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【第93号】女性と子どもの困難~DVに気づいたらどうする? その2  甲南女子大学 友田 尋子

2022年10月30日

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暴力下で暮らす子どもの影響


 DVのある家庭では、子どもは暴力を目撃し、虐待を体験しており、暴力下に育った子どもはうつ症状として自責感と攻撃性を持つと報告されています。
DVの影響は胎児期にまでさかのぼります。妊娠中の暴力体験は低出生体重児出産や早産を引き起こし新生児死亡率が高くなるといわれています。それは胎盤から分泌される副腎皮質刺激ホルモンをストレスにより上昇させ、血管収縮を引き起こし、子宮内発育遅延児の出生を高めるからです。そのため、胎児の発育が障害されると指摘されています。

未成年者に有害とされる情報を阻止し、暴力的、性差別的、人種差別的メッセージの有害性と悪影響をチェックする第三者機関が各自治体等にありますが、暴力下の子どもはその何十倍もの迫力で直接的に暴力を見せられています。DV加害者の半数以上が子どもに暴力をふるい、アメリカではDV加害者の半数以上が子どもに暴力をふるい、DVのない家庭より2倍以上子どもを叩く傾向があるといわれています。子どもへの無関心と無視、感情にまかせた暴言・暴力、世代間境界も自覚できない加害者は子どもへの性虐待も起こりがちであると報告されています。

被害者がやっとの思いで加害者と別居しても、加害者が現在の生活を探り脅かすように子どもをつけまわるなど子どもの暴力再体験の危惧が続くことがあります。2011年の民法改正によって面会交流の調停や審判の申立件数は増加しています。面会交流自体は子どもの人格の発達に不可欠な親の愛育を求める子どもの権利ですが、DVの場合、監護権を盾にして離婚の条件に頻繁な面会交流を要求され、発達保障どころか安全を確保することのできない面会交流を強いられている子どもが急増しています。面会交流は加害者による支配とコントロールを維持する手段になることがあり、法的正当性を伴って子どもを通じて家族へ支配力と影響力を及ぼすリスクをはらんでいます。

困難な状況の人に気づく力


被害者に気づくことの難しさは、このような被害ゆえに本人が語ることも支援を求めることさえもできない状況にあるという困難によるものです。だからこそ、多くの方がDVの認識や知識を得ることが予防の一歩となります。
暴力下にある家族間のつながりはそれが崩壊した家族と周囲から映っても、暴力と支配によるつながりは残り続けます。安全を保障し関係を維持できれば、被害者であること・加害者であることをそれぞれに自覚し、家族のあり方を見つめ直すことにならないでしょうか。
周囲があきらめることなくかかわりを途絶えず続けていくことのできる対策が急務なのですが、これがコロナ禍の現在はかなり難しく、相談施設の閉鎖、支援者の外出自粛による相談窓口の縮小、支配下に置かれた被害者が新たな情報を得ることが難しくなっています。しかし、国や関係機関が家庭内での児童虐待、DVの防止に向け取り組みを強化するとしました。

例えば日本小児科学会等は暴力予防活動として「お子様と暮らしている皆様へ」、「こどものみなさんへ」を作成し配布しています。また、内閣府と厚生労働省は地方公共団体に対してDVの相談対応から保護に至るまでの支援の継続的かつ敏速な対応を依頼、全国共通相談ナビダイヤル(0570-0-5521)を設け、緊急の場合110番通報、警察の対応も強化するとしました。また、メールやチャットでも相談することができるように「DV相談+(プラス)」を開設しました。こうした取り組みにおいて丁寧さを維持できる個別対応が重要です。被害者たちの今、どのような困難があるのか感度を高め、兆候を早期につかむ仕組みが失われ始めているからこそ、今後のコロナ禍の影響による社会経済状況が貧困家庭を直撃し女性や子どもの命が失われる危険性も視野に入れた暴力多発を防ぐ支援を至急に考えていくことが必要です。


警察・行政の家族への介入によって子どもの安全の確保が最優先された結果、加害者との対立構造が生まれ、被害者と子どもの困難に寄り添い共感的に支援することが難しくなっています。家庭内への介入を恐れる加害者は表面を繕って心を閉ざし、会話をさけ孤立を強め、仕事を捨て家族を連れて転居を重ね、関係機関との連絡を絶つ事例もあり所在不明児童の死亡事件に至るという最悪の事態にもつながりかねません。関係を切らないような子育て支援や加害者への共感的支援が大切です。
加害者には人としての育ちを阻害され、虐待を受けていた人が多いという事実を受け入れていくことも支援です。加害者が暴力を用いることのない更生、被害者がマインドコントロールされることのないエンパワーメント、子どもへの被害を最小限に食い止めるケアを構築し、家族再生への支援を探究していくことです。どのようにすれば安全で安心できる社会を、対人関係を、家族のつながりを形成する「ケアする社会」にできるのでしょうか。わたしたちひとりひとりが問い、考え、行動することから始めましょう。

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