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【第109号】今、必要とされる「子どもの居場所」について   一般社団法人 こもれび代表 水流添 綾

2022年10月30日

ページ番号:594316


 月に2回、夕方6時頃になると次々と子どもたちが集まってくる場所があります。小学生から高校生の子ども十数人が同じぐらいの数の大人と一緒に過ごし、こころとおなかを満たす場所【夕刻の場いるどらぺ】は、いわゆる子ども食堂です。ただ、一般的な子ども食堂と少し違うのは、ひとりぼっちになりがちな、気にかけてあげないといけない子どもたちの居場所だということです。この場所では、大人と子どもは上下関係ではなく、やや斜めの関係で、一緒に楽しみながら過ごすことを大切にしています。家や学校でもない第3の居場所では、子どもたちは、思い思いに行動し、さまざまな様子を見せてくれています。

ひとりぼっちになりがちな、気になる子どもたち

 たとえば、大人が何を話しかけても『知らん』『わからん』とかかわりを拒否するような反応を示す子どもや、フードで頭から顔まで覆い隠し、無反応を通す子ども。あるいは、コミュニケーションの方法が不適切で、『あっちいけ』『死ね』など、わざわざ相手を苛立たせる言葉かけをしてくる子どもなど、コミュニケーションが難しい子どもがいます。また、どんなに褒めたとしても、『どうせ私なんて』と、全く自分のことを認めることができない子どもや、困っていることを認めることができず、助けを拒否するような自己肯定感の低い子ども。ルールを守ることができずに、自分勝手に動く子どもや、周りのことばかり気にかけすぎて、自分の意見を言えない子どもなど、活動を始めてから、さまざまな子どもたちと出会ってきました。


 こうした子どもたちに共通していることは、自分に自信がなく、大人を信用していないということ。素直な気持ちを話すことができず、人との関係づくりが苦手なこと。そして学校に行きづらくなり、不登校になっている子どもも多いです。

平和な場所づくり


子どもたちにとっての【平和な場所】をつくりたいという思いで開設した子ども食堂。【夕刻の場いるどらぺ】という名前には私たちの思いが込められています。しかし、開設当初は、子どもたちとの関係づくりはとても難しく、はじめは【平和な場所】とは言えなかったように思います。
そこで、【平和な場所】になるにはどうしたらよいか、子どもたちへの対応について、スタッフみんなで悩み、考え続けました。とにかくいいところを見つけて褒めること。子どもの話に口を挟まず、遮らずに聴くこと。不適切な行動は、注意や指導をする前に、「どうしたん?」と子どもの気持ちを確認してから、適切な行動について提案してみることなど。そして大切なこととして、子どもたちに何かをしてあげる場所ではなく、子どもと一緒に大人も精いっぱい楽しもう!ということです。カードゲームで遊んだり、一緒に絵を描いたり、楽器を演奏したりする中で、子どもの方が上達するのが早く、大人が教えてもらう立場になることもしばしばあります。こうして過ごす時間の中で、だんだんとみんなの笑顔が溢れ、【平和な場所】となっていきました。

子どもの声を聴いてみよう


 この場所で子どもたちが口々にぼやいている言葉があります。
『大人はこどもの声を聴いてくれない』ということ。たとえば、子どもたちが「学校しんどい」「宿題やりたくない」「全部めんどくさい」と、いろんな文句を吐きだした時、大人は間髪入れずに「また文句ばっかり言って。黙ってさっさと動きなさい」などと、やや強い口調で言ってしまうことや、子どもの言い分を聞かずに、「○○しないからダメなんでしょ」と指導的な声かけになってしまうこと。みなさんも、そんな経験が一度はあるのではないでしょうか。


子どもたちは、愚痴や不安、整理できないモヤモヤした気持ちを途中で遮られることなく『ただ聴いてほしい』と思っています。しかし大人は、子どものために、しつけや教育が必要と考え、つい言い過ぎてしまう傾向があるのではないでしょうか。こんなつぶやきも聞こえてきます。「本当は頑張りたいと思っているのに」と。子どもたちをみていると、不安を抱えながらも、自分なりに一所懸命考えて、良い方向に進みたいともがいている姿が垣間見られます。

 さて、先日7周年を迎えた【夕刻の場いるどらぺ】でこんな光景がありました。子ども食堂に通い始めて間がない新人の子どもが、長く通ってきている中学生に、やや乱暴にものをぶつけている様子がありました。この中学生の子どもは、7年前は乱暴で、スタッフが困っていた子どもです。“さあ、どんな反応を示すのだろう”と、少しハラハラしながら見ていると、その中学生は新人の子どもに「この部分は、尖っていて危ないから、当てるとケガをするかもしれないよ」と手を添え、優しく教えているのです。まるでスタッフが子どもに対応するかのように。


 家や学校でもない第3の居場所だからこそ、学べることもいっぱいあるのではないかと感じています。多様な学びの場がこれからも広がることを願っています。



いるどらぺについては一般社団法人こもれび「いるどらぺ」別ウィンドウで開くのページをご覧ください。

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