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答申書(平成29年度答申第6号)

2023年2月17日

ページ番号:415538

諮問番号:平成29年度諮問第2号
答申番号:平成29年度答申第6号

答申書

第1  審査会の結論
 本件審査請求は理由があるので、本件各処分はいずれもその全部が取り消されるべきである。

第2  審査請求に至る経過
1 処分庁大阪市長(以下「処分庁」という。)は、納税者○○○○○(以下「主たる納税者」という。)が納付すべき平成14年度第3期及び第4期の個人の市民税・府民税(以下「市・府民税」という。)に係る延滞金並びに平成15年度の市・府民税に係る延滞金を徴収するため、審査請求人○○○○及び○○○○(以下「審査請求人ら」という。)に対し、平成28年法律第13号による改正前の地方税法(以下「法」という。)第11条の8の規定に該当する事実があるとして、平成28年7月25日付けの各納付通知書により、第二次納税義務の各納付告知処分(以下「本件各告知処分」という。)をした。
2 審査請求人らが本件各告知処分において定められた期限までに納付すべき金額(以下「本件各納付金額」という。」)を納付しなかったため、処分庁は、審査請求人らに対し、平成28年8月30日付けで各納付催告書を送付することにより、その納付を督促した。
3 処分庁は、本件各納付金額を徴収するため、平成28年9月12日付けで、別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)に係る審査請求人らの各持分について差押え(以下「本件各差押処分」という。)をし、同月13日付けで、同月12日差押えを登記原因とする審査請求人らの持分差押登記がいずれも経由された。
4 審査請求人らは、平成28年10月20日、本件各告知処分及び本件各差押処分の取消しを求めて大阪市長に対し審査請求をした。

第3 審理関係人の主張の要旨
1 審査請求人らの主張
(1) 本件各告知処分について
ア 主たる納税者が審査請求人らに対し平成14年3月13日付け及び平成15年3月28日付けで本件不動産の持分8分の1ずつの贈与(以下「本件各贈与」という。)をした当時、本件不動産には○○○○○○○○○や○○○○○○等の根抵当権が設定されており、このような担保権を考慮すると、本件不動産の財産価値は皆無に等しい状態にあった。ゆえに、実質的に見れば本件各贈与によっても主たる納税者から審査請求人らに財産が移動したことにはならなかった。また、仮に主たる納税者が本件各贈与を行わずとも、本件不動産を換価する方法によって滞納金を回収することは不可能な状態にあったともいえる。
イ  その後、平成28年5月13日付けで本件不動産につき、根抵当権者である○○○○○○○○(旧○○○○○○○○○)の申立てによって、担保不動産競売が開始されたが、同年6月に審査請求人ら及び○○○○と○○○○○○○○のとの間で解決金を支払う方法による和解が成立し、同月9日付けで上記担保不動産競売が取り下げられ、根抵当権が抹消された。
 ただし、上記解決金は、○○○○が○○○○○から借り入れる方法によって賄われたものであり、主たる納税者及び審査請求人らの個別財産から捻出されたものではなかった。実際、同月8日付けで本件不動産の○○○○の持分に○○○○○を抵当権者とする抵当権が設定されている。
 そうすると、本件不動産に従前設定されていた根抵当権については、○○○○の持分の範囲ではあるが、実質的にみればなお現存しているといえ、本件不動産の財産価値に変動はみられない。
 すなわち、仮に主たる納税者が審査請求人らに対する本件各贈与を行わなかったとしても、本件不動産の財産価値は皆無のままであり、同人に対する滞納処分は功を奏することはなかったと言え、法第11条の8の「滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる」ことが、審査請求人らに対する本件各贈与に「基因する」とは到底認められない。
 ウ ○○○○○○○○の根抵当権が抹消されたのは、本件各贈与から約13年経過した後であり、この間、主たる納税者の財産状況自体は、日々刻々と変化するものであることからすれば、そもそも本件各贈与が原因となって、徴収不足が生じたとは一概には言い難い。すなわち、本件各贈与がなければ、徴収不足が生じなかったとは言えないものである。
 エ 上記根抵当権が抹消されたのは、○○○○○からの借入れ及び抵当権設定がなされたこそであるが、仮に本件各贈与がなされなかった場合、主たる納税者のもとで○○○○○からの借入れという方法で上記根抵当権の抹消が可能であったかは、甚だ疑問である。この場合、○○○○○○○○による競売手続によって、本件不動産は換価され、○○○への返済に充てられていたと考える。そうすると、本件各贈与がなくとも、徴収不足が生じていた可能性が高いとも言える。
  さらに、○○○○○に対する債務についても、形式的には審査請求人らへの変更登記はなされていないが、○○○○と審査請求人らは親族関係にあることから、実質的にみれば、審査請求人らも債務の引受けをしていると考えられる。
(2) 本件各差押処分について
 本件各差押処分は、本件各告知処分を前提としてされたものであるが、上記(1)のとおり、本件各告知処分は要件を満たしておらず、審査請求人らは第二次納税義務者に該当しない。
 よって、審査請求人らは国税徴収法第47条第1項第1号の「滞納者」に当たらないことから、本件各差押処分は要件を満たしていない。
2   処分庁の主張
(1) 本件各告知処分について
ア 第二次納税義務の成立要件は次に掲げる事項の全てを満たすことが必要と解されている。
(ア) 滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められること(以下「徴収不足」という。)
(イ) 徴収不足と認められることが、当該地方団体の徴収金の法定納期限の1年前の日以後に滞納者がその財産につき行った無償又は著しく低い額の対価による譲渡等に基因すると認められること
イ 上記ア(ア)の徴収不足とは、主たる納税者が所有する滞納処分ができる財産の価額が、徴収しようとする地方団体の徴収金の額に充たないと認められることをいい、不足するかどうかの判定は、納付納入の通知書を発する時の現況によるものとされている。主たる納税者に対しては、滞納処分ができる財産に差押えを執行して徴収し、新たに滞納処分ができる財産は判明していない。
 したがって、審査請求人らへの納付納入の通知書を発した時の現況において主たる納税者から徴収すべき金額は○○○○円以上あったことから、主たる納税者が所有する財産の価額がその徴収すべき額に不足することは明らかである。
ウ 上記ア(イ)の「基因すると認められること」とは、その無償譲渡等の処分がなかったならば、現在の徴収不足は生じなかったであろう場合をいい、徴収不足である場合において、納税者が地方団体の徴収金の法定納期限の1年前の日以後に無償譲渡等の処分をしているときは、当該無償譲渡等の処分と徴収不足との間に基因関係があるものとすると解されており、次のとおり、徴収不足であること及び主たる納税者の地方団体の徴収金の法定納期限の1年前の日以後の譲渡であることから、当該無償譲渡等の処分と徴収不足との間に基因関係がある。
(ア) 本件各贈与がなければ、現時点において本件不動産の持分に対する滞納処分により徴収することができることから、現在の徴収不足は生じなかったことは明らかである。
(イ) 本件各贈与をした日は、平成14年2月5日及び平成15年3月18日であることから、主たる納税者の地方団体の徴収金の法定納期限の1年前の日(平成13年7月1日及び平成14年6月30日)以後の譲渡である。
エ 無償譲渡等の処分により受けた物が担保権付財産である場合の当該受けた物の価額の算定方法については、譲受人が当該債務の引受けをしているとき又は実質的にその引受けがあったと認められる場合を除き、当該債務を考慮しないものとされている。
  したがって、審査請求人らが本件不動産を贈与された当時、主たる納税者等を債務者とする担保権が設定されていたが、債務者の変更登記がされていないことから当該債務を引き受けたとは認められないことから、担保権に基づく債務を考慮しないとした場合の時価が当該贈与により受けた利益である。
 また、審査請求人らは、○○○○○に対する債務についても、○○○○及び審査請求人らは親族関係にあることから、実質的にみれば、審査請求人らも債務の引受けをしていると考えられると主張するが、審査請求人らが贈与を受けた時点においては、債務者の変更登記がされていないこと、納付納入の通知書を発した時の現況においても審査請求人らの持分には抵当権が設定されていないことから、債務を引き受けていた事実は認められない。また、○○○○と審査請求人らが親族関係にあったとしても、当然に債務を引き受けたことにはならない。
(2) 本件各差押処分について
 上記(1)のとおり、審査請求人らに第二次納税義務が成立していることは明らかであり、平成28年7月25日付け第二次納税義務者に対する納付通知書に記載した期限(平成28年8月25日)までに完納されておらず、かつ、平成28年8月30日付けで第二次納税義務者に対する納付催告を行い、当該催告を発した日から10日を経過した日までに完納されていないことから、本件各差押処分に至ったものである。

第4 審理員意見書の要旨
1 結論
 本件審査請求には理由がないため、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきものと判断する。
2 理由
(1) 本件各告知処分について
 法第11条の8において、①徴収不足と認められる場合において、②徴収不足と認められることが、当該地方団体の徴収金の法定納期限の1年前の日以後に滞納者がその財産につき行った、無償又は著しく低い額の対価による譲渡等に基因すると認められるときは、③これらの処分により権利を取得した者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、当該滞納に係る地方団体の徴収金の第二次納税義務を負うと規定されている。
 本件各告知処分がこれら①から③までの要件を満たしている処分であるか、次のとおり判断する。
ア  上記①について
(ア) 主たる納税者が滞納している平成14年度及び平成15年度市・府民税に係る延滞金は、「地方団体の徴収金」に該当する。
(イ) 本件各告知処分に係る納付の通知書を発した平成28年7月25日時点において、主たる納税者に係る滞納額は○○○○円以上存在し、主たる納税者に対して滞納処分がされ、取立てが継続中の財産は、平成25年1月4日付け債権(個人年金)に対する差押え及び同年8月19日付け債権(厚生年金)に対する差押えであり、新たに滞納処分ができる財産は判明していないことから、徴収すべき額に不足することは明らかである。
(ウ) 以上のとおり、本件各告知処分は上記①の要件を満たしている。
イ 上記②について
(ア) 主たる納税者は、平成14年度及び平成15年度市・府民税に係る延滞金を滞納していることから、延滞金に係る法定納期限は、その徴収の基因となった地方税である市・府民税に係る法定納期限となる。
 本件不動産に係る登記記録の全部事項証明書(以下「全部事項証明書」という。)によると、主たる納税者が所有していた本件不動産につき行った贈与は、いずれも法定納期限の1年前の日である平成13年7月1日又は平成14年6月30日以後においてされている。
(イ) 全部事項証明書によると、主たる納税者から審査請求人らへの譲渡は、贈与を原因とするものである。
(ウ) 滞納者が当該地方団体の徴収金に係る法定納期限の1年前の日以後に無償又は著しく低い額の対価による譲渡等の処分をしているときは、当該処分と徴収不足との間に基因関係がある。
 主たる納税者は、上記(ア)及び(イ)のとおり、法定納期限の1年前の日以後に無償又は著しく低い額の対価による譲渡等の処分をしていることから、当該処分と徴収不足との間に基因関係がある。
(エ)  以上のとおり、本件各告知処分は上記②の要件を満たしている。
ウ 上記③について
(ア) 審査請求人らは主たる納税者の親族であることが認められるため、審査請求人らは、処分により受けた利益の限度において、当該滞納に係る地方団体の徴収金の第二次納税義務を負うこととなる。
 次に、処分庁は、処分(本件各贈与)時の建物(家屋)及び土地の固定資産課税台帳に登録された価格に基づき受けた利益を算定していることが確認でき、本件不動産は、処分された時において担保付財産ではあったものの、当該担保に係る債務者は審査請求人らではなく主たる納税者等であったことから、譲受人である審査請求人らは、当該債務の引受けをしている事実は認められず、また、実質的にその引受けがあったと認められないことから、「受けた利益」の算定において当該債務を考慮する必要はない。
 さらに、その譲受けのために支払った費用及びこれに類するもののうち、その譲受けと直接関係あるもので登録免許税等(以下「費用等」という。)は上記「受けた利益」から控除することとされ、職権により求めた書類によると本件各贈与に係る登録免許税を費用等として、受けた利益から控除していることが確認できる。
 よって、受けた利益(審査請求人らそれぞれにつき○○○○円)の算定については適正に行われている。
(イ)  処分庁が本件各告知処分の対象とした主たる納税者の地方団体の徴収金は次のとおりである。
A 平成14年度市・府民税に係る地方団体の徴収金
○○○○円(第3期分及び第4期分に係る延滞金)
B 平成15年度市・府民税に係る地方団体の徴収金
○○○○円(第1期分から第4期分までに係る延滞金)
 Bの徴収金については、法定納期限(平成15年6月30日)の1年前の日(平成14年6月30日)以後の日の譲渡において、これらの処分により権利を取得した者は、これらの処分により受けた利益の限度において、当該滞納に係る地方団体の徴収金の第二次納税義務を負うとされていることから、登記所の受付年月日平成15年3月28日・平成15年3月18日贈与を原因とする譲渡が「これらの処分」に該当する。
 次に、Aの徴収金については、法定納期限(平成14年7月1日)の1年前の日(平成13年7月1日)以後の日の譲渡において、これらの処分により権利を取得した者は、これらの処分により受けた利益の限度において、当該滞納に係る地方団体の徴収金の第二次納税義務を負うとされていることから、登記所の受付年月日平成14年3月13日・平成14年2月5日贈与を原因とする譲渡及び登記所の受付年月日平成15年3月28日・平成15年3月18日贈与を原因とする譲渡が「これらの処分」に該当する。
 よって、審査請求人らそれぞれにつき、受けた利益を限度として、審査請求人らは第二次納税義務(審査請求人らそれぞれにつき○○○○円)を負っている。
(ウ)  以上のとおり、本件各告知処分は上記③の要件を満たしている。
(2) 審査請求人らの主張について
ア 上記第3、1(1)アについて
 本件不動産は、処分があった時において担保付財産であるが、譲受人である審査請求人らは、当該債務の引受けしていること及び実質的にその引受けがあったとは認められないことから、当該債務を考慮する必要はない。
イ 上記第3、1(1)イについて
 本件各告知処分において考慮する必要はない。
ウ 上記第3、1(1)ウについて
 主たる納税者は、法定納期限の1年前の日以後に無償による譲渡である本件各贈与をしていることから、当該処分と徴収不足との間に基因関係がある。
エ 上記第3、1(1)エについて
 本件各告知処分において考慮する必要はない。
 また、親族関係にあることをもって、実質的に審査請求人らが債務の引受けをしているとは認められない。
オ 総括
 以上のとおり、本件各告知処分は法に定める要件を満たしており、また、手続においても適法に行われている。
(3) 本件各差押処分について
ア 本件各告知処分は、平成28年8月25日を納付の期限として行われており、審査請求人らは同日までに完納しなかったため、処分庁は、同年8月30日付けで納付の催告書を発していることから、法第11条第2項に規定する督促は適正に行われている。
イ 上記アの催告書を発した日から起算して10日を経過した日までにその督促に係る地方団体の徴収金を審査請求人らが完納しなかったため、平成28年9月12日付けで差押書を送達することにより本件各差押処分を行っていることから、本件各差押処分は適正に行われている。
ウ 審査請求人らは、定められた期限までに本件各告知処分による地方団体の徴収金を完納していなかった以上、「滞納者」に該当することは明らかである。

第5 審査庁の主張の要旨
1 本件においては、徴収不足か否かの判定は、第二次納税義務者たる審査請求人に対して告知処分を行った平成28年7月25日を基準として判定すべきものであり、処分庁が、主たる納税者に対して、平成20年6月以降、債権差押えを執行して徴収し、新たに滞納処分ができる財産は判明していないとしている以上、本件については、告知処分時において徴収不足に該当したものと判断する。
2 国税徴収法基本通達(以下「基本通達」という。)第39条関係9(注)の定めは、平成29年3月3日付け「国税徴収法基本通達の一部改正について」により追加されたものである。したがって、平成28年7月25日付け第二次納税義務者に対する告知処分時においては、当該処分時の基本通達等の法令解釈により、本件徴収不足が滞納者から審査請求人らへの無償譲渡の処分に基因すると認めたものである。
 仮に現在の法令解釈を適用したとしても、本件不動産には、平成6年8月29日付けで極度額○○○○円の根抵当権、平成8年7月26日付けで極度額○○○○円の根抵当権、及び平成12年6月8日付けで債権額○○○○円の抵当権が登記されているものの、各根抵当権等について、審査請求人が贈与を受けた平成14年2月5日及び平成15年3月18日当時における被担保債権額が明らかとなっていないため、当該債権額が本件不動産の価額を上回っている場合に該当するとは言えない。

第6 調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
平成29年4月11日 諮問書の受理
平成29年4月12日 審議(審査請求人・審査庁あて主張書面提出要求、処分庁あて資料提出要求)
平成29年5月10日 審議(審査請求人あて資料提出要求、審査庁あて主張書面提出要求)
平成29年6月 7日 審議(審査請求人あて資料提出要求、処分庁あて資料提出及び陳述要求)
平成29年6月29日 調査及び審議(審査請求人あて資料提出要求、処分庁あて資料提出要求、処分庁の陳述)
平成29年8月 1日 審議
平成29年9月 6日 審議
平成29年9月20日 審議

第7 審査会の判断
1 関係法令の定め
(1) 無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務について
 滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該地方団体の徴収金の法定納期限の1年前の日以後に滞納者がその財産につき行った、政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、当該滞納に係る地方団体の徴収金の第二次納税義務を負う(法第11条の8)。
 また、政令で定める処分は、国及び法人税法第2条第5号の公共法人以外の者に対する処分で無償又は著しく低い額の対価によるものとされている(平成28年政令第133号による改正前の地方税法施行令第6条)。
(2) 第二次納税義務に係る告知及び督促について
 納税者の地方団体の徴収金を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、納付すべき金額、納付の期限及び納付の場所その他必要な事項を記載した納付の通知書により告知しなければならない(法第11条第1項)。
 また、第二次納税義務者が地方団体の徴収金を上記納付の期限までに完納しないときは、地方団体の長は、法第13条の2の規定により繰上徴収をする場合を除き、その期限後20日以内に納付の催告書を発して督促しなければならない。(法第11条第2項)。
(3) 市・府民税の法定納期限等について
 所得税の課税標準を基準として課する普通徴収の方法によって徴収する市・府民税の法定納期限等は、当該所得税の国税徴収法第15条第1項に規定する法定納期限等とし、当該市・府民税に係る延滞金についても同様とする(法第14条の9第2項)。
(4) 法定納期限等以前に設定された抵当権について
 納税者が地方団体の徴収金の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは、その地方団体の徴収金は、その換価代金につき、その抵当権により担保される債権に次いで徴収する(法第14条の10)。
(5)  市民税の滞納処分について
 市民税に係る滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までにその督促に係る市民税に係る地方団体の徴収金を完納しないとき、又は市民税に係る滞納者が繰上徴収に係る告知により指定された納期限までに市民税に係る地方団体の徴収金を完納しないときは、市の徴税吏員は、当該市民税に係る徴収金につき、滞納者の財産を差し押さえなければならず、市民税に係る徴収金の滞納処分については、徴収法に規定する滞納処分の例による(法第331条第1項及び第6項)。
(6) 個人の府民税に係る督促、滞納処分等について
 個人の市民税に係る地方団体の徴収金について督促状を発し、滞納処分をする場合においては、法に特別の規定がある場合を除く外、当該個人の府民税に係る地方団体の徴収金についてあわせて督促状を発し、滞納処分をする(法第334条)。
2 争点
(1) 本件各告知処分は、適法か(争点1)。
(2) 本件各差押処分は、適法か(争点2)。
3 争点1について
(1) 主たる納税者は徴収不足の状態であったか
ア 法は、滞納者の財産の無償譲受人に第二次納税義務を負わせるためには、滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合であることを要件としている(法第11条の8)。
イ 「滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」とは、第二次納税義務に係る納付告知時の現況において、本来の納税義務者の財産で滞納処分により徴収することのできるものの価額が、同人に対する地方団体の徴収金の総額に満たないと客観的に認められる場合であると解される(最高裁判所平成27年11月6日第二小法廷判決参照)。
  したがって、徴収不足要件の該当性は、徴収可能な財産の価額についての課税庁の認識や判断の合理性といった主観的要素を介在させることなく、滞納処分により徴収できる本来の納税義務者の財産の価額と同人に対する地方団体の徴収金の総額との多寡を比較して客観的に認定されるべきものと解される。
ウ 本件各告知処分に係る第二次納税義務に係る納付の通知書を発した平成28年7月25日時点において、主たる納税者に係る滞納額は○○○○円であるところ、主たる納税者の財産で滞納処分により徴収することのできるものは、処分庁が差押えを継続している個人年金債権及び厚生年金債権(両債権合わせて毎年約○○○○円の取立てが見込まれている。)並びに○○○○円余りの預貯金のみであり、これ以外に滞納処分可能な財産は存しなかった。
エ 以上の点に鑑みると、本件各告知処分の現況において、主たる納税者の財産で滞納処分により徴収することのできるものの価額は、同人に対する地方団体の徴収金の総額に満たないと客観的に認められるということができる。
(2) 主たる納税者の徴収不足は本件各贈与に基因するか
ア 法は、滞納者の徴収不足が政令で定める無償又は著しく低い価額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下「無償譲渡等の処分」という。)に基因すると認められることを要件としている(法第11条の8)。
イ 徴収不足が無償譲渡等の処分に「基因すると認められるとき」とは、当該無償譲渡等の処分がなかったならば、現在の徴収不足は生じなかったであろう場合をいうと解されるところ、滞納している税金に優先する債権を被担保債権とする担保権が設定された財産について、その被担保債権額が譲渡時に当該財産の価値を上回っている場合は、当該財産は滞納処分において引当てとなる財産ではないから、特段の事情がない限り、徴収不足が当該財産の譲渡に「基因すると認められるとき」には該当しないものと解される(基本通達第39条関係9(注)及び福岡地方裁判所平成27年6月16日判決参照)。
 この点、審査庁は、基本通達第39条関係9(注)の定めは平成29年3月3日付け「国税徴収法基本通達の一部改正について」により追加されたものであり、本件各告知処分時においては、当該処分時の基本通達等の法令解釈により、本件徴収不足が滞納者から審査請求人への無償譲渡の処分に基因すると認めたものであると主張する。
  しかしながら、法第11条の8の規定は、詐害行為取消権(民法第424条)を徴税の迅速確保の見地から合理化したものであり、詐害行為があると認められる場合における考え方をとり入れて詐害行為があることを条件として納税義務を負わせることとしているところ(地方税務研究会編「地方税法総則逐条解説」(平成25年12月24日発行)189頁参照)、抵当権等が設定されている財産が譲渡された場合、一般債権者は、担保財産の価額から被担保債権額を控除した残額の範囲で詐害行為の取消しを求めうるにとどまり、いわゆるオーバーローン等で一般債権者の引当てになる上記残額の存在しない財産の贈与は詐害行為ということができないと解されている(奥田昌道編「新版注釈民法(10)Ⅱ債権(1)」(平成23年12月25日初版)847頁、代物弁済につき最高裁判所昭和40年10月15日第二小法廷判決、詐害行為後に抵当権が消滅した場合につき最高裁判所平成4年2月27日第一小法廷判決、贈与につき東京地方裁判所平成25年5月31日判決参照)。
 よって、基本通達第39条関係9(注)の定めの有無にかかわらず、滞納している税金に優先する債権を被担保債権とする担保権が設定された財産について、その被担保債権額が譲渡時に当該財産の価値を上回っている場合には、当該財産の贈与について法第11条の8の規定の適用はないというべきである。
ウ 本件不動産については、本件各贈与がされた当時、担保権が設定されていた。すなわち、主たる納税者を債務者とする○○○○○○○○抵当権(平成14年3月13日時点の債権現在額は○○○○円、平成15年3月28日時点の債権現在額は○○○○円)が存在したほか、○○○○○○○○を債務者とする物上保証分として、○○○○○○○○○根抵当権(極度額○○○○円)及び○○○○○○根抵当権(極度額○○○○円)(以下「本件各根抵当権」という。)が存在した。
 これらの担保権は、いずれも本件滞納税額の法定納期限等以前に設定登記がされたものであるから、当該担保権により担保された各債権は本件滞納税額に優先する(法第14条の10)。
 一方、処分庁の見積りによれば、本件不動産に係る平成14年2月5日時点の評価額は○○○○円であり、平成15年3月18日時点の評価額は○○○○円にとどまる。
 よって、本件各根抵当権の被担保債権額(合計○○○○円)において既に、本件不動産の価額(本件各贈与のいずれの時点においても○○○○円に満たない。)を大きく上回るものであったと解される。
 この点、審査庁は、本件不動産の担保権について、審査請求人らが本件各贈与を受けた当時における被担保債権額が明らかとなっていないため、被担保債権額が本件不動産の価額を上回っている場合に該当しない旨主張する。
 しかしながら、根抵当権は、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するために不動産に設定する担保権であり(民法第398条の2)、被担保債権の元本は、元本確定期日の到来(民法第398条の6)又は元本確定事由(民法第398条の20)により確定することとなるところ、本件各贈与当時、本件各根抵当権の被担保債権の元本は確定していたとは認められず、本件不動産は、極度額の範囲で本件各根抵当権の被担保債権を優先的に担保している状態にある。
 よって、本件各根抵当権の被担保債権額が本件不動産の価額を上回っているか否かを判断するにあたっては、未だ確定していない本件各贈与時点における債権現在額ではなく、本件各根抵当権の極度額を基準とするべきであるところ、本件各根抵当権の被担保債権額の合計で既に本件不動産の価額を大きく上回ることから、審査庁の上記主張は採用することができない。
エ 以上の点に鑑みると、本件各贈与がなければ本件滞納税について徴収不足が生じなかったとの事実が認められないから、主たる納税者が審査請求人らに対して行った本件各贈与と徴収不足との間には、基因性が認められないものと解される。
(3) よって、本件各告知処分は、基因性の要件を満たさない違法なものであるから、その余の点を判断するまでもなく、それぞれその全部が取り消されるべきである。
4 争点2について
 先行処分である本件各告知処分が法第11条の8に規定する第二次納税義務の成立要件を満たしておらず、審査関係人らは第二次納税義務者に該当しないため、いずれも取り消されるべきであり、これに伴って審査請求人らに対して行われた本件各差押処分についても、その前提を欠く違法な処分となるから、いずれも取り消されるべきである。
5 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
6 結論
 よって、本件審査請求は、理由があり、本件各処分はいずれもその全部が取り消されるべきものであるから、当審査会は、第1記載のとおり答申する。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会税務第2部会
 委員(部会長)岸本佳浩、委員 鹿田良美、委員 瀬川昇

別紙物件目録 省略

                                 

答申書(平成29年度答申第6号)

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