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平成29年10月20日付け裁決

2023年2月17日

ページ番号:420976

裁決書

審査請求人 ○○○○
処分庁 大阪市長

 審査請求人○○○○及び○○○○(以下「審査請求人ら」という。)が平成28年10月20日付けで提起した平成28年7月25日付け第二次納税義務者に対する告知処分(審査請求人○○○○に対する処分を以下「本件処分1」といい、審査請求人○○○○に対する処分を以下「本件処分2」という。)及び平成28年9月12日付け差押処分(審査請求人○○○○に対する処分を以下「本件処分3」といい、審査請求人○○○○に対する処分を以下「本件処分4」という。)に係る審査請求(平成28年度財第11号。以下「本件審査請求」という。)について、次のとおり裁決します。

主文
 本件審査請求に係る本件処分1から本件処分4までの各処分(以下「本件各処分」という。)を取り消します。

事案の概要
1 処分庁大阪市長(以下「処分庁」という。)は、納税者○○○○(以下「主たる納税者」という。)が納付すべき平成14年度第3期及び第4期の個人の市民税・府民税(以下「市・府民税」という。)に係る延滞金並びに平成15年度の市・府民税に係る延滞金を徴収するため、審査請求人らに対し、平成28年法律第13号による改正前の地方税法(以下「法」という。)第11条の8の規定に該当する事実があるとして、それぞれ平成28年7月25日付けの納付通知書により、本件処分1及び本件処分2(以下「本件各告知処分」という。)をしました。
2 審査請求人らが本件各告知処分において定められた期限までに納付すべき金額(以下「本件各納付金額」という。)を納付しなかったため、処分庁は、審査請求人らに対し、それぞれ平成28年8月30日付けで納付催告書を送付することにより、その納付を督促しました。
3 処分庁は、本件各納付金額を徴収するため、平成28年9月12日付けで、別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)に係る審査請求人らの持分について、それぞれ本件処分3及び本件処分4(以下「本件各差押処分」という。)をしました。
4 審査請求人らは、平成28年10月20日、本件各告知処分及び本件各差押処分の取消しを求めて、大阪市長に対し、審査請求をしました。

審理関係人の主張の要旨
1 審査請求人らの主張
(1) 本件各告知処分について
ア 主たる納税者が審査請求人らに対し平成14年3月13日付け及び平成15年3月28日付けで本件不動産の持分8分の1ずつの贈与(以下「本件各贈与」という。)をした当時、本件不動産には○○○○や○○○○等の根抵当権が設定されており、このような担保権を考慮すると、本件不動産の財産価値は皆無に等しい状態にあった。ゆえに、実質的に見れば本件各贈与によっても主たる納税者から審査請求人らに財産が移動したことにはならなかった。また、仮に主たる納税者が本件各贈与を行わずとも、本件不動産を換価する方法によって滞納金を回収することは不可能な状態にあったともいえる。
イ その後、平成28年5月13日付けで本件不動産につき、根抵当権者である○○○○(旧○○○○)の申立てによって、担保不動産競売が開始されたが、同年6月に審査請求人ら及び○○○○と○○○○のとの間で解決金を支払う方法による和解が成立し、同月9日付けで上記担保不動産競売が取り下げられ、根抵当権が抹消された。
 ただし、上記解決金は、○○○○が○○○○から借り入れる方法によって賄われたものであり、主たる納税者及び審査請求人らの個別財産から捻出されたものではなかった。実際、同月8日付けで本件不動産の○○○○の持分に○○○○を抵当権者とする抵当権が設定されている。
 そうすると、本件不動産に従前設定されていた根抵当権については、○○○○の持分の範囲ではあるが、実質的にみればなお現存しているといえ、本件不動産の財産価値に変動はみられない。
 すなわち、仮に主たる納税者が審査請求人らに対する本件各贈与を行わなかったとしても、本件不動産の財産価値は皆無のままであり、同人に対する滞納処分は功を奏することはなかったと言え、法第11条の8の「滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる」ことが、審査請求人らに対する本件各贈与に「基因する」とは到底認められない。
ウ ○○○○の根抵当権が抹消されたのは、本件各贈与から約13年経過した後であり、この間、主たる納税者の財産状況自体は、日々刻々と変化するものであることからすれば、そもそも本件各贈与が原因となって、徴収不足が生じたとは一概には言い難い。すなわち、本件各贈与がなければ、徴収不足が生じなかったとは言えないものである。
エ 上記根抵当権が抹消されたのは、○○○○からの借入れ及び抵当権設定がなされたこそであるが、仮に本件各贈与がなされなかった場合、主たる納税者のもとで○○○○からの借入れという方法で上記根抵当権の抹消が可能であったかは、甚だ疑問である。この場合、○○○○による競売手続によって、本件不動産は換価され、○○○○への返済に充てられていたと考える。そうすると、本件各贈与がなくとも、徴収不足が生じていた可能性が高いとも言える。
 さらに、○○○○に対する債務についても、形式的には審査請求人らへの変更登記はなされていないが、○○○○と審査請求人らは親族関係にあることから、実質的にみれば、審査請求人らも債務の引受けをしていると考えられる。
(2) 本件各差押処分について
 本件各差押処分は、本件各告知処分を前提としてされたものであるが、上記(1)のとおり、本件各告知処分は要件を満たしておらず、審査請求人らは第二次納税義務者に該当しない。
 よって、審査請求人らは国税徴収法第47条第1項第1号の「滞納者」に当たらないことから、本件各差押処分は要件を満たしていない。
2   処分庁の主張
(1) 本件各告知処分について
ア 第二次納税義務の成立要件は次に掲げる事項の全てを満たすことが必要と解されている。
(ア)  滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められること(以下「徴収不足」という。)
(イ) 徴収不足と認められることが、当該地方団体の徴収金の法定納期限の1年前の日以後に滞納者がその財産につき行った無償又は著しく低い額の対価による譲渡等に基因すると認められること
イ 上記ア(ア)の「徴収不足」とは、主たる納税者が所有する滞納処分ができる財産の価額が、徴収しようとする地方団体の徴収金の額に充たないと認められることをいい、不足するかどうかの判定は、納付納入の通知書を発する時の現況によるものとされている。主たる納税者に対しては、滞納処分ができる財産に差押えを執行して徴収し、新たに滞納処分ができる財産は判明していない。
 したがって、審査請求人らへの納付納入の通知書を発した時の現況において主たる納税者から徴収すべき金額は○万円以上あったことから、主たる納税者が所有する財産の価額がその徴収すべき額に不足することは明らかである。
ウ 上記ア(イ)の「基因すると認められること」とは、その無償譲渡等の処分がなかったならば、現在の徴収不足は生じなかったであろう場合をいい、徴収不足である場合において、納税者が地方団体の徴収金の法定納期限の1年前の日以後に無償譲渡等の処分をしているときは、当該無償譲渡等の処分と徴収不足との間に基因関係があるものとすると解されており、次のとおり、徴収不足であること及び主たる納税者の地方団体の徴収金の法定納期限の1年前の日以後の譲渡であることから、当該無償譲渡等の処分と徴収不足との間に基因関係がある。
(ア) 本件各贈与がなければ、現時点において本件不動産の持分に対する滞納処分により徴収することができることから、現在の徴収不足は生じなかったことは明らかである。
(イ) 本件各贈与をした日は、平成14年2月5日及び平成15年3月18日であることから、主たる納税者の地方団体の徴収金の法定納期限の1年前の日(平成13年7月1日及び平成14年6月30日)以後の譲渡である。
エ 無償譲渡等の処分により受けた物が担保権付財産である場合の当該受けた物の価額の算定方法については、譲受人が当該債務の引受けをしているとき又は実質的にその引受けがあったと認められる場合を除き、当該債務を考慮しないものとされている。
 したがって、審査請求人らが本件不動産を贈与された当時、主たる納税者等を債務者とする担保権が設定されていたが、債務者の変更登記がされていないことから当該債務を引き受けたとは認められないことから、担保権に基づく債務を考慮しないとした場合の時価が当該贈与により受けた利益である。
 また、審査請求人らは、○○○○に対する債務についても、○○○○及び審査請求人らは親族関係にあることから、実質的にみれば、審査請求人らも債務の引受けをしていると考えられると主張するが、審査請求人らが贈与を受けた時点においては、債務者の変更登記がされていないこと、納付納入の通知書を発した時の現況においても審査請求人らの持分には抵当権が設定されていないことから、債務を引き受けていた事実は認められない。また、○○○○と審査請求人らが親族関係にあったとしても、当然に債務を引き受けたことにはならない。
(2) 本件各差押処分について
 上記(1)のとおり、審査請求人らに第二次納税義務が成立していることは明らかであり、平成28年7月25日付け第二次納税義務者に対する納付通知書に記載した期限(平成28年8月25日)までに完納されておらず、かつ、平成28年8月30日付けで第二次納税義務者に対する納付催告を行い、当該催告を発した日から10日を経過した日までに完納されていないことから、本件各差押処分に至ったものである。

理由
1 本件各処分に係る法令の規定
(1) 無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務について
 滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該地方団体の徴収金の法定納期限の1年前の日以後に滞納者がその財産につき行った、政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、当該滞納に係る地方団体の徴収金の第二次納税義務を負うとされています(法第11条の8)。
 また、政令で定める処分は、国及び法人税法第2条第5号の公共法人以外の者に対する処分で無償又は著しく低い額の対価によるものとされています(平成28年政令第133号による改正前の地方税法施行令第6条)。
(2) 第二次納税義務に係る告知及び督促について
 納税者の地方団体の徴収金を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、納付すべき金額、納付の期限及び納付の場所その他必要な事項を記載した納付の通知書により告知しなければならないとされています(法第11条第1項)。
 また、第二次納税義務者が地方団体の徴収金を上記納付の期限までに完納しないときは、地方団体の長は、法第13条の2の規定により繰上徴収をする場合を除き、その期限後20日以内に納付の催告書を発して督促しなければならないとされています(法第11条第2項)。
(3) 市・府民税の法定納期限等について
 所得税の課税標準を基準として課する普通徴収の方法によって徴収する市・府民税の法定納期限等は、当該所得税の国税徴収法第15条第1項に規定する法定納期限等とし、当該市・府民税に係る延滞金についても同様とするとされています(法第14条の9第2項)。
(4) 法定納期限等以前に設定された抵当権について
 納税者が地方団体の徴収金の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは、その地方団体の徴収金は、その換価代金につき、その抵当権により担保される債権に次いで徴収するとされています(法第14条の10)。
(5)  市民税の滞納処分について
 市民税に係る滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までにその督促に係る市民税に係る地方団体の徴収金を完納しないとき、又は市民税に係る滞納者が繰上徴収に係る告知により指定された納期限までに市民税に係る地方団体の徴収金を完納しないときは、市の徴税吏員は、当該市民税に係る地方団体の徴収金につき、滞納者の財産を差し押さえなければならず、市民税に係る地方団体の徴収金の滞納処分については、国税徴収法に規定する滞納処分の例によるとされています(法第331条第1項及び第6項)。
(6) 個人の府民税に係る督促、滞納処分等について
 個人の市民税に係る地方団体の徴収金について督促状を発し、滞納処分をする場合においては、法に特別の規定がある場合を除く外、当該個人の府民税に係る地方団体の徴収金についてあわせて督促状を発し、滞納処分をするとされています(法第334条)。
2 本件各告知処分について
(1)  主たる納税者は徴収不足の状態であったかについて
ア 法は、滞納者の財産の無償譲受人に第二次納税義務を負わせるためには、滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合であることを要件としています(法第11条の8)。
イ 「滞納者の地方団体の徴収金につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」とは、第二次納税義務に係る納付告知時の現況において、本来の納税義務者の財産で滞納処分により徴収することのできるものの価額が、同人に対する地方団体の徴収金の総額に満たないと客観的に認められる場合であると解されています(最高裁判所平成27年11月6日第二小法廷判決)。
 したがって、徴収不足要件の該当性は、徴収可能な財産の価額についての課税庁の認識や判断の合理性といった主観的要素を介在させることなく、滞納処分により徴収できる本来の納税義務者の財産の価額と同人に対する地方団体の徴収金の総額との多寡を比較して客観的に認定されるべきものと解されます。
ウ 本件各告知処分に係る第二次納税義務に係る納付の通知書を発した平成28年7月25日時点において、主たる納税者に係る滞納額は○○○○円であるところ、主たる納税者の財産で滞納処分により徴収することのできるものは、処分庁が差押えを継続している個人年金債権及び厚生年金債権(両債権合わせて毎年約○万円の取立てが見込まれている。)並びに○万円余りの預貯金のみであり、これ以外に滞納処分可能な財産は存しませんでした。
エ 以上の点に鑑みると、本件各告知処分の現況において、主たる納税者の財産で滞納処分により徴収することのできるものの価額は、同人に対する地方団体の徴収金の総額に満たないと客観的に認められるということができます。
(2) 主たる納税者の徴収不足は本件各贈与に基因するかについて
ア 法は、滞納者の徴収不足が政令で定める無償又は著しく低い価額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下「無償譲渡等の処分」という。)に基因すると認められることを要件としています(法第11条の8)。
イ 徴収不足が無償譲渡等の処分に「基因すると認められるとき」とは、当該無償譲渡等の処分がなかったならば、現在の徴収不足は生じなかったであろう場合をいうと解されるところ、滞納している税金に優先する債権を被担保債権とする担保権が設定された財産について、その被担保債権額が譲渡時に当該財産の価値を上回っている場合は、当該財産は滞納処分において引当てとなる財産ではないから、特段の事情がない限り、徴収不足が当該財産の譲渡に「基因すると認められるとき」には該当しないものと解されます(福岡地方裁判所平成27年6月16日判決及び国税徴収法基本通達第39条関係9(注))。
ウ 本件不動産については、本件各贈与がされた当時、○○○○根抵当権(極度額○○○○円)及び○○○○根抵当権(極度額○○○○円)(以下「本件各根抵当権」という。)が存在したほか、○○○○抵当権(平成14年3月13日時点の債権現在額は○○○○円、平成15年3月28日時点の債権現在額は○○○○円)が存在していました。
 これらの担保権は、いずれも本件滞納税額の法定納期限等以前に設定登記がされたものであることから、当該担保権により担保された各債権は本件滞納税額に優先するものです(法第14条の10)。
 一方、処分庁の見積りによれば、本件不動産に係る平成14年2月5日時点の評価額は○○○○円であり、平成15年3月18日時点の評価額は○○○○円にとどまります。
 ところで、根抵当権とは、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するために不動産に設定する担保権であり(民法第398条の2)、被担保債権の元本は、元本確定期日の到来(民法第398条の6)又は元本確定事由(民法第398条の20)により確定することとなるところ、本件各贈与当時、本件各根抵当権の被担保債権の元本は確定していたとは認められず、本件不動産は、極度額の範囲で本件各根抵当権の被担保債権を優先的に担保している状態にあったと言うことができます。
 すなわち、本件各根抵当権の被担保債権額が本件不動産の価額を上回っているか否かを判断するにあたっては、本件各根抵当権の極度額を基準とするべきものであり、本件においては、本件各根抵当権の被担保債権額(合計○○○○円)において既に、本件不動産の価額(本件各贈与のいずれの時点においても○○○○円に満たない。)を大きく上回るものであったと解されます。
エ 以上の点に鑑みると、本件各贈与がなければ本件滞納税額について徴収不足が生じなかったとの事実が認められないことから、主たる納税者が審査請求人らに対して行った本件各贈与と徴収不足との間には、基因性が認められないものと解されます。
(3) 結論
 以上により、本件各告知処分は、基因性の要件を満たさない違法なものであるため、その余の点を判断するまでもなく、本件各告知処分の全部を取り消すべきものと判断します。
3 本件各差押処分について
 2において判断したとおり、本件各差押処分の先行処分である本件各告知処分について、法第11条の8に規定する第二次納税義務の成立要件を満たしておらず、審査請求人らは第二次納税義務者に該当せず、取り消すべきものであり、これに伴って審査請求人らに対して行われた本件各差押処分については、その前提を欠く違法な処分となるため、本件各差押処分についても取り消すべきものと判断します。
4 結論
 以上のとおり、本件審査請求には理由があることから、行政不服審査法第46条第1項の規定により、主文のとおり裁決します。

平成29年10月20日
大阪市長 吉村 洋文

別紙物件目録 省略

裁決書(平成29年度答申第6号)

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