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答申書(平成29年度答申第2号)

2023年2月17日

ページ番号:398439

諮問番号:平成28年度諮問第7号
答申番号:平成29年度答申第2号

答申書

第1  審査会の結論  
本件審査請求は、棄却されるべきである。

第2  審査請求に至る経過
1 審査請求人は、処分庁大阪市長(以下「処分庁」という。)に対し、平成22年度給与支払報告書(以下「本件給与支払報告書」という。)を提出した。
2 処分庁は、地方税法(以下「法」という。)第321条の4第1項及び平成29年大阪市条例第11号による改正前の大阪市市税条例(以下「条例」という。)第49条第1項の規定に基づき審査請求人を特別徴収義務者と指定し、平成22年度給与所得に係る市民税及び府民税(以下「市・府民税」という。)の賦課決定(以下「先行処分」という。)を行い、平成22年8月2日、審査請求人に対し先行処分に係る決定通知書を発送した。
3 審査請求人は、平成22年度給与所得に係る特別徴収税額(以下「特別徴収税額」という。)について、平成23年2月分から同年5月分までの月割額(以下「未納税額」という。)を各納期限までに納入しなかった。
4 処分庁は、未納税額について、審査請求人に対し、次のとおり督促状を発付した。
(1) 平成23年2月分督促状 平成23年4月4日 
(2) 平成23年3月分督促状 平成23年5月10日
(3) 平成23年4月分督促状 平成23年6月8日 
(4) 平成23年5月分督促状 平成23年7月4日
5 審査請求人は、平成23年7月7日及び平成28年4月11日の2回、処分庁に対し、先行処分について善処を依頼する旨の書類をそれぞれ提出したが、処分庁は特別徴収税額を減少させる賦課決定をしなかった。 
6 処分庁は、平成28年7月6日、審査請求人に対し、審査請求人が株式会社○○銀行○○支店(以下「第三債務者」という。)に対して有する○○預金(口座番号第○○○○○○○号)払戻請求権につき差押処分(以下「本件処分」という。)を行い、同日、差押調書謄本を第三債務者に交付した。
7 審査請求人は、平成28年7月9日、大阪市長に対し、本件処分の解除を求めて審査請求をした。

第3  審査関係人の主張の要旨
1  審査請求人の主張
(1) 先行処分について 先行決定処分には、重大かつ明白な瑕疵があり、無効である。
ア 従業員○○○○(以下「退職者」という。)に係る特別徴収の未納税額は、退職者が平成22年5月末に退職したことに伴い、○○○円となっている。審査請求人は、処分庁に届ける必要はないものと考えていた。しかるに、先行処分は、退職前に提出された給与支払報告書の記載に基づきなされたものであり、当を得ない。  
イ 先行処分にかかる決定通知書は、平成22年6月以降、審査請求人に通知されたものであるが、審査請求人の会社には、従業員は在籍しておらず、給料の支払いがないから、審査請求人は特別徴収するすべがなかった。
ウ 処分庁は、先行決定処分後、次の事情があったのに、減額更正決定をせず先行決定処分を放置した。
① 退職者は、平成22年12月、市・府民税の賦課決定税額とその納付相談のため○○市税事務所に赴いた際、退職者に係る特別徴収税額が審査請求人の預金口座から引き落とされていたことを知った。その際、○○市税事務所から○○市税事務所に連絡を取ってもらい、退職者は、「新たな課税手続きと納付方法」を行う手はずとなっていた。
② 審査請求人は、処分庁から「差押え予告」の送達を受けたことから、平成23年7月7日付け嘆願書でもって、事務処理進捗を申し立てた。
③ 審査請求人は、平成28年4月、処分庁から2通の納付書の送達を受けたことから、その間の事情を再検討されるよう要望書を提出した。
(2) 本件処分について
ア 先行処分には、上記(1)のとおり重大かつ明白な瑕疵がある。
イ 未納税額については消滅時効が完成している。
① 審査請求人は、処分庁が発送したと主張する平成28年3月9日付け催告書の送達を受けていない。審査請求人が受領した書類は、同日付けの「納付書」であって、「催告書」とは似て非なる書類であり、「催告」にあたらない。
② 審査請求人が発送したと主張する平成23年4月分と同年5月分の未納税額に係る催告書は、督促状発付日に先行しており、矛盾している。
ウ よって、本件処分は違法不当であるため、速やかに取り消されるべきである。
(3) 審理手続について
 審査請求人は、審理員審理において、平成28年10月3日、関係証拠書類の閲覧請求を行ったが、何ら対応されず、同月24日、再度閲覧請求を行い、ようやく閲覧を許された。
2 処分庁の主張
(1) 課税処分と滞納処分は別個独立のものであり、また、先行処分について、重大かつ明白な瑕疵がある場合を除き、先行する課税処分の違法を理由として滞納処分の取消しを求めることはできない。
(2) 先行処分について
ア 処分庁は、平成22年6月15日、審査請求人から、退職者を含む5人分の給与支払報告書の提出を受け、同年8月2日、退職者を含む5人分に関する先行処分を行い、先行処分に係る決定通知書を審査請求人に対して送付した。
イ 通常の取扱いによる郵便によって地方団体の徴収金の賦課徴収に関する書類を発送した場合、その郵便物は通常到達すべきであった時に送達があったものと推定される(法第20条第4項)。先行処分に関する決定通知書の送達については、処分庁は法第20条第5項に規定する記録を作成しており、同記録の記載に基づき、その送達がなされた事実は推定される。
ウ 異議申立ては、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内にしなければならないところ(平成26年法律第68号による改正前の行政不服審査法(以下「旧行審法」という。)第45条)、審査請求人は、先行処分に関して異議申立期間内に異議申立てをしていない。
エ 審査請求人は、処分庁が平成22年8月2日に先行処分に関する決定通知書を送付していることから、法第321条の5第3項及び地方税法施行規則(以下「総務省令」という。)第9条の5の規定により、同年9月10日までに異動届出書を提出する義務がある。
オ 異動届出書の提出義務について、処分庁特別徴収担当職員は、平成23年7月7日、審査請求人代表者の娘さんへ説明し、異動届出書の用紙及び返信用の封筒を送付している。また、平成25年11月27日にも、処分庁納税担当職員から審査請求人経理担当へ説明している。
カ 地方税の税額を減少させる賦課決定は、法定納期限の翌日から起算して5年を経過する日まですることができるとされている(法第17条の5第4項)。先行処分については、法定納期限である平成22年9月10日の翌日から起算して5年を経過していることから、特別徴収税額を減少させる賦課決定はできない。
キ 以上の点から、先行処分に重大かつ明白な瑕疵はない。
(3)  本件処分について
ア 本件処分は、審査請求人が平成22年度分の特別徴収に係る市・府民税に係る徴収金を各納期限までに完納しておらず、当該徴収金に係る督促状を発した日から起算して10日を経過した後においても完納していないことから、当該徴収金を徴収するためにされたものであり、差押えに係る要件を満たしている。
 また、差押えの解除の要件は、納付、充当、更正の取消しその他の理由により差押えに係る国税の金額が消滅したとき又は差押財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び差押えに係る国税に先立つ他の国税、地方税その他の債権の合計額を超える見込みがなくなったときとされ(法第331条第6項及び国税徴収法(以下「徴収法」という。)第79条第1項)、本件処分は差押えの解除の要件に該当しない。
イ 地方税の徴収権は、法定納期限の翌日から起算して5年間行使しないことによって、時効により消滅する(法第18条第1項)。一方、地方税の徴収権の時効は、督促に係る部分の地方団体の徴収金につき、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までの期間中断し(法第18条の2第1項第2号)、また、地方税の徴収権の時効については、法に別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用するとされ(法第18条第3項)、催告は、6か月以内に差押えをしなければ、時効中断の効力を生じないとされているところ(民法第153条)、本件徴収金に関する地方税の徴収権の時効は中断している。
ウ 平成28年3月9日付けの催告書(納税注意書)の送付については、その書類の名称、その送達を受けるべき者の氏名、あて先及び発送の年月日を確認するに足りる記録を作成していることから送達が推定され、平成28年7月6日に本件処分がされたことにより時効中断の効力が生じている。
エ よって、本件処分は、適正であり取り消すべき理由がない。

第4  審理員意見書の要旨
1  結論
 本件審査請求には理由がないため、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきものと判断する。
2  理由
(1) 先行処分と本件処分の関係について
 先行処分については、本件審査請求を提起した時点で、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日を経過しているため、本件審査請求において審理すべき事項には該当しない(旧行審法第45条)。
 ただし、東京地方裁判所昭和37年4月26日判決等においては、賦課処分と滞納処分とは別個独立の行政処分であるから、賦課処分が形式的に確定しているときは、賦課処分の瑕疵が、重大かつその存在が処分の外形上一見して明らかな場合のほか、賦課処分の瑕疵によって滞納処分が違法となることはない旨判示されている。
 すなわち、先行賦課決定処分について、単に違法であるのみでは本件処分にその違法性は承継されないため、仮に瑕疵が認められたとしても、その瑕疵が重大かつ明白である、すなわち先行賦課決定処分が無効である場合にのみ、本件処分が違法となるものであるため、本件処分の妥当性の判断に先立ち、先行処分に無効とされるべき瑕疵がないかについて判断する。
(2) 先行処分に係る無効事由の有無に関する判断
 最高裁判所昭和36年3月7日第三小法廷判決において、「行政処分が当然無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならず、ここに重大かつ明白な瑕疵というのは、『処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大明白な瑕疵がある場合』を指すものと解すべきことは、当裁判所の判例である(略)。右判例の趣旨からすれば、瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上客観的に明白である場合を指すものと解すべきである。」とされている。
 したがって、先行処分について、当該判旨に照らして無効と言い得るものであるか以下判断する。
ア 先行処分について
 処分庁は、審査請求人より平成22年6月15日に提出された退職従業員を含む給与支払報告書に基づいて賦課決定を行っており(事実①)、当該給与支払報告書には、退職した従業員を含めて納税義務者が記載され、退職した従業員の退職の事由を確認できる記載はなく(事実②)、また、先行処分の効力発生要件である特別徴収税額の決定通知書が審査請求人あて送達されている(事実③)。
 なお、事実①及び②については、審査請求人から特段の反論もなく、事実③については、送達時期につき、審査請求人と処分庁との間で齟齬があるものの、送達の事実については特段の反論がないため、それぞれ争いのない事実であると認められる。
 よって、処分庁が行った先行処分は、「処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大明白な瑕疵がある場合」とは認められず、処分成立の当初から、誤認であることが外形上、客観的に明白であると解することはできず、無効と言い得るものとは認められない。
イ 「嘆願書」受理後の賦課決定について
 特別徴収義務者は、給与所得に係る特別徴収税額に係る個人の市町村民税の納税義務者が、当該特別徴収義務者から給与の支払を受けないこととなった場合には、異動届出書を当該特別徴収に係る納入金を納入すべき市町村の長に提出しなければならない。
 この点、審査請求人は、平成22年度特別徴収税額の賦課決定後、異動届出書に代わるものとして平成23年7月7日に処分庁に嘆願書を提出しているが、処分庁は、当該嘆願書を異動届出書とみなすことはできないとし、税額を減少させる賦課決定を行っていない。
 そこで、当該嘆願書を法第321条の5第3項に規定する異動届出書とみなすことができるかどうかについて、次のとおり検討して判断する。
 異動届出書は、総務省令において定められたものであり、届出の対象となる従業員の「氏名」、「生年月日」、「住所」、「特別徴収税額(年税額)」、「徴収済税額」、「未徴収税額」、「異動年月日」、「異動事由」及び「異動後の未徴収税額の徴収方法」等の届出された事項をもとに①特別徴収から普通徴収への切り替え、②転職先での特別徴収の継続に伴う特別徴収義務者変更、③一括徴収に伴う月割額変更の処理が行われるものである。
 この点、当該嘆願書では、異動届出書の様式に記載されている事項を確認することができない。
 よって、当該嘆願書を法第321条の5第3項に規定する異動届出書とみなすことはできず、処分庁が異動届出書の提出がないものとして税額を減少させる賦課決定を行わなかったことは、「処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大明白な瑕疵がある場合」とは認められず、当該嘆願書をもとに税額を減少させる賦課決定を行わなかったことにつき、誤認であることが外形上、客観的に明白であると解することはできず、無効と言い得るものとは認められない。

第5  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
平成29年2月6日 諮問書の受理
平成29年2月8日 審議
平成29年2月23日 調査及び審議(処分庁の陳述)
平成29年3月8日 調査及び審議(審査請求人の口頭意見陳述)
平成29年3月22日 審議
平成29年4月12日 審議

第6  審査会の判断
1  関係法令の定め
 (1) 個人の市・府民税の賦課徴収について
 個人の道府県民税の賦課徴収は、特別の定めがある場合を除くほか、当該道府県の区域内の市町村が、当該市町村の個人の市町村民税の賦課徴収の例により、当該市町村の個人の市町村民税の賦課徴収と併せて行う(法第41条第1項前段)。
 個人の道府県民税の納税義務者又は特別徴収義務者は、その道府県民税に係る地方団体の徴収金を、個人の市町村民税に係る地方団体の徴収金の納付又は納入の例により、これとあわせて納付し、又は納入しなければならない(法第42条第1項)。
(2) 個人の市・府民税の賦課期日について
 個人の市・府民税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とする(法第39条及び第318条)。
(3) 給与支払報告書の提出義務について
 1月1日現在において給与の支払をする者で、所得税法第183条の規定によって所得税を徴収する義務があるものは、同月31日までに、総務省令の定めるところによって、当該給与の支払を受けている者についてその者に係る前年中の給与所得の金額その他必要な事項を当該給与の支払を受けている者の1月1日現在における住所所在の市町村別に作成された給与支払報告書に記載し、市町村の長に提出しなければならない(法第317条の6第1項)。
(4) 給与所得に係る個人の市民税の特別徴収について
 市町村は、納税義務者が前年中において給与の支払を受けた者であり、かつ、当該年度の初日において給与の支払を受けている者(支給期間が1月を超える期間により定められている給与のみの支払を受けていることその他これに類する理由があることにより、特別徴収の方法によって徴収することが著しく困難であると認められる者を除く。)である場合においては、当該納税義務者に対して課する個人の市町村民税のうち当該納税義務者の前年中の給与所得に係る所得割額及び均等割額の合算額は、特別徴収の方法によって徴収するものとする(法第321条の3第1項)。
(5) 給与所得に係る特別徴収義務者の指定について 
 市町村は、前条の規定により特別徴収の方法によって個人の市町村民税を徴収しようとする場合には、当該年度の初日において同条の納税義務者に対して給与の支払をする者のうち所得税法第183条の規定により給与の支払をする際所得税を徴収して納付する義務がある者を特別徴収義務者として指定し、これに徴収させなければならない(法第321条の4第1項及び条例第49条第1項)。   
(6) 給与所得に係る個人の市民税の特別徴収義務者の納入義務について
 特別徴収義務者は、当該年度の初日の属する年の5月31日までに給与所得に係る特別徴収税額を特別徴収の方法によって徴収する旨の通知(以下「決定通知」という。)を受け取った場合にあっては、決定通知に係る給与所得に係る特別徴収税額の12分の1の額を6月から翌年5月まで、当該期日後に決定通知を受け取った場合にあっては、当該通知に係る給与所得に係る特別徴収税額を決定通知のあった日の属する月の翌月から翌年5月までの間の月数で除して得た額を決定通知のあった日の属する月の翌月から翌年5月まで、それぞれ給与の支払をする際毎月徴収し、その徴収した月の翌月の10日までに、これを当該市町村に納入する義務を負う(法第321条の5第1項)。 
(7) 異動届出書の提出義務について
 特別徴収義務者は、その者が徴収すべき給与所得に係る特別徴収税額に係る個人の市町村民税の納税義務者が当該特別徴収義務者から給与の支払を受けないこととなった場合には、その事由(以下「異動事由」という。)が発生した日の属する月の翌月以降の月割額について、徴収して納入する義務を負わない(法第321条の5第2項)。この場合においては、特別徴収義務者は、総務省令で定めるところにより、異動届出書を当該特別徴収に係る納入金を納入すべき市町村の長に提出しなければならない(法第321条の5第3項)。
 また、異動届出書は、異動事由が発生した日の属する月の翌月の10日までに提出しなければならず、異動事由が4月2日から5月31日までの間に生じた場合における異動事由が生じた者に係る市町村民税を当該年度から新たに特別徴収の方法によって徴収すべき市町村の長に対する異動届出書の提出は、決定通知のあった日の属する月の翌月の10日までとされている(総務省令第9条の5)。
(8)  賦課決定の期間制限について
 地方税の課税標準又は税額を減少させる賦課決定は、法定納期限の翌日から起算して5年を経過する日まですることができる(法第17条の5第4項)。
(9) 市民税の滞納処分について
 市民税に係る滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までにその督促に係る市民税に係る地方団体の徴収金を完納しないとき、又は市民税に係る滞納者が繰上徴収に係る告知により指定された納期限までに市町村民税に係る地方団体の徴収金を完納しないときは、市の徴税吏員は、当該市民税に係る徴収金につき、滞納者の財産を差し押えなければならず、市民税に係る徴収金の滞納処分については、徴収法に規定する滞納処分の例による(法第331条第1項及び第6項)。
(10) 消滅時効について
 地方税の徴収権は、法定納期限の翌日から起算して5年間行使しないことによって、時効により消滅する(法第18条第1項)。また、地方税の徴収権の時効は、督促に係る部分の地方団体の徴収金については、その効力が生じた時に中断し、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までの期間を経過した時から更に進行する(法第18条の2第1項)。
 また、地方税の徴収権の時効については、法第1章第11節第2款に別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用する(法第18条第3項)。民法の規定では、催告は、6か月以内に差押え等をしなければ、時効の中断の効力を生じないとされている(民法第153条)。
2 争点
 課税処分と滞納処分は目的を異にする別個独立した行政処分であることから、違法性は承継されず、課税処分が重大かつ明白な瑕疵により無効であるか、違法を理由として取り消された場合でない限り、差押処分の基礎となる滞納市税に係る課税処分の違法を理由として滞納処分の取消しを求めることはできないと解される。この点を踏まえると、本件審査請求の争点は、以下の2点に集約されるものである。
(1) 先行処分に重大かつ明白な瑕疵はあるか(争点1)
(2) 本件処分は適法か(争点2)
3 争点1について
(1) 審査請求人は、平成22年5月末に退職した退職者を含む同年8月2日になされた先行処分は無効であると主張する。
 しかしながら、法第321条の3第1項は、市町村は、納税義務者が前年中において給与の支払を受けた者であり、かつ、当該年度の初日において給与の支払を受けている者である場合においては、当該納税義務者に対して課する個人の市町村民税のうち当該納税義務者の前年中の給与所得に係る所得割額及び均等割額の合算額は、特別徴収の方法によって徴収するものとすると規定している。
 また、法第317条の6第1項は、1月1日現在において給与の支払をする者で、所得税法第183条の規定によって所得税を徴収する義務があるものは、同月31日までに、総務省令の定めるところによって、当該給与の支払を受けている者についてその者に係る前年中の給与所得の金額その他必要な事項を当該給与の支払を受けている者の1月1日現在における住所所在の市町村別に作成された給与支払報告書に記載し、市町村の長に提出しなければならないと規定している。
 この点、本件給与支払報告書は退職者に係る個人別明細書を含めて提出されており、退職者が平成22年5月末に退職した事実を窺わせるような記載はない。
 よって、本件処分は、審査請求人が提出した本件給与支払報告書に基づいてなされたものと認められ、何ら瑕疵はなく、審査請求人の主張は採用できない。
 なお、審査請求人は、本件給与支払報告書の総括表の提出日について、提出日欄に「平成22年1月31日」と記載されていることから、「平成22年1月31日」であると主張するが、審査請求人が本件給与支払報告書を同日付けで提出したと認めるに足る証拠はなく、平成22年6月15日付け処分庁の収受印が押印されていることから、本件給与支払報告書は平成22年6月15日付けで提出されものと認めるのが相当である。
(2) 審査請求人は、退職者が平成22年12月に市・府民税の賦課決定額とその納付相談に、○○市税事務所に赴いたため、同じ大阪市の市税事務を扱う処分庁として退職の事実を十分認識していたと主張する。
 この点について、処分庁に確認したところ、退職者が市税事務所に赴いた事実を把握しておらず、その事実を窺わせる記録も存在しないとのことであり、処分庁が退職の事実を認識していたとは認められない。
(3) 審査請求人は、平成23年7月7日付けの大阪市長宛て嘆願書の提出により、処分庁が経緯を再検討し、更正決定の課税通知を行うべきであったと主張する。
 しかしながら、法第321条の5第3項は、特別徴収義務者は、その者が徴収すべき給与所得に係る特別徴収税額に係る個人の市町村民税の納税義務者が当該特別徴収義務者から給与の支払を受けないこととなった場合には、異動事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額について、総務省令で定めるところにより、異動届出書を当該特別徴収に係る納入金を納入すべき市町村の長に提出しなければならないと規定している。
 この点、処分庁は、平成22年当時、特別徴収に係る決定通知書を特別徴収義務者に送付する際等に、異動届出書の用紙を同封する取扱いを行っていたことが認められる。また、本件では、処分庁は、平成23年7月19日、審査請求人に対し異動届出書の提出義務についての説明を行っており、審査請求人は、当該特別徴収税額を減少させる手続の機会はあったが、異動届出書を提出しなかった。
 なお、審査請求人提出に係る嘆願書には「給与の支払を受けないこととなった納税義務者の氏名、その者に係る給与所得に係る特別徴収税額のうち既に徴収した月割額の合計額その他必要な事項の記載」がないため、異動届出書と認めることはできない。
(4) 法第17条の5第4項は、地方税の税額を減少させる賦課決定は、法定納期限の翌日から起算して5年を経過する日まですることができるとされている。しかしながら、先行処分については、法定納期限である平成22年9月10日の翌日から起算して5年を経過していることから、特別徴収税額を減少させる賦課決定をすることはできない。 
(5)  以上の点から、先行処分に重大かつ明白な瑕疵は認められない。
4 争点2について
(1) 審査請求人は、督促状より催告書が先行して発送されるのは矛盾ではないかと主張する。
 この点、平成23年4月分については「最終催告書」、同年5月分については「差押えの予告」が督促状発付前に発送されている。
 しかしながら、本件についてみると、未納になっていた同年1月分から3月分については、既に督促状は発付済みであり、審査請求人は、「最終催告書」、「差押えの予告」等の催告書類の送達や「差押え」を受忍すべき法的地位にあったものである。そのため、督促状発付未了の4月分及び5月分について、差押え可能な同年1月分から3月分の未納税額と合わせて、同時に「最終催告書」、「差押えの予告」等の催告文書を処分庁が送達したとしても、審査請求人がことさら混乱に陥るものではなく、違法又は不当とは言えない(もっとも、このような事務処理は、特別徴収義務者を混乱させる可能性のあることは否定できず、改善することが望まれる)。
(2)  審査請求人は、平成28年3月9日付け発行の「収入報告書」は受理しているが、当該収入報告書には「納税注意書」と記載された部分が添付されていないため、処分庁が言う「催告書」とは似て非なる書類であり、催告書の送達は受けていないと主張する。
ア 処分庁が発行した「納税注意書」は、税務事務システム(以下「税システム」という。)上、収入報告書と「納税注意書」が一体となって出力される一枚の様式であり、審査請求人が持参した収入報告書部分の確認番号と、処分庁が当該催告書を出力した「納付書マスタ」の確認番号が一致すること及び税システムで送付物の発送確認ができる「送付物等状況一覧表」にて、当該催告書が発送されたことが確認できる。また、「納税注意書」は、収入報告書部分と「納税注意書」と記載された部分が切り離されるようになっているところ、処分庁があえてこれらの部分を切り離して発送するとは考えにくいことから、「納税注意書」と記載された部分が添付されていなかったとの主張は採用することはできない。
イ 催告とは、債権者が債務者に対して債務の履行を要求する意思の通知であるところ、処分庁が発送した「納税注意書」には、「取扱期限までに、裏面の各納付場所でお納めください。」と記載されていることから、「債務の履行を要求する意思の通知」であることが見て取れる。したがって、処分庁が発送した「納税注意書」は、催告書にあたるものである。
ウ 仮に「納税注意書」と記載された部分が欠落していたとしても、収入報告書には、「納付内容」、「氏名」、「税額・延滞金」、「取扱期限」等が明示されており、権利行使の意思が含まれていると考えられるため、催告書にあたるものと解される。
(3)  本件では、徴収金の時効完成前である平成28年3月9日、審査請求人に対し、地方税法第20条第1項の定めるところにより、催告書を発付した事実を認めることができる。
 そして、地方税法第20条第4項によれば、「通常の取扱いによる郵便又は信書便によって第1項に規定する書類を発送した場合には、通常到達すべきであった時に送達があったものと推定する。」と規定されているところ、審査請求人の口頭意見陳述によれば、収入報告書の送達を受けた事実について争っておらず、また、平成28年3月9日当時、審査請求人の住所に変更はなかったとのことであるから、催告書は、そのころ審査請求人に到達したものであり、6か月間の時効中断の効力が発生している。
(4) よって、本件処分は、時効中断中の平成28年7月6日、時効中断にかかる未納税額に基づきなされたものであるから、適法になされたものと認められる。
(5) また、上記3で述べたとおり、先行処分に重大かつ明白な瑕疵は認められないから、先行処分の違法を理由として本件処分を取り消すことはできない。
(6) 以上の点から、本件処分は適法である。
5 審査請求に係る審理手続について
 審査請求人は、関係証拠書類の閲覧請求を行ったが、当初何ら対応されず、再度の閲覧請求によりようやく閲覧が許されたと主張する。しかしながら、時期は遅れたものの、結局のところ閲覧の機会は与えられており、閲覧手続について違法又は不当な点は認められない。また、それ以外の本件審査請求に係る審理手続についても、違法又は不当な点は認められない。
6 結論
 よって、本件審査請求に理由がないものと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり答申する。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会税務第2部会
 委員(部会長)岸本佳浩、委員 鹿田良美、委員 瀬川昇

答申書(平成29年度答申第2号)

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