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平成30年5月14日付け裁決(答申第2号)

2023年2月17日

ページ番号:439575

裁決書

審査請求人
○○○○
処分庁
大阪市○○区保健福祉センター所長

 審査請求人が平成28年11月30日に提起した処分庁による生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第78条の規定に基づく徴収金決定処分(○○第○○号。以下「本件処分」という。)に係る審査請求(以下「本件審査請求」という。)について、次のとおり裁決する。

主文
 本件処分を取り消す。

事案の概要
1 平成21年12月1日、処分庁が審査請求人に対し、法による保護を開始した。
2 平成28年7月14日、審査請求人が処分庁に対し、平成28年○月から○月まで収入がない旨の収入申告書を提出した。
3 平成28年11月11日、審査請求人が処分庁に対し、資産申告書及び審査請求人名義の○○銀行の通帳の写しを提出した。同通帳には、平成28年○月○日に、Aから○○円の入金(以下「本件収入」という。)記録の記載があった。
4 平成28年11月22日、処分庁が本件処分を行った。
5 平成28年11月30日、審査請求人が大阪市長に対し、本件処分の取消しを求める審査請求をした。

審理関係人の主張の要旨
1  審査請求人の主張
(1)平成28年○月○日の入金を「貰ったお金」と言われているが、実の妹であるAへ貸していたお金が返金されたものであり、収入ではない。
(2)貸していたお金の返金については、収入として申告する必要はない。
(3)審査請求人は、妹のAとお金の貸し返金をしていた。妹のAには3人の子供が居て、高校生になった長男がいた為に給料日前は生活費がなく、「給料日の○日に返す。」と言う事で審査請求人は、年末に支払う住宅保障共済金を○○円まで貯める為に毎月○○円余裕を持って貯めていた。その為に生活費を立て替え、返して貰っていた。
2 処分庁の主張
 審査請求人は、「貸したお金を返してもらったので収入ではない。」と主張しているが、そもそも法第61条に「被保護者は、収入、支出、その他生計の状況に変動があったとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」とあり、審査請求人も「生活保護のしおり」等による説明を受けた上で、平成27年2月23日付け、「生活保護法第61条に基づく収入の申告について(確認)」に署名・押印し、「生活保護のしおり」半券に署名・押印している。
 また、審査請求人は平成28年7月14日付け提出の平成28年○月分、○月分、○月分の収入申告書において収入は無いと申告している。
 収入や支出の状況については、法第61条でも規定されているとおり、審査請求人に申告の義務があり、それを怠り、収入でないと審査請求人が主張するのは法の趣旨を損なうものであり、失当である。
 本件処分に対して、審査請求人は、妹に貸したお金の返金を受け、そのお金については収入でないため、収入の申告をする必要がなく、不正なお金は貰っていない、と主張していると解される。
 しかしながら、生活保護制度の根幹を成す金銭給付は、最低限度の生活の保障であり、お金の貸し借りを行うことは法第60条の趣旨にも反し、貸したお金の返金について、それを収入でないということは、審査請求人の独自の理論でしかなく、申し立ては失当である。
 審査請求人には収入があれば、申告の義務があるにもかかわらず、申告をせず、平成28年○月の収入申告書の収入について「無」と申告しており、これは生活保護手帳別冊問答集問13-1、②(d)「当該被保護者が提出した収入申告書又は資産申告書が虚偽であることが判明したとき。」に該当するため、本件処分を行ったものである。
 よって、平成28年○月の収入について審査請求人が正しく申告せず、本来得られない保護費を不当に受給していることに疑問の余地などないのである。

理由
1 本件に係る法令等の規定について
(1)法第4条は、生活保護制度における基本原理の一つである「保護の補足性」について規定しており、その第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めている。また、法第5条は、「この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基づいてされなければならない。」と定めている。
(2)法第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。」と定めている。
(3)法第28条及び第29条で保護の実施機関には積極的な調査権限が付与されているが、併せて、法第61条では、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と規定し、被保護者に対し、届出の義務を課している。
(4)法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と規定している。
(5)生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて(平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。以下「課長通知」という。)の「2 法第78条に基づく費用徴収決定について」では、法第78条の条項を適用する際の基準は、「①保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき、②届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき、③届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき、④課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」と示されている。
(6)生活保護法による保護の実施要領について(昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知。以下「次官通知」という。)第8-3-(2)-エ-(イ)において、「保険金その他の臨時的収入((3)のオ、カ又はキに該当する額を除く。)については、その額(受領するために交通費等を必要とする場合は、その必要経費の額を控除した額とする。)が世帯合算額8,000円(月額)をこえる場合、そのこえる額を収入として認定すること。」と示されている。
(7)生活保護問題集について(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「問答集」という。)の問13-22の答において、法第78条による「徴収額は、不正受給額を全額決定するものであり、法第63条のような実施機関の裁量の余地はないもの」とされており、また、問13-25において、「法第78条に基づく費用の徴収は、いわば損害追徴としての性格のものであり、法第63条や法第77条に基づく費用の返還や徴収の場合と異なり、その徴収額の決定に当たり相手方の資力(徴収に応じる能力)が考慮されるというものではない」と示されている。
2 争点
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は、審査請求人が本件収入を申告しなかったことが「不実の申請その他不正な手段」といえるか否かである。
3 争点について
 まず、本件収入が未申告であること、本件収入が妹のAに貸与した金銭の返還金であることについては、審査請求人も争っていない。そして、他人への金銭貸与は本人の最低生活の維持にも、自立の助長にも資することのない用途であって(法第1条参照)、金銭貸与を行った時点で保護費としての性質を失うことになり、当該金銭が返済されれば被保護者の活用可能な資産が増加したといえるから、他人に貸与した金銭の返還金である本件収入が収入認定すべき収入であることは、明らかである。
 問題は、審査請求人がかかる本件収入について処分庁に申告しなかったことが、法第78条の「不実の申請その他不正な手段」といえるか否かである。
 ここで、「不実の申請その他不正な手段」(法第78条)には、積極的に虚偽の事実を申請することはもちろん、消極的に真実を隠ぺいすることも含まれると解されるが、審査請求人がこれらに該当する前提として、本件収入に係る申告義務を審査請求人が理解していたことが必要である。
 この点に関し、処分庁は、平成27年2月23日に、「生活保護のしおり」を用いて審査請求人に収入申告義務について説明したことをもって、審査請求人は申告義務について理解していたと主張する。しかし、処分庁が審査請求人に手交したという「生活保護のしおり」には、保護費以外の収入があればどんな収入でも届け出る旨の一般的な記載はあるが、本件収入のように貸与した金銭が返還された場合にも収入申告義務があることについて、明確に記載されているわけではない。
 また、処分庁によれば、担当のケースワーカーが、そもそも金銭消費貸借を行ってはならないこと、あらゆる収入について申告する必要があることを審査請求人に口頭で説明したとのことである。しかし、事件記録にあるように、審査請求人には覚せい剤の後遺症があり、また、精神障害者手帳2級を有していたことを合わせ考えると、そのような口頭での説明によって、一般的に「収入」と理解されているわけではない「貸与した金銭の返還金」についてまで収入申告義務があると審査請求人が理解できなかったことは、あり得るというべきである。また、仮にその場では理解できていたとしても、貸与した金銭が返還された場合にも収入申告が必要であることについて、返還があった時点では明確に思い出せなかったことも十分に想定されることである。
 実際のところも、本件収入があったという事実は、事件記録によれば、審査請求人が資産申告の際に、自ら提出した通帳の写しの記載から発覚したものであり、審査請求人が通帳の写しの提出を拒んだといったものではない。このような行動からすると、審査請求人には本件収入を隠す意図がなく、むしろ、収入申告義務がないと考えていた故の自然な行動と考えるほうが合理的である。
 以上の点を踏まえると、審査請求人は、本件収入があった時点において、就労収入や贈与金等の一般的な収入についての申告義務については理解していたとしても、「貸与した金銭の返還金」である本件収入について収入として申告する義務があるとは理解していないままに、本件収入の申告をしていなかったものと認めるのが相当である。
 このように、審査請求人が本件収入に係る申告義務を理解していなかった以上、本件収入を申告しなかったことは、積極的に虚偽の事実を申請することにも、消極的に真実を隠ぺいすることにも当たらないから、法第78条にいう「不実の申請その他不正な手段」とはいえない。
 にもかかわらず、法第78条を適用して審査請求人に保護費の返還を求めた本件処分は要件を欠き、違法であるといわざるを得ない。
4 結論
 よって、本件審査請求は理由があると認められるので、行政不服審査法第46条第1項の規定により、主文のとおり裁決する。

平成30年5月14日
審査庁 大阪市長  吉村 洋文

裁決書(平成30年度答申第2号)

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