【第9号】「子どもの嘘~どう対応する?」 臨床心理士・精神保健福祉士 井上 序子
2022年10月30日
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子どもの嘘は基本的には「何らかの嘘をつく理由がある」と考えます。場合によっては「親が追い込んで嘘をつかしてしまう」ことや「親の期待に沿おうとして嘘をついてしまう」こともあります。また「自分を守るためにつく嘘」もあれば「親の気を引くための嘘」もあります。このように、嘘には必ず「何か」子どもの思いがあります。嘘をついたことがわかっても、嘘をつく悪い子というように性格に原因を求めるのではなく、「何があるのだろう」と考えてあげることが大切です。
嘘にも種類があり、「事実と違うことを言っているとわかってつく嘘」と「わからずにつく嘘」とがあります。また病的な嘘もありますが、子ども時代には用いられることが少ないです。いずれにせよ、どの発達段階でも、非難せずに、まず聴くことが対応の一歩目となります。
幼児期編(3歳~6歳のころ)
子どもは2歳半頃から嘘をつくようになります。これより幼い頃は、空想や願望を話すことはあっても、嘘をついているという意識はないことが殆どです。3歳頃になると自分の言っていることが現実とは異なっていることや、嘘をつく目的を意識できるようになります。違う見方をすると知能が発達しているということです。
この頃の嘘は、程度が軽ければ正常発達の範囲であったり一過性と考えられますので、それ程気にしなくてもいいことが多いです。嘘を意識的につくことが一時期盛んになることがありますが、大抵は叱責されることから身を守っているのです。ただ、頻繁であったり程度が深刻であれば、子どもの気持ちをよく聴いてあげることが必要です。頭ごなしに叱ったり嘘をついた理由を問い詰めるのはよくありません。子どもの言い分によく耳を傾けてあげます。それで理由が納得できれば結構ですし、もし解決しなければ保健センターや児童相談所などに相談してみましょう。
学童期編(小学校低学年~中学年)
小学校に入るようになると、意識的な嘘が殆どです。どんな時に子どもは「わざと」あるいは「すぐバレるのに」嘘をつくのでしょう。それは子どものSOSではないかとまず考えます。大きく2つの状況のどちらかに子どもが置かれているのではないかと考えてみます。1つは、今自分に起こっていることが理解できずに上手く説明できないとき。たとえば、学校でちょっとした仲間はずれやいじめられたりしたときなどです。あるいは先生に理由が分らずに叱られたり誤解されたりしたときです。この頃はまだ抽象的な思考ができませんので、事実は話せてもそれを説明するのは難しいのです。上手く説明できない自分を知っているので、つい嘘をついて逃れようとします。または、親に心配かけたくないと思ったり、プライドがあって嘘をつくこともあります。何かあったのだな…と考えて少しずつ話を聴いていくと良いでしょう。雑談の中にヒントが隠されていることもあります。普段の会話を増やしてみて下さい。
もう1つは、見捨てられ感を抱えているときです。例えば、弟や妹の方に手がかかり、つい我慢させたり自分でさせてしまっているときです。きょうだい葛藤はかなり根深く、多くの子どもが抱えています。「私のこと見て」「僕のことわかって」というサインです。先ほどの1つ目と合わせると疎外感(何となく自分のことなんてどうでもいいんだ…と捉えてしまう)や不安です。このような時は、お話タイムを作ったり、何をするにもまず先にお兄ちゃんやお姉ちゃんを優先することにより、「自分は忘れられていないんだ」と確認できるようにしてあげて下さい。
これ以外にも理由や背景はありますが、心配であれば学校や専門家に相談をしてみるとさらに理解が深まるかもしれません。
思春期編(小学校高学年~中学生)
通常、小学校5年生以降になると親に対して隠し事が増えてきます。大人になっていく過程での正常な発達です。親の気を引くための嘘、自分を守るための嘘、叱られたくないための嘘など、幼い頃と同じような嘘も依然あります。しかし、この時期に親にとって問題となるのは、周りに迷惑をかける嘘や自分の責任逃れの嘘ではないかと思います。また、親が気づかないことが多いように見受けられますが、親に心配かけたくない嘘やプライドを守るための嘘もあります。
どの嘘も共通して、この時期の嘘の背景には、人間関係がうまくいっていないことがあります。例えば、集団や友だちとの関係であれば、金銭トラブルやいじめなどが考えられます。また、親子関係であれば、夫婦に離婚話が出ていたり親子関係の悪化などが考えられます。聞き出そうとしたり、説教じみた話をするとますます頑固になり更なる嘘をつかせてしまうことにもなりかねません。子どもの気持ちや考えていることをちゃんと聴いてあげることが何よりも大事になってきます。しかし、なかなか親には言ってくれません。関係や状況が悪化しないように、スクールカウンセラーや専門家に相談して、対応も含めて一緒に考えてもらうのがいいでしょう。
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