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優秀賞「見えない可能性 ~意向のままに生きられる人生~」

2021年10月27日

ページ番号:545673

受賞者

大林 明真 様

概要

 一人の入居者様に対して多職種で協力し、心身状態の改善に取り組んでいくエピソードになっています。
 専門職から「できない・不可能」と断定されると、それを信じ込み、本当はできたことでもできないまま終わってしまう。僕の職場には、そんな事になってほしくないと想いを共有できる素晴らしい仲間がいます。
 このエピソードは他者の評価では見えない『不可能』という先入観を取り払い、チームで取り組んだ結果、ご本人様の想いに焦点を当てたことをキッカケとして、前に動き出したチームケアからご本人様を含めた皆が笑顔になった体験談です。

エピソードを通じて伝えたい「福祉・介護の仕事」の魅力

 誰しもが持っている可能性を諦めず、不可能と判断されたことでも、どのように臨むことでより良い未来に近づけることができるのかを伝えたい。
 人生において『不可能と決めつけることができるものはない』ことを伝えたい。

本文

 僕は特別養護老人ホームの機能訓練指導員として5年前から働いています。
 これは僕が働きはじめて3年が経ったある出来事で、強く印象に残っているエピソードです。
 おばあちゃんの名前はHさん。
 Hさんは、80歳台で認知症を患っています。笑顔がキュートで体操など身体を動かすことが大好きです。立ったまま床にペタッと手のひらを付けることができるほど身体が柔らかいおばあちゃんです。また、聞き上手な方で、自分から話すというよりも、他の入居者様の話や職員の話をニコニコと聞いてくださり、ユーモアセンスも抜群でいつも周りの雰囲気を和やかにしてくれます。職員間でのHさんのファンクラブがあるほどで僕もその一員です。毎回会うたびに「あらー!にいちゃんやん!!」といつも楽しい話をさせてもらっていました。
 週に一度の機能訓練は特に毎回喜んで実施してもらっており、少し疲れても「汗かいたけどええ気持ちや」と一生懸命身体を動かし、健康には人一倍気を遣われていました。
 そんなある日の出来事。
 Hさんがいつもどおり椅子から立ったままリビングでラジオ体操をされている途中にバランスを崩し、転倒したと連絡が入りました。
 その瞬間「まさか。あんな身体の柔らかい方がラジオ体操で?でも、転けたとしても別になんともないだろう。大丈夫大丈夫」と自分に言い聞かせながら急いで現場に向かいました。
 そこには床に横たわっているHさんがいました。右の腰を擦り、強い痛みを訴えています。「痛い!転けた時、ボキって聞こえた」と苦痛に顔を歪ませ、右下肢も自身で動かすことはできず、立てない状況。すぐに救急搬送され、診断結果は右大腿部頸部骨折と診断されました。約1ヶ月間の入院。家族の方もとても心配されていて、「今後歩けなくなるのが不安。痛かったと思います。早く元の生活に戻って欲しい」と仰っていました。
 転倒後のカンファレンスでも、参加した職員はお通夜状態。「自分たちが普段からもっと危険予測できていれば」と、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになったのと同時に、退院後は何とかして元のHさんに戻って頂こうとチームで硬く結束します。
 1ヶ月後、病院から退院可能と連絡があり、すぐに病院へ行き、身体の状態を確認させてもらうことになりました。病室で僕を見るなり「あらーにいちゃんやん!」といつもの笑顔で出迎えてくれました。Hさん!覚えてくれていたんですね?嬉しいです。「名前は忘れたけど顔は覚えてるよ」といつものフレーズを仰っていただき、その時は元気そうにしていて本当に良かったと思いました。
 身体の状況は、ほぼ寝たきりに近い状態。入院前のご自分で歩かれていたころと比べるとADLはかなり低下し、病院のスタッフからは「意欲の低下があり、リハビリも行われないことが多い。正直ベッドから車椅子の移乗動作ができるようになることがゴールです。」と言われました。
 ショックを受けたまま、その情報を持ち帰り、退院前のカンファレンスを多職種で行います。
 皆がこのままHさんは一生歩けないのか?もう自由に自分の意思で行動ができないのか?と頭をよぎり、暗い雰囲気の中、「ご本人様はどう思われているのか」という介護支援専門員の言葉に、僕は「そうだ。あの笑顔を僕にしてくださったじゃないか。病院では皆が知らない人であるが、Hさんは僕やスタッフの事は覚えてくれているはずだ。ここに帰ってきたら、何とかなるかもしれない」と小さな可能性を思い浮かべました。
 退院後、やはりHさんは「いやー皆、会いたかったわ」と笑顔で車いすに乗って帰ってこられました。
 涙を浮かべながらスタッフは歓迎し、それぞれHさんが今できることを探します。
 僕は専門職として、立位の練習や体幹筋のトレーニングなどを中心に、まずは起居動作が行えれるようにメニューを立てて訓練をしていました。また日常で筋力を少しでもたくさん使っていただけるように、介護職は車椅子から椅子への座り替えやトイレ案内など体力の回復状況に応じてどんどんHさんに話かけ、起きていただける時間を増やしていきました。
 その時のHさんは「私なんでこんなに右足が痛いんやろか?なにしたんやろか」と転倒したことを忘れていて、理由をお話すると「えー私転けたんかいな?いつ?」と毎回聞かれては驚かれています。
 その中で「私もう歩かれへんのかな」と少し気落ちをしているHさんに、スタッフは決して「そうですね」とは言いませんでした。
 1週間が経ち下肢の筋力も少しずつ回復して来られ、平行棒での歩行でも安定して歩ける様にまでなっていました。
 ある日、夜勤明けの介護職から「Hさんが部屋から自分で歩いて出てきました。」と連絡が入り、僕は「まだ一人で歩ける段階ではない。またこけるのではないか」という不安に苛まれましたが、Hさんはもう歩けると思われているのではないかといった全く逆の発想をした職員から、今後の支援方法について早速臨時でカンファレンスを開きました。
 Hさん本人にも参加していただき、ご意向を伺います。「やっぱり自分で歩いたほうがいいわ。みんなに苦労させてるから頑張るわ」この一言で、方向性は決まりました。
 施設長・医師・介護主任・介護職員・相談員・看護師・機能訓練指導員・管理栄養士・介護支援専門員それぞれが専門職としての意見を出し合い、その中では真っ向からぶつかった意見もありましたが、全てはHさんにもう一度歩いて頂くためであり、そこに遠慮はありません。職員同士の遠慮は、Hさんのためにならないからです。
 早速話し合った内容を家族様にもお伝えし「ぜひお願いします」と同意を得たら実行あるのみ。
 まずは本人様に「歩いてはダメ」というのではなく、歩いても支えられる場があるよう、居室の模様替え、リビングの設えの変更を。他の入居者様にもお願いして、Hさんが歩かれているときは職員を呼んでもらうように協力を仰ぎ、毎日歩行訓練が出来るようスケジュールを組みます。
 機能訓練指導員は施設に一人しかいないため、僕が休みの時は代わりのスタッフがHさんとの歩行訓練を行い、家族様にも情報を共有。家族様もHさんと電話で励ましと激励をしてくださっていました。
 家族様が大好きなHさんはそれを糧に、毎日汗を流されながらも真面目に訓練に取り組んでくれました。日に日に歩行も安定してきて歩行器で長時間歩いても疲れなくなり、職員との付添い歩行もややふらつきはあるものの、できるようになってきていました。
 骨折から3か月。ついにHさんは骨折前の状態にまで近づくことが出来ました。
 家族様にも面会に来ていただき、その歩行を見られたとき「もう元に戻ることは無理やと思ってました。本当にうれしいです。」とHさんと抱擁されました。
 この時、Hさんが退院前に病院からは『車椅子での乗り移り動作が限界』と宣告されていた事を思い出しました。しかし実際にはHさんはベッドで眠る時間も少なくなっており、活気にあふれた生活をされています。
 Hさん本人の並々ならぬ努力は勿論、きっかけとなったHさんのサインを見逃さなかった介護職員、「転倒するかもしれないから車いすに座っておいてもらおう」という考えではなく、Hさんのご意向を確認し目標を定め、皆が同じ目標に向かって意見を述べ合った事。そして何より誰一人として諦めなかったことがHさんの人生を大きく変える結果につながったのではないかと感じています。
 あれから2年が経った今でもHさんは元気に歩いて、毎日体操しています。
 「あらーにいちゃん。ご無沙汰」とHさんの変わらぬ笑顔を見るたび、あの時もう駄目かもしれないと諦めなくてよかったと心の底から思います。
 この経験は僕にとって大きな財産となりました。今では他の入居者様に対してもその方のご意向がある限り、可能性を諦めません。それはこの施設で働く職員誰もが思っていることです。
 諦めた時点でその人の人生は大きく変わってしまう事を知っているからこそ、今できることを考えて行動する。
 僕たちは今日も、情報だけでは見えない可能性を探っています。

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