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答申第170号

2024年3月22日

ページ番号:21274

【要旨】

 「昭和60年以降に実施された「図書館司書採用試験」の問題と正答表」の情報公開請求があった。大阪市人事委員会(以下「実施機関」という。)は、請求の対象となった文書により、試験に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、全部を非公開としたものである。 請求者は、当該決定を不服とし請求の対象となった文書の全部公開を求めて異議申立てを行ったので、審査会に対して諮問があった。審査会は審議の結果、実施機関が行った非公開決定を取り消し、当該文書を全部公開すべきであるとの判断を示した。

【概要】

1 争点及びその決定の理由 

(1)争点:

 「昭和60年以降に実施された「図書館司書採用試験」の問題と正答表」の条例第7条第5号該当性 

(2)理由:

1)司書採用試験に求められるもの及び試験問題の性質について

 本市司書採用試験(以下「本試験」という。)は、基本的原理・原則の理解とその応用力や基礎的・体系的な知識に基づく論理的思考力などの知的能力の高さを問うこととしているが、出題範囲や傾向に特徴が生じ、結果として数年毎に一部類似した問題を出題せざるを得なくなるといった状況にある。また、択一式教養試験問題においては、受験者が高校・大学等で習得してきた知識・教養分野より出題しており、各分野の基礎的な題材でこの形式になじむ問題のテーマは多くないという実情もある。

2)優秀な人材確保が困難になることについて

 過去の本試験問題は、現在まで公開しておらず、また、過去17年分の問題を一括して公開することで、過去の出題傾向の分析をもとに、精度の高い出題予想がなされることになり、解法を記憶し反射的に解答できるような受験対策のみに終始した者が高得点を獲得し、知的能力の的確な測定が困難となり、本来採用すべき潜在能力の高い人材の判定が困難となる。
なお、異議申立人が本件異議申立てにおいて引用している判例は、次のとおり本件事案と判断の基礎となる重要な事実が異なっており、結論は異なるべきものと考えている。

ア 判例における公開請求文書は平成6年7月の教員採用選考の択一式教職教養試験問題のうち1問のみであるのに対し、本件対象文書は17年分の筆記試験問題全部であり、両者の公開が与える受験対策への影響には格段の差がある。

イ 判例における問題は、過去の出題例を編集した問題集が既に市販されており、公開により受験対策に大きな変化はないとされているのに対し、本試験問題は市販されておらず、17年分を公開することにより受験対策に大きな変化が生じる点が異なる。

ウ 判例における合格決定は、1次試験で教職教養試験、専門教養試験、集団面接を実施し、2次試験では論文、個別面接、大学での活動記録などをもとに総合的に判断しているため、教職教養試験の公開により傾向と対策の勉強ばかりするとはいえないとされているのに対し、本試験における合格決定方法は、筆記試験重視であり、公開により筆記試験の受験対策に大きな変化が生じることが必至であるため、請求対象文書の公開が受験対策に与える影響には格段の差がある。

3)試験制度の再構築の困難性について

 本市では、昨今の状況を踏まえ、問題非公開を前提とする現在の試験制度を、公表を前提とした知的能力の判定方法へ移行すべく検討を始めたところであり、6)で後述する問題公表制度により問題を毎年公表していく状況のもとで、受験対策の変化により生じる合格者の潜在能力の動向を分析しながら、試験制度を全般にわたって精緻に再構築していくことが必須条件であり、今回17年分全問の公開を行えば、非公開を前提とする現行制度を一挙に転換せざるを得なくなり、制度の再構築も不可能となる。

4)作成者の負担が増大し、問題作成が困難となる点について

 本試験の専門試験問題及び英語読解力試験問題は、部外の本市職員に作成を依頼しており、また、教養試験問題については、指導主事の指導・監修のもと、実施機関事務局の少数職員が秘密裡に、かつ繁忙な経常業務を行いながら、主として時間外に短期間で作成を行っている。
さらに、教養試験問題は、全問公開することにより、過去の良問が活用できなくなり、有効な問題だけを出題することが困難となる。そこで、毎年新たに有効性の高い良問を多数作成しつづけることが必須となるが、物理的な負担の大幅な増大を伴うため、現行体制での対応などは不可能であることから、結果的に受験生の知的能力の高さを的確に測ることが不可能になる。

5)平等取扱が困難になる点について

 競争試験における平等取扱の原則を最大限遵守しなければならないため、通常1人の受験者が入手し得ない特別の情報を一部の者のみに提供し、他の全ての受験者に広く周知しないことは、結果的に平等な条件で受験させているとはいえず、平等取扱の原則の趣旨に反する。

6)適正な問題公表制度の自律的・安定的な運用が困難になる点について

 実施機関においては、平成16年3月29日から、当年度分の問題のうち、サンプルとして代表的な問題を、行政資料センター等やインターネットで公表している。
一方、今回の請求に基づき17年分の本試験問題を公開すれば、平等取扱の確保の観点にたって、本試験区分の過去の問題を一般に公表していかざるを得ない。そうなれば他の試験区分にも同様の公開請求が行われることが予想され、過去の問題を公表した時点から潜在能力の高い人材の判定、確保ができなくなり、全区分に渡り任命権者の求める優秀な人材を安定的に供給するという実施機関の職責が全うできない事態になる、といった重大な支障が生じる。 

2 大阪市情報公開審査会の判断 

1結論 

 実施機関が行った非公開決定を取り消し、公開決定に変更すべきである。 

2理由要旨 

(1) 本件文書は、本市の司書職員を選考する際に実施された採用試験問題と正答表(教養試験問題のみ)であり、条例第7条第5号に規定する本市の機関が行う試験に係る事務に関する情報に該当するのは明らかである。

(2) 次に、本件文書に記載された情報の公開により、実施機関が主張するように当該試験事務の遂行に支障を及ぼす具体的なおそれが認められるかについて検討する。

ア「優秀な人材確保が困難となること」について

 実施機関は、本件文書の公開によって出題傾向が明らかとなり、解法を記憶し反射的に回答できるような受験対策に終始した者が高得点を獲得することとなるため、結果的に本来採用すべき潜在能力の高い人材の採用が困難になる旨主張しているが、受験生が過去の問題等の分析を通じて自己の不足している知識等を補足するために学習することは当然のことであり、それ自体は必ずしも弊害のあるものであるとはいえない。
また、仮に本件文書の公開の結果、受験生が過度の受験対策を講じることとなったとしても、設問における出題の視点を変えるなど、実施機関が創意工夫を凝らす問題作成の余地は残されていると認められることから、本件文書の公開により直ちに受験者の能力を適切に評価することが困難になるとは認められない。
さらに、記述式である専門試験問題については、問題の性質上解答がただひとつだけとは限らず、そもそも実施機関が主張するような受験対策に重点が置かれる可能性は低いため、今後実施する採用試験の適正な遂行に支障が生ずる蓋然性が高いとは認められない。
なお、英語読解力試験問題については、平成8年度以降実施されていないことから、公開によって採用試験の適正な遂行に支障が生ずるとは認められない。

イ「試験制度の再構築の困難性」について

 17年間分の全試験問題の公開により筆記試験の出題分野・内容・方法や筆記試験以外の方法・比重など試験制度を全般にわたって精緻に再構築していくことが困難になるという実施機関の懸念については、試験問題を公開又は公表している他都市の状況調査等を実施するなどの方法により解消される可能性もあることから、現時点において、公開により直ちに事務事業に重大な支障が生じる蓋然性が高いとは認められない。

ウ「作成者の負担が増大し、問題作成が困難となる」点について

 本件文書の公開によって問題作成が困難となることは否定できないものの、類似の問題等を考慮し適正な問題を作成することは、問題作成者としては当然行うべきものであって、問題作成により多くの労力がかかることは認められるとしても、そのことのみをもって今後の試験問題の作成が困難となり、試験事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼす蓋然性が高いとは認められない。

エ「平等取扱が困難になる」点について

 何人にも公開請求権が付与され、かつこれを行使しうることから、実施機関の懸念する不公平は生じないと認められ、かつ実施機関の主張する懸念は、本件文書の公開可能な部分について、積極的な公表を行うことにより解消されうることと認められる。

オ「適正な問題公表制度の自律的・安定的な運用が困難になる」点について

 実施機関は、平成16年3月29日から、当年度分の問題のうち、サンプルとして代表的な問題を公表しており、今回の請求に基づき17年分の本試験問題を公開すれば、全ての区分について、過去の問題を公表せざるを得なくなることが容易に予想され、ひいては潜在能力の高い人材の判定が困難になると主張している。
しかしながら、上記エと同じく、何人にも公開請求権が付与されており、かつこれを行使しうることから、実施機関の主張する不公平は生じないと認められ、他の試験区分も含め、職員採用試験問題全般について、積極的な公表を行うことで解消すると認められる。

(3) したがって、本件文書を公開したとしても、当該試験事務の適正な遂行に支障が生じる蓋然性が高いとは認められず、本件文書に記載された情報は、条例第7条第5号に該当しない。

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