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優秀賞「お母さんに会いたい」

2023年4月1日

ページ番号:516577

受賞者

安岡 千晴 様

概要

 障害者支援施設で私が担当するA様が、ある日「あ母さんに会いたい」と言われたところから物語が始まります。疎遠になっていたお母様に会うために、親戚を頼りに連絡を取り、特別養護老人ホームで生活する100歳のお母様に会える段取りまで組むことができました。しかし、約束の日を前にA様が体調を崩され、入院することが2回続きます。A様が施設に戻れない可能性について病院から言及されますが、A様は無事に退院し、ついにお母様と直接対面することが叶ったのです。
 その時のA様の満面の笑みから、ご本人の「やりたいことを実践する」ことの重み、価値を学びました。

エピソードを通じて伝えたい「福祉・介護の仕事」の魅力

 福祉職は、利用者様の生活を共に創れる仕事だと思います。そのお手伝いは決して簡単なことではなく、日々の積み重ね、一瞬一瞬の積み重ねが繋がっています。ご本人の想いを受け止める準備から、どんな想いなのかアンテナを張ること、そしてどうすれば実行に移せるか、たくさんの先輩やご本人と一緒に考えながら生まれた答えが介護現場には溢れています。
 ご本人はもちろんのこと、職員一人一人が実践者になれる福祉の仕事、多くの人にこの魅力が伝わってほしいです。

本文

 大学を卒業し、障害者支援施設で働いた3年間私が担当したA様のお話です。
 A様は食べること、外出すること、木村拓哉が大好きな69歳の女性利用者様です。私が新人の頃は、発語も多くイタズラもする元気な方でした。ところが、徐々に身体機能が低下していき発語も少なくなっていきました。その中でも私は、A様の面談の際にいつも「何かやってみたい事、してみたい事はないですか?」と尋ねていました。A様の担当になり3年目に入ったある日、「お母さんに会いたい」と言われました。A様のお母様は、特別養護老人ホームに入所されていました。毎年、暑中見舞いや年賀状は出していたものの一度も返信はありませんでした。
 職場の上司と看護職員に相談し、親戚の方に連絡を取ったところ、なんとお母様がちょうど100歳になるため、「ぜひ会いに行ってあげてほしい。」と返事をいただきました。そこで、令和元年10月にお母様に会いに行くことが決まりました。A様に報告すると満面の笑みを浮かべておられました。「お母さんが好きだったバナナを持って行きたい」とおっしゃられたので、プレゼントとして持って行く計画も立てていました。
 ところが、10月に入り面会予定の3日前にA様が体調を崩し入院となります。2ヵ月後に退院され、状態が落ち着いた令和2年1月に再度面談の段取りを組みました。しかし、またしても1月に入り体調を崩し入院することになりました。入院中に、延命措置についての同意を取らなければならず、当施設に帰ってくるのが難しいかもしれないと病院からも説明を受けました。さらに、同じ時期にお母様がターミナルケア(看取り介護)に入ったという連絡がありました。A様の退院より先にお母様が先立たれてしまうかもしれない、私はそんな考えが頭によぎりました。そんな中で担当の私ができることは限られていましたが、お見舞いに行き「お母さんに会いに行くためにも施設に帰ってきて下さいね」とA様を励まし続けました。
 1カ月後にA様は見事に退院され、状態が落ち着いた3月にお母様との面会が調整できました。過去の記録を遡っても記載がないため不明ですが、実に何十年ぶりの再会となります。会いに行く当日はA様も緊張している表情をされていましたが、優しいお母様だったことや、家で一緒に過ごしていたことが多かった等の話を聞くことができました。
 高齢者施設で暮らすお母様は、その日の午前中に入浴を済まされたとのことで疲れて眠られていました。また、お母様はご高齢で耳も遠く目もあまり見えておらず、自ら身体を起こすことが難しい状態でした。しかしA様が近づくと手を強く握り何度もA様の名前を呼び続けてくれていました。A様自身も発語が少しずつ難しくなっており、言葉に出すことはできませんでしたが、何度も口をパクパクと動かし「お母さん」と呼んでいるように感じました。
 今回のことでお母様が暮らす施設では、娘さんがいることが分かり施設のスタッフはとても驚いていました。これまでお母様が時折、口にしていた言葉がスタッフには何を指すのか汲み取れていませんでしたが、A様が前に暮らしていた施設の名前であることが分かり、ずっと娘さんのことを気に掛けてくれていたお母様の姿がありました。
 A様は普段から、嬉しい事があるとすぐに泣いてしまうため、スタッフ全員が今回も涙すると予想していました。ところが担当の私が先に涙を流してしまい、A様は笑いながらも驚いた表情をされていました。私はA様の担当を3年間させていただいた中で何十年もの思いが詰まった最高の笑顔の瞬間に立ち会うことができ、親子の絆に感動しました。
 行きの車内では緊張した表情だったA様が帰りは満面の笑みを見せて下さり、ご本人の笑顔が全てを物語っていると感じました。
 その後のA様は、お母様との面会後は入院することもなく元気に施設生活を送られています。この面会がきっかけで、生きる糧になっているのではないかと思います。
 4年目からは高齢者施設に異動となった今、A様が私に教えてくれたことを振り返ると、一人ひとりの想いに寄り添うことが自分の軸になっているということです。一人の利用者様が「行ったことのない場所に行きたい」と話されています。しかし、「車椅子に乗っているからあかんねん」と言われた時に、車椅子に乗っているからできないのではなく、あらゆる方法を皆で考える事が出来れば沢山の可能性が広がっていくと思っています。新型コロナウイルスの影響により、状況を見極めながらにはなりますが、一歩ずつ前進できればと思っています。
 A様を通して学んだ「やりたいことを実践してみよう」を胸にこれからも頑張りたいと思います。

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