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最優秀賞「おおきなな~ ひろ~いうみでおよぎたいねん ~行きたいから生きたいへ~」

2023年4月1日

ページ番号:516589

受賞者

山内 雄介 様

エピソード

 私は、6年前異動により1ユニット9名のグループホームへ携わらせて頂く事となりました。そこでグループホームへ入居される愛くるしい笑顔で癒してくださるHさんと出逢いました。日々話をする中でよく、「わたしは、泳ぎたいねん。連れて行って」と仰ってました。
 お年も96歳。来る日も来る日も、泳げる泳ぎたいの思いが聴かれました。本人さんの状態からしても、真っ先に私の頭にはリスクがありました。リスクを負う事で、中々次の行動が展開されなかったです。もし泳ぎに行って万が一の事が頭を過ぎりました。しかも、そのリスクはご高齢からしても高い訳です。私は、Hさんへ提案を行いました。最善の安全性を考え、近くのプールに行かないかな~。Hさんは、しかめっ面に「あかんあかん。そんなもんな~、プールは直ぐに壁がある。あんたは、な~んにもわかってない。小さいプールあかんあかん。広~い大きなな海で泳ぐからええねん。はよ連れて行って。」来る日も来る日も、エアクロールをされ、「こーやって泳ぐねん。」エア平泳ぎをされ「こーやって泳ぐねん。」また、日本泳法の横泳ぎをエアでされました。なぜそこまで泳ぎに拘られるのか。
 そしてある日、Hさんが幼少期、一人で電車に乗り水練学校へ通われていた事を知りました。泳ぎが大変達者であった様です。Hさんとのやりとりが、約1年続きました。よし、Hさんの強き思いに背中を押される形で息子さんへ相談を行いました。Hさんの今でも泳げる。海で泳ぎたい気持ちが大変強いです。一度海へ一緒に行かせて頂くとか…と、話をすると、息子さんは即答でした。「ええよ。本人行きたいなら連れて行ってもらって。今はおまけの人生。おばあちゃんが、もしそこで何かあっても本望やと思う。家族としては、本人のやりたい様に。お任せします。」でした。そこから直ぐに主治医へ相談を行いました。「ええやん。ほんまに行くん?そこまでするの。そんなんせなあかんの。」私は言いました。生かされる命ではなく、活きて活きて生ききってほしい。それをHさんが求めているなら私達の目指すべきものがそこにあると思うのです。主治医と連携調整を行い、決まりました。
 そして、本人さんと一緒に水着を買いに行きました。96歳のHさんはビキニ姿は恥ずかしいと。Hさん含む皆で来る日を思い考える事が楽しくて必然と笑顔も溢れていました。当日の2016年8月10日の朝は、激しい雨がたたきつけていました。私が出勤すると、浮き輪やビーチボールを持ち、今にも南の島へ行かれる様な服装をされたHさんが玄関前で準備をされていました。雨だけどどうします。お伺いすると、「あー、もぅ。」としかめっ面に。「海入ったら濡れるやろ。雨なんか関係あらへん。はよ行くで~~」
 Hさんの思いに押される形で、和歌山県片男波海水浴場へ到着しました。早々に着替え、現地で借りた水陸両用のバギーを使い、水辺へ。そこには、空を見上げるHさんの姿がありました。見上げる空は、来るのを待ってくれていたかの様な真っ青な晴天に。ザバーンザザザザ 砂浜に打ち寄せる波。さっ、行こうとHさんと職員4名でバギーのまま海へ。Hさんは、叫ばれました。「あかん。あんたら。あかん。」一端砂浜に上がり伺うと、「あんたら、私を島流しにするんやろ。私を捨ててあんたらそれで幸せなんやろ。」そう仰られました。
 ゆっくりゆっくり背中をさすらせて頂きながら話を伺い、絶対そんな事しない。Hさんは「ほんまにせーへんか。ほんまに大丈夫か。信じてええか。」大丈夫。任せて。再度、海へ。Hさんは、泳ぎたい。これまで歩いて海へ入り泳いでいたであろう。Hさんが昔されていたそのままの姿で。浮き輪を付け介助により、一歩一歩歩み出すと、足取りも自然と海に。ついに大海原に浮きました。その時の感動は今も忘れません。白髪の小さな身体をいっぱいいっぱい動かし泳がれていました。「塩梅ええわ~。気持ちいい。」
 現地では、大学生の方々が声を掛けてくださったり、海の家のおじさんが声を掛けてくださいました。おばあちゃん、来年も来てな。楽しみに待ってるな。Hさんは、「絶対来るで!絶対くる!」社会の中のHさんを感じました。海へ行きたいを叶えられたHさんは、波打ち際で仰られました。「人はな、やってやれんことはない」「来年も来るで必死に生きる~」【行くが生きる】に変わりました。それから毎日毎日頑張ってご飯を頬張られ、日常を生きられる姿を見せてくださいました。1年後、7月20日同じ海で泳がれるHさん。海水浴の後に鯛茶漬けをたいらげる満足気な姿がありました。そして、2018年、春頃からしんどい日が続きました。ターミナル時期に差し掛かろうとしていました。Hさんの体調は決して良くはなかったです。今年はどうしよ~か。チームで何度も話しました。賛否分かれましたが、Hさんがどうしたいか聴こうと。Hさんは、「行くよ~」私たちがやろうとしている事は、本当に本人の為なのか。それとも…悩んでいる時に、私たちが目指す目的に立ち返りました。“活きて活きて生ききる支援”年齢なんて関係ない。病気なんて関係ない。支援する側される側ではなく、人として私に伝えてくれたHさんの言葉【人はやってやれん事はない】意は決しました。様々な覚悟を抱きながら、2018年7月15日98歳のHさんは、3年連続の海水浴へ行きました。これまでの2回とは明らかに異なる姿がありました。体力の限界は明らかでした。しかし、沢山の大学生の方々が、Hさんとハイタッチをしてくれました。積極的に写真を写してくださる方々が居られました。そこに居合わせた皆が笑顔になりました。
 砂浜で寛いでおられた方々が、Hさんの為に動いてくださいました。そこには、沢山の方々に笑顔を咲かせてくださるHさんの力と沢山の人に囲まれる一人のHさんの姿がありました。砂浜で仰られました。「来年の事は来年にしかわからん。もうこりごりや。」
 それから一ヶ月後の99歳誕生日に、1年遅れの白寿のお祝いを皆で行いました。その3日後、Hさんは安らかに旅立たれました。
 私たちはHさんの姿、Hさんとの日々の関わりから、介護の仕事を超えた人の生きる姿 生きる力 目の前の人の力を信じる事と、沢山感じさせて頂きました。Hさんとの出逢いから支援を通し、人と人の温もりある心 助け合う事 深い深い学びと感動を頂いた事を忘れません。
 Hさんに心と心で手を合わせて合掌。

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