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答申書(平成30年度答申第16号)

2023年2月17日

ページ番号:453635

諮問番号:平成29年度諮問第26号
答申番号:平成30年度答申第16号

答申書

第1  審査会の結論
 本件審査請求に係る処分は取り消されるべきである。

第2  審査請求に至る経過
1 平成17年1月26日、大阪市A区保健福祉センター所長(以下「処分庁」という。)が審査請求人に対し、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)による保護を開始した。
2 平成27年6月23日、審査請求人が処分庁に対し、平成26年○月から平成27年○月までの間の収入申告書及び年金額改定通知書を提出した。
3 平成27年7月、平成27年度個人市民税調査により、審査請求人の公的年金収入金額と収入申告額に相違があることが判明した。
4 平成28年6月23日、審査請求人が処分庁に対し、平成27年○月から平成28年○月までの間の収入申告書及び年金額改定通知書を提出した。
5 平成28年11月7日、処分庁が審査請求人に対し、法第78条に基づく徴収金決定に関する処分(以下「本件処分」という。)をした。
6 平成29年1月19日、審査請求人が大阪市長に対し、本件処分の取消しを求める審査請求をした。

第3  審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1  審査請求人の主張
(1) 平成26年の収入申告義務の説明について、審査請求人は、当時視力がほとんどない状態であるにも関わらず、娘である審査請求人代理人(以下「代理人」という。)の立ち合いなく行われた。
(2) 今まで、年金が多く入るということは1度もなく、遡及分、時効特例加算分という存在自体分かっていなかった。
(3) 毎年の収入申告の際には、年金が振り込まれている通帳を提示していた。
(4) 処分庁は、平成26年○月の収入について、平成27年には、わかっていたはずである。
2 処分庁の主張
 法第78条第1項は「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と定めている。また法第61条は「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があったとき、又は居住地若しくは世帯の構成に変動があったときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と定めており、保護開始時だけでなく、平成26年8月19日に審査請求人に説明を行っている。
 なお、平成27年度個人市民税調査の遅れについては、B年金事務所等への調査に時間を要したためである。
 また、平成27年6月23日および平成28年6月23日に提出された収入申告書と一緒に提出のあった年金額改定通知書の年額に、今回徴収決定となった年金の遡及分と時効特例分等(以下「本件収入」という。)は反映されておらず、収入申告書にも記載がなく、通帳の写し等の添付もない。
 よって、本件処分に至ったものである為、処分庁の判断に何ら不当性は存在しない。
3  審理員意見書の結論
 本件審査請求には理由がないため、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
4  審理員意見書の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア 法第4条は、生活保護制度における基本原理の一つである「保護の補足性」について規定しており、その第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めている。また、法第5条は、「この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基づいてされなければならない。」と定めている。
イ 法第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。」と定めている。
 これは、生活保護制度により保障されるべき最低限度の生活は、生活保護法による保護の基準(昭和38年4月1日厚生省告示第158号。以下「保護の基準」という。)によって、要保護者各々について具体的に確定され、その保護の程度は、保護の基準によって測定された需要と要保護者の資力(収入)とを対比し、その資力で充足することのできない不足分について扶助されることを定めているものである。
ウ 法第28条及び第29条で保護の実施機関には積極的な調査権限が付与されているが、併せて、法第61条では、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と規定し、被保護者に対し、届出の義務を課している。
エ 法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と規定している。
オ 生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて(平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。以下「課長通知」という。)の「2 法第78条に基づく費用徴収決定について」では、法第78条の条項を適用する際の基準は、「①保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき、②届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき、③届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき、④課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」と示されている。
カ 生活保護問答集について(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。)の問13-22の答において、法第78条による「徴収額は、不正受給額を全額決定するものであり、法第63条のような実施機関の裁量の余地はないもの」とされており、また、問13-25において、「法第78条に基づく費用の徴収は、いわば損害追徴としての性格のものであり、法第63条や法第77条に基づく費用の返還や徴収の場合と異なり、その徴収額の決定に当たり相手方の資力(徴収に応じる能力)が考慮されるというものではない」と示されている。
(2) 本件処分について
ア まず、平成26年8月19日に、処分庁が審査請求人に対し、生活保護のしおりを用いて制度の説明をし、説明を受けてしおりを受け取ったことに関する審査請求人の署名・捺印がなされた事実が認められる。
イ また、平成26年8月19日に、処分庁が審査請求人に対し、「生活保護法第61条に基づく収入の申告について(確認)」を用いて収入申告の義務等について説明をし、説明を受け理解したことに関する審査請求人の署名・捺印がなされた事実が認められる。
ウ よって、審査請求人は、収入申告の必要性に関し理解していたものと認められるが、年金額に遡及変更があった事実や、平成26年○月○日に臨時に振り込まれた年金に関し、処分庁に申告していなかった。
エ 次に、C銀行の審査請求人名義の口座の入金記録、審査請求人の保護費の算定書類及びD年金相談センター作成の審査請求人に関する受給権者支払記録回答票により、平成26年○月分から平成27年○月分までの審査請求人の保護費における年金収入の収入充当額と、同期間における年金の実受給額との差額が別紙のとおりであった事実が認められる。
オ これらの差額については、いずれも審査請求人の年金額が増額変更されたことにより生じたものであるところ、審査請求人からの申告ではなく、処分庁が行った個人市民税調査及び法第29条に基づく照会に対する回答により、年金額の増額変更及び臨時の年金支給が明らかとなった事実が認められる。
カ これらの経過を踏まえると、審査請求人に関しては、課長通知2-④の「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当すると考えられるため、これら未申告収入の合計額である○○円について、法第78条の条項を適用した処分庁の判断に、違法又は不当な点は認められない。
キ この点、審査請求人は、収入申告の際に通帳の写しを提出していたにもかかわらず、担当職員の確認が不十分であったと主張しているが、平成27年6月23日及び平成28年6月23日に提出のあった収入申告書には年金額改定通知書のみ添付がされており、その時に通帳の提出があった事実を認めることはできない。
(3) 上記以外の違法性又は不当性についての検討
 他に本件処分に違法又は不当な点は認められない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  平成30年3月23日 諮問書の受理
  平成30年4月20日 審査請求人からの主張書面の収受
  平成30年4月24日 調査審議(審査庁の口頭説明、処分庁の陳述)
  平成30年5月22日 調査審議
  平成30年6月7日 審査庁からの主張書面の収受
  平成30年6月12日 調査審議(審査請求人の口頭意見陳述)
  平成30年7月11日 審査庁からの主張書面の収受
  平成30年7月18日 調査審議
  平成30年8月9日 調査審議
  平成30年8月21日 審査庁からの主張書面の収受
  平成30年9月4日 審査請求人からの主張書面の収受
  平成30年9月11日 調査審議
  平成30年10月19日 調査審議

第5 審査会の判断の理由
1 本件に係る法令等の規定について
 前記第3、4、(1)に記載のとおりであると認められる。
2 争点について
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は、審査請求人が本件収入を申告しなかったことが「不実の申請その他不正な手段」といえるか否かである。
3 争点に係る審査会の判断について
 前提として、本件収入が未申告であること、本件収入が、平成26年6月の収入申告後、年金額の再計算が行われたことにより、過去に支給すべきであった分として追加で振り込まれた年金及び増額となったため同月に申告した年金額と異なることとなった差額分であることについては、審査請求人も争っておらず、年金収入により被保護者の活用可能な資産が増加したといえるから、本件収入が、収入認定すべき収入であることは明らかである。
 本件の争点である「不実の申請その他不正な手段」(法第78条第1項)には、積極的に虚偽の事実を申請することはもちろん、消極的に真実を隠ぺいすることも含まれると解されるが、審査請求人がこれらに該当する前提として、そもそも当該収入の存在について認識していたことが必要である。
 この点に関し、審査請求人は、反論書等において、年金が追加で振り込まれていることは知らなかった旨主張していることから、審査会において調査したところ、以下のような事実が確認できた。
 審査庁から審査会に対し追加で提出された資料によると、平成26年○月○日に審査請求人の記名・押印がなされ、「昭和47年○月~昭和47年○月」の期間の国民年金の納付について、「未納」から「納付」に訂正し、年金額を再計算する旨申し立てる「年金記録の訂正についての回答書兼年金額の再計算についての申出書及び時効特例給付支払手続用紙」(以下「訂正等請求書」という。)が厚生労働大臣あて提出されている。
 また、審査請求人に対して送付されたことまでは確認できていないが、一般的な流れとして、上記訂正等請求書の提出を受けて、厚生労働省から、再計算された年金額を伝える「年金支払通知書」が訂正等請求者に対し送付されているとのことである。このため、審査庁は、本件においても上記のように訂正等請求書の提出により裁定請求が行われている以上、審査請求人あるいは代理人が本件収入の存在を認識していた旨主張しているところである。
 上記判明した事実及び審査庁の主張を受けて、改めて審査請求人に対し、訂正等請求書提出に係る経過について確認したところ、訂正等請求書の署名の筆跡は審査請求人のもののように見受けられるが、審査請求人本人は署名した記憶はなく、記載された住所・電話番号の筆跡は当時のケアマネージャーのもののように見受けられ、また、審査請求人は当時、手紙、ハガキの読み取りは困難となっていたとのことであった。さらに、年金支払通知書についても、確認していないとのことであった。
 ここで、訂正等請求書の住所・電話番号の筆跡は、審査請求人・代理人のものとは異なるように見受けられ、審査請求人は高齢で眼の疾病を有しており、訂正等請求書提出当時審査請求人が手紙、ハガキの読み取りに困難をきたしていたことについて否定できないことから、年金の追加給付を受けるための書類であるとの認識が不十分のまま署名し、それを代理人に伝えていなかった可能性も認められる。そして、審査請求人及び代理人は、一貫して、本件収入を知らなかったと述べていることから、審査請求人、代理人とも請求を行った認識のないまま、本件収入が振り込まれるに至った可能性が認められる。
 また、仮に、事前に本件収入について振込がなされるとの認識がなかったとしても、平成26年○月○日に本来支給されるはずの年金に○○円の5年遡及分が加算されているため通例の約1.5倍の金額が振込まれていること及び○○円の時効特例加算分の振込が年金支給月ではない同年○月○日であることが通帳の記録からそれぞれ明白であり、少なくともこれらの振込があった以降においては、通帳を確認すれば容易に収入について気付くことができたはずであって、審査請求人あるいは代理人が本件収入の存在を事後的に認識し得たとも考えられるので、以下検討する。
 上記に関して、口頭意見陳述の際に審査請求人に確認したところでは、審査請求人と代理人は同居しておらず、通帳の管理は娘である代理人が行っていたとのことであり、記帳は4ヶ月に1回くらいで、代理人は当時多忙のため、平成26年○月、○月の振込については気付かなかったとのことである。
 ここで、平成26年当時の収入申告書及び訂正等請求書の筆跡が代理人ではなくケアマネージャーのものである可能性があること、通帳の記録上、審査請求人の生活に必要な額のみ必要な時期にキャッシュカードで預金の払戻しを受けていたことが窺われるために逐一記帳をしていない可能性があることから、代理人が当時多忙のために上記それぞれの入金について気付かなかったという主張は一概に不合理なものであるとは認められない。そして、通帳の管理を行っている代理人が気付いていなかったのであれば、通帳を所持していない審査請求人も本件収入について当然気付いていなかった可能性も認められる。
 また、仮に年金が追加で振り込まれることを認識していたとしても、上記訂正等請求が平成26年○月になされたことからすれば、処分庁に提出済みの年金額改定通知書に反映されているものと思っていたとの審査請求人の主張も一概に不合理なものであるとまではいい難い。
 さらに、本件収入の振込口座を生活保護費の振込口座と別の口座にしなかったことは、発覚のおそれを高めるものであり、不正の意図を有する者の行動とは認め難い。
 以上から、審査請求人あるいは代理人が、本件収入についてそもそも認識していたとの事実、認識していたとしても隠ぺいする意図を有していたとの事実は立証されていないといわざるをえない。
 ここまでに検討したところをふまえ、本件の事実関係に基づき総合的に判断すると、本件収入について申告しなかったことが、積極的に虚偽の事実を申請することにも、消極的に真実を隠ぺいすることにも当たらないから、法第78条第1項にいう「不実の申請その他不正な手段により」保護を受けたとまではいえないというべきである。
 にもかかわらず、法第78条を適用して審査請求人に保護費の返還を求めた本件処分は要件を欠き違法である。
4 結論
 よって、本件審査請求は理由があると認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第2部会
 委員(部会長) 長部研太郎、委員 藤田整治、委員 曽我部真裕

答申書(平成30年度答申第16号)

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