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平成29年3月2日付け裁決

2023年2月17日

ページ番号:420306

裁決書

審査請求人 ○○○○
処分庁 大阪市長            

 審査請求人が平成28年4月25日付けで提起した処分庁大阪市長(以下「処分庁」という。)による平成28年度固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)賦課決定処分(以下「本件処分」という。)に係る審査請求(平成28年度財第2号)について、次のとおり裁決します。

主文
 本件審査請求を棄却します。

事案の概要
1 処分庁は、本件処分における大阪市○区(略)所在の家屋(以下「本件家屋」という。)について、平成24年度分の固定資産税等に係る所有者として家屋補充課税台帳(以下「補充台帳」という。)に登録されていた者の破産手続廃止決定及び本件家屋に係る破産財団からの放棄を原因として納税義務者の確定ができなくなったことにより、平成25年度分から平成27年度分の本件家屋に係る固定資産税等の課税を保留していました。
2 処分庁は、最高裁判所平成27年○月○日第二小法廷判決で上告棄却されたことにより確定した大阪高等裁判所平成27年○月○日判決(以下「本件確定判決」という。)において、本件家屋の所有権が平成23年○月○日に審査請求人に移転したと判示された事実を基に、平成28年度分の固定資産税等の課税の前提として、平成28年1月28日付けで審査請求人を平成28年度分の固定資産税等の賦課期日現在の所有者と認定し、同月29日付けで審査請求人を本件家屋に係る平成28年度分の固定資産税等の所有者として補充台帳に登録しました。
3 処分庁は、審査請求人に対して、平成28年4月1日付けで本件処分を行いました。
4 審査請求人は、平成28年4月25日、大阪市長に対し、本件処分のうち本件家屋に対する部分の取消しを求めて審査請求を提起しました。

審理関係人の主張の要旨
1 審査請求人の主張
(1) 審査請求人は、次のとおり、本件家屋について、地方税法(以下「法」という。)第381条第4項の規定により補充台帳に登録されるべき所有者に該当しないため、審査請求人名義で補充台帳に登録することは誤りであり、それに基づき行われた本件処分のうち本件家屋に対する部分の取消しを求める旨主張しています。
ア 本件確定判決において、本件家屋に関して審査請求人が行使した無償譲渡請求権(以下「無償譲渡請求権」という。)は、形成権であることから相手方の承諾の有無に関係なく形式的に生じるものであるため、その現実的な効果は、相手方の本件家屋の引渡義務の履行を受けて、初めて実現するものである。
イ 本件確定判決において、平成23年○月○日に本件家屋の所有権移転の効果が有効に発生しているとされていることから、本件家屋の引渡し及び所有権移転登記を要請している状況であるが、審査請求日時点で、その履行は受けておらず、本件家屋の鍵も交付されていない状態であり、使用・収益・処分できる状況にないため、補充台帳に登録すべき「固定資産税を課すことができるもの(家屋)の所有者」には該当しない。
(2) 審査請求人は、処分庁による弁明書に対して次のとおり主張しています。
ア 平成28年1月1日現在において審査請求人以外の他社名義で補充台帳に登録されていたという事実は、平成28年1月27日付けで本件家屋に関し、大阪市長が発行した固定資産課税台帳に関する証明書(以下「本件証明書」という。)から明らかであり、審査請求人は本件家屋に関する本件処分の納税義務者には該当しない。
イ 本件証明書によれば、平成28年1月27日現在において、他社が所有者として登録されている事実を大阪市長が証明しているという状態であるにもかかわらず、処分庁は、「課税保留」と称する法令等の根拠に基づかない事務処理により、本件証明書において補充台帳に所有者として登録されていることが証明された他者に対して賦課決定処分を行っておらず、固定資産税に関する法令がいわゆる台帳課税主義を採用していることを踏まえれば、台帳に登録されている所有者に賦課決定処分を行っていないことは、租税法律主義の原則に照らして、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないという最高裁判所昭和48年11月16日第二小法廷判決や最高裁判所平成22年3月2日第三小法廷判決の判事内容に反することであり、職権の乱用というべきである。
ウ 処分庁は「補充台帳未登録である平成25年度以降の所有者と認定し」と主張し、あたかも平成25年度以降は補充台帳に本件家屋に係る事項が未登録であったかのような本件証明書における証明内容と異なる事実関係を前提としているが、その主張は、虚偽の事実に基づくものであり失当である。
エ 固定資産税の納税義務者は、「賦課期日現在の状況」により決定されることとされており、具体的には、同日において所有者として登録されている者が納税義務者とされるものであるから、所有権が判決によって遡及的に発生していたことが認められたとしても、そのことが賦課期日現在において所有者として登録されている者を遡及的に変更する理由にはならず、処分庁が職権で平成25年度以降の本件家屋の所有者を審査請求人とする補充台帳への遡及的な変更登録を行ったうえで課税処分を行ったことは判決の効果の誤認であり、かつ、法的安定性の観点からも明らかに無効である。
オ 処分庁が弁明書(第2回)における主張において引用している最高裁判所平成27年7月17日第二小法廷判決(以下「平成27年最二小判」という。)における課税要件(ここでは固定資産税の納税義務者に該当するための要件をいう。)に関する判示で重要なのは、形式的ではなく、現実に所有権が帰属していたことであり、引渡し未了の本件家屋については、財産価値が審査請求人に享受されておらず、所有という事実の実効性がない状況であるため、当該課税要件を満たしていない。
 租税の賦課及び納税は、憲法第29条に定める財産権の侵害行為に当たるため、担税力に応じた公平な課税を行うことが必要最低条件とされており、本件家屋のような審査請求人における財産としての機能を有さないものに対する課税は、憲法の規定に反するものである。
2 処分庁の主張
(1) 処分庁は、次のとおり処分は適正である旨弁明しています。
ア 固定資産税は、固定資産の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であるところ、法は、その納税義務者を固定資産の所有者とすることを基本としており、その要件の充足の有無を判定する基準時としての賦課期日を当該年度の初日の属する年の1月1日としているので、上記の固定資産の所有者は当該年度の賦課期日現在の所有者を指すこととなる。
イ 法は、固定資産税の納税義務の帰属につき、固定資産の所有という概念を基礎としたうえで、これを確定するための課税技術上の規律として、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは補充台帳(以下「登記簿等」という。)に所有者として登記又は登録(以下「登記等」という。)されている者が固定資産税の納税義務を負うものと定める一方で、その登記等は賦課期日の時点において具備されていることを要するものではないと解され、土地又は家屋につき、賦課期日の時点において登記簿等に登記等がされていない場合に、賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記等されている者は、当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負うものと解するのが相当であるとされている(最高裁平成25年(行ヒ)第35号 平成26年9月25日第一小法廷判決(以下「平成26年最判」という。))。
ウ 本件家屋は未登記家屋であることから、新築当初に所有者を認定して補充台帳に登録していたが、平成25年度の賦課期日以降、所有者を認定することができないことから調査対象案件として課税を保留していた。その後、本件確定判決において、審査請求人が無償譲渡請求権を行使したことにより、本件家屋の所有権が審査請求人に移転したと判断する旨判示されたことから、法第343条第2項の規定により、審査請求人を本件家屋の所有者と認定し、補充台帳に登録したものであり適正である。
エ 審査請求人が本件家屋について行使した無償譲渡請求権の現実的な効果は相手方の引渡義務の履行を受けて初めて実現するとの審査請求人の主張について、本件確定判決の内容を踏まえて審査請求人が平成23年○月○日以降の所有者であるとの前提で、補充台帳未登録である平成25年度以降の所有者と認定し、審査請求人に説明し、家屋変更届出書の提出を依頼するも書類の受領を拒否されたため、職権により補充台帳に登録したところであるから、審査請求人が本件家屋の引渡しを受けていないことをもって所有者に該当しないという審査請求人の主張は認められず、本件処分は適正である。
(2) 処分庁は審査請求人による反論書に対して次のとおり主張しています。
ア 本件家屋の引渡しが未了であり、使用・収益・処分ができる状況にないことから財産価値が享受できる状態にある建物ではないとしても、固定資産税の課税について当該事象に左右されることはない。
イ 平成27年最二小判において、法第343条第2項後段の「現に所有する者」に該当するための必要な条件として、少なくとも、固定資産税の賦課期日において所有権が当該者に現に帰属していたことが必要である旨判示されており、このことは未登記家屋の所有者認定を行う場合においても同様に考えるべきであり、所有権が誰に帰属しているかという点から所有者認定を行うものである。
ウ 本件家屋の引渡し請求は、所有権に基づき、所有権を阻害する者へ行うべきである。
エ 本件証明書は、平成28年度の固定資産税の課税に係る価格登録前のものであり、平成28年度分の固定資産税等の内容を証明しているものではない。
オ 固定資産の価格は課税台帳登録事項であるが(法第381条第4項)、市町村長は、固定資産の価格等を毎年3月31日までに決定しなければならないとされており(法第410条第1項)、当然に、価格登録が完了した翌日から証明書が発行されるものである。このため、審査請求人が平成28年1月27日に取得した本件証明書の所有者として登録されていないことをもって平成28年度の課税処分に係る納税義務者には該当しないというのは失当である。
カ 固定資産税システムの仕様上、本件家屋のように課税保留としているものも所有者情報を登録せずに更新を行うことができないため、便宜的に従前の所有者が登録されていたものである。また、評価証明書については、課税保留状態であったとしても登録されている最新の情報が出力される仕様である。本件証明書発行時において、本件家屋は課税保留の状態にあったことから、本件証明書において所有者を証明しているものではない。
キ 平成25年度分から平成27年度分の固定資産税等の課税を保留していたことについて、平成27年最二小判において、「一部の土地についてその納税義務者を特定し得ない特殊な事情があるために賦課徴収をすることができない場合が生じ得る」とされており、法令等の根拠に基づかない事務処理による職権の乱用には該当しない。

理由
1 本件に係る法令等の規定について
(1) 固定資産税等の賦課期日について
 固定資産税等の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とされています(法第359条及び第702条の6)。
(2) 固定資産税等の課税客体について
 固定資産税は、固定資産に対し課するものであり(法第342条第1項)、固定資産とは土地、家屋及び償却資産を総称するとされています(法第341条第1号)。また、家屋とは、住家、店舗、工場(発電所及び変電所を含む。)、倉庫その他の建物をいうとされています(同条第3号)。
 また、都市計画税は、都市計画法第7条第1項に規定する市街化区域内に所在する土地及び家屋に対し課することができるものとされており(法第702条第1項)、大阪市市税条例第135条第1項において、市街化区域内に所在する土地及び家屋について、その所有者に対し都市計画税を課することとしています。
(3) 固定資産税等の納税義務者について
 固定資産税は、固定資産の所有者に課するとされ(法第343条第1項)、その所有者とは、土地又は家屋については、登記簿等に所有者として登記等されている者をいうとされています(同条第2項)。
 また、都市計画税を課することができる所有者とは、当該土地又は家屋に係る固定資産税について法第343条において所有者とされる者をいうとされています(法第702条第2項)。
(4) 補充台帳の登録事項について
 補充台帳には、登記簿に登記されている家屋以外の家屋で法の規定によって固定資産税を課することができるものの所有者の住所及び氏名又は名称並びにその所在、家屋番号、種類、構造、床面積及び基準年度の価格又は比準価格を登録しなければならないとされています(法第381条第4項)。
2 本件処分の妥当性について
(1) 本件家屋につき、処分庁が、審査請求人を法第343条第1項に規定する「所有者」となるべき者であると判断して、法第381条第4項の規定により、補充台帳に所有者として登録したことの妥当性について
ア 法は、固定資産税等の納税義務者を固定資産の所有者とすることを基本としており(法第343条第1項及び第702条第2項)、その要件の充足の有無を判定する基準時としての賦課期日を当該年度の初日の属する年の1月1日としているから(法第359条及び第702条の6)、法第381条第4項に基づき補充台帳に登録されるべき「所有者」とは、当該年度の賦課期日現在における所有者を意味するものと解されます。
 これを本件処分においてみるに、本件確定判決によれば、本件家屋の所有権は、平成23年○月○日に審査請求人に移転したと判示されており、その後本件家屋が審査請求人から第三者に譲渡された事実も認められないことから、平成28年度分の固定資産税等の賦課期日である平成28年1月1日における本件家屋の所有者は、審査請求人であると認められます。
イ この点、審査請求人は、本件確定判決により、審査請求人が本件家屋について行使した無償譲渡請求権は形成権であり、相手方の承諾の有無に関係なく形式的に生じるものであることから、その現実的な効果は、相手方の本件家屋に係る引渡し義務の履行を受けて初めて実現するものであるが、審査請求日現在、本件家屋の鍵すら交付されていない状態であり、到底使用・収益・処分ができる状況にないとして、法第381条第4項に定める「所有者」に該当しないと主張しています。
 しかしながら、法は、本件家屋のような未登記家屋に係る固定資産の所有者として補充台帳に登録すべき者について、当該家屋の引渡しを受けていること又は当該家屋を使用・収益・処分ができる状態にあることを要件としていません。
 従って、本件家屋の引渡しを受けていないこと等をもって審査請求人を所有者として登録しない理由にはなりません。
 なお、審査請求人が主張する、相手方の引渡し義務の履行に係る問題は、当該所有権に基づく物件的請求権の行使等による私法上の問題として解決されるべきものであり、固定資産税等の賦課決定に当たり考慮する必要はないものと解されます。
 以上から、処分庁が行った本件処分に係る補充台帳への所有者の登録について違法、不当な点は認められません。
(2) 本件家屋につき、本件賦課期日以降の日付である平成28年1月29日付けで補充台帳に登録をしたことについての妥当性について
ア 法は、固定資産税の納税義務の帰属につき、固定資産の所有という概念を基礎とした上で(法第343条第1項)、これを確定するための課税技術上の規律として、登記簿等に登記等されている者が納税義務を負うものと定めています(同条第2項前段)。
 この点、平成26年最判においては、土地又は家屋につき、賦課期日の時点において登記簿等に登記等がされていない場合において、賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記等されている者は、当該賦課期日に係る年度における固定資産税の納税義務を負うものと解するのが相当である旨判示されています。
 よって、本件家屋について、少なくとも、平成26年最判にいう「賦課期日の時点において登記簿等に登記等がされていない場合」に該当する限りは、賦課期日以降にされた本件補充台帳登録に基づき審査請求人を平成28年度固定資産税等の納税義務者として賦課決定処分を行うことができることになります。
 また、最高裁判所平成27年7月17日判決においては、「納税義務者を特定し得ない特殊な事情があるためにその賦課徴収をすることができない場合が生じ得る」と判示されており、このことから、所有者を特定できないことを理由として固定資産税等の課税を保留することは認められるものと考えられます。
イ これを本件においてみるに、本件家屋に係る所有権の帰属については争いがあり、本件確定判決に係る訴訟が係属していたため、未登記の家屋である本件家屋の所有者を特定することができない状況にあったことから、本件家屋に係る固定資産税等の課税を一時的に保留したことが認められます。
 また、処分庁においては、固定資産課税台帳の備付けを電磁的記録の備付けをもって行っているところ、課税を保留している場合においても、所有者情報を記録しなければならないため、本件についても当該訴訟の係属中は、便宜的に前所有者を記録していたところです。
 電磁的記録の備付けをもって行われた固定資産税課税台帳の登録事項に係る登録方法及び運用方法については、同台帳の滅失等を防止するための措置を要請する趣旨の規定(地方税法施行規則第15条の5の2第1項)が存する以外に特段の規定が設けられていないことに鑑みれば、このような処分庁の取扱いに不合理な点はありません。
 従って、補充台帳上の形式的な所有者の記録を前提に発行された本件証明書の記載内容にかかわらず、平成28年度固定資産税等の賦課期日においては補充台帳上本件家屋に係る所有者登録は存在せず、本件確定判決に基づき、審査請求人について「賦課期日の時点において登記簿等に登記等がされていない場合において、賦課決定処分時までに賦課期日現在の所有者として登記等されている者」に該当することとなったとして、平成28年1月28日付けで審査請求人を平成28年度分の固定資産税等の賦課期日現在の所有者と認定し、同月29日付けで審査請求人を本件家屋に係る平成28年度分の固定資産税等の所有者として補充台帳に登録をしたことについて、違法又は不当な点は認められません。
3 結論
 以上のとおり、本件処分に違法又は不当な点は認められず、本件審査請求は理由がないことから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、主文のとおり裁決します。

平成29年3月2日
大阪市長 吉村 洋文

 

裁決書(平成28年度答申第3号)

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