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【第99号】「ひとりにしないこと―自死やこころの病気への理解 その2」特定非営利活動法人グリーフサポート・リヴ代表理事 佐藤 まどか

2022年10月30日

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つらい子にこそ届けたい


では、子ども達にいのちの大切さをどう伝えていけばいいのでしょう?
いのちの大切さを伝えたい思いが先行し「たったひとつのいのちだ」「あなたが生まれてきた時に家族は喜んだはずだ」と強調することはないでしょうか?生んでもらったことや育ててもらっていることを親に感謝していのちを大切にしようと伝える時、私たちはどいういう子どもの姿をイメージしているでしょうか?優しい両親に見つめられ抱かれた赤ちゃんの姿、にこやかに食卓を囲む家族の中にいる子ども、当たり前に親にわがままを言い叱られる子ども、親に見守られ「行ってきます!」と走って行く子ども、そんな日常が浮かびます。その子ども達はきっと親に感謝しいのちを大切にするという言葉が入ってくるでしょう。
一方で親に感謝するという教えがつらい子どもがいます。「生まなければ良かった」と言われいつも怒られている、親に関心を持ってもらっていない、誰かが怒り出さないかと緊張しながらの家族での食卓、そんな日常もあるのです。大切にされていないと感じている子にとっては「誰もが大切にされるいのちというものを持っていない自分」を思います。そんな自分のいのちは大切だと思うことができません。つらい子にほど響かないことばになってしまう恐れがあります。
「自分なんか大切じゃない」と思っている子に「あなたがここにいてくれて嬉しい」ことを伝えてください。「いのち」だけを切り離して伝えるのではなく今目の前にいるあなたが大切だというメッセージが必要です。条件を付けず(~をしなくてはいけないとか、~と思わなくてはいけないということではなく)今のそのままの自分を大切に思ってもらうことがどの子にとっても自分を大切にする一番の力になるのです。

「死にたい」くらいのつらい気持ち


 いのちの大切さを伝えたいおとなにとっては「死にたい」くらいのつらい気持ちをつい否定したくなります。なんで頑張れないんだ、なんでいのちを大切に出来ないんだと怒りが沸くかもしれません。おとなにとって耳障りの悪い言葉はどんなに言いにくいことでしょう。それを口にするのはとても勇気のいることです。もしその言葉を受け取ったならまずは伝えてくれた子に「ありがとう」を「よく言ってくれたね」を言ってください。「つらかったんだね」と受け止めてもらうことで少し楽になるかもしれません。必要であれば一緒にその先の相談するところを探したり力になってくれる人を見つけたりすることが必要な時もあるでしょう。
「死にたい」くらいの気持ちは正しさを説いたり叱責したりすることでは消えません。その気持ちに寄り添いながら「あなたを大切に思う気持ち」や「あなたがいないと悲しい」自分の気持ちを伝えてください。

ひとりにしないこと


子どもを自死で亡くした方の語りの会である方が「社会に戻って来た気がする」と言われました。その日は美味しいお菓子の話やカフェの話、買い物の話などで盛り上がりました。ただ日常を笑い合ったのです。
その場に共通しているのは子どもを自死で亡くしたということです。社会の中では気を許すとつい人との距離が近くなり「お子さんは何歳になったの?」「そろそろ大学生ね」など亡くなった子どもの話題になるかもしれません。そんな話題になればつらくてそこに居ることが出来なくなります。そうならないように警戒しながら話さなくてはならないのです。でも、会ではそんな緊張をせずにただ日常を語れたのです。そこでは子どもを自死で亡くしたことは隠さなくてもいいからです。そこにいてもいい、日常を語って笑い合っていい、そんな場が社会になくて、いかにふだん孤独であるかを意味します。
 孤独は人を追い詰めます。
 遺族支援にも生きづらさに寄り添うことにも共通して思うところがあります。
 「ひとりにしない」ことです。
 そのままの自分を否定されず聞いてもらえる場所、そこにいてもいいと思える場所、心と体の両方の居場所が必要なのです。
 それはもちろん子ども達も同じです。
家で嫌なことがあった時、家に居られない時に学校で先生や友達に会ったり話を聞いてもらったりすることで気持ちが楽になる、逆に学校で嫌なことがあった時、つらいことがあった時、家で話をしたりごろごろしたりすることで気持ちが楽になる、そんなリセットの場所がいるのです。学校にも家にも居場所が無い時、社会、地域に居場所を作らなくてはいけません。人はどこにも居場所が無い時追い詰められてしまうのです。
ひとりにしないこと、それが生きづらさを抱える人すべてに共通する必要なことです。

子どもの時から伝えたいこと

生きていたらたくさんの嫌なことも起こります。死にたいと思うこともあるかもれません。居場所があり話が出来ること、理解してもらうことが大切だということはお伝えしました。

それに加えて自死やこころの病気への理解も伝えていかなければなりません。自死者を責めることや恥ずかしいことだという偏見は自死遺族や「死にたいくらいつらい人」を追い詰めます。個人に起きている問題は社会の問題でもあります。もしも周囲に自死をした人がいたとしても恥ずかしいこと、隠さなくてはいけないこと、と思わないで欲しいのです。素直にそのことを残念に思いその人のつらかった気持ちに寄り添う気持ちを伝えてあげてください。こころの病気になっている人がいてもそれはその人が弱いからではないことも伝えましょう。からだと同じようにこころも病気になることがある、何もおかしなことではないこと、適切に治療を受けていいことを伝えておきましょう。

 おとなの偏見が弱音を吐くことや相談をすることを止めてしまうことがあるのです。

 海外では幼稚園からこころの病気に対する授業を行っている国もあります。その子ども達は自分の親がこころの病気になった時に周囲に相談をすることが出来たという話もあります。自然に弱さを認め誰かに助けを求める強さを持つことが出来るのです。

 これからを生きる子ども達が「しんどい時は助けてを言ってもいいんだ」と知り生きていける優しい社会を作る一員に私たちおとながなっていきましょう。

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