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令和2年2月6日付け裁決(答申第14号)

2023年2月17日

ページ番号:498957

裁決書

審査請求人 ○○○○
処分庁 大阪市長 

 審査請求人が令和元年6月19日付けで提起した処分庁大阪市長(以下「処分庁」という。)による令和元年5月20日付け及び令和元年6月3日付け令和元年度分市民税及び府民税賦課決定処分に係る審査請求(令和元年度財第17号。以下「本件審査請求」という。)について、次のとおり裁決します。

主文
 本件審査請求を棄却します。

事案の概要
1 処分庁は、審査請求人が提出した平成30年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書(以下「本件申告書」という。)、〇〇〇〇(以下「本件会社」という。)から提出のあった給与支払報告書(以下「本件給与支払報告書」という。)及び厚生労働省年金局事業企画課長から提出のあった公的年金等支払報告書(以下、これらを併せて「本件各課税資料」という。)に基づき、令和元年5月20日付けで、審査請求人に係る令和元年度市民税及び府民税のうち、特別徴収の方法によって徴収する部分の税額を〇〇〇〇円とする税額決定処分(以下「本件処分1」という。)を行いました。
2 処分庁は、本件各課税資料に基づき、令和元年6月3日付けで、審査請求人に係る令和元年度市民税及び府民税の税額を〇〇〇〇円とする賦課決定処分(以下「本件処分2」という。)を行いました。
3 審査請求人は、令和元年6月19日、大阪市長に対して、令和元年度市民税及び府民税の税額の変更を求めて本件審査請求を提起しました。

審理関係人の主張の要旨
1 審査請求人の主張
(1) 審査請求人は、本件会社から該当年度の報酬を一切受け取っていない。処分庁において、本件会社に対して給与の支払の証拠の提出を求め、適正な課税処分を行うことを求める。本件会社は同族会社であり、審査請求人も名義上役員を務めているが、勤務実績はない。現在、本件会社と別件で係争中のため、本件会社の申告は嫌がらせの可能性がある。
(2) 審査対象である市民税及び府民税賦課決定の根拠は、本件給与支払報告書並びに本件審査請求提起後に調査した本件会社における平成29年12月4日から平成30年9月30日までの事業年度に係る決算報告書(以下「本件決算報告書」という。)及び審査請求人に係る平成30年分給与所得に対する源泉徴収簿(以下「本件源泉徴収簿」という。)であるとのことであるが、これらの文書の作成者は本件会社自身なのであるから、内部的に整合しているのはいわば当然のことである。
(3) 地方税に係る徴税吏員は、調査権限を有する(地方税法(以下「法」という。)第26条)以上、処分庁は調査権限を行使して調査を尽くし、その結果に従って適切・妥当な課税処分を行うべき責務を負う。十分な調査を行わないまま課税を行うことは、権限の逸脱・濫用にあたり、変更を免れない。
(4) 処分庁は、本件会社に対して、質問検査権の行使として通帳等の支払の客観的証拠の提示を求めることができ、かつ、実際に給与の支払を行っていたのであれば、本件会社にとってその客観的証拠を提示することは容易なはずであるから、その提示を求めない合理的根拠は見出し難いものである。
 この点、処分庁は、質問検査権の行使の過程において、本件会社に対して本件決算報告書及び本件源泉徴収簿以外の資料の提出を求めたか否かについて一切触れていないが、社会常識に照らし、通帳類の提示を求めなかったとは考え難く、むしろ調査の結果、本件決算報告書及び本件源泉徴収簿以外の裏付資料は一切見出せなかったものと推察される。そうであれば、本件処分1は明らかに合理的な根拠を欠き、変更を免れない。
 仮に、処分庁が通帳等の支払の客観的証拠の提示すら求めないまま課税処分を維持するというのであれば、適法な課税を行うために要請される程度の調査を尽くしたとはいえず、それ自体が権限の逸脱・濫用にあたる。いずれにせよ、本件処分1は変更を免れないものと思料される。万一、変更がなされないのであれば、訴訟もやむを得ない。
(5) 審理員意見書は、理由においても結論においても相当ではない。
 審理員意見書は、その意見の根拠として、最高裁判所昭和49年3月8日第二小法廷判決(以下「最高裁昭和49年判決」という。)及び東京地方裁判所平成29年1月13日判決(以下「東京地裁平成29年判決」という。)を挙げるが、これらの判例及び下級審裁判例は、いずれも審理員意見書の結論を導くものではない。
(6) 取締役の報酬は、給与支払報告書、源泉徴収簿又は決算報告書を根拠として発生するものではなく、会社法上、定款若しくは株主総会(会社法第361条)又は報酬委員会(会社法第409条)で定めるものとされ、これらの決議等の存在が権利の発生原因となる。
 したがって、権利の発生原因となる事実関係の外観があるといいうるためには、当該報酬を定めた株主総会決議の議事録等が存在する必要があるところ、現時点でこれらの書類の存在は確認されておらず、決議等の存否は不明である。
(7) 審理員意見書は、「審査請求人は、給与支払者から給与を受け取っていないと主張するのみで、処分庁の主張を覆すに足る証拠の提出もありません」との理由も述べるが、この理由付けも相当ではない。審査請求人において報酬を受け取っていないこと又は報酬が発生していないことの具体的証明はおよそ困難であり、審査請求人が証明できないことをもって課税処分の理由とすることは相当ではない。
(8) 審査請求人と本件会社との間に継続する訴訟において、本件会社の代理人弁護士が提出した準備書面によれば、当初、本件会社の設立時に本件会社の代表者に月額〇〇〇〇円を、審査請求人に月額〇〇〇〇円をそれぞれ取締役の報酬として分配する旨の話があったが、本件会社が赤字であるため、当該報酬は負債返済の原資として使われることになっていたとのことである。当該主張の当否はさておき、本件会社の認識においても審査請求人に具体的な報酬請求権が存在せず、本件会社が報酬を支払う意思もないことは明白である。本件会社の代理人弁護士が裁判所の期日において報酬請求権が当事者間では存在しないと明言していたほどである。
(9) 東京地裁平成29年判決が引用する最高裁判所昭和53年2月24日第二小法廷判決に判示された基準に照らせば、本件会社が報酬請求権の存在を否定し、請求権の存在が裁判上確定していない現時点において、報酬請求権があるものとして課税することは時期尚早と言わざるを得ない。
2 処分庁の主張
(1) 審査請求人に対して課する令和元年度市民税及び府民税について、本件申告書及び本件給与支払報告書等に基づき、給与所得に係る部分については、令和元年5月20日付けで給与所得等に係る市民税及び府民税特別徴収税額決定通知書を本件会社あて送付し、特別徴収の方法により課税とする本件処分1を行うとともに、給与所得以外の所得に係る部分については、令和元年6月3日付けで市民税及び府民税納税通知書兼税額決定(充当)通知書を審査請求人あて送付し、普通徴収の方法により課税とする本件処分2を行った。
(2) 本件会社から審査請求人に対して、平成30年中に給与を支払った旨の給与支払報告書が現に提出されており、また、処分庁が行った調査によれば、本件決算報告書等においても同様の事実が確認できるため、審査請求人が実際に役員報酬を受け取ったかどうかにかかわらず、当該給与に係る給与所得金額を法第32条第1項及び第313条第1項に規定する総所得金額等に含めて税額を算定することとなる。
(3) 本件審査請求の提起により、法第298条に定める質問検査権に基づき、本件決算報告書及び本件源泉徴収簿を調査したところ、本件給与支払報告書の内容と相違ない内容である旨を確認されたことから、市民税及び府民税の税額を変更する必要は認められないとしたものである。
(4) 以上のとおり、本件処分1及び本件処分2は適法であり、審査請求人の主張は認められない。

理由
1 本件審査請求に係る法令等の規定
(1) 個人の市民税及び府民税の納税義務者について
 道府県民税は道府県内に住所を有する個人に対しては均等割額及び所得割額の合算額によって、市町村民税は市町村内に住所を有する個人に対しては均等割額及び所得割額の合算額によって課するとされています(法第24条第1項第1号及び第294条第1項第1号)。
(2) 個人の市民税及び府民税の賦課徴収について
 個人の道府県民税の賦課徴収は、法第2章第1節第2款に特別の定めがある場合を除くほか、当該道府県の区域内の市町村が、当該市町村の個人の市町村民税の賦課徴収の例により、当該市町村の個人の市町村民税の賦課徴収と併せて行うものとするとされています(法第41条第1項)。
(3) 個人の市民税及び府民税に係る所得割の課税標準について
ア 所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とするとされています(法第32条第1項及び第313条第1項)。
イ 総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、法又は法に基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第22条第2項又は第3項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例によって算定するものとするとされています(法第32条第2項及び第313条第2項)。
(4) 給与所得について
 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいうとされています(所得税法第28条第1項)。
(5) 収入金額とすべき金額について
 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とするとされています(所得税法第36条第1項)。
(6) 給与支払報告書の提出義務について
 1月1日現在において給与の支払をする者で、当該給与の支払をする際所得税法第183条の規定によって所得税を徴収する義務があるものは、同月31日までに、総務省令の定めるところによって、当該給与の支払を受けている者についてその者に係る前年中の給与所得の金額その他必要な事項を当該給与の支払を受けている者の1月1日現在における住所所在の市町村別に作成された給与支払報告書に記載し、これを当該市町村の長に提出しなければならないとされています(法第317条の6第1項)。
(7) 給与所得に係る個人の市町村民税の特別徴収について
 市町村は、納税義務者が前年中において給与の支払を受けたものであり、かつ、当該年度の初日において給与の支払を受けている者である場合においては、当該納税義務者に対して課する個人の市町村民税のうち当該納税義務者の前年中の給与所得に係る所得割額及び均等割額の合算額は、特別徴収の方法によって徴収するものとするとされています(法第321条の3第1項)。
2 本件各処分の違法性及び妥当性について
(1) 審査請求人は、本件会社から該当年度の報酬を一切受け取っていないため、処分庁において法に規定する質問検査権に基づき、本件会社に対して審査請求人への給与の支払についての客観的な証拠の提出を求めるといった調査を尽くし、その結果に基づき適正な課税処分を行うべきである旨主張しています。
 また、本件会社が審査請求人に係る報酬請求権の存在を否定し、報酬請求権の存在が裁判上確定していない現時点において、報酬請求権があるものとして課税することは時期尚早と言わざるを得ない旨も主張しています。
(2) しかしながら、大阪市行政不服審査会に提出された資料によると、以下の事実が認められます。
ア 本件会社は、処分庁に対して、審査請求人の平成30年中の役員報酬について、支払金額を〇〇〇〇円とする給与支払報告書を提出しています。
イ 処分庁から本件会社が税務代理を委任している税理士に照会したところ、当該税理士から処分庁に対して、令和元年7月19日付けで本件会社に係る平成30年分の源泉徴収簿の写しの提出がありました。当該源泉徴収簿には平成30年1月から同年12月まで、毎月〇〇〇〇円が審査請求人に支払われていたことが記録されており、その合計金額は、本件給与支払報告書の支払額に一致しています。
ウ 処分庁が令和元年6月25日に税務署において閲覧した本件会社の平成29年12月4日から平成30年9月30日までの事業年度に係る法人税の確定申告書の添付書類である「役員報酬手当等及び人件費の内訳書」には、本件会社から審査請求人に対して、当該事業年度の10か月間に〇〇〇〇円支払われていたことが記録されています。
エ 審査請求人は、本件会社の取締役として登記簿に記録されており、また、審査請求人自身も令和元年6月19日付け審査請求書において、名義上役員を務めていることを認めています。
(3) 審査請求人から令和元年12月20日付けで大阪市行政不服審査会に提出のあった意見書の添付資料⑦及び添付資料⑧には、次の内容が記載されています。
ア 親族が株主となり、不動産管理を行う本件会社を設立することになった。
 そして、当時生存していた〇〇〇〇及び〇〇〇〇がそれぞれ金〇〇〇〇円の合計金〇〇〇〇円を出資し、更に役員として、社長を〇〇〇〇として金〇〇〇〇円、審査請求人を取締役として金〇〇〇〇円を報酬として分配することとして、平成29年12月4日に本件会社が設立された。
 ただ実際には、〇〇〇〇所有のマンション2棟の経営が赤字となった責任については、〇〇〇〇だけでなく、審査請求人にも責任があるとして、〇〇〇〇及び審査請求人の役員報酬金〇〇〇〇円については、実際には会社の負債返済の原資として使うこととなっていた。
 そして会社の経営状態が好転するまで、上記状態で本件会社を運営することとなった。
イ 報酬の約束はあったが、報酬は会社の経営が大丈夫になるまでは支払わないという話だった。
(4) 以上によれば、本件給与支払報告書に記載されている役員報酬は、審査請求人が平成30年中に収入すべき金額に該当すると認められます。
 したがって、本件各課税資料を基に、法令の規定に基づき審査請求人に係る令和元年度の市民税及び府民税の税額を算定し、決定した本件処分1及び本件処分2に違法又は不当な点は認められず、審査請求人の主張は採用できません。
 また、その余の審査請求人の主張については、上記認定判断を覆すには足りるものとはいえません。
3 結論
 以上のとおり、本件各処分に違法又は不当な点は認められず、本件審査請求は理由がないことから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、主文のとおり裁決します。

令和2年2月6日
大阪市長 松井 一郎

裁決書(令和元年答申第14号)

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