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令和2年4月21日付け裁決(答申第2号)

2023年2月17日

ページ番号:507019

裁決書

審査請求人
○○○○
同代理人
○○○○
処分庁
大阪市長

 審査請求人が平成31年3月25日に提起した処分庁による養子縁組あっせん事業の許可申請につき不許可とする処分に係る審査請求について、次のとおり裁決する。

主文
 本件審査請求を棄却する。

事案の概要
1 審査請求人は、社会福祉法(昭和26年法律第45号)第69条第1項に基づく届出により養子縁組あっせん事業を行っていたものであるところ、民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律(平成28年法律第110号。以下「法」という。)が施行されたことにより、平成30年9月21日付けで、法6条に基づく許可申請を行った。
2 これに対し、処分庁において、提出された書類の確認、審査請求人からの聴取、実地調査等を行い、平成31年3月19日、処分庁は、不許可理由としてアないしキの7点を挙げ、審査請求人からの上記許可申請を不許可とする処分(以下「本件処分」という。)を行い、同日付けで審査請求人に通知した。
3 同月25日、審査請求人は、大阪市長に対し、本件処分の取消しを求める審査請求をした。

審理関係人の主張の要旨
1 事業にかかる業務の一部を、事業を行おうとする事業所の所在地を管轄する都道府県知事の許可を受けていない「支部」に行わせていること(不許可理由ア)について
(1) 審査請求人の主張
 審査請求人の業務を行うスタッフを「支部」と呼称しているに過ぎない。スタッフは株式会社Aからの出向として受け入れており、全ての案件はスタッフ間で情報共有され単一の指揮命令系統として事業運営しているのであり、支部の所在地を管轄する都道府県知事の許可は必要ない。
(2)処分庁の主張
 「支部」が指揮命令下にあるかが問題ではない。「支部」の役割として、実親との面談、養親希望者の家庭訪問、児童の引き渡し等であるが、実親との面談や養親希望者の家庭訪問は養子縁組あっせんの根幹をなす業務であり、専門的な知識・技術に基づいて適切に行われなければならない。「支部」は審査請求人が主張する株式会社Aの支部ではなく、独立した事業所であり、支部の所在地を管轄する都道府県知事の許可が必要である。
2 株式会社Aと一体となって営利事業を行っていること(不許可理由イ)について
(1)審査請求人の主張
 審査請求人と株式会社Aの経理は明確に分離され区分されている。株式会社Aとは業務委託契約を交わしており、業務委託費を支払っている。事業の一部を外部の会社に業務委託として外注することは問題がないはずである。審査請求人と株式会社Aとの口座において資金移動があるような「財布が一つ」という状態ではなく、審査請求人と株式会社Aの経理には一体性もなく、両者の業務に営利目的性は一切ない。
(2)処分庁の主張
 株式会社Aは、審査請求人からの委託事業以外に行っている形跡はみられない。株式会社Aに社員として雇用されているものはおらず、取締役、理事、株主にも重複がある。審査請求人代表者が、審査請求人の名義と株式会社Aの名義を自らの意思で使い分けており、両社は実態としては一体であるとみなさざるを得ない。
3 民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律施行規則(厚生労働省令第125号。以下「法施行規則」という。)に定める手数料を除き、実費その他の手数料又は報酬を受けてならないとされているにも関わらず、負担金や登録料、寄付金を徴していること(不許可理由ウ)について
(1)審査請求人の主張
 養親希望者から徴収する費用については、あっせん1件あたり一律○○円の負担金は法施行規則第3条第1号の手数料、専用アプリ「○○」登録料○○円は法施行規則第3条第3号の手数料、入会金○○円は、任意のものであり、審査請求人の正会員になるための対価的側面があり、法施行規則第3条各号の手数料に該当するものではない。
(2)処分庁の主張
 手数料が養親希望者に係る業務に要した費用として金額を示すことができるものに限られているのに対して、現に要した費用の多寡にかかわらず一律○○円の費用を徴収することは法施行規則に反している。
 ○○円のアプリ登録料は実親や養親希望者から徴収する手数料の種類や金額を記載する手数料表には記載されておらず、アプリ開発費用や広告費用に利用されており、また、登録料収入が開発費用等を上回っていることから、手数料の範囲を逸脱している。
 養親希望者に請求するべき他の費用と○○円の寄付金(入会金)を一律に記載し請求しており、支払いの強制と捉えかねない請求方法であり、任意とは程遠い現状である。
4 自己の名義をもって、株式会社Aや支部に事業にかかる業務の一部を行わせていること(不許可理由エ)について
(1)審査請求人の主張
 株式会社Aとの業務委託によりスタッフを受け入れており、第三者が許可業者の名義を意のままに利用する名義貸しではない。「支部」は独立の事業主体としての機能は有しておらず、団体のスタッフが団体の名義を使用するのは当然のことである。
 審査請求人と外注事業者が一体であるとの指摘をしていながら、名義貸しとの指摘は矛盾している。
(2)処分庁の主張
 株式会社Aは審査請求人から委託された業務以外に「○○」という事業を行っているとなっており、養親希望者から月額○○円の対価を徴収している。これは、株式会社Aの事業収入になっているが、運営主体は審査請求人の名称が記載されている。この事業において研修を受けることにより養親候補として優先される等の特典があるとの記載もあり、養子縁組あっせん事業の一部である。審査請求人の名称を冠し、株式会社Aの収益となる事業を行うことは名義貸しそのものである。
 「支部」と称しているが、実質は独立した事業所であり、本来それぞれの所在地で許可が必要となる活動を行っており、許可を得ることなく「NPO」の「支部」と名乗り活動している。許可を受けた事業者以外の者に審査請求人の名義で事業を行わせることは名義貸しに該当する。
5 養親希望者等について、面会の方法により相談に応じ、情報提供や助言その他の援助を行っておらず、児童の最善の利益を最大限に考慮されていないこと(不許可理由オ)について
(1)審査請求人の主張
 審査請求人は、養親希望者に対して最低1回以上の面談、家庭訪問を行っている。面談、家庭訪問を行っていない者に対して養子縁組あっせんを行うことは原則としてあり得ない。
 緊急案件として、あっせんと同時に家庭訪問と研修を行う事例があったが、そのような事例は1件のみである。
 覚書の交付や費用の請求といった児童のあっせんに付随する手続については、家庭訪問前に行うことは禁止されていないはずである。
(2)処分庁の主張
 平成○年中にあっせんされた事案のうち、少なくとも○○件の事案で、家庭訪問より前に実親と養親希望者との間で「特別養子縁組に係る覚書」が交わされていたり、実親にかかる費用を養親希望者に請求されていたことを確認している。如何なる事情があろうとも、家庭訪問を行わず養育環境すら確認できていない養親希望者にあっせんを行うなどあってはならない。
 緊急やむを得ず、あっせんと同時に家庭訪問等を行ったという事案について、児童を養親希望者に引き渡すまでの間、一時的な養育を必要とする児童については、民間あっせん機関は必要な支援や措置を講じなければならないとされており、審査請求人は乳児院等への入所相談等適切な措置を講じるべきであった。
6 養親希望者研修を修了していない者に養子縁組あっせんを行っていること(不許可理由カ)について
(1)審査請求人の主張
 審査請求人は全ての養父母に対して養親希望者研修を適切に行っている。
(2)処分庁の主張
 法において、養親希望者研修を修了していない養親希望者に養子縁組をあっせんしてはならないと規定されている。
 事前研修受講の翌日に特別養子縁組の覚書が交わされている事例もあり、研修(講義及び演習を3日、実習を3日以上とする規定)を終了するまでにあっせんを行っているものが複数ある。あっせん(マッチング)成立後に実習の研修を行うなど適切に研修を実施していない。
7 養親希望者から実親の生活費相当を徴収し、実親に支給しており、養子縁組への同意撤回の際には支給した金員の返還を求め、実親の養子縁組への同意撤回を困難とする心理的圧迫を与えていること(不許可理由キ)について
(1)審査請求人の主張
 金銭の貸借が養親と実親の特殊な関係性から生じたものである以上、実親が養子縁組についての同意を撤回した場合に、養親希望者が金銭の返済を求めるのは当然のことである。強引な返済を求めるわけではなく、同意の撤回を困難にすることを目的とした心理的圧迫などは加えていない。
(2)処分庁の主張
 実親が養子縁組に関する意思決定を行う前に、公的な支援を受けながら自ら児童を養育できる可能性があることや自らが養育しない場合であっても里親委託等の選択肢を説明し、実親に熟考する期間と環境を与えることが重要であるにも関わらず、審査請求人にあっせんを申し込むことによって月○○円の生活費等の支援を受けられることが提示されれば、熟慮することなく同意してしまうことは想像に難くなく、実親の心情等に寄り添った支援の大きな妨げになる。
 予期せぬ妊娠等で生活困窮にあえぐ実親が同意の撤回に伴う金銭の返済を、例え分割払いによっても履行することは難しく、同意の撤回を困難にすることは明らかである。

理由
1 本件に係る法令等の規定について
(1)法第6条は、民間あっせん機関による養子縁組あっせん事業を行おうとするときは、都道府県知事(政令指定都市市長を含む。以下同じ。)の許可を受けなければならないとしており、法第7条は、都道府県知事は、同条第1項各号に掲げる基準に適合していると認めるときは、許可をしなければならない旨規定している。
 同条第1項各号には、「一 養子縁組あっせん事業を行うのに必要な経理的基礎を有すること。」、「二 養子縁組あっせん事業を行う者(その者が法人である場合にあっては、その経営を担当する役員)が社会的信望を有すること。」、「三 申請者が社会福祉法人、医療法人その他厚生労働省令で定める者であること。」、「四 養子縁組あっせん事業の経理が他の経理と分離できる等その性格が社会福祉法人に準ずるものであること。」、「五 営利を目的として養子縁組あっせん事業を行おうとするものでないこと。」、「六 脱税その他不正の目的で養子縁組あっせん事業を行おうとするものでないこと。」、「七 個人情報を適正に管理し、及び児童、児童の父母、養親希望者その他の関係者の秘密を守るために必要な措置が講じられていること。」、「八 前各号に定めるもののほか、申請者が、養子縁組あっせん事業を適正に遂行することができる能力を有すること。」が基準として掲げられている。
(2)法の成立を受けて、法施行規則が制定され、加えて、民間あっせん機関が適切に養子縁組のあっせんに係る業務を行うための指針(厚生労働省告示第341号。以下「指針」という。)、「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律等の施行について」(子発1127第4号通知。以下「法施行通知」という。)が出されている。
2 争点について
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は次のとおりである。
(1)本件審査請求人が法第7条第1項第5号記載の基準に適合しているといえるか否か(争点1)
(2)本件審査請求人が法第7条第1項第8号記載の基準に適合しているといえるか否か(争点2)
3 争点1に係る判断について(不許可理由イ)
 養子縁組のあっせんに係る児童の保護を図り、民間あっせん機関による適正な養子縁組あっせん事業の運営を確保するため、あっせん事業が営利を追求しない公益的事業として行われるべく、法第7条第1項第3号、法施行規則第2条第1項は、養子縁組あっせん事業を行おうとする者については、社会福祉法人、医療法人、公益社団法人、公益財団法人、一般社団法人、一般財団法人、特定非営利活動法人であることに加え、法第7条第1項第5号は、営利を目的として養子縁組あっせん事業を行おうとするものでないことを許可の要件としているものである。
 そして、形式的には社会福祉法人等が経営主体となる場合であっても、営利企業が社会福祉法人等の名を借りて実質的に経営の実権を握るような場合には、経営主体を限定し、営利目的を持った者を排除した法の趣旨が没却されることとなるから、養子縁組あっせん事業の経営主体を限定した趣旨が損なわれないよう、主体的に養子縁組あっせん事業を行っていることを要するものと解するのが相当である。
 審査請求人の収入の大部分が株式会社Aに委託料として支払われており、養子縁組あっせん事業の業務の大部分が株式会社A及び支部のスタッフによって遂行されていることから、実質的には、養子縁組あっせん事業は、営利企業である株式会社Aの主導のもとに行われるものと評価せざるを得ず、営利目的が排除されているとはいいがたい。
 また、株式会社Aと支部の契約において、「本部と支部は、それぞれ独立した事業者」であり、「支部は、本件業務を遂行するにあたり、独立した事業者として、自ら経営責任を負い、かつ、第三者と取引を行う際は、本部とまったく異なる主体であることを十分説明し、支部の名のもと支部の計算で行わなければならない」とされている。このような契約を、審査請求人から業務の委託を受けているに過ぎないはずの株式会社Aが行っていることからも、営利企業である株式会社Aの主導のもとに事業が行われていると言わざるを得ない。
 したがって、審査請求人と株式会社Aとの関係や株式会社Aの本件事業への関与の程度からすると、全体として、営利事業を行っているものといわざるを得ず、処分庁が法第7条第1項第5号の基準を満たさないとした判断は不合理なものではないというべきである。
 なお、審査請求人は、審査会あて提出した主張書面の中で、「単に許可要件を満たしているか否かではなく、それが行政指導等では是正できず、経過措置を続けても改善の見込みがなく、不許可処分を下して利害関係者に重大な不利益を及ぼしても致し方ないといえるような状態であるかが審理されなければならない」と主張し、また、不許可理由イについては、「処分庁の方で、運営代行会社と申請者との間の業務バランスについて是正すべきところがあるのであれば適切に行政指導を行えば足りたはずである」と主張している。
 しかし、法第7条第1項第3号、法施行規則第2条第1項において「株式会社A」が事業主体から排除されていることからも、実質的に株式会社Aが運営主体となることは認められないことが明らかであり、また、当該違反は、法第3条第1項の趣旨にも反し児童に不利益を及ぼし得るものといえる。
 さらに、法の施行日から申請までに6月の経過措置が設けられており(法附則第2条)、審査請求人としては、その間、不明な点があれば処分庁に確認を行い改善が可能であったことに加え、事件記録によれば、処分庁が平成30年11月29日に行った実地調査において、処分庁担当者が、NPOが株式会社Aの業務を直接できないのかと尋ねた際に、株式会社Aの利点を述べることはあっても、NPOにおいて養子あっせん業務を直接行う意向は示されなかったことが認められる。よって、処分庁において、改善の見込みがないと判断したことには理由があるというべきである。
4 争点2に係る判断について
(1)「支部」について許可申請を行っていないことについて(不許可理由ア)
 「支部」については、審査請求人は一貫して許可が必要ない旨主張している。
 しかし、この点、法第6条第1項は、「当該養子縁組あっせん事業を行おうとする事業所の所在地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない」と規定している。このように、法が養子縁組あっせん事業を許可制とした趣旨を実現するためには、養子縁組あっせん事業の全部又は一部を行っている「事業所」について、養子縁組あっせん事業を適正に遂行することができる能力を有することの確認をすることが必須であることから、当該「事業所」の所在地を管轄する都道府県知事によって事前にその確認が行われ、また、許可後には必要に応じて指導、助言及び検査等が行われることが必要なものというべきである。したがって、養子縁組あっせん事業の全部又は一部を行っている「事業所」が複数の都道府県に存在する場合は、その全ての「事業所」について、当該「事業所」の所在地を管轄する都道府県の許可を受けなければならないものというべきである。
 これを本件についてみると、「支部」が、養親選定における家庭訪問代行業務、実親面談代行業務、引渡し立会い代行業務等を行っており、養子縁組あっせん事業のうちの中心かつ重要な業務の代行を行うことが予定されているものである。したがって、「支部」は、審査請求人が行う養子縁組あっせん事業の「事業所」というべきであり、その「支部」の所在地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならないものというべきである。
 また、事前に、処分庁から「支部」の所在地を管轄する都道府県知事の許可を取得するように助言があったにもかかわらず、審査請求人は「支部」の所在地を管轄する都道府県に対して許可の要否の確認すらしておらず、適正な養子縁組あっせん事業が行われることを疑わせるものといわざるを得ない。
 審査請求人は、本部と支部が一つの指揮命令系統のもと、一体となって動き、支部に何らの独立性も認められないような場合には支部に許可は必要ではないとの主張をしている。しかしながら、仮に、一つの指揮命令系統のもとで活動しているとしても、上記のとおり、「事業所」に該当するのであれば、その全ての「事業所」について許可を受けなければならないというべきであるから、審査請求人の主張には理由がない。さらにいうと、株式会社Aと支部との契約において、「本部と支部は、それぞれ独立した事業者」であり、「支部は、本件業務を遂行するにあたり、独立した事業者として、自ら経営責任を負い、かつ、第三者と取引を行う際は、本部とまったく異なる主体であることを十分説明し、支部の名のもと支部の計算で行わなければならない」とされているのであり、審査請求人と支部とが一つの指揮命令系統にあるとはいえず、支部が独立の事業者として業務を行っているものといわざるを得ないのであるから、その点においても、審査請求人の主張を採用することはできない。
 したがって、事業にかかる業務の一部を、事業を行おうとする事業所の所在地を管轄する都道府県知事の許可を受けていない「支部」に行わせていることは、法第6条第1項に反するものである。
 なお、審査請求人は、審査会に提出した主張書面の中で、「不許可処分を出すのではなく、経過措置のまま行政指導を行い、許可要件を満たすよう働きかけていくという方法があった」と主張する。
 しかし、「支部」については、届出制下の平成29年12月26日に行政指導が行われているにも関わらず改善を行わず、一貫して申請は必要がないとの主張を貫いている。そうであれば、仮に今回大阪市が審査請求人に対する許可を行ったとしても、養子縁組あっせん事業の主たる業務を担っている「支部」について申請を行うことは見込めないとした処分庁の判断は不合理なものではないと考える。
(2)手数料の定めについて(不許可理由ウ)
 まず、法施行規則第3条第1号の手数料については、「特定の養親希望者に係る相談援助その他の養子縁組のあっせんに係る業務に要した費用(特定の養親希望者に係る業務に要した費用として金額を示すことができるものに限る。)として、当該特定の養親希望者から徴収する手数料」(法施行通知の第2、Ⅱ、4、(1)、①、ⅰ))とされているところ、同号の手数料は当該特定の養親希望者ごとに、そのあっせん業務に要した費用に限って徴収を認められたものであるから、当該特定の養親希望者に要した費用として金額を示すことなく、一律に○○円という負担金を徴収することは、法施行規則第3条第1号の手数料として認められた算出方法と異なるものといわざるを得ない。
 次に、法施行規則第3条第3号については、養子縁組あっせん事業に要する費用の合計額から法施行規則第3条第1号及び第2号の手数料として徴収する費用の額を控除した額を限度として、養親希望者又は児童の父母等から徴収する手数料(法施行通知の第2、Ⅱ、4、(1)、①、ⅲ))とされているところ、○○円の専用アプリ登録料については、そのような方法で金額を算出したものとの説明はなく、法施行規則第3条第3号の手数料と認めることはできない。
 さらに、入会金○○円については、養子縁組の成立に前後して、養親に対して請求書を発行しているが、これは、その金員が任意のものであることが確実に担保されるように遵守することが求められている、「養子縁組の成立後、少なくとも六月は、養親から寄付金又は会費を受け取ってはならないこと」とする指針第六、二、(二)、イに反しているものと認められる。
 以上のとおり、審査請求人が徴収している負担金、登録料及び寄付金については、不許可理由ウ記載のように営利目的と言えるかは別として、法施行規則、指針及び法施行通知に反しているものといわざるを得ない。
 なお、審査請求人は、審査会に提出した主張書面において、経過措置を続け改善の見込みを判断すべきと主張する。
 しかし、事件記録によれば、処分庁が平成30年11月29日に行った実地調査において、入会金○○円については審査請求人から改善を行うような趣旨の発言も見られたが、負担金○○円についてはそもそも一律の徴収が問題であると認識しておらず、また、アプリ登録料○○円については、法施行通知の第2、Ⅱ、4、(1)、①、ⅲ)記載の方法に基づき算出したとの説明がなされないままであった。
 そうであれば、今後も改善は見込めないとした処分庁の判断は、不合理なものではないと考える。
(3)養親に対する面会について(不許可理由オ)
 法第23条は、「民間あっせん機関は、養子縁組のあっせんに関し、児童の父母、児童の父母以外の者で児童を現に監護するもの、養親希望者、児童等を支援するため、これらの者に対し、専門的な知識及び技術に基づいて、面会の方法により相談に応じ、必要な情報の提供、助言その他の援助を行うものとする。」と規定し、指針第四、二は、「民間あっせん機関は、養子縁組のあっせんを行う前に、養親希望者及びその全ての同居家族と面会を行うとともに、少なくとも一度は養親希望者の家庭訪問を行い、養親希望者及びその全ての同居家族の意向、家庭状況等を把握し、養親として適切な養育ができることを確認しなければならない。」と規定している。これは、養親希望者が本当に児童を養育する能力を有するのか否かを確認するためには、養親希望者との面会及び家庭訪問による確認が必須であると考えられることから規定されたものである。
 審査請求人は、反論書において、少なくとも1件は、あっせんを行う前に、養親希望者に面会及び家庭訪問を行っていない事例があることを認めており、かつ、このような事態が生じていることについて問題がないかのような主張を行っている。
 なお、審査請求人は、審査会に提出した主張書面において、経過措置を続け改善の見込みを判断すべきと主張するが、上記の不適切な1件について問題視しない主張を踏まえると、今後も改善は見込めないとした処分庁の判断は、不合理なものではないと考える。
(4)養親希望者に対する研修について(不許可理由カ)
 法第26条第5号は、児童の養育を適切に行うために必要な知識及び技能を習得させ、及び向上させるために必要な研修として厚生労働省令で定めるものを修了していない養親希望者に対しては、養子縁組のあっせんを行ってはならない旨規定し、法施行通知第2、Ⅲ、4、⑤は、「養親希望者研修は、養育里親研修や養子縁組里親研修を参考に、講義及び演習を3日、実習を3日以上のカリキュラムによって行うこととすること」としている。
 しかしながら、審査請求人は、あっせん前の事前研修としては、1日だけの研修としており、また、審査請求人から、1日の事前研修で上記6日分のカリキュラムを満たしているとの具体的な説明はなされておらず、法施行通知の「講義及び演習を3日、実習を3日以上のカリキュラム」を満たしているとは認めることができない(宿泊を伴う実習の研修は、あっせん後に行われているものと認められる。)。
 なお、審査請求人は、審査会に提出した主張書面において、経過措置を続け改善の見込みを判断すべきと主張するが、法施行通知が厚生労働省から出されたのは平成29年11月27日であり、処分庁によれば、同通知を平成29年12月28日付けで審査請求人に送付したとのことであることから、研修メニューの変更を行うのに十分な時間的余裕があったと認められる。
 また、審査請求人が改善を行うまでの間、審査請求人が従前行ってきた研修方法を継続すると、「児童の養育を適切に行うために必要な知識及び技能を習得」していない者が養親となることとなり、そのような養親に養育される児童の利益が損なわれることは明らかである。よって、研修体制が整わない状態で許可を行うことは、法の趣旨に反することとなるといえる。
(5)まとめ
 これら(1)~(4)の事実については、審査請求人主張のとおり改善が可能であるかもしれないが、いずれに関しても、審査請求人からは積極的に改善を行おうとの意思が認められないことは、上記のとおりである。
 なお、審査請求人主張のとおり、(2)~(4)については、処分庁から行政指導があったとは認められないが、行政指導の有無に関わらず、指針や通知を見ればそれらに違反していることが明らかであるといえる。
 これらを総合して見れば、審査請求人が「事業を適正に遂行することができる能力を有」しないとした処分庁の判断は不合理とはいえず、審査請求人は、法第7条第1項第8号の基準に適合していないといえる。
(6)その他の不許可理由について
 不許可理由エについては、「○○」は、審査請求人が行う養子縁組あっせん事業に関連するものではあるが、この事業において研修を受けることにより養親候補として優先される等の特典はあくまでも事実上のものということができ、養子縁組あっせん事業そのもの、あるいはその一部とまでいうことはできないと解される。
 また、支部が審査請求人の名称を使用していることについても、審査請求人の養子縁組あっせん事業のスタッフとして業務を行う限りで使用しているものと認めることができ、別の養子縁組あっせん事業を行わせているものではない。
 したがって、株式会社Aが「○○」事業において審査請求人の名称を記載していること、支部が審査請求人の名称を使用していることをもって、法第17条が禁止する名義貸しそのものと評価することはできない。
 もっとも、外観上、「○○」事業が審査請求人によって運営されているかのような記載となっており、あっせん事業そのものではないものの、あっせん事業に関連・近接する事業において、経営主体についての実態と外観とに乖離があり、名義貸しが行われているものといわざるを得ず、法第17条に直接反するものではないものの、決して望ましい状況でないと考えられる。
 不許可理由キについては、指針第二、三、(三)では、「児童の父母等による養子縁組の同意の撤回を困難にすることを目的として、同意の撤回に当たり追加の費用を求めたり、心理的な圧迫を加えたりすること」をしてはならないとされている。
 これに関しては、当該返還請求は、「追加の費用」を求めているわけではなく、支給した費用の返還を求めているだけであり、また、「養子縁組の同意の撤回を困難にすることを目的として」審査請求人が返還請求を行ったことは立証されていない。
 よって、当該事実をもって、指針第二、三に反するとはいえず、指針に反する点がない以上、法に違反する点はないと考える。
5 審査請求に係る審査手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
6 結論
 以上のとおり、本件審査請求は理由がないと認められるので、行政不服審査法第45条第2項の規定により、主文のとおり裁決する。

令和2年4月21日
審査庁 大阪市長  松井 一郎

裁決書(令和2年答申第2号)

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