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【第132号】高齢者と子どもの交流が育むもの ~私の祖母との思い出から~ 医療法人清心会 八尾こころのホスピタル 臨床心理士 花輪祐司

2025年12月8日

ページ番号:667880




小さい頃、私は祖母と同じ家で暮らしていました。

学校から帰ると、まっすぐ祖母の部屋へ向かい、時代劇を一緒に見たり、畑の手伝いをしながら他愛もない話をしたり。

祖母のそばには、子どもの私が安心して息をつける、ゆったりとした時間が流れていました。


そんな祖母が、ある時期から同じ質問を繰り返すことが増えていきました。
田植えが終わったはずなのに、「田植えはまだかい?」と尋ね、私が答えると首をかしげる。

それまで元気だった家族の不思議な行動を前にすると、子どもは戸惑いや怖さを感じることがあります。
しかし、私は祖母のその姿を見ても、なぜか怖いとは感じませんでした。

父や母が祖母に対して自然に接していたこともあったのでしょうが、私もこれまで通り祖母に甘え、祖母の言葉に笑って返していたのだと思います。



振り返ると、祖母との交流は、私に“生きる知恵”のようなものをたくさん残してくれました。

安心できる場所があり、年長者の積み重ねた経験からの言葉を聞き、家族の病気や老いをそっと教えてもらう。

子どもにとって、こうした関わりは自分の感情を理解し、他者への思いやりを育む大切な栄養だったと感じています。


私が子どもだった昭和50年代には三世代同居の割合が約半数を占めていて、地域にはこうした高齢者と子どもの自然な交流が当たり前にありました。
いわゆる「サザエさん」のような家族像が、珍しくはありませんでした。

しかし、親と離れて都市部で暮らす人や、高齢の親のみで暮らす人が次第に増えて、三世代同居は今では7%ほどにまで減少しました。

こうした背景には、シニア世代の価値観の変化もあると言われています。

国の意識調査では「子どもや孫とは時々会って食事をするくらいがちょうどよい」と考える高齢者が増えており、交流は“いつも一緒に”から“ほどよい距離へ”と移ってきたようです。


では、こうした時代にあえて世代を超えた交流を見直す意味はあるのでしょうか。


心理学や社会学の研究では、高齢者と子どもの交流がもたらすメリットが多く報告されています。

子どもにとっては、家庭・学校以外の人間関係が広がり、物事を深く感じとれるようになったり、思いやりの心が育つこと。

高齢者にとっては、子どもとの関わりが社会の中での孤立を防ぎ、健康や生きがいにつながること。

そして、親世代にとっても、祖父母のサポートによって子育ての負担が軽くなること。

世代をまたぐ関わりが、三方にとって“良い流れ”を生むと言われていて、最近では多世代が交流できる施設をつくる市町村も増えています。




こうしたメリットは、私の勤める病院の中でも強く感じることがあります。

受診を嫌がり「病院はもう行かん」と頑固になっている高齢者に、孫が「一緒に行こうよ」と声をかけると、ふっと表情が和らぎ、診察室に向かってくださることがあるのです。


もちろん、親世代にも「子どもを預けるのは気が引ける」と感じる場面があるでしょう。

私も経験がありますが、忙しい毎日の中で親たちは祖父母に「頼りたい気持ち」と「迷惑をかけたくない気持ち」のあいだで揺れることが多いと思います。



シニア世代も「自分の生活リズムを大切にしたい」と考える人が増えている中で、「価値観が違うから難しい」と悩むこともあるでしょう。

子育てを親だけで完璧にこなそうと考える必要はないのです。

祖父母に「手伝ってほしいこと」を小さく共有するだけでも、子どもを見守る視線が自然に増え、親自身に少し余裕が生まれて、ほっと一息つけるようになります。

大切なのは“誰が正しいか”とか“どの価値観に従うべきか”ではなく、それぞれの思いを否定せず、その家族なりのほどよい距離感を探すことです。




高齢者との交流は、頻回である必要はありません。

年に数回の帰省でも、月に一度の食事でも、ビデオ通話やメッセージアプリでのちょっとした声かけでもいいのです。

短い触れ合いでも、子どもは不思議なほど多くを受け取り、その心は豊かに育っていきますし、高齢者にとっても「孫や子どもと笑い合う時間」は、その後の日々を支える大切な活力になります。


子ども、高齢者、そして親世代。

三つの世代が無理なくつながることで、家庭や地域にはあたたかい支えあいの輪が回り始めます。

忙しい日々の中でも、ふと「誰かの笑顔を思い出す」だけで、子育てが少し楽になることがあります。

そんな小さな交流が、子どもたちの未来をやさしく支えていくのだと思います。





参考文献

「令和7年度版高齢社会白書」内閣府

https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/zenbun/07pdf_index.html別ウィンドウで開く

「令和3年度高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」内閣府https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/r03/zentai/pdf_index.html別ウィンドウで開く

「平成22年度版第7回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」内閣府

https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h22/kiso/zentai/別ウィンドウで開く

「インタージェネレーションの必要性」草野篤子,現代のエスプリ,444 5-8,2004





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