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答申書(平成30年度答申第9号)

2023年2月17日

ページ番号:445032

諮問番号:平成29年度諮問第21号
答申番号:平成30年度答申第9号

答申書

第1  審査会の結論
 本件審査請求は棄却されるべきである。

第2  審査請求に至る経過
1 平成19年10月9日、大阪市○○区保健福祉センター所長(以下「処分庁」という。)が審査請求人に対し、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)による保護を開始した。
2 平成28年12月28日、処分庁が審査請求人に対し、前の住居の賃貸借契約解約に伴う返戻金(以下「本件返戻金」という。)の有無について確認を行ったところ、審査請求人は、本件返戻金が無かった旨返答したが、処分庁が事実確認をしたい旨伝えたところ、体調を理由に拒否し、処分庁において調べることを求めた。
3 平成29年1月13日、処分庁が審査請求人に対し、本件返戻金について質問したところ、審査請求人は、受け取っていないと思うが記憶にないと返答した。
4 平成29年2月10日、処分庁がA銀行株式会社より、審査請求人名義の口座の出入金記録に関する法第29条に基づく照会に対する回答を受領し、同回答には、平成25年○月○日に、B株式会社から○○円との入金記録の記載があった。
5 平成29年3月22日、処分庁が審査請求人に対し、法第78条に基づく徴収金決定処分(以下「本件処分」という。)を行った。
6 平成29年3月31日、審査請求人が大阪市長に対し、本件処分の取消しを求める審査請求をした。

第3  審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1  審査請求人の主張
 審査請求人の主張は、徴収金決定書記載の事実は認めておらず、本件返戻金が入金されていたことを知らなかったし、前住居の敷金は弟に出してもらっており、本件返戻金が戻ってきた際に弟はすでに死亡していたことから、姪に返してしまって手元に残っていないため本件処分の取消しを求める、というものである。
2 処分庁の主張
(1) 審査請求人は、審査請求の理由として、事実を認めていないと述べている。
 しかし、「本件処分に至るまでの経過」で申し述べたとおり、審査請求人の前住居の敷金解約返戻に関わり疑義が生じて、処分庁にて法第29条に基づいた調査を行った結果、A銀行の預金口座において、平成25年○月○日に振込入金による収入があった事が判明したものであり、処分庁による幾度の聴取と証明(申告)書の提出により互いに事実確認を行った後、本件返戻金の発生を審査請求人は理解のうえ、返還決定に応じているものである。
(2) 「本件処分に至るまでの経過」に記載のとおり、平成29年3月22日付けで決定した、返還金・徴収金決定は、事前に届出や申告の無かった収入について法第78条に基づき徴収金決定を行ったものであり、本件処分に違法や不当な点はない。
3  審理員意見書の結論
 本件審査請求には理由がないため、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
4  審理員意見書の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア 法第4条は、生活保護制度における基本原理の一つである「保護の補足性」について規定しており、その第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めている。また、法第5条は、「この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基いてされなければならない。」と定めている。
イ 法第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。」と定めている。
 これは、生活保護制度により保障されるべき最低限度の生活は、生活保護法による保護の基準(昭和38年4月1日厚生省告示第158号。以下「保護の基準」という。)によって、要保護者各々について具体的に確定され、その保護の程度は、保護の基準によって測定された需要と要保護者の資力(収入)とを対比し、その資力で充足することのできない不足分について扶助されることを定めているものである。
ウ 法第28条及び第29条で保護の実施機関には積極的な調査権限が付与されているが、併せて、法第61条では、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と規定し、被保護者に対し、届出の義務を課している。
エ 法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と規定している。
オ 生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて(平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。以下「課長通知」という。)の「2 法第78条に基づく費用徴収決定について」では、法第78条の条項を適用する際の基準について、「①保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき、②届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき、③届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき、④課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」と示されている。
カ 生活保護問答集について(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡)の問13-22の答において、法第78条による「徴収額は、不正受給額を全額決定するものであり、法第63条のような実施機関の裁量の余地はないもの」とされており、また、問13-25の答において、「法第78条に基づく費用の徴収は、いわば損害追徴としての性格のものであり、法第63条や法第77条に基づく費用の返還や徴収の場合と異なり、その徴収額の決定に当たり相手方の資力(徴収に応ずる能力)が考慮されるというものではない」と示されている。
(2) 本件処分について
ア まず、平成26年8月11日や平成28年12月28日に、処分庁が審査請求人に対し、生活保護のしおりを用いて制度の説明をし、説明を受けてしおりを受け取ったことに関する審査請求人の署名・捺印がなされた事実が認められる。
イ また、平成平成26年8月11日や平成29年1月13日には、処分庁が審査請求人に対し、「生活保護法第61条に基づく収入の申告について(確認)」を用いて収入申告の義務等について説明をし、説明を受け理解したことに関する審査請求人の署名・捺印がなされた事実が認められる。
ウ よって、審査請求人は、収入申告の必要性に関し理解していたものと認められるが、B株式会社からA銀行a支店の審査請求人名義の口座に入金された○○円に関し、処分庁に申告していなかった。
エ この点、処分庁が、平成28年12月28日に、本件返戻金の有無について審査請求人に確認した際には、審査請求人が無いと返答したため、本件返戻金が無かった事実を確認したいという指示をしたところ、審査請求人は、体調が悪いので処分庁において調べて欲しいと返答している。
 また、処分庁が、平成29年1月13日に、本件返戻金について審査請求人に確認した際には、受け取っていないと思うが記憶にないと返答しているところ、少なくともこの時点では、○○区保健福祉センターに来所できる体調であったことから、通帳を確認した上で、申告することは可能であったと考えられるが、直近の面談時である平成28年12月28日に無いと言い切っていた件について、記憶にないと返答している。
オ これらの経過を踏まえ、処分庁が法第29条に基づく調査を行ったところ、本件返戻金が発覚したものであるから、課長通知2法第78条に基づく費用徴収決定について③の「届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じ」なかったものに該当すると考えられ、法第78条の条項を適用した処分庁の判断に、違法又は不当な点は認められない。
カ 審査請求書において審査請求人は、現在の○○の現住居へ転居してきた当時の担当者から、前住居の賃貸借契約の解約に伴う敷金の件を聞かれたが、身元引受人であるC氏に通帳やキャッシュカードなど大事な物を預けていたため、入金があったことさえ知らなかったと主張しているが、○○の現住居へ転居してきて以降のケース記録票には、審査請求人が主張している事実の記載は見受けられない。
 また、再反論書において審査請求人は、前住居の保証金についてC氏が出資したものであり、入金があった際に自身で口座から出金し、姪であるD氏に返したため、手元には本件返戻金が残らなかったと主張し、審査請求人と一緒に銀行に行って引き出したとの内容が記載され、D氏の署名捺印がされた書類を添付しているが、死亡したD氏の父が保証金を負担したことに関する他の資料は提出されなかった。
 このように、審査請求人の主張する事実を確認することはできないが、そもそも、審査請求書と再反論書における審査請求人の主張には一貫性がないため、この点においても審査請求人の主張を採用することはできない。
(2) 上記以外の違法性又は不当性についての検討
 他に本件処分に違法又は不当な点は認められない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  平成30年1月18日 諮問書の受理
  平成30年2月23日 調査審議(審査庁の口頭説明、処分庁の陳述)
  平成30年3月19日 調査審議(審査請求人の口頭意見陳述)
  平成30年4月13日 調査審議

第5 審査会の判断
1 本件に係る法令等の規定について
 前記第3の4(1)に記載のとおりであると認められる。なお、課長通知では「法第78条に基づく費用徴収決定について」として、「法第63条は、本来、資力はあるが、これが直ちに最低生活のために活用できない事情にある要保護者に対して保護を行い、資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で既に支給した保護金品との調整を図るために、当該被保護者に返還を求めるものであり、被保護者の作為又は不作為により保護の実施機関が錯誤に陥ったため扶助費の不当な支給が行われた場合に適用される条項ではない。被保護者に不当に受給しようとする意思がなかったことが立証される場合で、保護の実施機関への届出又は申告をすみやかに行わなかったことについてやむを得ない理由が認められるときや、保護の実施機関及び被保護者が予想しなかったような収入があったことが事後になって判明したとき等は法第63条の適用が妥当であるが、法第78条の条項を適用する際の基準は次に掲げるものとし、当該基準に該当すると判断される場合は、法第78条に基づく費用徴収決定をすみやかに行うこと。」と述べたうえで、前記第3、4、(1)、オの基準が示されている。
2 争点
 審査請求人及び審査庁、処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は次のとおりである。
(1) 本件返戻金は収入認定すべき収入に当たるか。(争点1)
(2) 審査請求人は保護費を不当に受給しようとする意思をもって、申告すべき収入を申告していなかったと認められるか。(争点2)
3 争点1について
 前記第3、4、(1)、アのとおり、保護の補足性について定めた法第4条第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と規定されている。そして、かかる法の規定からすると、収入認定すべき収入にあたるか否かは、その金銭を得たことにより、被保護者の最低限度の生活の維持のために活用可能な資産が増加したか否かの観点から検討すべきこととなる。
 審査請求人は、前住居の保証金(敷金)は弟が出しており、本件返戻金は一旦口座に入ったものの、その場で弟の娘である姪に返して手元に残っていないと主張しており、そうであるとすると、最低限度の生活の維持のために活用可能な資産が増加したか否かの観点から、本件返戻金が収入認定すべき収入に当たらない可能性があるため、当審査会では審査請求人のかかる主張について検討を行った。
 事件記録によると、前住居の賃貸借契約書では、保証金は借主である審査請求人が貸主であるB株式会社に預け入れることとされており、借主の欄には審査請求人の名前が記載されていることから、形式的には本件保証金は審査請求人が出捐したと考えられる。よって、本件返戻金は審査請求人が預け入れた保証金が返還されたものと考えることができる。なお、審査請求人は、保証金を弟に出してもらった旨述べるが、それを認定できる証拠はなく、また、本件では、賃貸借契約書上保証金の出捐者は審査請求人と考えざるを得ないことから、法的な結論は変わらない。
 したがって、本件返戻金により審査請求人の金銭は増加しており、最低限度の生活の維持のために活用可能な資産が増加したと考えられることから、本件返戻金は収入認定すべき収入であると認められる。
4 争点2について
 法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け」た者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収することを規定している。ここでいう「不実」とは、積極的に虚構の事実を構成することはもちろん、消極的に真実を隠ぺいすることも含まれると解されている。また、課長通知では、「被保護者に不当に受給しようとする意思がないことが立証される場合で、保護の実施機関への届出又は申告をすみやかに行わなかったことについてやむを得ない理由が認められるとき」等は、「法第63条の適用が妥当である」と示されている。以上から、法第78条の適用にあたっては保護費を不当に受給しようとする意思があることが求められるとともに、課長通知における各基準はその客観的事情を示しているものと解され、かかる解釈に不合理な点はない。
 こうしたことを踏まえ、当審査会では、審査請求人が保護費を不当に受給しようとする意思をもって、課長通知の基準に該当する行為を行ったことが認められるかという点について、本件の事実関係に照らして検討を行った。
 処分庁の陳述によると、処分庁は、保護開始時の平成19年10月9日に生活保護のしおり等を用いて収入申告義務の説明を行っており、また、審査請求人自身、口頭意見陳述において、保護開始時に収入申告義務について聞いたと思うと証言している。よって、審査請求人は収入申告義務について理解していたと認められる。
 また、事件記録によると、審査請求人は平成28年12月28日に本件返戻金について処分庁の担当者から聞かれた際に、「有りません」と答えて、自ら調査を行うことなく、処分庁の調査に委ねる旨を述べている。なお、この点に関しては、審査請求人の反論書及び口頭意見陳述の陳述内容も矛盾していない。なお、審査請求人は、審査請求書において、本件返戻金についてA銀行に入金があった事さえ知らなかった旨主張しているが、事件記録から、本件返戻金の入金の翌々日に全額引き出しを行っていることが認められ、また、審査請求人自身、口頭意見陳述において、本件返戻金があることを事前に知っており、引き出しも審査請求人自身で行った旨述べている。
 以上の事実から、平成28年12月28日の処分庁担当者による本件返戻金に関する聞き取りの時点で、一時的にせよ本件返戻金を隠ぺいし、保護費の返還を免れることを企図したと認めざるを得ない。
 これは、課長通知の③「届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき」に該当し、保護費を不当に受給しようとする意思をもって申告すべき収入を申告しなかったと認められる。
5 小括
 以上から、審査請求人の未申告収入について法第78条の規定を適用した本件処分に違法又は不当な点は認められない。
6 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
7 結論
 よって、本件審査請求は理由がないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。
8 付言
 処分庁は、被保護者が引っ越した段階で敷金返還の有無を確認し、返還金があれば速やかに収入申告を促す等事務の改善を図られたい。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第1部会
 委員(部会長) 田中宏、委員 内山由紀、委員 片桐直人

答申書(平成30年度答申第9号)

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