ページの先頭です

答申書(平成28年度答申第3号)

2023年2月17日

ページ番号:386028

諮問番号:平成28年度諮問第4号

答申番号:平成28年度答申第3号

 

答申書

 

第1  審査会の結論  

 本件審査請求は、棄却されるべきである。

 

第2 審査請求に至る経過

1 処分庁大阪市長(以下「処分庁」という。)は、別紙物件目録2及び3記載の家屋(以下「本件家屋」という。)について、平成24年度分の固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)に係る所有者として家屋補充課税台帳(以下「補充台帳」という。)に登録されていた者の破産手続廃止決定及び本件家屋に係る破産財団からの放棄を原因として納税義務者の確定ができなくなったことにより、平成25年度分から平成27年度分の本件家屋に係る固定資産税等の課税を行っていなかった(このように固定資産税等の課税を行わない状態を指して「課税保留」という。以下同じ。)。

2 処分庁は、最高裁判所平成27年○月○日第二小法廷判決で上告棄却されたことにより確定した大阪高等裁判所平成27年○月○日判決(以下「本件確定判決」という。)において、本件家屋の所有権が平成23年○月○日に審査請求人に移転したと判示された事実を基に、平成28年度分の固定資産税等の課税の前提として、平成28年1月28日付けで審査請求人を平成28年度分の固定資産税等の賦課期日である平成28年1月1日(以下「本件賦課期日」という。)現在の所有者と認定し、同月29日付けで審査請求人を本件家屋に係る所有者として補充台帳への登録(以下「本件補助台帳登録」という。)をした。

3 処分庁は、審査請求人に対して、平成28年4月1日付けで平成28年度固定資産税等賦課決定処分(以下「本件処分」という。)を行った。

4 審査請求人は、平成28年4月25日、大阪市長に対し、本件処分のうち本件家屋に対する部分の取消しを求めて審査請求をした。

 

第3 審査関係人の主張の要旨

1  審査請求人の主張

(1) 審査請求人は、次のとおり、本件家屋について、地方税法(以下「法」という。)第381条第4項の規定により補充台帳に登録されるべき所有者に該当しないため、審査請求人名義で補充台帳に登録することは誤りであり、それに基づき行われた本件処分のうち本件家屋に対する部分の取消しを求める旨主張している。

ア 本件確定判決において、本件家屋に関して審査請求人が行使した無償譲渡請求権(以下「無償譲渡請求権」という。)は、形成権であることから相手方の承諾の有無に関係なく形式的に生じるものであるため、その現実的な効果は、相手方の本件家屋の引渡義務の履行を受けて、初めて実現するものである。

イ 本件確定判決において、平成23年○月○日に本件家屋の所有権移転の効果が有効に発生しているとされていることから、本件家屋の引渡し及び所有権移転登記を要請している状況であるが、審査請求日現在、それらについて履行は受けておらず、本件家屋の鍵すら交付されていない状態であり、到底使用・収益・処分できる状況にないため、補充台帳に登録すべき「固定資産税を課すことができるもの(家屋)の所有者」には該当しない。

(2) 審査請求人は、処分庁による弁明書に対して次のとおり主張している。

 ア 平成28年1月1日現在において審査請求人以外の他社名義で補充台帳に登録されていたという事実は、平成28年1月27日付けの本件家屋に関する、大阪市長の固定資産課税台帳に関する証明書(以下「本件証明書」という。)から明らかであり、本件家屋の所有者として、平成28年1月1日現在において登録されていない審査請求人は、本件処分に係る納税義務者には該当しない。

イ 本件証明書によれば、平成28年1月27日現在において、他社所有者として登録されている事実を大阪市長が証明しているという状態であるにもかかわらず、処分庁は、「課税保留」と称する法令等の根拠に基づかない事務処理により、補充台帳に登録された者に対して賦課決定処分を行っていないこの点について、固定資産税に関する法令がいわゆる台帳主義を採用していることを踏まえれば、台帳に登録されている所有者に賦課処分を行っていないことは、租税法律主義の原則に照らせば、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないという最高裁判所昭和48年11月16日第二小法廷判決や最高裁判所平成22年3月2日第三小法廷判決の判示内容に反することであり、職権の乱用というべきである。

ウ 処分庁は「補充台帳未登録である平成25年度以降の所有者と認定し」と主張し、あたかも平成25年度以降は補充台帳に本件家屋に係る事項が未登録であったかのような大阪市長の証明内容と異なる事実関係を前提としているが、その主張は、虚偽の事実に基づくものであり失当である。

エ 固定資産税の納税義務者は、「賦課期日現在の状況」により決定されることとされており、具体的には、同日において所有者として登録されている者が納税者とされるものであるから、所有権が判決によって遡及的に発生していたことが認められたとしても、そのことが賦課期日現在において所有者として登録されている者を遡及的に変更する理由にはならない。したがって、処分庁の職権による平成25年度以降の本件家屋の所有者を審査請求人とする補充台帳への遡及的な変更登録による課税は、判決の効果の誤認によるものであり、かつ、法的安定性の観点からも明らかに無効である。

オ 本件家屋は、本件確定判決により所有権が審査請求人に移転していると主張し得る状態であるが、引渡し未了の本件家屋については、財産価値が審査請求人に享受されておらず、所有という事実の実効性がない状況であるため、当該課税要件を満たしていない。

 租税の賦課及び納税は、憲法第29条に定める財産権の侵害行為に当たるため、担税力に応じた公平な課税を行うことが必要最低条件とされており、本件家屋のような審査請求人における財産としての機能を有さないものに対する課税は、憲法の規定に反するものである。

2  処分庁の主張

(1) 処分庁は、次のとおり処分は適正である旨弁明している。

ア 固定資産税は、固定資産の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であるところ、法は、その納税義務者を固定資産の所有者とすることを基本としており、その要件の充足の有無を判定する基準時としての賦課期日を当該年度の初日の属する年の1月1日としているので、上記の固定資産の所有者は、当該年度の賦課期日現在の所有者を指すこととなる。

イ 法は、固定資産税の納税義務の帰属につき、固定資産の所有という概念を基礎とした上で、これを確定するための課税技術上の規律として、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは補充台帳(以下「登記簿等」という。)に所有者として登記又は登録(以下「登記等」という。)をされている者が固定資産税の納税義務を負うものと定める一方で、その登記等は賦課期日の時点において具備されていることを要するものではないと解され、土地又は家屋につき、賦課期日の時点において登記簿等に登記等がされていない場合において、賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記等されている者は、当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負うものと解するのが相当であるとされている(最高裁判所平成26年9月25日第一小法廷判決(以下「平成26年最判」という。))。

ウ 本件家屋は、未登記家屋であることから、新築当初に所有者を認定して補充台帳に登録していた。しかし、平成25年度の賦課期日以降、所有者を認定することができないことから調査対象案件として課税保留していたが、本件確定判決において、無償譲渡請求権により本件家屋の所有権が審査請求人に移転したと判断する旨判示されたことから、法第343条第2項の規定により、審査請求人を本件家屋の所有者と認定し、補充台帳に登録したものであり、適正である。

エ 無償譲渡請求権の現実的な効果は相手方の本件家屋の引渡義務の履行を受けて初めて実現するとの審査請求人の主張については、本件確定判決の内容を踏まえて審査請求人が平成23年○月○日以降の所有者であるとの前提で、補充台帳未登録である平成25年度以降の所有者と認定し、審査請求人に説明し、家屋変更届出書の提出を依頼するも書類の受領を拒否されたため、職権により補充台帳に登録したところであるから、審査請求人が本件家屋の引渡しを受けていないことをもって所有者に該当しないという審査請求人の主張は認められず、本件処分は適正である。

(2) 処分庁は、審査請求人による反論書に対して次のとおり主張している。

ア 本件家屋の引渡しが未了であり、使用・収益・処分ができる状況にないことから財産価値が享受できる状態にある建物ではないとしても、固定資産税の課税について当該事象に左右されることはない。

イ 最高裁判所平成27年7月17日第二小法廷判決(以下「平成27年最判」という。)において、法第343条第2項後段の「現に所有する者」に該当するための必要な条件として、少なくとも、固定資産税の賦課期日において所有権が当該者に現に帰属していたことが必要である旨と判示されており、このことは未登記家屋の所有者認定を行う場合においても同様に考えるべきであり、所有権が誰に帰属しているかという点から所有者認定を行うものである。

ウ 本件家屋の引渡し請求は、所有権に基づき、所有権を阻害する者へ行うべきである。

エ 本件証明書については、平成28年度の固定資産税の課税に係る価格登録前のものであり、平成28年度の内容を証明しているものではない。

オ 固定資産の価格は課税台帳登録事項であるが(法第381条第4項)、市町村長は、固定資産の価格等を毎年3月31日までに決定しなければならないとされており(法第410条第1項)、当然に、価格登録が完了した翌日から証明書が発行されるものである。このため、審査請求人が平成28年1月27日に取得した本件証明書の所有者として登録されていないことをもって平成28年度の課税処分に係る納税義務者には該当しないというのは失当である。

カ 固定資産税システムは所有者情報を登録せずに更新を行うことが不可能な仕様であり、本件家屋のように課税保留としているものについて、便宜的に従前の所有者が登録されていた。なお、評価証明書については、課税保留状態であったとしても、登録されている最新の情報が出力される仕様である。   

キ 平成25年度分から平成27年度までの固定資産税等の課税を保留していたことについては、平成27年最判において、「一部の土地についてその納税義務者を特定し得ない特殊な事情があるために賦課徴収をすることができない場合が生じ得る」とされており、決して法令等の根拠に基づかない事務処理による職権の乱用には該当しない。

 

第4  審理員意見書の要旨

1  結論

 本件審査請求には理由がないため、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。

2  理由

(1) 補充台帳への所有者等の登録時期に係る妥当性について

 法は、固定資産の価格等(法第403条の規定により、法第388条第1項の規定に基づく固定資産評価基準により決定した価格及び法第349条の3等の規定の適用を受ける固定資産についてはその価格に当該規定に定める率を乗じて得た額をいう。)につき、市町村長は毎年3月31日までに決定し(法第410条)、決定した場合は直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録すべきものと規定している(法第411条)。

 一方、納税義務者などの価格等以外の固定資産課税台帳への登録時期について、法は特に定めをおいていない。

 この点、平成26年最判においては、土地又は家屋につき、賦課期日の時点において登記簿等に登記等がされていない場合において、賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記等されている者は、当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負うものと解するのが相当である旨判示されている。

 そのため、処分庁が平成28年1月28日に、本件処分に係る賦課期日現在の本件家屋の所有者の認定を行った上で、その翌日に補充台帳に所有者の登録を行ったことについて不合理な点はない。

(2) 平成28年度に係る補充台帳に審査請求人を所有者として登録したことは既に登録された事項の変更に該当するかについて

 審査請求人は、本件証明書において審査請求人以外の他者が所有者として表示されており、平成28年2月16日付けで発行された証明書には審査請求人が所有者として表示されていることから、その間に補充台帳の所有者が変更されたことを意味するものであると主張している。しかしながら、本件証明書は、審査請求人も認めるとおり、平成27年度の固定資産税等の賦課決定処分に関するものであり、所有者や対象資産など課税要件(納税義務者、課税客体)に係る表示内容については、平成27年度の固定資産税等に係る当該課税要件を確定する基準時である賦課期日(平成27年1月1日)時点の状況につき、登録されている最新の内容が表示されるべきものであって、平成28年度分の固定資産税等の賦課決定処分に関する事項が証明されているものではない。

 また、後記3のとおり、平成28年1月29日付けの補充台帳への所有者の登録については、所有者を確定できないことを理由として平成25年度分から平成27年度分の固定資産税等の課税を保留していた経過及び本件確定判決により本件家屋の所有者であることが確定したことを理由として、平成28年度分の固定資産税等の所有者を平成28年1月28日付けで認定した経過を勘案すると、処分庁が平成28年1月29日付けで行った補充台帳への所有者の登録は、平成28年度分の固定資産税等の賦課期日現在の所有者の当初の登録行為であり、所有者の変更には該当しないものと判断するのが合理的である。

(3) 平成28年度に係る補充台帳に審査請求人を所有者として登録したことの妥当性について

 本件家屋は未登記の家屋であることから、処分庁においてその所有者を特定する必要があるところ、処分庁は、平成27年○月○日付けの最高裁上告棄却により、本件家屋の所有権が平成23年○月○日以降審査請求人に移転したとの判断が確定したことを理由に、(2)に記載のとおり、審査請求人を平成28年度分の固定資産税等の賦課期日現在の所有者であると認定のうえ、当初の登録行為として補充台帳への登録を行っている。

 この点、審査請求人は、平成○年高判により、無償譲渡請求権は形成権であり、相手方の承諾の有無に関係なく形式的に生じるものであることから、その現実的な効果は、相手方の本件家屋に係る引渡義務の履行を受けて初めて実現するものと主張している。

  しかしながら、法において、本件家屋のような未登記家屋に係る固定資産税等の所有者として補充台帳に登録すべき者について、その所有権が侵害されておらず、当該家屋が所有権者によって使用・収益・処分ができる状態にあることまでは規定されていない。土地又は家屋に課する固定資産税について、法第343条第2項において台帳課税主義が採用されている趣旨に鑑みても、法は法第343条第1項に規定する「所有者」にそこまでの要件は求めていないと解するのが相当である。

 審査請求人は、形式上でしか所有権が帰属しておらず、それゆえ審査請求人は補充台帳に登録すべき所有者には該当しない旨、主張しているが、そのことのみをもって審査請求人を所有者として登録しない理由にはならない。処分庁は、本件確定判決により本件家屋の所有権が審査請求人に移転した事実や当該判決において審査請求人を本件家屋の所有者であることを前提とした取扱いがなされていることを理由として所有者の認定を行っており、処分庁の行った登録行為について不合理な点はない。

 なお、審査請求人は審査請求書に添付された資料において、本件家屋に関し、「2015年○月○日最高裁判所の棄却により形式上は当社所有となりました」と述べており、相手方の引渡義務の履行に係る問題は、固定資産税等の賦課決定処分に関するものとしてではなく、当該所有権に基づく物権的請求権の行使等による私法上の問題として解決されるべきものと思料する。

 以上から、処分庁が行った本件処分に係る補充台帳への所有者の登録について違法、不当な点はなく、当該登録に基づき行われた本件処分にも違法、不当な点はない。

3 平成25年度分から平成27年度分に係る固定資産税等の課税の保留について

 審査請求人は、処分庁が平成25年度分から平成27年度分の固定資産税等の課税保留していたことについて、法令等や判例に基づかない事務処理であり、処分庁による職権乱用である旨主張している。

 この点、本件審査請求は平成28年度分の固定資産税等賦課決定処分に係るものであり、また、そもそも平成25年度分から平成27年度分の課税を保留したこと自体に処分性はなく、行政不服審査法に基づく審査の対象とはなり得ないものであるため、その当否についての判断は行わない。

 

第5  調査審議の経過

 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。

平成28年11月11日 諮問書の受理

平成28年11月24日 審議

平成28年12月7日 調査及び審議(処分庁の陳述、審査庁の口頭説明)

平成28年12月21日 調査及び審議(制度所管担当の陳述)

平成28年1月18日 調査及び審議(審査請求人の口頭説明)

平成28年1月31日 審議

 

第6  審査会の判断

1  関係法令の定め

(1) 固定資産税等の賦課期日について

 固定資産税等の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とする(法第359条及び第702条の6)。

(2) 固定資産税等の課税客体について

ア 固定資産税は、固定資産に対し課するものであり(法第342条第1項)、固定資産とは土地、家屋及び償却資産を総称する(法第341条第1号)。また、家屋とは、住家、店舗、工場(発電所及び変電所を含む。)、倉庫その他の建物をいう(同条第3号)。

イ 都市計画税は、都市計画法第7条第1項に規定する市街化区域内に所在する土地及び家屋に対し課する(法第702条第1項)。

(3) 固定資産税等の納税義務者について

ア 固定資産税は、固定資産の所有者に課し(法第343条第1項)、その所有者とは、土地又は家屋については、登記簿等に所有者として登記等されている者をいう(同条第2項)。

イ 都市計画税を課することができる所有者とは、当該土地又は家屋に係る固定資産税について法第343条において所有者とされ、又は所有者とみなされる者をいう(法第702条第2項)。

(4) 補充台帳の登録事項について

  補充台帳には、登記簿に登記されている家屋以外の家屋で法の規定によって固定資産税を課することができるものの所有者の住所及び氏名又は名称並びにその所在、家屋番号、種類、構造、床面積及び基準年度の価格又は比準価格を登録しなければならない(法第381条第4項)。

2 争点

 上記第3及び第4における審査請求人及び処分庁の主張等を踏まえた本件審査請求の争点は、以下の2点に集約される。

(1) 本件家屋につき、処分庁が、審査請求人を法第343条第1項に規定する「所有者」となるべき者であると判断して、法第381条第4項の規定により、補充台帳に所有者として登録したことの是非(争点1)

(2) 本件家屋につき、本件賦課期日以降の日付である平成28年1月29日付けで本件補充台帳登録をした上で本件処分を行ったことの是非(争点2)

3 争点1に対する判断

(1) 法は、固定資産税等の納税義務者を固定資産の私法上の所有者とすることを基本としており(法第343条第1項及び第702条第2項)、その要件の充足の有無を判定する基準時としての賦課期日を当該年度の初日の属する年の1月1日としているから(法第359条及び第702条の6)、法第381条第4項に基づき補充台帳に登録されるべき「所有者」とは、当該年度の賦課期日現在における私法上の所有者を意味するものと解される。

 これを本件処分においてみるに、本件確定判決によれば、本件家屋の所有権は、平成23年○月○日に審査請求人に移転したと判示されており、その後本件家屋が審査請求人から第三者に譲渡された事実も認められないことから、本件賦課期日における本件家屋の私法上の所有者は、審査請求人であると認められる。

 よって、本件家屋につき、処分庁が審査請求人を所有者として補充台帳に登録したことは正当であり、違法又は不当な点は見当たらない。

(2)  この点につき、審査請求人は、本件家屋の引渡しを受けておらず、本件家屋を使用・収益・処分ができる状況にないとして、法第381条第4項に定める「所有者」に該当しない旨主張する。しかしながら、法は、固定資産の所有者が、賦課期日現在、固定資産の引渡しを受けていること又は当該資産を使用・収益していることを要件としていないから、本件家屋の引渡しを受けていないこと等をもって法第381条第4項の「所有者」に該当しないとする審査請求人の主張は、失当である。審査請求人が主張する状況の解消については、あくまで本件家屋に係る物権的請求権の行使等私法上の手続に委ねられるべきものであり、こうした状況を固定資産税等の課税に当たり考慮する必要はないものと解される。

4 争点2に対する判断

(1) 法は、固定資産税の納税義務の帰属につき、固定資産の所有という概念を基礎とした上で(法第343条第1項)、これを確定するための課税技術上の規律として、登記簿等に登記等されている者が納税義務を負うものと定める(同条第2項前段)。

 この点、平成26年最判においては、土地又は家屋につき、賦課期日の時点において登記簿等に登記等がされていない場合において、賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記等されている者は、当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負うものと解するのが相当である旨判示されている。

 よって、本件家屋について、少なくとも、平成26年最判にいう「賦課期日の時点において登記簿等に登記等がされていない場合」に該当する限りは、賦課期日以降にされた本件補充台帳登録に基づき請求人を平成28年度固定資産税等の納税者として賦課決定処分を行うことができることになる。

(2) 次に、家屋については、法第343条第2項及び第702条第2項に基づき、登記簿に所有者として登録されている者又は補充台帳に所有者として登録されている者が固定資産税等の納税義務者とされているものの、当該規定はあくまで「課税技術上の規律」であり、当該固定資産の実体法上の所有者に課されることこそが本来の考え方である(最高裁判所昭和47年1月25日第二小法廷判決参照)。また、補充台帳への登録については、大阪市市税条例第58条により家屋の所有者に届出義務が課せられているものの、誰を所有者として登録するかは、第一次的には、あくまで課税庁が判断すべきものである。

 こうした点に鑑みると、課税庁としては、一度補充台帳に所有者を登録した場合であっても、当該登録上の所有者と実体法上の所有者とに齟齬が生じている可能性があることを把握するなど、課税庁として所有者を認識・把握することができないと客観的に認められる場合は、当該登録を抹消するなどして、法に基づく期間期限の範囲内において固定資産税等の課税をしないことも認められるものと考えられる。

(3) これを本件においてみるに、本件家屋については未登記建物であり、元来、平成23年度分の固定資産税等の課税時に一度他社名義で登録がなされていたものの、その後、処分庁は平成24年○月時点で、法第343条第1項の「所有者」と齟齬が生じている可能性があることを把握して課税保留としたことが認められる。

 また、処分庁においては、固定資産課税台帳の備付けを電磁的記録の備付けをもって行っているところ、固定資産課税台帳に登録した固定資産について所有者欄を空欄にしたまま登録を維持することができないシステムとなっていたことから、例えば、相続発生の場合について、所有者欄を被相続人名義のままにして課税を行わない等の運用をすることにより、固定資産課税台帳における所有者欄を抹消するのと同様の処理を行っていたことが認められる。処分庁は、こうした運用を踏まえ、本件家屋についても、平成25年1月7日付けで本件家屋の固定資産税等を課税保留とすることの決裁を行っている。

 これらの事情に鑑みれば、処分庁においては、本件補充台帳登録までの間、補充台帳上、形式的には他社を所有者とする記載が残存していたものの、平成25年に本件家屋につき課税保留とすることを意思決定したことにより、本件家屋に係る所有者の登録を抹消したものと取り扱っていたものと評価することができる。電磁的記録の備付けをもって行われた固定資産課税台帳の登録事項に係る登録方法及び運用方法については、同台帳の滅失等を防止するための措置を要請する趣旨の規定(法第380条第2項及び地方税法施行規則第15条の5の2第1項)が存する以外に特段の規定が設けられていないことに鑑みれば、このような処分庁の取扱いも法上許容され得るものと解される上、特に本件処分においては、審査請求人は本件確定判決により自らが本件家屋に係る固定資産税等の納税義務者となることを事前に把握し、又は把握することができたのであるから、上記取扱いを前提とした本件処分により、審査請求人に予見不可能な不利益等が生じるものとも認められない。

 そうであるとすれば、補充台帳上の形式的な記載を前提に発行された本件証明書の記載内容にかかわらず、平成28年度固定資産税等の賦課期日(さらには本件証明書の発行時点)においては補充台帳上本件家屋に係る所有者登録は存在せず、その後の本件補充台帳登録により、審査請求人について「賦課期日の時点において登記簿等に登記等がされていない場合において、賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記等されている者」に該当することとなったものであるから、法第381条第4項の規定により審査請求人を所有者とする本件補助台帳登録をした上で行われた本件処分に違法又は不当な点は存しない。

5 審査請求に係る審理手続について

 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。

6 結論

 よって、本件審査請求に理由がないものと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり答申する。

 

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)

     大阪市行政不服審査会税務第1部会

   委員(部会長) 佐藤善恵、委員 津留真弓、委員 下尾裕

 

別紙物件目録 省略

答申書(平成28年度答申第3号)

Adobe Acrobat Reader DCのダウンロード(無償)別ウィンドウで開く
PDFファイルの閲覧には Adobe Acrobat Reader DC が必要です。同ソフトがインストールされていない場合には、Adobe 社のサイトから Adobe Acrobat Reader DC をダウンロード(無償)してください。

SNSリンクは別ウィンドウで開きます

  • Facebookでシェア
  • Xでポストする

探している情報が見つからない

このページの作成者・問合せ先

大阪市 総務局行政部行政課法務グループ

住所:〒530-8201 大阪市北区中之島1丁目3番20号(大阪市役所4階)

電話:06-6208-7442

ファックス:06-6229-1260

メール送信フォーム

このページへの別ルート

表示