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令和3年3月26日付け裁決(答申第12号)

2023年2月17日

ページ番号:534431

裁決書

大阪市〇〇区〇〇〇丁目〇番〇号
(審査請求人)A
(処分庁)大阪市〇〇区保健福祉センター所長 

 審査請求人が令和元年10月22日に提起した障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号。以下「法」という。)第76条に係る補装具費の支給に関する処分(令和元年〇月〇日付け〇〇第〇〇号)(以下「本件処分」という。)に係る審査請求(以下「本件審査請求」という。)について、次のとおり裁決する。

主文
 本件審査請求に係る処分を取り消す。

事案の概要
1 令和元年〇月〇日、審査請求人から〇〇障がい者手帳の交付申請書が提出され、同日付けで、大阪市長は、審査請求人に、障がい名が〇〇障がい(〇〇)(〇級)の〇〇障がい者手帳を交付した。
2 令和元年〇月〇日、審査請求人は、大阪市長に対し、〇〇障がい者手帳交付申請に係る処分に対する審査請求(以下「別件審査請求」という。)を行った。
3 令和元年〇月〇日、大阪市〇〇区保健福祉センター(以下「センター」という。)において、審査請求人は、電動車椅子を申請する補装具とする補装具費支給申請書を処分庁あて提出した。
4 令和元年〇月〇日、大阪市〇〇区保健福祉センター所長(以下「処分庁」という。)は、審査請求人に対し、本件処分を行った。
5 令和元年〇月〇日、審査請求人は、大阪市長に対し、本件審査請求を行った。

審理関係人の主張の要旨
1 審査請求人の主張
 本件審査請求の趣旨は、本件処分が法第76条第1項の規定に違反し違法であることから、本件処分を取り消すとの裁決を求めるものである。審査請求人の主張の概要は、以下のとおり。
⑴ 本件処分の判断過程及び手続の瑕疵
 処分庁による本件処分は、大阪市の身体障がい者更生相談所である大阪市立心身障がい者リハビリテーションセンター(以下「本市更生相談所」という。)への判定依頼が行われなかった結果、十分な判定がされておらず、また、審査請求人への判定通知書も送付されずに処分されたことは、判断過程及び手続に瑕疵がある。
⑵ 違法又は不当な判断基準に基づく本件処分
 本件処分の基準となった大阪市電動車椅子の補装具費支給基準(以下「市基準」という。)は、存否すら不明であったことや、運用状況を計り知ることができない違法又は不当なものである。かかる市基準に全面的に依拠して行った本件処分は、行政手続法(平成5年法律第88号)に違反する。
⑶ 身体状況等の考慮不尽
 本件処分は、福岡地裁平成24年(行ウ)第78号同27年2月9日判決・賃金と社会保障1632号45頁(以下「福岡地裁判決」という。)において、あらゆる補装具費支給の要否を判断するに当たり考慮すべき事情とされている、「当該身体の状態により当該障害者が日常生活又は社会生活を自立して営むことがどれ程困難となっているかといった観点から、当該障害者の生活状況等」は、障がいの状況及び級別に関わらず、遍く適用されるべきであるのに、その考慮がなされていない。
⑷ 却下理由に不備
 補装具費支給等却下通知に記載された本件処分理由は、一般的かつ広汎な理由を述べるにとどまっており、具体性を欠くために、行政手続法第8条第1項に違反する。
2 処分庁の主張
 処分庁の主張は、本件処分は、関係法令等に基づき適法に行ったものであり、本件審査請求を棄却するとの裁決を求めるものである。処分庁の主張の概要は、以下のとおり。
⑴ 本件処分の判断過程及び手続並びに判断基準の適正性
 本件処分を行う際に、本市更生相談所における医学的判定を求める理由は認められなかったため、判定依頼を行わなかったものであり、判断過程及び手続については、違法又は不当な点はない。また、本件処分は、その成立及び内容について適正を欠くことのない市基準に基づいて行われたものである。
⑵ 身体状況等の考慮
 福岡地裁判決は、〇〇障がいのため〇〇障がい者手帳〇級を所持する原告に対する電動車椅子の支給が却下されたことについて争われたものであり、審査請求人とは障がいの等級及び内容が異なり、同様の基準で判断することはできない。
⑶ 却下理由の具備
 申請時、審査請求人に対し、口頭により市基準に該当しない旨を説明した上で、市基準の写しを手渡しており、審査請求人に対し具体的な説明がなされており、却下理由に不備はない。

理由
1 本件に係る法令等の規定について
⑴ 補装具の定義は、法第5条第25項に規定されており、「補装具とは、障害者等の身体機能を補完し、又は代替し、かつ長期間にわたり継続して使用されるものその他の厚生労働省令で定める基準に該当するものとして、義肢、装具、車いすその他の厚生労働大臣が定めるものをいう」と定められている。
⑵ 法第5条第25項に規定された補装具に係る「厚生労働省令で定める基準」については、同法施行規則(平成18年厚生労働省令第19号)第6条の20に規定されており、次の各号のいずれにも該当することとされている。
ア 障害者等の身体機能を補完し、又は代替し、かつ、その身体への適合を図るように製作されたものであること。(第1号)
イ 障害者等の身体に装着することにより、その日常生活において又は就労若しくは就学のために、同一の製品につき長期間にわたり継続して使用されるものであること。(第2号)
ウ 医師等による専門的な知識に基づく意見又は診断に基づき使用されることが必要とされるものであること。
⑶ 補装具費の支給については、法第76条に規定されており、市町村は、障がい者から申請があった場合、当該申請に係る障がい者の障がいの状態からみて必要と認めるとき、補装具費を支給することが定められている。
⑷  補装具の種目や費用額の算定基準は、「補装具の種目、購入等に要する費用の額の算定等に関する基準」(平成18年9月29日厚生労働省告示第528号)に規定されている。
⑸  補装具費の支給に係る事務取扱については、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4の規定に基づく技術的助言として、「補装具費支給事務取扱要領」の制定について(平成30年3月23日障企自発0323第1号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室長通知)が発出されており、当該通知の別紙として「補装具費支給事務取扱要領」が示されている。
⑹  補装具費の支給に係る事務取扱については、同様に、地方自治法第245条の4の規定に基づく技術的助言として、「補装具費支給事務取扱指針について」の制定について(平成30年3月23日障発0323第31号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)が発出されており、当該通知の別紙として「補装具費支給事務取扱指針」(以下「国指針」という。)が示されている。国指針においては、補装具は、身体障がい者等の失われた身体機能を補完又は代替し、かつ、長期間にわたり継続して使用される用具であり、身体障がい者等の職業その他日常生活の効率の向上を図ること等を目的として使用されるものとされている。
⑺  電動車椅子の支給については、電動車椅子に係る補装具費の支給について(平成30年3月23日障発0323第32号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)が発出されており、当該通知の別紙として「電動車椅子に係る補装具費支給事務取扱要領」(以下「電動車椅子に係る事務取扱要領」という。)が示されている。電動車椅子に係る事務取扱要領では、電動車椅子に係る補装具費支給基準の対象者は、学齢児以上であって、①重度の下肢機能障がい者等であって、電動車椅子によらなければ歩行機能を代替できないもの、又は、②呼吸器機能障がい、心臓機能障がい、難病等で歩行に著しい制限を受ける者又は歩行により症状の悪化をきたす者であって、医学的所見から適応が可能なものとされている。
⑻  本市では、電動車椅子の補装具費支給基準として、市基準(平成25年4月1日制定)を定めており、本市の電動車椅子の補装具費の支給に際しては、この市基準を医学的判定依頼の要否を判断する目安として用い、支給決定を行っている。
⑼  身体障害者更生相談所の設置及び業務については、身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)第11条に規定されている。また、国指針において、更生相談所は、補装具費支給制度における技術的中枢機関及び市町村等の支援機関として、補装具の専門的な直接判定の他に、市町村への技術的支援、補装具費支給意見書を作成する医師に対する指導、補装具業者に対する指導を行うこととされている。
⑽  また、法第76条第3項において、「市町村は、補装具費の支給に当たって必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、身体障害者更生相談所その他厚生労働省令で定める機関の意見を聴くことができる。」と規定されており、また、同法施行規則第65条の8第1項において、「市町村は、補装具費の支給に当たって必要があると認めるときは、身体障害者福祉法第9条第7項に規定する身体障害者更生相談所及び次条に定める機関(次項において「身体障害者更生相談所等」という。)の意見を聴くことができる。」と規定されている。
⑾  さらに、電動車椅子に係る事務取扱要領の「第1 基本的事項」の1において、「電動車椅子に係る補装具費の支給は、重度の歩行困難者の自立と社会参加の促進を図ることを目的として行われるものであることから、身体障害者、身体障害児及び難病患者等(以下「障害者等」という。)の身体の状況、年齢、職業、学校教育、生活環境等の諸条件を考慮し、その是非を判断すること。」と規定されている。
2 争点について
 本件審査請求における争点は、以下の3点である。
 ⑴  本件処分に当たって付された処分理由が、行政手続法第8条に反し、違法又は不当となるか(以下「争点1」という。)。
 ⑵  市基準が、法に反し、違法又は不当となるか(以下「争点2」という。)。
 ⑶  市基準を基に行った本件処分に違法又は不当な点があるか否か(以下「争点3」という。)。
3 争点に係る判断について
⑴  争点1について
ア 本件処分に付された処分理由について
 令和元年〇月〇日付け本件通知書では、本件処分の理由として「給付(修理)要件に該当しないため」と記載され、また、同日付け本件通知書別紙では、「大阪市電動車椅子の補装具費支給基準に該当しないため。」と記載され、両文書は、併せて被処分者に提示することにより本件処分の理由を伝える趣旨と解される。加えて、事件記録によれば、処分庁は、申請時の同年同月○日に、「口頭により本市基準に該当しない旨の説明を行い、本件処分に係る根拠である本市基準についても写しを書面にて手渡しており、本市基準に基づくと申請が却下になる理由は伝えている」とのことである。
 上記事情も踏まえて、行政手続法第8条の理由付記の程度が十分といえるか、以下検討する。
イ 行政手続法の解釈について
 一般に、法規が行政処分に理由を付すべきものとしている場合において、その趣旨とするところは、行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与えることにあるものと解されるが(最高裁昭和36年(オ)第84号同38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁参照)、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合に、申請者に対し当該処分の理由を示すべき旨を規定する行政手続法8条1項本文も、これと同一の趣旨に出たものと解するのが相当である。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る審査基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである(最高裁昭和57年(行ツ)第70号同60年1月22日第三小法廷判決・民集39巻1号1頁、最高裁平成21年(行ヒ)第91号同23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)。
ウ 本件処分における理由の記載の程度について
 まず、本件処分についてみると、本件処分の根拠法令たる法第76条第1項は、上記1⑶のとおり極めて抽象的であり、同項は、後述のとおり処分庁に裁量を認める趣旨と解される。他方で、支給すべきか否かを判断するための基準たる審査基準は、市基準として一応具体的に定められ、処分庁によれば、求めがあれば申請者にこれを交付しているとのことである。もっとも、後述するとおり、法の趣旨に照らせば、処分庁はその裁量権に基づき、日常生活及び社会生活状況に係る個別具体的な諸般の事情をも考慮して支給決定をすべきか否かの判断を行う必要があり、市もそのような運用を現に採用しているところ、この点は市基準には明確には記載されていない。
 以上を総合考慮すれば、本件処分に当たっては、いかなる事実に基づき、いかなる法規及び審査基準を適用して当該処分を行ったのかを、上記諸般の事情の考慮の内容・程度等をも含めて、申請者においてその記載自体から了知し得るものでなければならないと考える。
 これを本件についてみると、本件では、市基準の本件該当条項である1⑴には身体障がいに係る条件の記載しかないが、後述のとおり、処分庁は審査請求人の身体状況のみならず、日常生活や社会生活の状況も考慮の上本件処分を行ったとのことである。それであるにもかかわらず、事件記録によれば、申請時、処分庁は審査請求人に「本市基準に規定した支給要件に該当しないため」に、「電動車椅子の支給対象外である」とのみ説明したとのことである。
 つまり、審査請求人としては、市基準において定める身体障がいの程度(以下「身体要件」という。)に自身が該当しないことは、市基準及び処分庁担当者による説明から理解できたとしても、身体要件に形式的に該当しなくても補装具費が支給される場合がありうること、また、自身については日常生活及び社会生活の状況も考慮の上検討がなされたが認められなかったということについては、処分庁の説明を合わせ考慮しても理解できなかったといえる。
 よって、処分庁が行った理由付記については、以上の検討からすると特に詳細な理由付記が求められるにもかかわらず、処分庁の説明をあわせ考慮しても身体要件非該当としかわからないものであり、「行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制する」との観点からも、「処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える」との観点からも、法の趣旨に反するものである。
 したがって、本件処分の理由付記の程度は、行政手続法第8条の要求する理由提示としては十分でないといわざるを得ず、同条の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分といえる。
⑵  争点2について
 まず、前提として、市基準については、本市における電動車椅子に係る補装具費支給申請についての審査基準(行政手続法第2条第8号ロ)と解され、それに依拠して判断がなされたことにつき、行政手続法上の違法は認められない。
 その上で、仮に、市基準に違法又は不当な点があれば、当該市基準に照らし行った決定についても、違法又は不当となり得るので、以下、まず市基準の違法性、不当性について検討する。
 ここで、補装具費に係る法令等の規定は、上記1のとおりであり、補装具費支給の要否の判断に当たり基準とすべき障がいの状態や補装具の必要性の程度について何ら具体的な基準を定めていない。
 よって、補装具費の支給に係る審査基準が違法又は不当となるのは、当該基準が法の趣旨に反し、不合理となる場合といえる。
 この点、市基準は、国の通知たる電動車椅子に係る事務取扱要領を踏まえ、本市更生相談所において医学的見地からの検討を行った上、制定されたものであり、その制定過程に不合理な点はない。
 次にその内容について検討すると、電動車椅子に係る事務取扱要領では、対象者について、上記1⑺のとおりとしており、市基準はそれを更に具体化したものといえる。また、同要領の基本的事項では、「身体の状況、年齢、職業、学校教育、生活環境等の諸条件を考慮し、その是非を判断すること」とされているが、後述のとおり、本市の運用としては、身体の状況だけでなく、職業や生活環境についても考慮していることが認められることから、運用まで含めて考えるとその点でも同要領に反するとまではいえない。
 よって、市基準の内容について、電動車椅子に係る事務取扱要領を逸脱するようなところはなく、不合理な点は認められない。
⑶  争点3について
 法第76条第1項は、補装具費の支給要件について、「当該申請に係る障害者等の障害の状態からみて、当該障害者等が補装具の購入、借受け又は修理を必要とする者であると認めるとき」と規定するのみで、市町村が補装具費の支給の要否を決定するについて検討するべき障がいの状態や補装具の必要性の程度につき何ら具体的な基準を置いていない。このような法の規定に照らすと、同法は、障がい者に対し補装具費を支給するか否かの判断については、市町村の合理的裁量に委ねているものと解するのが相当である。そうであれば、市町村が行った処分が違法となるのは、判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合と解される(福岡地裁判決参照)。
 そこで、以下、処分庁が行った身体要件、日常生活及び社会生活状況についての考慮に違法又は不当な点があった否か、また、決定に当たっての判断過程に違法又は不当な点があったか否かについて検討する。
ア 身体要件について
 これについて、審査請求人は、反論書1において、「〇〇障害〇級、〇〇障害〇級とするのが妥当」と、また、反論書3において、「〇〇障害〇級且つ〇〇障害〇級を認定すべき」と主張する。
 しかし、事件記録によれば、審査請求人が申請時に有していた〇〇障がい者手帳において認定されているのは、〇〇障がい〇級のみである。
 そうであれば、審査請求人の障がいについて、〇〇障がい〇級であることを前提に市基準を適用した点について、事実誤認は認められない。
イ 日常生活及び社会生活状況について
 上記アのとおり、本件は市基準の身体要件を充たさないが、福岡地裁判決によれば、障がい者の身体の状態のみならず、当該身体の状態により当該障がい者が日常生活又は社会生活を自立して営むことがどれ程困難となっているかといった観点から生活状況等についても考慮すべきである。
 この点について、審査庁が審査会あて提出した資料によれば、処分庁が決定に当たってそれらを考慮したとのことであるので、以下検討する。
 まず、日常生活の状況については、生活保護の開始面談での聴き取り内容により、審査請求人が自動車を保有し自ら運転の上クリニックに通院していることから、電動車椅子がなければ日常生活が困難をきたす事情はないとの処分庁による判断は不合理とは言えない。
 次に、社会生活の状況については、生活保護の開始面談での聴き取り内容により、現に就労しておらず、また、就労指導は困難とされていることから、電動車椅子がなければ社会生活が困難をきたす事情はないとの処分庁による判断は不合理とはいえない。
 なお、これらの事実については、処分庁の担当者自ら審査請求人に確認したものではなく、生活保護担当者から聴き取りを行ったとのことであり、審査請求人本人に電動車椅子を必要とする事情を確認していない点で十分に事実を把握できたか疑いを差し挟む余地なしとはいえない。この点、審査会が審査請求人に文書で、審査請求人に車椅子ではなく電動車椅子が必要である理由を尋ねたため、当該回答についても検討する。
 上記質問に対する審査請求人の回答は、「軽い労作後でも、以降24時間以上に渡って極度の疲労感が継続し症状の悪化をきたすために、移動の困難を軽減するには『車椅子』ではなく『電動車椅子』が必要であると結論付ける。」とのことであり、また、「審査請求人は『車椅子』を継続的に自走させる握力をはじめとする筋力がなく、進行を補助する介護人も存しないことから、『車椅子』は利用することができず不適格である。」とのことであった。
 また、審査請求人は、審査会あて主張書面において、〇〇県の主治医への月一回の通院の際には、公共交通機関を使用しているとのことであった。
 当該事実については、審査会段階で明らかになった事実であり、処分庁が上記事情を考慮したか定かではないが、単に疲労感があるのみでは電動車椅子が必要とまではいえず、また、審査請求人は自動車を保有しているため目的地の近辺までは自動車での移動が可能であることから、自走型車椅子を長時間操作するまでの握力は必要ないと考える。また、月一回の〇〇県への通院のみのために電動車椅子を支給することも社会通念上必要とまでは言えない。したがって、仮に処分庁が当該事実を考慮していなかったとしても、不支給との判断について不合理とまではいえない。
 よって、処分庁が日常生活及び社会生活の状況も考慮して、不支給と決定した判断に違法又は不当な点は認められない。
ウ 決定に当たっての判断過程について
 審査請求人が主張するように、本件処分は、本市更生相談所の判定を経ずに決定がなされていることから、その点、違法又は不当となるか以下検討する。
 まず、法第76条第3項は、上記1⑽のとおり、「市町村は、補装具費の支給に当たって必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、身体障害者更生相談所その他厚生労働省令で定める機関の意見を聴くことができる。」と規定しており、更生相談所の意見を聴くか否かについて、市町村の判断に委ねている。
 また、市基準の1⑴の該当性の判断については、「下肢障がいが1級又は2級の者(体幹機能障がい・脳原性移動機能障がいを含む。)で上肢障がいが7級以上の手帳を有する者」との判断については、身体障がい者手帳の確認で事足り、医学的判定を要するものではなく、また、当該身体の状態により当該障がい者が日常生活又は社会生活を自立して営むことがどれ程困難となっているかという点についても、必ずしも医学的判定を要するとまでは言えないことから、本市更生相談所の判定を経ずに決定を行ったことについて不合理とはいえない。
 したがって、本件処分について、本市更生相談所の意見を聴かずに決定がなされたことについて、違法又は不当な点は認められない。
4 その他
 本件処分に関し、上記3⑴で触れている点以外に、違法又は不当な点は認められない。
 また、本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
5 結論
 よって、本件審査請求は理由があると認められるので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により、主文のとおり裁決する。

令和3年3月26日
審査庁 大阪市長   松井 一郎

裁決書(令和2年答申第12号)

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