠慮気味だったB様も回数を重ねていくうち、将棋を楽しみにされるようになり対局前にはお気に入りのキャップを被り気合十分な様子で対局場所であるテーブルに向っていました。弱気な言葉が多くなっていたB様も私が対局後の感想を伺うと「なかなか勝たれへんな」と口にされながらも楽しそうに元気な笑顔で話してくれました。部屋では将棋番組を真剣な表情で観てたり新聞の将棋の欄を見て研究されている所をよく見るようになりB様の努力家な姿がまた見られるようなりました。

 そうした日々を積み重ねたその結果、職場で発表された年間いいね投票の褒め上手大賞に私が選ばれました。私の働く職場では“いいね”をもらった人だけでなく“いいね”を送った人も表彰してくれたのです。胸の奥からこみ上げてくるものがありました。『いいね投票』に取り組んだことで相手を認める事は自分が認められる事にも繋がっていると感じました。そして何より、“いいね”をすることで自分がその人のいい所を学んで利用者さんの支援に繋げる事が出来ています。仕事を始めた頃の自分には想像できなかった景色が、今、自分の前に広がっている。その賞状を手にした時、私は静かに自分の歩んできた道を誇りに思えました。

 そして私は、この『いいね投票』に取り組んだことで利用者さんから日々「ありがとう」という“いいね”をもらっている事に気がつきました。「ありがとう」と伝える事は、誰かの背中を押す力になる。そしてそれは、巡り巡って自分の心にも暖かな光を灯してくれる。

 私はこれからも、いいねの気持ちを大切にして、人の良いところを見つけ続けていきたい。あの日の“いいね”がくれた力を、今度は私が次の誰かに渡していけるように。

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