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【第121号】双子育児についてー多胎育児の実情と支援

2024年3月25日

ページ番号:621915

大阪公立大学大学院看護学研究科教授 横山美江
佛教大学保健医療技術学部看護学科助教 緒方靖恵

1.多胎妊娠した妊婦の心理


 多胎妊娠された妊婦は,妊娠した喜びよりも不安を強く感じる者が多い。著者らの調査では,妊娠が分かったときに殆ど嬉しくなかった,あるいは全く嬉しくなかったと答えた母親は,単胎児の母親では1.6パーセントであったのに対し,双子の母親,ならびに三つ子の母親ではそれぞれ20パーセント近くの母親が多胎妊娠を知ったときに殆ど喜びを感じていない(引用文献1)。

 さらに,妊娠を知ったときの不安の程度については,単胎児の母親では非常に不安,あるいは不安と回答した者は24.9パーセントであったのに対し,双子の母親では57.0パーセント,三つ子の母親では66.7パーセントが非常に不安,あるいは不安と回答しており,双子や三つ子の母親の半数以上が強い不安を感じていた(引用文献1)。このように,多胎妊娠した妊婦は,不安の強い母親の割合が多い状況にある。

2.多胎出産後の育児の課題

 多胎出産後も多胎児家庭では単に子どもの数が多いだけでなく,様々な課題を少なからず抱えている。

1)出生体重と出生後の発育

 単胎児の出生体重はおよそ3000gであるが,双子の出生体重はおおよそ2300g前後で(引用文献2),三つ子はおよそ1700g前後であり(引用文献3),多胎児は低体重で小さく生まれる場合が多い。

 出生後,双子であれば生後6か月から1歳までに急激に単胎児の体格に追いつき,4歳くらいには差はほとんどなくなることが報告されている(引用文献2)。しかしながら,三つ子では1歳までに単胎児との体格差は小さくなるものの,6歳になっても単胎児との体重差は4パーセントから9パーセント,身長差は2パーセントから5パーセントあることが判明している(引用文献3)。

 双子や三つ子の出生後の発育は,単胎児とは異なった点が多いにもかかわらず,これまで双子や三つ子の発育に関する保健指導は,単胎児を主とする一般児の成長曲線を用いて実施されてきた。このため,双子や三つ子の母親は,児の発育に不安を訴えることが多い。双子や三つ子の発育に関する保健指導は,双子や三つ子用の成長曲線が作成されており,それらを用いて指導することが望ましい。

2)母乳育児の困難さ

 多胎児は,低体重で小さく生まれることが多いため,吸啜力(おっぱいを吸う力)が弱く,母乳の飲みも悪い。このような状況から,母親に育てにくい子として認識されやすい。

 実際に,筆者と長年にわたって共同研究を実施している西宮市の4か月児健診のデータを分析すると,単胎児と多胎児間で授乳状況に差が認められ,単胎児では4か月健診時で人工栄養のみによる授乳が25.0パーセントであったのに対し,双子や三つ子では人工栄養のみによる授乳が52.5パーセントと,双子ならびに三つ子で人工栄養のみによる授乳が有意に多くなっていた(引用文献4)。

 多胎児家庭では,低体重児が複数いることで,母親の育児負担は授乳を含めて技術的にも,時間的にも非常に困難なものとなる。多胎妊娠が判明した場合には,妊娠中から同時授乳法などについて指導することが望まれる。

3)母親の睡眠不足と疲労感

 単胎出産の場合でも,通常新生児の頃は3時間ごとの授乳などで母親は睡眠不足に陥りやすい。それが多胎児の場合,同時に複数の乳児を育てるために,事態はさらに深刻となる。多胎児をもつ母親の睡眠時間は,単胎児をもつ母親の睡眠時間に比べ有意に短い(引用文献5)。1歳未満の双子をかかえる母親では睡眠時間が6時間程度であるが,ぐっすり眠ることは少なく,夜間頻繁に起きる者が多い(引用文献6)。三つ子の母親においては睡眠時間が5時間半程度で,夜間起きる回数もさらに多くなる(引用文献6)。乳児期の多胎児をかかえる母親の場合,このような睡眠状態の悪化が1年近く継続する。多くの多胎児の母親は,深刻な睡眠不足のため,もうろう状態で育児に追われているのである。また,多胎児をかかえる母親は単胎児の母親よりも心身両面で疲労しており(引用文献6),睡眠状態の悪化と併せて留意すべきである。

3.多胎児家庭への支援の取り組み


 多胎児家庭への支援は,10年前に比べて多くの自治体で取り組みがなされるようになった。筆者も西宮市との協働で15年以上多胎児家庭への支援を行っており,一定の効果が認められているので,その活動の1部を紹介したい。

 西宮市での事業は,西宮市保健所の保健師らが,養育医療申請ケースや低出生体重児の家庭訪問を行うなかで,多胎児をもつ母親のかかえる育児問題の困難さを感じ,かつ虐待の疑われるケースも経験したことがきっかけとなり, 2007度から西宮市では,多胎妊娠中の妊婦とその夫に対し「双子・三つ子の親になる人の両親学級」を開催している。

多胎育児のための両親学級

 双子あるいは三つ子の育児をする母親は,前述したように睡眠時間が短くかつ疲労感が強いが(引用文献7,8),夫の育児協力があれば,母親の疲労感は軽減することが明らかとなっており(引用文献8),西宮市では多胎妊娠中の妊婦だけではなく,可能な限り夫の両親学級への参加を推奨している。本事業の主な目的は,多胎妊婦ならびにその夫に対し,多胎妊娠・育児に関する適切な情報を提供し,かつ仲間づくりを支援し,出産後の支援へとつなげることである。

 西宮市で実施している双子・三つ子の両親学級では,双子を育てている2~3人の先輩ママ(パパ)から,双胎妊娠や出産後の双子育児に関する体験談を話してもらっており,参加者に多胎妊娠,出産,多胎育児について具体的にイメージできるよう支援している。さらに,保健師は,多胎児家庭支援に役立つさまざまな資料を紹介しており,地区担当保健師についての情報を含めた保健福祉センターの情報を説明し,出産後の支援へと繋いでいる。また,多胎専門家からの話として,単胎妊娠との相違からみた双胎妊娠・品胎妊娠における母体の身体的変化と留意点,双子・三つ子の出生体重と発育,出産後に直面しやすい育児問題とその対処法等について説明を行っている。

 保健所や保健センターでは,多胎児の母親を妊娠中からすべて把握することができるため,多胎妊娠中の保健指導から出産後の育児支援まで一貫したサービスの提供が可能である。また,2020年度には,多胎ピアサポート事業や多胎妊産婦等サポーター等事業が創設され、孤立しやすく,育児負担が多い多胎妊産婦を支援する環境が整えられつつある。今後,これらの公的サービスを含め,多胎児支援の輪がさらに全国に拡充していくことが望まれる。

引用文献

  1. 横山美江編:双子・三つ子・四つ子・五つ子のための母子保健と育児指導のてびき,医歯薬出版,東京,2003.
  2. Ooki, S., et al.. (2004). Physical growth carts from birth to six years of age in Japanese twins. J Epidemol, 14,151-160.
  3. Yokoyama Y., et al.(2008): Weight Growth Charts from Birth to 6 Years of Age in Japanese Triplets, Twin Research and Human Genetics, 11, 641-647.
  4. Yokoyama Y, et. Al. (2006): Breastfeeding Rates Among Singletons,Twins and Triplets in Japan: A Population-Based Study, Twin Research and Human Genetics, 9, 298-302.
  5. 横山美江:単胎児家庭の比較からみた双子家庭における育児問題の分析,日本公衆衛生雑誌 49:229-235,2002
  6. 横山美江,他: 双胎,品胎家庭における育児に関する問題と母親の疲労状態,日本公衆衛生雑誌 42: 187-93,1995
  7. 横山美江,他:多胎児をもつ母親のニーズに関する調査研究,日本公衆衛生雑誌 51:94-102,2004 
  8. 横山美江:単胎児家庭の比較からみた双子家庭における育児問題の分析,日本公衆衛生雑誌 49:229-235,2002

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