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答申書(平成30年度答申第15号)

2023年2月17日

ページ番号:451425

諮問番号:平成30年度諮問第3号
答申番号:平成30年度答申第15号

答申書

第1  審査会の結論  
 本件審査請求は棄却されるべきである。

第2  審査請求に至る経過
1 平成29年2月8日、大阪市○○区保健福祉センター所長(以下「処分庁」という。)が審査請求人に対し、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)による保護を開始した。
2 平成29年4月27日、処分庁がA生命保険株式会社から、審査請求人に対する保険金の支払いに関する法第29条に基づく調査に対する回答を受理した。同回答には、疾病入院及び手術に関する保険金・給付金として、同年○月○日に計○○円が支払われた旨の記載があった。
3 平成29年6月23日、処分庁がB銀行から、審査請求人名義の口座の出入金記録に関する法第29条に基づく調査に対する回答を受理した。同回答には、同年○月○日のA生命保険株式会社からの○○円の入金記録の記載があった。
4 平成29年6月28日、処分庁は審査請求人に対し、平成29年○月○日に入金された保険金収入○○円について、故意に申告せず、保護を受けたとして、法第78条に基づき徴収金決定処分(以下「本件処分」という。)を行った。
5 平成29年8月21日、審査請求人が大阪市長に対し、本件処分の取消しを求める審査請求をした。

第3  審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1  審査請求人の主張
 本件処分を取り消すとの裁決を求める。今回の決定処分は不当である。
2 処分庁の主張
 法第61条において、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があったとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」とされており、生活保護の被保護者は、保護の実施機関へ収入を届け出る義務がある。
 また、法第78条第1項において、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することが出来る」とされている。そして、法第78条の条項を適用する際の規準に関しては、生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて(平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。以下「24年課長通知」という。)2-①では、「保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき」とされている。
 審査請求人は、審査請求書において、法第78条を適用した本件処分は不当であると主張しているが、本件において、審査請求人は、保護の申請時の平成29年2月8日に、収入申告の義務を含む生活保護制度に関し説明を受けていたにもかかわらず、その○日後の○月○日の収入を申告しなかったところ、当該収入について申告しなかった理由について処分庁に徴収されると思ったからと述べるなど、意図的に返還を免れようとしていたことが明らかであるため、処分庁は、24年課長通知の2-①に該当すると判断し、本件処分を行ったものであり、本件処分に違法又は不当な点はないことから、審査請求人の主張には理由がない。
 よって、本件審査請求は棄却されるべきである。
3  審理員意見書の結論
 本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
4  審理員意見書の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア 法第4条は、生活保護制度における基本原理の一つである「保護の補足性」について規定しており、その第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めている。また、法第5条は、「この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基づいてされなければならない。」と定めている。
イ 法第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。」と定めている。
 これは、生活保護制度により保障されるべき最低限度の生活は、生活保護法による保護の基準(昭和38年4月1日厚生省告示第158号。以下「保護の基準」という。)によって、要保護者各々について具体的に確定され、その保護の程度は、保護の基準によって測定された需要と要保護者の資力(収入)とを対比し、その資力で充足することのできない不足分について扶助されることを定めているものである。
ウ 法第28条及び第29条で保護の実施機関には積極的な調査権限が付与されているが、併せて、法第61条では、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と規定し、被保護者に対し、届出の義務を課している。
エ 法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と規定している。
オ 生活保護法による保護の実施要領について(昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知。以下「次官通知」という。)第8-3-(2)-エ-(イ)において、「不動産又は動産の処分による収入、保険金その他の臨時的収入については、その額(受領するために交通費等を必要とする場合は、その必要経費の額を控除した額とする。)が世帯合算額8,000円(月額)をこえる場合、そのこえる額を収入として認定すること。」とされている。
カ 生活保護行政を適正に運営するための手引について(平成18年3月30日社援保発第0330001号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。以下、「18年課長通知」という。)で提示されている「生活保護行政を適正に運営するための手引」のⅣ-3-(1)の注)において、「『不実の申請その他不正な手段』とは、積極的に虚偽の事実を申し立てることはもちろん、消極的に事実を故意に隠蔽することも含まれる。刑法第246条にいう詐欺罪の構成要件である人を欺罔することよりも意味が広い。」と示されている。
キ 24年課長通知の「2 法第78条に基づく費用徴収決定について」では、法第78条の条項を適用する際の基準について、「①保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき、②届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき、③届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき、④課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」と示されている。
ク 生活保護問答集について(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「問答集」という。)の問13-22の答において、法第78条による「徴収額は、不正受給額を全額決定するものであり、法第63条のような実施機関の裁量の余地はないもの」とされており、また、問13-23の答の「(3)法第78条を適用する場合」において、「意図的に事実を隠蔽したり、収入の届出を行わず、不正に保護を受給した者に対しては、各種控除を適用することは適当ではなく、必要最小限の実費を除き、全て徴収の対象とすべきである。」と示されている。さらに、問13-25の答において、「法第78条に基づく費用の徴収は、いわば損害追徴としての性格のものであり、法第63条や法第77条に基づく費用の返還や徴収の場合と異なり、その徴収額の決定に当たり相手方の資力(徴収に応じる能力)が考慮されるというものではない」と示されている。
(2) 本件処分について
ア まず、平成29年2月8日に、生活保護制度について説明を受け、生活保護のしおりを受け取ったことに関する審査請求人の署名及び捺印がなされ、平成29年3月1日に、「生活保護法第61条に基づく収入の申告について(確認)」に記載の収入申告義務に関する説明を受け、理解したことに関する審査請求人の署名及び押印がなされた事実が認められる。
イ よって、審査請求人は、法第61条に定められた「収入、支出その他生計の状況について変動があったとき」の届出義務を理解していたものと認められるが、平成29年○月○日に、A生命保険株式会社からB銀行の審査請求人名義の口座に入金された○○円について、処分庁に申告していなかった。
ウ この点、処分庁の聞き取りに対し審査請求人は、収入があれば申告をしなければならないことについて知っていたと述べ、また、申告すれば徴収されると考え申告せずに消費したと述べている。
 よって、審査請求人に、本件保険金の入金を隠蔽し、不正に保護を受けようとする意図があったことは明らかであり、「消極的に事実を故意に隠蔽」したことに該当するため、本件処分について、法第78条の条項を適用した処分庁の判断に不合理な点はない。
(3) 上記以外の違法性又は不当性についての検討
 他に本件処分に違法又は不当な点は認められない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  平成30年6月6日 諮問書の受理
  平成30年7月26日 審査請求人からの主張書面の収受
  平成30年8月17日 調査審議(審査庁よる口頭説明・処分庁による陳述)

第5 審査会の判断の理由
1 本件に係る法令等の規定について
 前記第3、4、(1)に記載のとおりと認められる。
2 争点について
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は、審査請求人は保護費を不当に受給しようとする意思をもって、申告すべき収入を申告していなかったことが認められるか否かである。
3 争点に係る審査会の判断について
 法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け」た者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収することを規定している。ここでいう「不実」とは、積極的に虚構の事実を構成することはもちろん、消極的に真実を隠蔽することも含まれると解されている。
 こうしたことを踏まえ、当審査会では、審査請求人が保護費を不当に受給しようとする意思をもって、申告すべき収入を申告していなかったことが認められるかという点について、本件の事実関係に照らして検討を行った。
 審理員意見書、事件記録、当審査会における調査審議によると、処分庁は、審査請求人の保護開始時に、保護費は国の定めた保護基準による最低生活費から被保護者の収入を差し引いた額を支給する旨と、保護費の額を決めるために、どんな収入でも必ず届け出をしなければならないことについて、生活保護のしおりを用いて説明を行ったことが認められる。この生活保護のしおりには「生命保険による保険金(入院給付、解約返戻金等)」が申告する必要のある収入であることが明記されている。このことに照らせば、保険金が申告すべき収入であることは明らかであり、保険金が入金されたときには処分庁に収入申告を行う義務があること、及び収入申告を行わなかった場合、保護費を本来支給される額以上に受給する可能性があることについて、審査請求人は理解していたものと認められる。
 そのうえで、事件記録、当審査会における調査審議によると、処分庁による法第29条に基づく調査の結果、審査請求人に係る保護開始後にA生命保険株式会社から同人に対する保険金・給付金の合計○○円の支払いがあったことが判明したこと、また、その後、処分庁がこの点について審査請求人に対し、聞き取りを行ったところ、同人が、上記保険金・給付金合計○○円の支払いに係る聞き取りであることを前提に、収入があれば申告をしなければならないことについて「知っていた」と答え、さらに、申告をせずに消費した理由について「申告すれば徴収されると思ったから」と答えたことが認められる。
 以上の経過からすれば、審査請求人には、上記保険金・給付金の入金を隠蔽し、不正に保護を受けようとする意図があったものと考えざるを得ず、消極的に真実を隠蔽する行為を行ったものと認められる。
 なお、審査請求人は、当審査会に提出した主張書面において、①保険給付金に関して返金しなければならない事は知らなかった旨、②処分庁は「保険給付金で得た収入を申告すれば徴収されると私が言っている」と主張しているがそのような事は言っていない旨、主張する。しかしながら、①の点について、上述のとおり、保険金が申告すべき収入に該当すること、及び収入があるにもかかわらず保護を受けた場合には保護費を返還しなければならないことは、審査請求人も受領済みの生活保護のしおりの内容から明らかである。また、②の点については、審査請求人に係る平成29年6月1日のケース記録票において、審査請求人が「申告すれば徴収されると思ったから」と発言した旨記載されているところ、同日、審査請求人との面談に臨んだ担当ケースワーカーが、審査請求人が発言してもいないことを記録するようなことは通常考え難く、そのことを疑わせる事情も特段認められない。一方、審査請求人は、審査請求書においても、また、審理員から反論の機会を与えられた審理の段階においても、具体的な請求理由や審査請求人の認識する事実経過を明らかにせず、当審査会への諮問の段階に至ってはじめて、主張書面を提出し、上述の「知っていた」等の回答を否定しているに過ぎないのであって、その対応は不自然であり、当該主張は信用性に乏しいといわざるを得ない。
 したがって、審査請求人は保護費を不当に受給しようとする意思をもって、申告すべき収入を申告していなかったことが認められる。
 以上から、審査請求人の未申告収入について法第78条の規定を適用した本件処分に違法又は不当な点は認められない。
4 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
5 結論
 よって、本件審査請求は理由がないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第1部会
 委員(部会長) 田中宏、委員 内山由紀、委員 片桐直人

答申書(平成30年度答申第15号)

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