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平成30年5月14日付け裁決(答申第3号)

2023年2月17日

ページ番号:439577

裁決書

審査請求人
○○○○
処分庁
大阪市○○区保健福祉センター所長

 審査請求人が平成29年3月11日に提起した処分庁による生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第78条の規定に基づく徴収金決定処分(○○第○○号。以下「本件処分」という。)に係る審査請求(以下「本件審査請求」という。)について、次のとおり裁決する。

主文
 本件審査請求を棄却する。

事案の概要
1 平成26年1月22日、処分庁が審査請求人に対し、法による保護を開始した。
2 平成26年4月14日、審査請求人が処分庁に対し、本件処分の対象となった収入の記載がない収入申告書を提出した。
3 同日、処分庁がA銀行から、審査請求人名義の口座の出入金記録に関する法第29条に基づく調査に対する回答を受理し、同回答の中には、平成26年○月○日に審査請求人名義の口座に「B」から○○円の入金(以下「本件入金」という。)があった。
4 平成29年2月13日、処分庁が審査請求人に対し、本件処分を行った。
5 平成29年3月11日、審査請求人が大阪市長に対し、本件処分の取消しを求める審査請求をした。

審理関係人の主張の要旨
1  審査請求人の主張
 処分庁が、平成26年の金額を今になって返還金として審査請求人に求めるのは、極めて悪質であり、違法である。
 審査請求人はケースワーカーの指示に従い、毎月収入申告を果たしているにも関わらず、処分庁の別紙での言い分は悪意を感じます。
2 処分庁の主張
 処分庁が行った本件処分は適正に行われており、その正当性について以下の通り説明する。
 平成26年1月22日の保護申請時、処分庁は審査請求人に対し、「生活保護のしおり」に基づき収入申告の義務について説明をしている。審査請求人は、説明を受けたことについて署名、捺印し、その署名を処分庁は受理しており、審査請求人が収入申告の義務について理解していたことは明らかである。その後、審査請求人は平成26年○月~○月分の収入申告書を処分庁宛に提出しているが、本件未申告収入について記載はなく、また、申請時に審査請求人が処分庁宛に提出した生活歴調査票にも、Bで働いていたことの記載はない。本職が審査請求人に対し本件未申告収入について確認をするまで当該収入について審査請求人からは一切申告はなく、また、確認をした時には審査請求人は収入があったことを認め、その収入が未申告であったことも認めている。以上の経過から、審査請求人は法第78条に定められた「不実の申請により保護を受けた」ことに該当する為、当該未申告収入についてその全額を法第78条徴収決定するに至っている。
 審査請求人は、審査請求書において、「平成26年の金額を今になって返還金として求めるのは極めて悪質であり違法である」としているが、「生活保護手帳 別冊問答集 問13-18 費用返還請求の時期と消滅時効の開始時期」の問では、「保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村は、資力の発生の事実があったとき以降いつでも、保護の実施機関が決定した額について法律上の返還請求権を行使することができる」とされており、また、地方公共団体が有する金銭債権の消滅時効を定めた地方自治法第236条第1項によると、返還請求権の消滅時効期間は5年間となるため、平成26年○月の収入について平成29年2月に徴収決定したことについて、違法又は不当な点はない。
 また、審査請求人は、審査請求書において、「ケースワーカーの指示にしたがい、毎月収入申告を果たしている」としているが、本件未申告収入について処分庁から審査請求人に確認をする以前に、審査請求人が処分庁宛に提出した収入申告書や生活歴調査票には、本件未申告収入についても、Bでの勤務についても一切記載がないため、審査請求人は収入申告の義務を果たしていたとは言えない。また、審査請求人は当該収入が未申告であったことを認めており、法第78条に定められた「不実の申請により保護を受けた」ことに該当することは明らかである。
 以上のことから、処分庁が行った当該処分は法に基づき適正に行われたものであり、本件審査請求は速やかに棄却されるべきである。

理由
1 本件に係る法令等の規定について
(1)法第4条は、生活保護制度における基本原理の一つである「保護の補足性」について規定しており、その第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めている。また、法第5条は、「この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基いてされなければならない。」と定めている。
(2)法第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。」と定めている。
 これは、生活保護制度により保障されるべき最低限度の生活は、生活保護法による保護の基準(昭和38年4月1日厚生省告示第158号。以下「保護の基準」という。)によって、要保護者各々について具体的に確定され、その保護の程度は、保護の基準によって測定された需要と要保護者の資力(収入)とを対比し、その資力で充足することのできない不足分について扶助されることを定めているものである。
(3)法第28条及び第29条で保護の実施機関には積極的な調査権限が付与されているが、併せて、法第61条では、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と規定し、被保護者に対し、届出の義務を課している。
(4)法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と規定している。
(5)生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて(平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。以下「課長通知」という。)の「2 法第78条に基づく費用徴収決定について」において、「法第63条は、本来、資力はあるが、これが直ちに最低生活のために活用できない事情にある要保護者に対して保護を行い、資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で既に支給した保護金品との調整を図るために、当該被保護者に返還を求めるものであり、被保護者の作為又は不作為により保護の実施機関が錯誤に陥ったため扶助費の不当な支給が行われた場合に適用される条項ではない。被保護者に不当に受給しようとする意思がなかったことが立証される場合で、保護の実施機関への届出又は申告をすみやかに行わなかったことについてやむを得ない理由が認められるときや、保護の実施機関及び被保護者が予想しなかったような収入があったことが事後になって判明したとき等は法第63条の適用が妥当であるが、法第78条の条項を適用する際の基準は次に掲げるものとし、当該基準に該当すると判断される場合は、法第78条に基づく費用徴収決定をすみやかに行うこと。」と述べたうえで、法第78条の条項を適用する際の基準について、「①保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき、②届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき、③届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき、④課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」と示されている。
(6)生活保護問答集について(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保 護課長事務連絡)の問13-22の答において、法第78条による「徴収額は、不正受給額を全額決定するものであり、法第63条のような実施機関の裁量の余地はないもの」とされており、また、問13-25の答において、「法第78条に基づく費用の徴収は、いわば損害追徴としての性格のものであり、法第63条や法第77条に基づく費用の返還や徴収の場合と異なり、その徴収額の決定に当たり相手方の資力(徴収に応ずる能力)が考慮されるというものではない」と示されている。
2 争点
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は審査請求人の未申告収入に法第78条の規定を適用した本件処分に違法又は不当な点はないかである。
3 争点に対する判断
 まず、前提として、本件入金が収入認定すべき収入であるかが問題となるが、審査請求人の保護開始後の平成26年○月○日に就労収入である本件入金があったことについて争いはないから、本件入金は収入認定すべき収入と認められる。
 次に、法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け」た者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収することを規定している。ここでいう「不実」とは、積極的に虚構の事実を構成することはもちろん、消極的に真実を隠ぺいすることも含まれると解されている。また、課長通知では、「被保護者に不当に受給しようとする意思がないことが立証される場合で、保護の実施機関への届出又は申告をすみやかに行わなかったことについてやむを得ない理由が認められるとき」等は、「法第63条の適用が妥当である」と示されている。以上から、法第78条の適用にあたっては、保護費を不当に受給しようとする意思があることが求められるとともに、課長通知における各基準はその客観的事情を示しているものと解される。
 こうしたことを踏まえ、審査請求人が保護費を不当に受給しようとする意思をもって、課長通知の基準に該当する行為を行ったことが認められるかという点について、本件の事実関係に照らして検討を行った。
 事件記録によると、審査請求人の保護申請時の平成26年1月22日に、処分庁が審査請求人に対し、生活保護のしおりを用いて制度の説明をし、説明を受けてしおりを受け取ったことに関する審査請求人の署名及び押印がなされた事実が認められるため、審査請求人は、収入申告の必要性に関し理解していたものと認められる。
 また、事件記録によると、保護申請時に審査請求人から処分庁に提出された生活歴調査票の職歴欄に本件入金に係る就労先の記載がなく、同日に提出された資産申告書において全ての資産を申告すべきところ、本件入金があった口座について、その記載がないことが認められる。その後、処分庁の法第29条に基づく調査で当該口座も含めて未申告の口座の存在が発覚し、当該口座について、処分庁がさらに調査を行ったところ、平成26年4月14日に本件入金が発覚しており、同日に、審査請求人が本件入金についての記載がない収入申告書を提出したことが認められる。
 以上の事実経過からすると、審査請求人は収入申告義務を理解していながら、保護申請時に本件入金に係る就労の事実と本件入金があった口座を申告せず、さらに、本件入金を記載していない虚偽の収入申告書を提出することにより、就労収入を隠ぺいする意図があったものと認めざるを得ない。
 これは、課長通知2-④の「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当し、審査請求人は保護費を不当に受給しようとする意思をもって課長通知に該当する行為を行ったと認められる。
 以上から、審査請求人の未申告収入に法第78条の規定を適用した本件処分に違法又は不当な点は認められない。
4 結論
 以上のとおり、本件審査請求は理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、主文のとおり裁決する。

平成30年5月14日
審査庁 大阪市長  吉村 洋文

裁決書(平成30年度答申第3号)

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