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答申書(平成28年度答申第4号)

2023年2月17日

ページ番号:386029

諮問番号:平成28年度諮問第3号

答申番号:平成28年度答申第4号

 

答申書

 

第1  審査会の結論  

 本件審査請求に係る処分のうち平成26年○月○日の株式会社Aからの口座への入金○○円に係る決定部分は取り消されるべきであり、その他の部分については棄却されるべきである。

 

第2  審査請求に至る経過

1   処分庁は、平成28年4月15日に生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)に基づき保護を受けている審査請求人に対して、給与収入○○円、カードローンによる借入金○○円、株式会社Aからの入金○○円、火災保険料解約返戻金○○円の計○○円の収入を故意に申告しなかったことにより最低生活費を上回る保護費を受け取ったとして法第78条に基づき費用徴収決定(以下「本件処分」という。)を行った。

2   審査請求人は、平成28年5月11日に、本件処分の取り消しを求めて、審査庁に対して本件審査請求を行った。

 

第3  審査関係人の主張の要旨

1  審査請求人の主張

 審査請求人は、知的障がいを有しており、就労収入及び借金について申告義務を認識していなかったため、「不実の申請その他不正な手段」に該当せず、本件処分は違法である。また、審査請求人が得た金銭は、交際相手が搾取しており、被害者である審査請求人に対して返還を求めるのは信義誠実の原則に反し違法である。審査請求人は被害者であることに加え、処分庁は知的障がいのある審査請求人に配慮せず、具体的な指導を怠ったにも関わらず、保護費から控除し返還させることは著しく不当であり、交際相手に対して返還請求を行うべきである。さらに平成26年○月○日の口座への入金は、家賃の過払金の返還であり、収入に当たらない。

2  処分庁の主張

 処分庁は、審査請求人の保護開始時に、審査請求人に対して、「生活保護のしおり」で収入があった際に申告しなければならないと説明を行い、審査請求人も説明を受けた旨同意しているため、審査請求人が申告義務を認識できていないとは言えない。審査請求人は、保護開始当初から収入申告書を自ら記入し、収入を得られない理由欄に「なかなか仕事が見つからない。」と記入できており、仕事をして収入を得た場合は申告がいることは理解できている。また平成27年の課税調査の後、審査請求人は資産申告書に添付してきた通帳以外は無いと申し立てながら、後日二度にわたり本件処分にかかる収入が記載された通帳を提出する等、故意に資産を隠蔽し本来申告すべき事実を申告せず、不正な手段により保護を受けていたものと言わざるを得ない。

 なお、審査請求人は、平成28年○月に転居しており、自身の意思で賃貸借契約ができる能力を備え持っている。

 

第4  審理員意見書の要旨

1  審理員意見書の結論

 本件審査請求には理由がないため、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。

2  審理員意見書の理由

(1)本件に係る法令等の規定について

 法第78条は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と規定している。

 ここでいう「不実」とは、積極的に虚構の事実を構成することはもちろん、消極的に真実を隠蔽することも含まれる。

 平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知「生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて」(以下「平成24年通知」という。)では、法第78条を適用する際の基準(以下「適用基準」という。)について、「①保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき(適用基準①)、②届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき(適用基準②)、③届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき(適用基準③)、④課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき(適用基準④)」と示されている。

(2)審査請求人の未申告の収入が法第78条適用の要件に該当するか否かについて

 本件処分に係る審査請求人の収入については、審査請求人が自ら処分庁に申告したものではなく、処分庁によって発見された収入、いわゆる未申告収入であったことに争いがない。

 審査請求人は保護開始当初から処分庁に対し収入申告書の提出を行っているが、処分庁が収入申告の義務について説明することに用いた「生活保護のしおり」には、借金及びアルバイトで得た収入が収入申告の対象であることが明記されており、収入申告の必要性については理解していた審査請求人が、借金及びアルバイトで得た収入に関する申告義務についてのみ理解していなかったとは考えられず、収入申告の義務について理解していた審査請求人が、自身の収入を隠蔽するという「不実の申請その他不正な手段により保護を受け」たことから、処分庁によって行われた本件処分は、法令の規定及びその解釈に従い適正になされたものであり、何ら違法又は不当な点は存在しない。

 審査請求人が交際相手に金銭を渡していた(審査請求人の主張では交際相手が搾取していた)ことを証明するものは何ら存在せず、事実として認められない。仮に、審査請求人が交際相手に金銭を渡していたとしても、それは審査請求人の不正受給した金銭の使途の一つに過ぎないことから、審査請求人に対して本件処分を行わない理由とはならない。

 審査請求人が「口座の入金は過払金の返還である」と主張していることについては、審査請求人からの家賃の支払いにおいて過払いが生じていた事実は確認できず、口座への入金を直ちに過払金の返還と認定することはできないことから審査請求人が活用できた資力であったと判断せざるを得ず、同じ判断に基づいてなされた本件処分は不当とは言えない。

3 上記以外の違法性又は不当性についての検討

 他に本件処分に違法又は不当な点は認められない。

 

第5  調査審議の経過

 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。

平成28年10月28日 諮問書の受理

平成28年11月10日 調査審議(審査庁の口頭説明)

平成28年11月24日 審査庁から主張書面等の収受

平成28年12月7日 調査審議(審査請求人の口頭意見陳述)

平成28年12月15日 審査請求人から主張書面等の収受

平成28年12月20日 審査請求人から主張書面の収受

平成28年12月22日 調査審議

平成29年1月17日 審査庁から主張書面等の収受

平成29年1月23日 調査審議

平成29年2月6日 調査審議

 

第6  審査会の判断

1 本件に係る法令等の規定について

 前記第4の2(1)に記載のとおりである。平成24年通知では「法第78条に基づく費用徴収決定について」として、「法第63条は、本来、資力はあるが、これが直ちに最低生活のために活用できない事情にある要保護者に対して保護を行い、資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で既に支給した保護金品との調整を図るために、当該被保護者に返還を求めるものであり、被保護者の作為又は不作為により保護の実施機関が錯誤に陥ったため扶助費の不当な支給が行われた場合に適用される条項ではない。被保護者に不当に受給しようとする意思がなかったことが立証される場合で、保護の実施機関への届出又は申告をすみやかに行わなかったことについてやむを得ない理由が認められるときや、保護の実施機関及び被保護者が予想しなかったような収入があったことが事後になって判明したとき等は法第63条の適用が妥当であるが、法第78条の条項を適用する際の基準は次に掲げるものとし、当該基準に該当すると判断される場合は、法第78条に基づく費用徴収決定をすみやかに行うこと。」と述べたうえで、前記の適用基準を示している。なお、平成24年通知以前は、平成18年3月30日社援保発第0330001号厚生労働省社会・援護局保護課長通知「生活保護行政を適正に運営するための手引について」の「法第78条の適用の判断」において、「法第78条によることが妥当であると考えられるものは、具体的には以下の状況が認められるような場合である。」として、適用基準①から③が示され、平成26年4月に適用基準④が追加されている。

2 争点

 審査請求人及び審査庁、処分庁の主張をふまえると、本件審査請求における争点は次のとおりである。

(1)審査請求人の口座への入金のうち、いずれの入金が収入認定の対象と認められるか。(争点1)

(2)審査請求人は収入申告義務を理解しているにも関わらず、保護費を不当に受給しようとする意思をもって申告すべき収入を申告していなかったことが認められるか。(争点2)

3 争点1について

 平成28年12月15日に審査請求人から提出された株式会社Aが作成した契約者別明細表には、平成26年○月○日の審査請求人の口座への入金が「過入金返金」と記載されていることから、家賃の過払金の返還であることが認められ、当該入金によって、審査請求人の最低生活を維持するために活用可能な資産が増加したとは認められないため、収入認定すべき収入には当たらないと判断すべきである。その他の入金については、活用可能な資産が増加していたと認められるため、収入認定すべき収入に当たると判断すべきである。

4 争点2について

 平成24年通知では、「被保護者に不当に受給しようとする意思がないことが立証される場合で、保護の実施機関への届出又は申告をすみやかに行わなかったことについてやむを得ない理由が認められるとき」等は、「法第63条の適用が妥当である」と示されていることから、法第78条の適用にあたっては保護費を不当に受給しようとする意思があることが求められ、適用基準はその客観的事情を示していると解される。

 当審査会では、審査請求人が知的障がい者として療育手帳の交付を受けている事情も考慮して、未申告の収入に関し(1)収入申告義務を理解していたか、(2)保護費を不当に受給しようとする意思があったかについて、本件の事実関係に照らして検討を行った。

(1)収入申告義務を理解していたか

 処分庁は、審査請求人の保護開始時に、審査請求人に対して「生活保護のしおり」で収入があった際には借金を含め、どんな収入でも申告しなければならないと説明を行い、審査請求人も説明を受けた旨同意し署名を行っている。

 また、保護開始以降、定期的に収入申告書を処分庁に提出している事実や、審査請求人が処分庁に提出した各種申告書の記載内容、カードローンを含めた複数の金融機関の口座の取引状況、処分庁が作成した審査請求人との面接や電話によるやりとりを記録しているケース記録等関係資料の内容を踏まえると、審査請求人の知的障がいに鑑みても、審査請求人は、収入があればすべて処分庁へ申告しなければならないことを理解していたと判断できる。

(2)保護費を不当に受給しようとする意思があったか

 審査請求人は、保護開始直後である平成23年○月及び同年○月に給与収入があるにもかかわらず、当時処分庁へ提出した収入申告書では無収入と申告し、収入が得られない理由として「仕事がなかなか見つからない」などと虚偽の記載を行っている(適用基準②に該当)。また、平成27年度の課税調査により26年中の未申告の給与収入が発覚した後、処分庁の資産調査に対して、給与が入金された金融機関の口座やカードローンを利用していた口座を隠蔽し、虚偽の説明を繰り返すとともに、処分庁から保護費以外の収入があればどのような収入でもすみやかに申告するよう指導されているにも関わらず、火災保険料解約返戻金についての収入申告を怠っていた(適用基準①、③、④に該当)。適用基準に該当するこれらの客観的事実をふまえると、審査請求人の知的障がいに鑑みても、審査請求人には保護費を不当に受給しようとする意思があったと認められる。

(3)前記(1)、(2)の状況から、審査請求人は収入申告義務を理解していながら、保護費を不当に受給しようとする意思をもって申告すべき収入を申告していなかったと認められる。

5  争点のまとめ

 したがって、平成26年○月○日の株式会社Aから審査請求人の口座への入金を除き、審査請求人の未申告収入について法第78条の規定を適用した本件処分に違法又は不当な点は認められない。

6 その他の審査請求人の主張

 その他の審査請求人の主張については、審理員意見書の判断が妥当と認められる。

7 審査請求に係る審理手続について

 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。

8 結論

 よって、本件審査請求は、本件処分中の平成26年○月○日の株式会社Aからの口座への入金に係る決定部分には理由があり、その他の部分には理由がないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。

 

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)

     大阪市行政不服審査会総務第1部会

   委員(部会長) 田中宏、委員 内山由紀、委員 片桐直人

答申書(平成28年度答申第4号)

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