【第98号】「ひとりにしないこと―自死やこころの病気への理解 その1」特定非営利活動法人グリーフサポート・リヴ代表理事 佐藤 まどか
2022年10月30日
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知っていたよ
「知っていたよ」母が亡くなって半年、父から母が自死であったことを知らされた時の小学生の言葉です。父は周囲から「子どもにつらい思いをさせない方がいい」「知らないですむなら知らないままでいいではないか」そう言われたことと伝えることのつらさから真実を隠していました。
リヴの自死遺族相談や語りの会で『子どもがショックを受けると思うので大きくなるまでは隠しておこうと思います』と聞くことがあります。
何歳ならショックを受けないのでしょう?何歳なら受け止められますか?
おとなになればショックを受けないでしょうか?受け止められるでしょうか?
リヴの親子面談の中で「お母さんに知りたいことを聞いてもいいよ」と伝えた時に親の自死を聞いた子どもが「おかしいと思ってたんだよな」や「謎が解けた」と言うことからも隠されている何かを感じ取っていたことがわかります。
「知っていたよ」子どものその言葉は知らないふりをしてくれていた子どもの優しさです。そして誰にも語らずに自死した家族を思っていた事実です。
親が伝えてくれたおかげで一人で抱えなくてはいけないことから解放されたのです。
隠されることは自分が隠さなくてはいけない秘密を持つことです。それは自己肯定感を下げてしまいます。起こった出来事はつらいことだけどあなたの価値は何も下がらないことを知らせてあげることが大切です。
この先を生きる力を
私たち「カウンセリングスペースリヴ」では出来るだけ早い時期に本当のことを言いましょうとお伝えしています。
母を自死で亡くした4歳の子に父は「お母さんは天国に行ったんだよ」と伝えていました。しばらくしてその子は「お母さんはいつ天国から帰ってくるの?」と問いました。
その後父は「お母さんは心の病気で死んでしまったんだよ。もう帰って来ないんだ」と伝え直しました。その子は「ふーん」と答え、それから父に「お母さんとお父さんが手をつないでいるところ」と絵を描いてくれました。
父の死を事故であると伝えていた母は子どもに「お父さんは自分で死んでしまったんだ」と伝え直しました。3歳の子は「お父さん間違っちゃったのかな?」と言いました。「そうだね、間違っちゃったんだね」と子どもを抱いて泣きましたと私たちに教えてくれました。
リヴにはいくつかの自死遺族の語りの会があります。「親を自死で亡くした方」「パートナーを自死で亡くした方」「子どもを自死で亡くした方」と立場で分けています。
子ども時代に親を自死で亡くした方々からも本当のことを教えてもらえなかったことの親への不信や恨みを聞くことがあります。または「言ってはいけない」と言われ大きな秘密を抱えてしまったことで人との距離の取り方がわからなくなったと語る方もおられます。
つらい悲しい出来事があった時におとなから誠実に向き合ってもらうことがこの先を生きていく力になります。本当のことを言ってくれる親に子どもは信頼を置き何かあってもこの人は向き合ってくれると思えるのです。
いのちの授業の中で
ある自死遺族の方が子どもの時の「いのちの授業」の中で同級生たちが「自殺してはいけない」と述べる中、ひとり自分だけが「自殺がいけないと思わない」と言ったのだと語られました。
「本当にわからなかった。なぜ死んではいけないのか?が授業が終わってもわからなかった」と言われました。
それは自死を選んだ父への思いだったのかもしれません。「では父はいけないことをしたのか?苦しんだ父は悪者なのか?」
そう言葉にならない思いが渦巻いていたのではないでしょうか?
もしその時に「自殺はいけない、ダメなこと」ではなく「あなたたちが死んだら悲しい」と伝えてくれていたら子どもであった彼の心に響いたかもしれません。
いけないことをした父ではなく「僕も父が亡くなって悲しかった」「生きていて欲しかった」といのちの大切さを感じることが出来たでしょう。
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