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平成29年8月14日付け裁決(答申第4号)

2023年2月17日

ページ番号:439571

裁決書

審査請求人
大阪市○○区○○丁目○番○号
○○ ○○
処分庁
大阪市長

 審査請求人(以下「請求人」という。)が平成28年10月18日に提起した処分庁による大阪市療育手帳交付規則(平成23年大阪市規則第106号。以下「規則」という。)第7条に基づく療育手帳の交付決定処分に係る審査請求(以下「本件審査請求」という。)について、次のとおり裁決する。

主文
 本件審査請求を棄却する。

事案の概要
1 請求人は、平成28年8月18日、規則第8条に基づく療育手帳の交付申請書を大阪市長あて提出した。
2 処分庁は、18歳未満の者に係る知的障がいの程度の判定機関である大阪市こども相談センター(以下「こども相談センター」という。)において、知能検査等に基づき、請求人の知的障がいの程度の判定手続を行った。その結果、知能指数は46であり、社会生活上又は行動・医療保健面において、あまり介助・介護を要しないことから中度の知的障がいと判定された。当該判定を踏まえ、平成28年9月1日、処分庁は、障がいの程度がB1、判定年月日が平成28年8月18日、次の判定年月日が平成33年8月として、療育手帳の再交付(以下「本件処分」という。)を行った。
3 請求人は、平成28年10月18日、大阪市長に対し、本件処分を取り消し、障がいの程度をAと認定することを求める審査請求を提起した。

審理関係人の主張の要旨
1 請求人の主張
 請求人の主張は、次のとおりである。
 療育手帳の再判定を受け、(障がいの程度が)AからB1になりました。知的障がいだけではなく自閉症も合わせもっている為、生活しづらさをかかえております。現状、受けられる福祉サービスを減らされるのは大変困ってます。2つの障がいを持っている事をふまえて、再判定を考えていただきたいです。
2 処分庁の主張
 処分庁の主張は、次のとおりである。
 療育手帳制度については、規則に基づいて実施しており、規則第2条第1項において、18歳未満の療育手帳の対象者については、こども相談センターを判定機関としており、規則第6条第1項により、その判定基準については、「市長が別に定める基準」によると定められ、障がいの程度に応じて、重度である場合がA、中度である場合がB1、軽度である場合がB2と判定される。
 「市長が別に定める基準」については、大阪市療育手帳交付要綱(以下「要綱」という。)別表において定められている。
 障がい程度が中度であるB1における判定基準は、「知能の障がいの程度が中度(標準化された知能検査で測定された指数が概ね36以上50以下に該当)であって、社会生活上又は行動・医療保健面であまり介助・介護を要しない者。若しくは、知能の障がいの程度が軽度(標準化された知能検査で測定された指数が概ね51以上75以下に該当)であって、社会生活上又は行動・医療保健面において、かなりの介助・介護を要する者」とされている。
 また、大阪市の療育手帳について、自閉症であることは等級の判断において考慮する基準ではない。
 今回の療育手帳の交付に当たっては知能検査が実施され、知能検査で測定された知能指数は46であり、かつ、社会生活上及び行動・医療保健面において、あまり介助・介護を要しない者であったことから、知能の障がいの程度が中度(B1)と判定された。
(1)知能検査について
 平成28年8月18日にこども相談センターにおいて実施した知能検査手法である田中ビネーV検査は、療育手帳の交付に係る知的障がいの程度の判定に用いられる検査技法の代表的なものである。
 また、今回実施した検査については、田中ビネーⅤ検査の実施マニュアルの手順どおりに検査を実施し、採点マニュアルにしたがって正確に採点を行い適切に実施された。
(2)「あまり介助・介護を要しない者」とする判定について
 自閉症を併せ持っているかどうかに関わらず、知的障がいに加え強く指示してもどうしても服を脱ぐとか、どうしても外出を拒みとおしたり、いったん出かけても何百メートルも離れた場所に戻り物を取りにいく等の行為で止めても止めきれないような激しいこだわりや、噛みつき、蹴り、殴り、髪ひき、頭突きなど、相手が怪我をしかねないような、ひどくたたいたり蹴ったりする等の行為が一日に頻回にあったり、身体・生命の危険につながる飛び出しをしたり、目を離すと一時も座れず走り回る、ベランダの上など高く危険な所に上るなどの著しい移動が一日のうちに頻回にあったりすることが重なっている場合に「社会生活上又は行動・医療保健面において、かなり介助・介護を要する者」と判定される。
 また、行動・対人面・情緒面の問題が時々あっても、概ね日常的な支援によって対応できる状態である、あるいはごくたまに激しいこだわりや、著しい多動などの問題行動がみられる場合に「社会生活上又は行動・医療保健面において、あまり介助・介護を要しない者」と判定される。
 今回、請求人の母親からの聴取では、請求人の生活習慣の各項目(「食事」・「排泄」・「衣服」・「洗面」・「入浴」)は全て自立、「睡眠」はなかなか起きない、「危険物」はだいたいわかるとなっている。また、以前は自分のペースが崩れると大パニックになっていたが、現在はバスに興味が強く、乗る・撮る・路線図をみるなどのこだわりはあるものの、大きなパニックはなくなっており行動面は以前より落ち着いているとの内容であった。さらに、請求人は検査中反響語や独語などの自閉的な傾向はみられたものの、検査者からの質問に応じて回答することはでき、理解できない質問でも大きなパニックになることはなかったことなどの行動観察を踏まえて、「社会生活上又は行動・医療保健面において、あまり介助・介護を要しない者」と判断した。
(3)総括
 こども相談センターが請求人に対して判定を行った結果、「知能検査」で測定された知能指数は46であり、要綱別表に基づき、知能の障がいの程度は中度(標準化された知能検査で測定された指数が概ね36以上50以下に該当)に相当する。
 また、「社会生活上又は行動・医療保健面においてあまり介助・介護を要しない者」か「社会生活上又は行動・医療保健面において、かなり介助・介護を要する者」の判断については、生活習慣の6項目で自立になっており(「睡眠」はなかなか起きない、「危険物」はだいたいわかる)、以前のようにパニックをおこす事がなくなり行動面でも以前より落ち着いているという状況より「あまり介助・介護を要しない者」と判断するのが相応である。
 「審査請求の理由」として、「知的障がいだけではなく、自閉症も併せもっているため生活しづらい」との記載があったが、大阪市の療育手帳(制度)において、自閉症を併せもつ事は判断において考慮する基準にはない。
 処分庁としては、上記を総合的に判断した結果、判定機関であるこども相談センターの判定を覆す所見はなく、こども相談センターの判定と同様の処分とした。

理由
1 本件に係る法令等の規定について
(1)法令等の規定
 療育手帳制度は、厚生省通知「療育手帳制度について」(昭和48年9月27日発156号厚生事務次官通知)により定められた療育手帳制度要綱に沿って自治事務として実施されている。
 療育手帳交付対象者は、児童相談所又は知的障害者更生相談所において知的障がいであると判定された者となっており、実施主体は都道府県知事(指定都市にあっては、市長)となっている。
 大阪市においては、療育手帳事務の実施に当たり、規則及び要綱を制定しており、規則第6条及び要綱第3条別表において、児童福祉法(昭和22年法律第164号)第11条第1項第2号ハの判定(以下「判定」という)の基準が規定されている。
 規則第2条で療育手帳の交付対象者及び判定機関が、同第7条で療育手帳の交付に関する事項が、同第8条で療育手帳の更新に関する事項がそれぞれ規定されている。
 要綱別表に定められる判定の基準は、「標準化された知能検査で測定された指数」及び「社会生活上又は行動・医療保健面で介助・介護を要する程度」の観点から定められており、自閉症の有無は判定の基準とはなっていない。
(2)療育手帳制度及び知的障がい者の定義について
 知的障がい者に援助と必要な保護を行い、もって知的障がい者の福祉を図ることを目的とすると第1条に定める知的障害者福祉法(昭和35年法律第37号)において、「知的障害者」の定義を定める規定は置かれていないところ、療育手帳制度要綱では、療育手帳の交付対象者となる知的障がい者を上記(1)のとおり定めている。
 この点に関し、東京高裁判決平成13年6月26日(以下「東京高判」という。)は、「知的障害者に対して、その障害の程度に応じた合理的な援助措置を講じるためには、知的障害者の認定手続制度の存在は不可欠であるというべきであること、身体障害者、精神障害者については、いずれも法律に手帳制度が規定されているが、知的障害者の場合には、これを不要とする合理的な理由がないことに鑑みても、知的障害者福祉法は、知的障害者の認定手続の創設を行政機関に委ねたものと解すべき」であるとして、療育手帳制度要綱に基づく療育手帳制度について、「知的障害者福祉法が予定している知的障害者の認定制度である」と判示している。
 また、療育手帳制度要綱において、療育手帳制度は、「知的障害児(者)に対して一貫した指導・相談を行うとともに、これらの者に対する各種の援助措置を受け易くするため、知的障害児(者)に療育手帳を交付し、もって知的障害児(者)の福祉の増進に資することを目的とする」とされているところ、東京高判は、療育手帳の交付について、「一旦療育手帳の交付を受ければ、個々の援助措置ごとに知的障害者である旨の認定を受ける必要がなく、知的障害者福祉法に基づく知的障害者としての地位、障害の程度が公証されるとともに、障害の程度に応じた統一的な援助措置を受けることができるという地位を付与されるもので、その意味で、療育手帳の交付は、諸々の福祉措置を知的障害者に付与するために必要な一連の手続のいわば要というべきものである」と判示している。
2 争点
請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は次のとおりである。
・知的障がいの程度がAからB1へと変更された療育手帳の判定に裁量の逸脱はないか。
3 争点に対する判断
 上記のとおり、知的障がい者について法令上の一般的な定義はなく、療育手帳制度要綱において、児童相談所又は知的障害者更生相談所において知的障がい者と判定された者を療育手帳交付の対象と規定していることから、療育手帳の障がいの程度の区分の判定は、判定機関の専門的・技術的判断に委ねられており、一定の裁量があるものと認められる。しかしながら、療育手帳制度は、知的障がい者の認定手続と解されること及び療育手帳の交付は諸々の福祉措置を知的障がい者に付与するために必要な手続のいわば要となるものであることから、療育手帳の障がいの程度の判定は、その公平公正を確保するため、一定の客観的な基準に基づき行われる必要があると解される。
 そこで、以上の点に鑑み、次の(1)、(2)について、それぞれ検討を行った。
(1)療育手帳の障がいの区分の判定方法について
 本件審査請求手続において明らかとなった、療育手帳の障がいの程度の判定方法は次のとおりである。
ア 療育手帳の障がいの程度の区分については、社会生活の困難を伴う知的機能障がいの程度及び行動又は医療保健面における介助・介護の必要度により行う。
イ 知的機能障がいの程度は、標準化された知能検査により測定された知能指数又は発達検査により測定された発達指数に基づいて評価する。また、日常生活における知的障がいの状態を明らかにするため、標準化された社会生活能力検査又は「社会生活能力目安表」によって、社会生活能力を評価する。
ウ 行動・医療保健面における介助・介護の必要度は、保護者から聴き取った本人の状況、判定時の行動観察の結果等に基づき、行動上の問題、対人関係に関する問題、その他情緒面の問題の観点から行動面を評価するとともに、発作の頻度や生命等の危険性等の観点から医療保健面を評価し、両者の評価を基に介助・介護の必要度として一体的に評価する。
エ 知的機能の障がいの程度の評価と行動・医療保健面における介助・介護の必要度の評価を客観的基準にあてはめて障がいの程度の判定を行う。
以上の判定方法について、不合理な点は見られない。
(2)(1)の判定方法を踏まえた本件処分における障がいの程度の判定経過について
 本件処分の判定機関であるこども相談センターにおいて行われた障がいの程度の判定について、前記(1)の判定方法に不合理な点が認められないことを前提に、事件記録及び前回(平成24年8月)の判定結果も踏まえ、当該判定方法に沿い検討を行った結果、次の点が認められた。
ア 標準化された知能検査で測定された知能指数とともに、「社会生活能力目安表」を用いた社会生活能力の評価も勘案し、知的機能障がいの程度を適切に評価している。
イ 行動・医療保健面における介助・介護の必要度について、保護者から聴き取った請求人の「大きなパニックはなくなっている」という状況や「理解できない質問でも大きなパニックになることはなかった」という判定時の行動観察の結果等に基づき、行動面及び医療保健面を適切に評価し、両者の評価を基に介助・介護の必要度として適切に評価している。なお、今回の判定結果は、前回の判定結果と比較して介助・介護の必要度の評価が異なっているが、この評価について、特に不合理な点は見られない。
ウ 知的機能の障がいの程度の評価と行動・医療保健面における介助・介護の必要度の評価を客観的基準にあてはめて障がいの区分の判定を適切に行っている。
 以上から、本件処分における療育手帳の障がいの程度の判定は、前記(1)の判定方法に従い適切に行われていると認められる。
 なお、請求人が自閉症を併せ持っていることも踏まえて再判定を求めていることについて、処分庁は、「自閉症であることは等級の判断において考慮する基準でない」旨弁明書で述べており、審理員もこれを是認している。
 もっとも、処分庁は、弁明書で、療育手帳の障がいの程度の判定においては、自閉症を併せ持っているかどうかに関わらず「激しいこだわり」等の問題について、前記(1)のウの判定方法に沿って行動上の問題、対人関係に関する問題、その他情緒面の問題といった観点から評価することとなる旨も述べている。
 このことは、自閉症に特徴的な行動上の問題について、評価の対象としていないのではなく、前記(1)のウの判定方法に沿って、実質的に評価しているものと解される。
 そして、本件における障がいの程度の判定においても、請求人の行動上の問題等について、かかる観点から評価されているものであり、この点について不合理な点はない。
(3)小括
 以上から、本件処分における療育手帳の障がいの程度の判定は裁量を逸脱しているとは認められず、処分庁は、本件処分の判定機関であるこども相談センターの判定結果を踏まえ、当該結果と同様の内容で本件処分を行っていることから、本件処分に違法又は不当な点は認められない。
4 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
5 上記以外の違法性又は不当性についての検討
 他に本件処分に違法性又は不当な点は認められない。
6 結論
 以上のとおり、本件審査請求には理由がないことから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、主文のとおり裁決する。

平成29年8月14日
審査庁 大阪市長  吉村 洋文

裁決書(平成29年度答申第4号)

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