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平成30年7月23日付け裁決(答申第6号)

2023年2月17日

ページ番号:445036

裁決書

審査請求人
○○○○
処分庁
大阪市○○区保健福祉センター所長

 審査請求人が平成29年2月23日に提起した処分庁による生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第78条の規定に基づく徴収金決定処分(○○第○○号。以下「本件処分①」という。)に係る審査請求(以下「本件審査請求①」という。)及び平成29年3月6日に提起した処分庁による法第78条の規定に基づく徴収金決定処分(○○第○○号。以下「本件処分②」という。)に係る審査請求(以下「本件審査請求②」という。)ついて、次のとおり裁決する。

主文
 本件審査請求①に係る本件処分①を取り消し、本件審査請求②を棄却する。

事案の概要
1 平成17年3月30日、処分庁が審査請求人に対し、法による保護を開始した。
2 平成26年2月4日、審査請求人が処分庁に対し、平成25年○月から○月まで収入がない旨の収入申告書を提出した。
3 平成27年7月3日、審査請求人が処分庁に対し、平成27年○月から○月まで収入がない旨の収入申告書を提出した。
4 平成28年10月26日、処分庁がA銀行a支店から、審査請求人名義の口座の出入金記録に関する法第29条に基づく調査に対する回答を受理し、同回答の中には、平成25年○月○日に「有限会社B」から○○円(以下「本件収入①」という。)、平成27年○月○日に「C」から○○円(以下「本件収入②」という。)の入金記録の記載があった。
5 平成29年1月27日、処分庁が審査請求人に対し、本件収入①に関し、本件処分①を行った。
6 平成29年2月23日、処分庁が審査請求人に対し、本件収入②に関し、本件処分②を行った。
7 同日、審査請求人が大阪市長に対し、本件処分①の取消しを求める本件審査請求①をした。
8 平成29年3月6日、審査請求人が大阪市長に対し、本件処分②の取消しを求める本件審査請求②をした。

審理関係人の主張の要旨
1  審査請求人の主張
(1)本件審査請求①について
 引越を決定した時点において当該行為に関わる法律の存在及び内容を把握していなかった。また、ケースワーカーから本件に係るアドバイスも一切なかった。
 生活保護を受給し始めた時点において、この法律について知っているはずと言われたが、そもそも詳細を把握できる精神状態であれば生活保護を受けていない。
 また、転居前の住居は精神衛生上良くないと思われる点はケースワーカーも指摘しており、理に適っていると思われる。敷礼金の返還額と新居にかかる敷礼金額が同額であったため転居に踏み切ったのであり、手元に余分な金銭は一切残っておらず、この点からも今回は免除、若しくは減免の措置を講じて頂きたい。
(2)本件審査請求②について
 パソコンの処分によって発生した○○円は全て次のパソコン購入の費用に充当されており、不正に余剰所得を得ようとしたわけではない。
 本件審査請求①の引越の件と同じく、パソコンの処分を決定した時点において当該行為に関わる法律の存在及びその内容を把握していなかった。
 また、現実的に引越費用やパソコン代金を今更返せと言われても生活費の中から捻出するのは非常に困難であり、是非とも斟酌頂きたい。
 以上のことから、返還請求は免除若しくは大幅に減免されてしかるべきと思われる。
2 処分庁の主張
(1)本件審査請求①について
 まず、法が保障する最低限度の生活に含まれる転居に関しては、法に基づき発出された生活保護法による保護の実施要領について(昭和38年4月1日社発第246号厚生省社会局長通知)第7-4-(1)-カ及び生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知。以下「昭和38年課長通知」という。)第7の問30に列挙されており、これらのいずれかに該当する場合には、敷金等の費用が支給されるところ、審査請求人が平成25年に行った転居は、単に古い賃貸住宅(古いとはいえ居住にたえないというものではない。)から新しい賃貸住宅に転居したいというものであり、これらの要件には該当していない。
 すなわち、審査請求人の転居は、法が保障する最低限度の生活を超えるものであったのであり、法が保障しておらず、住宅扶助費の支給がない以上、審査請求人はその費用を、最低生活費から捻出することが求められるのである。
 ところで、保証金の返還金については、収入として認定されるものであり、当該返還金を転居の際の敷金等に当てて良いのは、処分庁が転居を指導又は指示した場合に限られる(昭和38年課長通知第7の問31)。審査請求人については、処分庁は転居が必要とは判断しておらず、当然、転居指導も行っていないのであるから、保証金の返還金は収入として認定されることになる。
 以上のとおり、審査請求人の転居に関しては、保証金の返還金収入も含めて算定された最低生活費から敷金等を支出する必要があり、保証金の返還金は、仮に、法第78条に基づく徴収金の決定にならなかったとしても、法第63条に基づく返還決定は免れないものである。
 次に、保護費の支給に優先する審査請求人の収入である保証金の返還金を法第78条に基づき徴収することを決定した点については、生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて(平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省保護課長通知。以下「平成24年課長通知」という。)の2において、「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」は、法第78条に基づく費用徴収決定をすみやかに行うこととされているところ、本件では、処分庁の法第29条に基づく照会により、審査請求人が申告した平成25年○月の収入の内容に虚偽があることが判明したものである。
 この点、処分庁は審査請求人に対し、どんな収入でも申告するよう保護開始時に説明しているし、本件入金後にも、保護費以外の収入は全て申告するよう説明していることから、審査請求人には処分庁に本件入金の申告を行う十分な期間があったといえる。
 それにも関わらず審査請求人は申告を行わなかったのであるから、審査請求人は法第78条の規定する不実の申請、その他不正な手段により保護を受けたものというほかない。
 そのため、本件では法第78条の規定に基づき費用を徴収すべきであって、この場合、処分庁は必要最小限の経費を除き全額を徴収すべきとされており、裁量の余地はないと解されていることから、審査請求人の求めるような全額又は一部の徴収を免除することはできない。
(2)本件審査請求②について
 まず、平成27年○月○日の入金については、古いパソコンの下取りなどではなく、単純に審査請求人が売却した代金に過ぎず、審査請求人の平成27年○月の活用できる資力は明らかに増加しているのであるから、仮に、法第78条に基づく徴収金の決定にならなかったとしても、法第63条に基づく返還決定は免れないものである。
 次に、保護費の支給に優先する審査請求人の収入であるパソコンの売却代金を法第78条に基づき徴収することを決定した点については、平成24年課長通知の2において、「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」は、法第78条に基づく費用徴収決定をすみやかに行うこととされているところ、本件では、処分庁の法第29条に基づく照会により、審査請求人が申告した平成27年○月の収入の内容に虚偽があることが判明したものである。
 この点、処分庁は審査請求人に対し、どんな収入でも申告するよう保護開始時に説明しているし、平成26年7月28日にも、保護費以外の収入は全て申告するよう説明していることから、審査請求人には処分庁に本件入金の申告を行う十分な期間があったといえる。
 それにも関わらず審査請求人は申告を行わなかったのであるから、審査請求人は法第78条の規定する不実の申請、その他不正な手段により保護を受けたものというほかない。
 そのため、本件では法第78条の規定に基づき費用を徴収すべきであって、この場合、処分庁は必要最小限の経費を除き全額を徴収すべきとされており、裁量の余地はないと解されていることから、審査請求人の求めるような全額又は一部の徴収を免除することはできない。

理由
1 本件に係る法令等の規定について
(1)法第4条は、生活保護制度における基本原理の一つである「保護の補足性」について規定しており、その第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めている。また、法第5条は、「この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基づいてされなければならない。」と定めている。
(2)法第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。」と定めている。
 これは、生活保護制度により保障されるべき最低限度の生活は、生活保護法による保護の基準(昭和38年4月1日厚生省告示第158号。以下「保護の基準」という。)によって、要保護者各々について具体的に確定され、その保護の程度は、保護の基準によって測定された需要と要保護者の資力(収入)とを対比し、その資力で充足することのできない不足分について扶助されることを定めているものである。
(3)法第28条及び第29条で保護の実施機関には積極的な調査権限が付与されているが、併せて、法第61条では、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と規定し、被保護者に対し、届出の義務を課している。
(4)法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と規定している。
(5)平成24年課長通知の「2 法第78条に基づく費用徴収決定について」では、「法第63条は、本来、資力はあるが、これが直ちに最低生活のために活用できない事情にある要保護者に対して保護を行い、資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で既に支給した保護金品との調整を図るために、当該被保護者に返還を求めるものであり、被保護者の作為又は不作為により保護の実施機関が錯誤に陥ったため扶助費の不当な支給が行われた場合に適用される条項ではない。被保護者に不当に受給しようとする意思がなかったことが立証される場合で、保護の実施機関への届出又は申告をすみやかに行わなかったことについてやむを得ない理由が認められるときや、保護の実施機関及び被保護者が予想しなかったような収入があったことが事後になって判明したとき等は法第63条の適用が妥当であるが、法第78条の条項を適用する際の基準は次に掲げるものとし、当該基準に該当すると判断される場合は、法第78条に基づく費用徴収決定をすみやかに行うこと。」と述べたうえで、法第78条の条項を適用する際の基準について、「①保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき、②届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき、③届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき、④課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」と示されている。
(6)生活保護問答集について(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「問答集」という。)の問13-22の答において、法第78条による「徴収額は、不正受給額を全額決定するものであり、法第63条のような実施機関の裁量の余地はないもの」とされており、また、問13-25の答において、「法第78条に基づく費用の徴収は、いわば損害追徴としての性格のものであり、法第63条や法第77条に基づく費用の返還や徴収の場合と異なり、その徴収額の決定に当たり相手方の資力(徴収に応ずる能力)が考慮されるというものではない」と示されている。
2 争点
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求①、②における争点は、審査請求人が本件収入を申告しなかったことが「不実の申請その他不正な手段」といえるか否かである。
3 争点について
(1)平成24年課長通知2-④の該当性について
 処分庁は、平成24年課長通知2-④の「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当すると主張していることから、以下該当性について検討する。
 ここで、平成24年課長通知では、「被保護者に不当に受給しようとする意思がないことが立証される場合で、保護の実施機関への届出又は申告をすみやかに行わなかったことについてやむを得ない理由が認められるとき」等は、「法第63条の適用が妥当である」と示されていることから、法第78条の適用にあたっては保護費を不当に受給しようとする意思があることが求められるとともに、各適用基準はその客観的事情を示していると解され、かかる解釈に不合理な点はない。
 また、被保護者が法第61条に基づく届出義務がある収入と認識しながら当該収入を記載しない収入申告書を提出した場合には、当該収入申告書が虚偽であると認められ、被保護者に保護費を不当に受給しようとする意思があると解される。
(2)本件審査請求①について
 まず、本件収入①が未申告であること、本件収入①が敷金(保証金)の返還金であることについては、争いのないところである。そして、敷金の返還がなされれば被保護者の活用可能な資産が増加したといえるから、本件収入が収入認定すべき収入であることは、明らかである。
 そして、処分庁は、平成17年3月30日の保護開始時に、審査請求人にどんな収入でも申告するよう説明したと主張する。しかし、「敷金の返還金については、自ら預託した金銭から修繕費等を引かれて返還されるものであり、通常は、自らの金銭が返ってきただけと認識し得ることから、一般的な意味での「収入」とは性質を異にする。さらに、事件記録によれば、本件では、審査請求人は当初より旧住居の敷金返還金を新住居の敷礼金に充当しようとしていたことが認められることから、前住居の敷金返還額が新住居の敷礼金額を上回る場合はともかくとして、同額あるいは、新住居の敷礼金額の方が多い場合には、敷金の返還金について収入であると審査請求人が認識できなかったとしてもやむを得ないというべきである。さらに、事件記録によれば、審査請求人は、保護開始時に、処分庁に対して賃貸借契約証書等の資料一式を提出していることが認められ、処分庁としては、審査請求人が転居すれば、当然に敷金の返還がありうることについて把握していたといえ、また、審査請求人は、新住居への転居日である平成25年○月○日に来所の上、ケースワーカーに転居した旨告げるとともに、「手続きとして何をしなければならないか教えてほしい」と尋ね、それに対して、ケースワーカーは、賃貸借契約書と住宅費証明書の提出及び住民票の異動を行うことを伝えているものの、敷金の返還金についての収入申告義務については触れた形跡は認められない。かかる事実は、敷金については、処分庁でさえ、収入として届出が必要との認識に至らなかったことを示す事情であり、審査請求人の主張を裏付けるものである。よって、審査請求人が、本件収入①について、届出義務がある収入と認識していたとまでは認められない。
 また、上述の通り、処分庁としては、審査請求人が転居すれば、当然に敷金の返還がありうることについて把握していたといえる。さらに、上述の通り、審査請求人は、新住居への転居日である平成25年○月○日に来所の上、ケースワーカーに転居した旨を告げている。これらの事実から、遅くとも審査請求人から転居の報告があった時点で、処分庁は収入①の発生があり得ることについて把握できたわけであるから、平成24年課長通知2-④の「課税調査等により…判明した」と言うことはできない。
 よって、平成24年課長通知2-④の「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」には該当しない。
 にもかかわらず、法第78条を適用して審査請求人に保護費の返還を求めた本件処分①は要件を欠き、違法であるといわざるを得ない。
(3)本件審査請求②について
 本件収入②が未申告であること、本件収入②がパソコンを売却して得た代価であることについては、争いのないところである。そして、代価を得れば被保護者の活用可能な資産が増加したといえるから、本件収入が収入認定すべき収入であることは、明らかである。
 なお、事件記録によれば、審査請求人は、本件収入②は全て次のパソコンの購入費用に充当されていることから余剰所得を得ようとしたわけではないと主張するが、本件収入②については、自身の所有物を売却して得た代価であり、一般的な意味でも「収入」と考えられるものであることから、届出義務がある収入と認識していなかった理由としては認められない。
 また、事件記録によれば、平成26年7月28日に、処分庁が、審査請求人に対し、「生活保護のしおり」をもとに、保護費以外の収入は全て申告するよう説明を行っており、審査請求人が本件収入②を得た時点で、収入申告義務について認識していたと認められる。にもかかわらず、審査請求人は、第2、3のとおり、本件収入②について、収入申告書に記載しなかった事実が認められる。
 そして、事件記録によれば、当該事実は、審査請求人の銀行口座に対し処分庁が法第29条による調査を行ったことを契機として判明したことが認められる。なお、本件収入②は、本件収入①とは異なり、処分庁としても、審査請求人からの申告がなければ把握できなかった収入である。
 よって、平成24年課長通知2-④の「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当し、収入申告義務を認識していながら、保護費を不正に受給しようとする意思をもって申告すべき収入を申告していなかったと認められる。
 以上のとおり、審査請求人の主張に理由はなく、本件処分②を取り消すべき事由は認められない。
4 結論
 よって、本件審査請求①は理由があると認められ、本件審査請求②は理由がないと認められるので、行政不服審査法第45条第2項及び第46条第1項の規定により、主文のとおり裁決する。

平成30年7月23日
審査庁 大阪市長  吉村 洋文

裁決書(平成30年度答申第6号)

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