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答申書(平成30年度答申第12号)

2023年2月17日

ページ番号:451297

諮問番号:平成30年度諮問第7号
答申番号:平成30年度答申第12号

答申書

第1  審査会の結論
 本件審査請求は棄却されるべきである。

第2  審査請求に至る経過
1 平成29年6月8日、審査請求人は、処分庁であるA区長に対し、住民異動届の「届出の理由」欄に「転居届」、「これからの住所」欄に「大阪市A区○○●丁目○○(以下「本件場所」という。)」と記載し提出した。
 なお、転居届とは、市町村(政令指定都市である大阪市においては区)間にわたって住所を変更することなく、一の市町村の区域内において住所を変更することとされており、審査請求人について、住民登録がなされている住所がA区にないため、「転居届」という記載はあるものの、処分庁は、「転入届」が提出されたものと扱った(以下、審査請求人が処分庁であるA区長に対して提出した住民異動届を「本件転入届」という。)。
2 平成29年7月6日、処分庁は、本件転入届に記載された本件場所について、河川法(昭和39年法律第167号)上の一級河川である○○川の区域内の土地であり健全な社会通念に基礎づけられた住所としての定型性を具備していると評価できず、住民基本台帳法(昭和42年法律第81号。以下「住基法」という。)のいう住所としては認められないものとして、本件転入届の受理をしないことを決定(以下「本件処分」という。)し、同日付けで審査請求人に対し通知した。
3 審査請求人は、平成29年7月12日、大阪市長に対し、処分庁が行った本件処分の取消しを求める審査請求をした。

第3  審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1 審査請求人の主張
 審査請求人は、本件審査請求において次のとおり主張している。
(1) 国土交通省近畿地方整備局長(以下「国土交通省」という。)に対し河川法第24条、同法第26条第1項に係る許可申請をしているが、未だに当該申請についての判断が示されていない。処分庁は同省への当該申請の有無ないし許否を確認せずに本件処分を行っており日本国憲法(昭和21年11月3日公布(以下「憲法」という。))第31条違反である。
(2) 眠るための住居を有する土地の使用が許されなければ、幸福追求権を保障した憲法第13条、居住の自由を保障した同法第22条第1項に違反する。
(3) 同使用が許されなければ、雨風に打たれ歩きながら眠ること、若しくは歩きながら眠ることの強要となり、意に反する苦役を禁じた憲法第18条に違反する。また、適正手続を保障する同法第31条に違反する。
(4) 憲法第27条第1項は人民に対し、勤労を義務付けて不労所得を禁じているが、家賃収入は不労収入であり、家主・地主が収入を得るためにその私有地を利用することは憲法第27条第1項に反している。
(5) 憲法第29条第2項は公共の福祉に適合しない私有財産の使用を禁じており、家主・地主が収入を得るためにその私有地を利用することは同法第29条第2項に反している。
(6) 憲法が極東アジアに居住する人民に対し、家主・地主に金銭を支払うことなく居住を有するための土地を使用する権利を保障していることが明らかであり、具体的にその権利は、憲法第13条、同法第22条第1項に内在されていることは明らかである。
(7) 扇町公園住所裁判控訴審判決(大阪高裁平成18年(行コ)第10号同19年1月13日判決・判例時報1976号34頁)を前提としたところで、本件処分には裁量の逸脱がある。本件場所に設置の家は建築基準法に適合する頑強な構造を有しており容易に撤去・移転されない。また独立した電気設備、独立した排せつ設備がある。水道設備を依存していない(飲料水は購入し、洗濯はコインランドリーで行っている。)。
(8) 河川敷に建設された住居につき、政府機関が行政代執行手続をもって強制的に撤去したことは一度もない。また、河川法は同法が適用される土地に住居が建設されることを前提にしている
(9) 本件処分は、河川敷に建てられた小屋を所在地に住居とする住民異動届について受理してきたこれまでの行政実例に反している。
2 処分庁の主張等
 処分庁は、審査請求人がなした主張のうち(2)乃至(6)の主張については、本決定に関わらないとし、(1)及び(7)乃至(9)については次のとおり主張している。
(1) 審査請求人からの主張(1)について
 本件処分の根拠は、次の「ア」「イ」のとおりであり、審査請求人の主張する手続上の瑕疵はないものと考える。
ア  建物と設備について
 建物は、金属製単管等が組み合わされて構築されたものであり、雨風をしのぐことができるものであると認められる。また、電気設備については審査請求人から発電機を使用している旨説明を受けた(発電機の所在は確認をしていない。)。 
 しかし、排泄設備・水道設備については、下水管及び排水管がないことを大阪市建設局及び同市水道局図面により確認できている。このことから通常の日常生活に必要な最低限の設備を備えておらず、その場所で日常生活を営むためには他の設備・手段に依拠しなければならないものであるといえる。
イ  本件場所について
 本件場所は河川法第4条にいう1級河川である○○川の河川敷にあり、河川法第6条にいう河川区域の区域内の土地に当たる。河川法第24条は、同法第6条にいう河川区域の区域内の土地を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない旨を規定し、また、同法第26条第1項は、河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない旨を規定している。
 これらの規定に違反し、河川管理者の許可を受けることなく河川区域の区域内の土地を占用して工作物を新築するなどした場合、河川管理者は、同法第75条第1項の規定により、当該違反した者に対して、当該工作物の除却等を命ずることができるとされている。
 本件場所及び本件建物について同法第24条の審査基準である河川敷地占用許可準則に照らすと、同準則第8には「工作物の設置、樹木の栽植等を伴う河川敷地の占用は、治水上又は利水上の支障を生じないものでなければならない。」、第9には「河川敷地の占用は、他の者の河川の利用を著しく妨げないものでなければならない。」とあり、これらの規定に反するものと判断できる。また、同法第26条第1項の審査基準である工作物設置許可基準第3の1の「当該工作物の機能上、河川区域に設ける以外に方法がない場合又は河川区域内に設置することがやむを得ないと認められる場合」ではないと判断できる。これらのことから、本件場所及び本件建物について、一般的に同法第24条及び第26条第1項の許可がなされるものではないと認識している。
 本件処分を行うにあたっては、河川管理者である国土交通省に問い合わせを行い、同条項にかかる許可を行っている居住を目的とした物件はない旨回答を得ており、これらの事実からすると、審査請求人は、河川管理者の許可を受けることができない様態で、河川区域内の土地に当たる本件場所を占用して本件建物を建て、そこを起居の場所としているため、河川管理者から本件建物の除却等を命ぜられ本件建物を起居の場所として使用することができなくなりうる不安定な立場にあるといえる。
(2) 審査請求人からの主張(7)について
 本件建物及び設備については、上記(1)アのとおり。
(3) 審査請求人からの主張(8)について
 また、河川法は第1条で「この法律は、河川について、洪水、津波、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用され、流水の正常な機能が維持され、及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理することにより、国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進することを目的とする。」とその目的を定めている。また、同法第2条第1項では「河川は、公共用物であって、その保全、利用その他の管理は、前条の目的が達成されるように適正に行なわれなければならない。」としている。これら各条項の趣旨を鑑みると、住居が建設されることを前提にしていると解することはできないと認識している。
(4) 審査請求人からの主張(9)について
 本件処分は、「本件建物は雨風をしのぐことができるものであるということはできるものの、人の通常の日常生活に必要な最低限の設備が備えておらず、本件建物が河川管理者の許可を受けることができない様態で、河川区域内の土地に建設されたものであると判断できることから、客観的に定型性を具備していると評価することはできない。よって、本件場所は住民基本台帳法にいう住所として認められるものではない」と判断している。
3 審理員意見書の結論
 本件処分は、法令の規定及びその解釈に従い適正になされたものであり、何ら違法又は不当な点は存在せず、また本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
4 審理員意見書の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア  住基法第3条第3項において、「住民は、常に、住民としての地位の変更に関する届出を正確に行うよう努めなければならず、虚偽の届出その他住民基本台帳の正確性を阻害するような行為をしてはならない。」とされ、また同法第22条においては、転入(新たに市町村の区域内に住所を定めることをいい、出生による場合を除く。)した者は、転入をした日から14日以内に「氏名」「住所」「転入した年月日」等を市町村長に届け出なければならないと規定し、住民自らによる住民基本台帳の正確性の確保及び住所の異動に関する届出義務について責任を負うとされている。
イ また、同法第4条において、(住民の住所に関する法令の解釈)として、「住民の住所に関する法令の規定は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第十条第一項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと解釈してはならない。」とされ、総務省において定めている住民基本台帳事務処理要領(昭和42年10月4日自治省行政局長通知)では住所の認定にあたっては、客観的居住の事実を基礎とし、これに当該居住者の主観的居住意思を総合して決定する。住所の認定に疑義または争いがあるときは、事実の調査を行い、その真実の発見に努めるものとするとされている。
ウ 住民基本台帳法施行令(以下「住基法施行令」という。)第11条において、市町村長は、転入等の届出があったときは、当該届出の内容が事実であるかどうかを審査して、第7条から第10条までの規定による住民票の記載、消除又は記載の修正(以下「記載等」という。)を行わなければならないとされている。さらに、住基法第34条第2項において、区長は、必要があると認めるときは、いつでも「氏名」「住所」等の住民票の記載事項等について調査をすることができるとされている。
エ 河川における占用の許可については、河川法第24条において、「河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く。以下次条において同じ。)を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。」とされ、工作物の新築等の許可については、同法第26条第1項において、「河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。河川の河口附近の海面において河川の流水を貯留し、又は停滞させるための工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者も、同様とする。」と規定されている。
(2) 本件場所が、住民基本台帳法にいう住所たりうるか否かの検討について
ア 本事案については、「第2 審査請求に至る経過」のとおり、審査請求人が平成29年6月8日に処分庁に対し提出した本件転入届について、当該届書「これからの住所」欄に記載された所在地が住所たりうるか否かが争点となっている。そのため審査請求人が主張している「第3 1審査請求人の主張」のうち、(2)乃至(6)の主張については、本件処分に直接関わるものでないとして処分庁は本決定の判断に関わらないとしている。
 処分庁が判断に関わらないとしている審査請求人からの主張は、眠るための土地の使用が許されなければ憲法第13条、居住の自由を保障した同法第22条第1項に違反するものであること、また雨風に打たれ歩きながら眠ることの強要となり同法第18条に違反すること、家主等が収入を得るために私有地を利用することや、公共の福祉に適合しない使用は同法第29条第2項に違反すること、憲法が家主等に金銭を支払うことなく居住を有するための土地を使用することを保障しているなどの内容とされている。
 このうち、審査請求人が国土交通省になしたとされる河川法第24条及び第26条第1項の許可申請について、許可がなされなければ、居住の自由を保障した憲法第22条第1項に違反する旨の主張について、処分庁としては当該土地の使用の許可の許諾が憲法違反であるとする審査請求人の主張は国土交通省への申請の許諾に対するものであることから失当であり関わらないと判断したと考えられるところ、平成21年3月25日付け大阪地裁判決(大阪地裁平成18年(行ウ)第3号同21年3月25日判決・判例地方自治324号10頁)からも憲法第22条第1項は、私有地であると公有地であるとを問わず、他人の所有等する土地に権原なく居住する自由までを保障するものであると解することはできないとされており、本件については、審査請求人が河川法の規定による許可がなされていないまま、事前に河川区域内の土地を占用し又は工作物を新築するなど河川法の規定に違反をしており、また権限を有することなく本件場所に居住していることは明らかである。
 いずれにせよ、当該主張は、本件場所が住所として認められるか否かであることを検討する本旨からは脱した内容であると認められ、憲法第22条第1項の主張を含め処分庁が処分の決定に関わるものでないとした判断は妥当であると考えられる。
イ 住基法第4条は、住民の住所に関する法令の規定は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第10条第1項に規定する住所と異なる意義の住所を定めるものと解釈してはならない旨を規定し、同項は、市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とすると規定する。
 そこで、地方自治法第10条第1項にいう住所の意義について検討すると、およそ法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解釈をすべき特段の事由のない限り、その住所とは各人の生活の本拠(民法(明治29年法律第89号)第22条参照)をいうものと解されるところ、地方自治法第10条第1項にいう住所をこれと別異に解すべき特段の事由は見いだせない。
 したがって、地方自治法第10条第1項にいう住所とは、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である。
 そうであるとすれば、住基法にいう住所についても、同様に、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解される。
 以上から、住所の認定に当たっては、その者の客観的居住の事実を基礎として、これに当該者の主観的居住意思を総合したうえで、当該者の生活の本拠たる実体を具備しているか否かを社会通念に照らして判断し、これを決定することとなる。
 審査請求人は、処分庁が本件転入届の受理を行わないとした処分について、審査請求人が本件転入届を提出した日以後に行ったとされる河川法第24条及び同法第26条第1項の申請の有無及びその許諾の確認をすることなくなしたことは憲法に違反すると主張しているところであるが、住民異動の転入(転居)の届出については、あらかじめその届出を行うよう住基法において規定されている転出の届出とは相違し、転入があった事実について、転入をした日から14日以内に届け出ることを義務付けており、区長は届出があった日において、提出された届出の記載内容及びその様態について審査し受理をするのであるから、本件転入届出以前に、審査請求人が河川法に基づく許可申請を行い、仮に当該申請に対し国土交通省において許可処分がなされた事実が在るのであれば、その事実を処分庁に対し申し出、処分庁が客観的事実の要因の1つとして検討を行うことを求めることは考えうるものの、本件転入届提出日以降になしたとされる河川法の規定による申請の有無及び許諾について、処分庁が確認せずに処分を行ったことが憲法に違反であると主張することはその理由が見当たらず、何ら違法又は不当な点は存在しない。
 もとより、扇町公園住所裁判控訴審判決においても当事案とは環境等その状況の差異はあるものの、「居住事実以外の占有権限の有無をもって住所の概念を画すものでない」とされており、本事案にあっても当該許可申請の許諾のみによって住所認定の判断が左右されるものではないが、処分庁は、河川法第24条及び同法同条の審査基準、同法第26条第1項及び同法同条の審査基準による検討をあらためて行い、結果として当該申請への許可がなされるものでなく、よって社会通念に基礎づけられた住所としての定型性を具備していないと判断したものである。
 処分庁がなした本件転入届の不受理の決定の根拠は、処分庁の主張によると「ア 建物と設備について」のほかは、「イ 本件場所について」として、上記河川法に基づく許可申請の許諾にかかる処分庁としての見解が大きな要因を占めており、処分庁において「許可がなされるものでないと認識している」とされているものの、当該許可申請の許諾については、制度所管である国土交通省においてなされるものであり、当該許可申請の有無及び許諾について、本件を審理するに当たっては大きな要因を占めるものであると考え、処分庁から同省に対し、また審理員から同省に対し審査請求人が行ったとされる河川法第24条及び第26条第1項の申請に対する処分について物件の提出依頼を行ったところ、処分庁の見解と相違ない理由により不許可処分がなされていることが確認できた。
 これらの事実からすると、審査請求人は、河川管理者である同省からの許可を受けることなく河川区域内の土地に当たる本件場所を占用して本件物件を建て、そこを起居の場所としていることからも同法の規定に違反していることは明らかであり、国土交通省から本件建物の除去等を命ぜられ本件建物を起居の場所として使用することができなくなりうる不安定な立場といわざるを得ない。
ウ 次に、審査請求人は、自らが居住する○○についての構造、電気設備、排泄設備があり、また水道設備を依存していないことを主張している。本件建物については、その構造から処分庁においても雨風をしのぐことができることについては認めており、審査請求人が本件建物において一定程度の寝食が行われていることは推認できる。
 一方で、本件建物における審査請求人の日常生活の様態について見ると、次に掲げる事実が認められる。
(ア) 独自の電気設備がなく、電器の稼働には発電機や必要電力量を下回る脆弱なソーラーパネルを利用している。
(イ) 排水設備に相当するものは確認できず、また公共下水管に接続する設備は備えていない。
(ウ) 市販の飲料水を購入し、飲用水を確保するための独自の水道施設がない。
 これらの事実からすると、本件建物は、人の日常生活に必要な必要最低限の設備を備えておらず、その場所で日常生活を営むためには他の設備・手段に依拠しなければならないものであるといえる。
エ 審査請求人は、昭和31年(橋の下に居住している者の住所の認定及びその表示方)、同29年(洞くつに定住している者の住民登録)の行政実例を示し、処分庁が当該行政実例によらず処分をなしたことが違反であると主張している。
 これに対し処分庁は、そもそも当該行政実例は住民登録法時代のものであり失効していると考えられること、現在の社会状況が大きく異なることを理由として本件とは比較できず参考とすることができないと主張している。
 住民基本台帳事務を行う執行機関は、住基法第3条の規定に基づき、常に住民基本台帳を整備し、住民に関する正確な記録が行われるよう努めることとされ、法や規則等の法令を遵守し、また住民基本台帳事務処理要領その他上級官庁等からの通知、さらにこれまで各市町村において培ってきた行政実例や判例等を参考にすること等により住民基本台帳事務を行っている。
 今後においても、各市町村においてはそれぞれの事案ごとに行政実例や判例等を参考または引用できるかを十分検討することは肝要であるし、行政実例等の結果を採用すべきか否かについては、各市町村長において慎重に検討されるべきであるが、「河川について、洪水、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用され、流水の正常な機能が維持され、及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理することにより、国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進することを目的とする。」とした河川法が昭和39年に制定されており、処分庁が当該建物について、河川法の目的その他の規定と照らし合わせ、さらに同法制定以前に行われた行政実例について、失効しているとの主張は不確実であるものの、今日の社会情勢により本事案の参考としないと判断したことについては、適正であり違反であるとはいえないと考えられる。

第4  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  平成30年7月6日 諮問書の受理
  平成30年8月9日 調査審議(審査庁の口頭説明、処分庁の陳述)
  平成30年9月11日 調査審議

第5 審査会の判断の理由
1 本件に係る法令等の規定について
 住基法第3条第3項及び第22条については、前記第3の4(1)ア、住基法第4条については、前記第3の4(1)イ、河川法における占用の許可については、前記第3の4(1)エのとおりであるが、次のとおり追加する。
 住基法第1条は、この法律は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)において、住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡素化を図り、あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため、住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め、もって住民の利便を増進するとともに、国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする旨規定し、同法第3条第1項は、市町村長は、常に、住民基本台帳を整備し、住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに、住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない旨規定する。
 住基法第5条は、市町村は、住民基本台帳を備え、その住民につき、同法第7条に規定する事項を記録するものとし、同法第6条第1項は、市長村長は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して住民基本台帳を作成しなければならない旨規定し、同法第7条第7号は、住民票には、住所及び一の市町村の区域内に新たに住所を変更した者については、その住所を定めた年月日について記載をする旨規定し、同法第8条は、住民票の記載、消除又は記載の修正は、同法第30条の3第1項及び第2項、同法第30条の4第3項並びに同法第30条の5の規定によるほか、政令で定めるところにより、同法の規定による届出に基づき、又は職権で行うものとする旨規定する。そして、住基法第8条を受けて、住基法施行令第11条は、市町村長は、住基法の規定による届出があったときは、当該届出の内容が事実であるかどうかを審査して、施行令第7条から第10条までの規定による住民票の記載、消除又は記載の修正を行わなければならない旨規定する。
 なお、住基法第38条第1項により、地方自治法第252条の19第1項の指定都市に対する住基法の規定の適用については、政令で定めることにより、区を市と、区の区域を市の区域と、区長を市長とみなすものとされている。
2 争点について
 審査請求人が、本件場所内に住基法にいう住所を有しているといえるか否かである。
3 争点に係る審査会の判断について
(1) 住基法にいう「住所」の意義
 住基法にいう「住所」とは、生活の本拠、即ち、その者の生活に最も関連の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、社会通念に照らし、客観的に生活の本拠としての実体を具備しているか否かによって決すべきである(最高裁平成19年(行ヒ)第137号同20年10月3日第二小法廷判決・裁判集民事229号1頁及び同事件の原審判決である大阪高裁平成18年(行コ)第10号同19年1月13日判決・判例時報1976号34頁参照)。
(2) 本件における検討
ア 事件記録によれば、本件場所内に所在し、審査請求人が居住する旨主張する「○○」(以下「本物件」という。)は、その設置について審査請求人が河川管理者に対し河川法第24条に基づく占用許可及び同法第26条第1項に基づく工作物新築許可申請をしたものの、いずれについても不許可処分がなされている。そうすると、本物件は、河川法に違反して河川区域内に不法に設置された工作物として、除却命令や原状回復命令といった監督処分(河川法第75条第1項)がなされ得る状態にあると認められる。
 更に、上記不許可処分の理由は、洪水時に本物件が「流失すると、河川管理施設又は工作物を破損させる原因となり…治水上の支障が生じる…」こと及び本物件の「設置によって…一般公衆の河川の利用を妨げる」ことにあるところ(事件記録中の不許可処分書)、本件場所に設置されている本物件は、当該治水上の支障及び一般公衆の河川の利用の妨害といった危険性を既に生じさせていることが窺われるのであって、上記の除却命令や原状回復命令といった監督処分のみならず、これらの除却や原状回復が行政代執行手続に基づいて実行され得る状態にあると認められる。
 よって、本件場所に所在する本物件における居住は、河川管理者による監督処分及び行政代執行手続によって不可能になり得る不安定な状態にあると認められる。
イ この点、審査請求人は、審査請求書において、本物件が容易に撤去・移転されないこと、独立した電気設備があること及び独立した排泄設備があることをもって同人が本件場所内に住所を有しているといえる旨主張するが、仮に、これらの事実が認められるとしても、本物件が河川法に違反して河川区域内に不法に設置された工作物である以上、河川管理者による監督処分及び行政代執行手続によって居住が不可能になり得る不安定な状態にあると認められることに変わりはないのであって、本件において当該事実をもって審査請求人が本件場所内に住所を有していると認めることはできない。なお、生活基盤の1つといえる水道設備が本物件に存在しないことは審査請求人自身も審査請求書において認めるところである。
(3) 結語
 以上から、本件場所については、社会通念に照らし、客観的に生活の本拠としての実体を具備しているとはいえず、審査請求人は住基法にいう住所を有しているとはいえない。
(4) 争点に係るその余の審査請求人の主張について
 なお、審査請求人は、行政実例を挙げて本件場所が住基法上の住所である旨主張するので、この点について述べる。
ア 行政実例のうち、「昭和31年2月6日日記戸第103号福井地方法務局長照会・同年2月15日民事(2)発第63号民事局第2課長回答」については、河川区域と思われる場所を住所として認定することに差支えない旨の回答との解釈も可能である。
 しかし、当該行政実例は、今日と社会情勢が異なる当時のものであることに加え、河川管理者による監督処分及び行政代執行手続によって居住が不可能になり得る不安定な状態にあると認められることが前提となっているかが必ずしも明らかではない。
イ 「昭和29年11月25日茨城県戸籍事務協議会総会決議」については、洞くつ や山中において住民登録を認めた実例であるとの解釈も可能である。
 しかし、当該行政実例は、洞くつや山中についてのものであって、本件のように、河川法に違反して河川区域に設置された物件についてのものではない。
ウ よって、審査請求人が主張する各行政実例は、いずれも本件において必ずしも参考となるものではなく、それらをもって同人が本件場所内に住基法上の住所を有していると認める要素とはならない。
4 その余の審査請求人の主張について
 その他審査請求人は縷々主張するが、いずれも独自の見解であって採用することはできない。
5 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
6 結論
 よって、本件審査請求は理由がないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第2部会
 委員(部会長) 長部研太郎、委員 藤田整治、委員 曽我部真裕

答申書(平成30年度答申第12号)

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