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【第26号】「ふだん使いの防災を」 京都大学防災研究所 巨大災害研究センター長・教授 矢守 克也

2019年3月20日

ページ番号:206285

岩手県野田村保育所の奇跡


 東日本大震災の当日、それも、巨大地震・津波が起きたちょうどその時間帯、午後3時から避難訓練を予定していた保育所があることをご存じでしょうか。岩手県野田村保育所です。あの日、訓練実施のために昼寝を早く切り上げて子どもたちにオーバーを着せるなど、すでに外出の準備をしていた幸運も手伝って、約30分後には建物全体が跡形もなくなるほどの大津波に見舞われながらも、この保育所では、子どもたち、職員、約100人全員が無事に避難を完了しました。

幸運は日頃の努力が招き寄せた


 ただし、この幸運はただ座って待っていたらやって来たというものではありません。日頃の努力が幸運を招き寄せた点が大切です。この保育所では、月に1回必ず避難訓練をしていました。また、子どもの名簿(出欠簿)は、毎日救急箱に入れていたそうで、3月11日も手順通りに事を運び、高台の避難所で保護者への引き渡しなどがスムーズに進みました。
 しかも、避難訓練だけでなく、ふだんの「早足散歩」(行きは早足、帰りはゆっくり歩く)を通して、津波のときの避難予定場所までのルートや所要時間を探ったりしていました。それによって、子どもがどのくらいのスピードで移動できるのか、他にルートはないのか、天候や季節による避難路のコンディションのちがいなどもチェックしていたのです。ふだんの生活がそのまま防災対策になっていたわけです。

「ふだん使いの防災」:5つのポイント

 ふだんの暮らしや生活に根ざした「ふだん使いの防災」を、私は、「生活防災」と呼んできました。その重要ポイントを5つに整理しておきましょう。

第1に、「ふだんの生活」。


 防災を災害時、緊急時のためだけの活動と考えるのではなく、ふだんの暮らしと一体となった活動としてとらえることが大切です。野田村保育所の「早足散歩」の場合、もちろん避難ルート、所要時間のチェックという大切な目的が、お散歩というふだんの日課の中に隠されていたわけです。

第2に、「みんなで(コミュニティで)」。


 「生活防災」の一部は、個人的な生活習慣としても実現できます。たとえば、ふだんから子ども部屋を整理整頓しておくことは、落下物対策、避難路確保など、防災対策としても有効です。しかし、「生活防災」のほとんどは、多くの人びとの共同作業としてみんなで実行するものです。野田村保育所のとりくみは、もちろん、子どもと職員一丸となって進められていました。加えて、避難には、近くの村役場の職員や近隣住民の協力も得ていました。

第3に、「繰り返し(毎日、毎週、毎月、毎年)」。


「生活防災」にチャレンジするとき、すでに日常的に繰り返されている行事やイベント(たとえば、毎日の体操、毎年の文化祭など)をうまく利用することが重要です。これらの生活習慣や年中行事に、防災をうまく組み入れることよって、逆に、防災活動が、だんだん習慣化、日常化してきます。野田村保育所で言えば、子どもの出欠簿を「毎日」救急箱に入れていたこと、日常的な「早足散歩」が、ここで言う「繰り返し」に該当します。

第4に、「一石二鳥」。


防災のためだけに、あることをしろと言われても、多くの人は躊躇してしまいます。むしろ、当面の御利益は他にあって、防災は「おまけ」としてついてくるくらいでないと長続きしません。その意味で、〈生活防災〉では、防災と同時並行可能なパートナー探しが肝心です。「早足散歩」は、楽しい散歩でもあったでしょうし、子どもたちの体力の向上・維持や、地域の人たちとのふれあいにも役立ったと思われます。野田村保育所は、防災のためだけに「早足散歩」していたわけではないはずです。

最後に、「ご当地主義」。


「生活防災」のベースとなるのは、「ふだんの生活」です。そして、「ふだんの生活」は地域により時代により、大きく変わります。その意味で、「生活防災」は、地域の特徴によく合ったものであるべきです。野田村保育所の場合、地域が過去に何度か大きな津波に襲われ、2006年に公表された津波浸水ハザードマップで保育所が浸水予想区域に入っていたことが、とり組みを加速させたといいます。

ハザードマップが配られてもすぐに古新聞と一緒に捨ててしまう、見たこともない…こんな方も正直多いと思います。まず、この習慣から変えてみませんか。

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