【第114号】食ではぐくむ生きる力 サカモトキッチンスタジオ主宰 坂本 佳奈
2022年10月30日
ページ番号:595420
食育のめざすもの
赤ちゃんから大きくなり、大人へとヒトは育っていきます。子どもは疲れるまで外で遊び、「ごはんだよ!」と言われてお家へ帰るなどという光景はもうほとんどありません。忙しい現代、子どもが大人に見守られて過ごす、ゆったりとした時間はいつの間にか無くなってしまったようです。大人だけでなく、子どもも学校に習い事に誰もが忙しい日々が続いています。そんな中、子どもたちにも「お腹が減らない」「食べない」そんな生き物として不自然な状態が起こっています。育児は育児、家事は家事と切り離す方が効率はいいのかもしれません。しかし子どもの面倒を一生見てあげられるわけではないのです。18歳になれば成人し、いつかは社会を構成するひとりの大人となって独り立ちをします。何も知らないまま大人になるのではなく、生活の中で保護者も子どもも一緒に育ちませんか。特に食に関することは、水場が必要であったり、火を扱ったりと、一般に危ない場所として子どもは遠ざけられてしまいます。しかしよく考えてみれば食べることは、生きることの基本です。一生、料理をせずに生きられる人はどれだけいるでしょうか。自転車に乗るのを覚えるのと同じように、泳げるようになるのと同じように、台所で料理をして食べ物を作るということを生活の一つとして覚えていきましょう。知識だけではなく手を動かして、体で覚える技能です。自分の食べ物を自分で作ることができると、人はどこでも生きていくことができます。さらに食べ物を作る力は誰かを支えることにもなります。
これからの世界に必要な生きる力の源は体験
2010年代から発展してきた人工知能が2022年には飛躍的に発展し、子どもも含めて誰もが簡単に人工知能の作り出す情報に触れることができるようになりました。「たくさん知っていること」が素晴らしいとされた時代から、「たくさんの情報を使いこなすこと」が素晴らしいとされる時代に来ています。本物の情報を選び取る力や、ものごとへの本質的な理解は、幼少期からの体験の記憶が積み重なることで得られます。私たちの脳は、五感を使って世界を認識しています。五感は見る、聞く、触る、匂いをかぐ、味わうというもので、聞くだけという1つの感覚よりも、聞いて、見てという2つの感覚では体験の量が変わります。文字や知識を入れるよりも先に、五感をたくさん使って、この世界にいる、生きていることを知ることが生きていくことのベースを作ります。暖かい寒いと言った温度、花の香り、風のそよぎ、甘い・塩辛いと言った味、その体験の積み重ねが生きる力のもとになるのです。
今の親世代が子どもの頃、インターネットはあまり普及していませんでした。それが今はもうインターネットのない生活は考えられなくなっています。変化のスピードは目まぐるしく、大人が教えることを学ぶだけでいい時代ではなくなってしまいました。教えられるばかりではなく、自分で独自に学んでいかなければならない、そんな時代です。ここで大切なのが、実体験の積み重ねです。動画では匂いや香り、いろいろな身体で覚える感覚が伴いません。動画がいくらあっても、それは生きる力にはなりません。実際に作り出す手がなければ、現実の世界には何もないのです。そのことを子どもに教えるのは難しい今だからこそ、自分で実物を作り出す料理、つまり食育なのです。失敗しても、うまく行っても、何度も挑戦できるのがお家のごはんです。日々の暮らしを営むことは、子どもの心と体に思い出をいっぱい詰め込んで、子どもの生きる核となるものを育てることなのです。
食育に一番必要なこと「忍耐」
子どもにやらせようと思ったら、なんとか余裕を作り出すことが大切です。心の余裕、そして時間の余裕どちらも重要。保護者がパッとやってしまった方が、早いかと思うでしょう。子どもが料理をするとき、保護者は見守る時間です。手を出すのも、口を出すのも最小限にしましょう。子どもが主役になって作るときは、一筋縄ではいきません。卵を持たせても割る前にグチャッと掴み壊してしまうかもしれません。炒めようとして、フライパンに入れることができず、コンロにこぼしてしまうかもしれません。ここで大人が先導してしまうと、子どもの体験ではなくなってしまいます。子どもに危険がない限り、子どもを見守ります。「そんなことしたらダメ」と言いたくなる場面もいっぱいありますが、料理をさせる、体験をさせるとなったら「忍」の一言を心に刻んで、見守りましょう。
安全のために、子どもに合ったしつらえをする
そうはいっても、どうしたら比較的安全なのでしょうか。1984年に幼稚園などでの料理教室を開始、1999年から個人のスタジオで子どもに対する料理教室を行なっています。その中でのノウハウをお伝えしましょう。
調理の中でも、1番怖いのはやけどです。切り傷は治りますが、やけどは傷が残るだけではなく「怖い!」という恐怖を残してしまいます。やけどをしないためには、子どもの行動をよく観察することです。まず腕などが鍋に当たったりしないように、高さを合わせます。鍋を見下ろすぐらいの高さになるように、踏み台を用意するといいでしょう。取手を服に引っ掛けたりしないでしょうか。重たいものは安全に持てないことが多いので、熱い湯を移動しなくていいように考えます。
次に刃物。刃物を使い始めるのは、何歳からがよいと言うのは実はありません。上手に使う2歳もいれば、不器用な5歳もいます。その子が始めたいと言った時が、始め時です。やりたくもないのにやらせるのは危険です。子どもが小さいほど、手首がフラフラ、ゆらゆらしています。ここでも踏み台などを使って高さを合わせます。まな板に手をついた時に、肘が「く」の字になるのが良い高さです。足元も踏ん張る必要がありますから、スリッパなど滑りやすいものではなく、最初は上靴を履くのが安全です。素足だと包丁が落ちた時に怪我をする可能性があります。そして物を置くまな板にも滑らないように滑り止めをしきます。こうやって環境を整えてあげれば、大人と同じ空間で始めることができます。包丁を始める時は、決して子どもの手を持ってはいけません。子どもの体験にはならないからです。危ない時は大人が刃を持ちます。包丁の使い方は、どこが切れるか、どこが危ないかを教え、さらに子どもに確認してから渡します。ここまで準備したのだから、子どもはできると思えるぐらいの準備をします。
そして、出来たことはどんな些細なことでも褒めましょう。そして「ありがとう」を忘れずに。間違ったことをした時は、間違いを指摘することは大切です。失敗をした時は失敗を指摘ではなく、できたところを見つけます。みそ汁を作ってくれたら「うん、良いね!ありがとう」もしも具が切れていなくても、味が薄くても、良かったところと感謝を伝えましょう。
家庭だからこそできる食育もある
私たちに限らず料理教室や学校は時間が限られています。家庭では比べ物にならないほど長い時間を使うことができます。繰り返し何度も同じこともできますし、新しいことへの挑戦もできます。混ぜるだけ、切るだけ、炒めるだけ、簡単なところから納得するまでできます。料理が苦手でとおっしゃる方も多いのですが、それでも毎日ご飯を作っているのですから、それを一緒にすればいいのです。家庭でできる簡単な料理を試してみましょう。レタスなどを千切る、きゅうりを叩くなどは1歳から、ピーラーを使えるようになったら次に紹介するレシピもおすすめです。(目安は2歳半ぐらいから)
ぴらぴらにんじんのおかか和え
材料2人分
にんじん 1本(100g)
水 大さじ2〜
醤油 小さじ1/4
鰹節 1g
作り方
1 にんじんはピーラーで皮をむき、そのままピーラーで薄切りにする。
2 1と水を小鍋に入れ、蓋をして火にかける。(中火・3分)
3 鍋に水分がなくなったら火を止め、蓋を開ける。
4 醤油を入れ、鰹節を入れて混ぜて出来上がり。
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