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最優秀賞「ふわっとした甘いお好み焼きに込められた思い~体が動かなくても、声がかすれても、協力すれば何でも出来る~」

2023年4月1日

ページ番号:579227

受賞者

中谷 優女 様

概要

 特別養護老人ホームで暮らされているKさんは日々の生活の中で皆と楽しい事がしたい。何か自分が行動に移して、住まれている施設の雰囲気を変えたいと考え続けておられました。
 題名となっている「ふわっとした甘いお好み焼き」には、Kさんの色々な思いが詰まっています。
 小児麻痺にて身体は不自由でありますが入居者様、職員、沢山の方々の協力を得て、お好み焼きのイベントを開催されました。
施設全員で心を一つにした熱い絆のエピソードとなっています。

エピソードを通じて伝えたい「福祉・介護の仕事」の魅力

 一人では実現が不可能な事であっても施設全体が心を一つにし、協力し合う事で入居者様の思いを実現する事ができるという事を伝えたい。
 あふれる笑顔の大切さを伝えたい。

本文

 私は特別養護老人ホームで働いています。
 介護のお仕事をしてからは8年目。以前の施設では6年半従事。いつも入居者様の事を考えていましたが、自分が理想としている支援が中々出来ない状況であり、入居者様とゆっくり関わり、もっと自分に出来る事はないかと一念発起してユニット型の特別養護老人ホームへ転職。
 現在は入職して一年半となりますが、ここでの体験はこれまで以上に考えさせられることが多いです。

 私が最も刺激を受けた入居者様が、Kさん。
 施設が開設されてからずっとご入居されている方で、いわばご意見番。
 先輩職員からは「この方に認められて一人前」と言われていました。
 小児麻痺にて、これまで色んな事を乗り越えて来られた方で、お体は殆どご自分で動かすことが出来ず、全てにおいて支援が必要。いろいろな決め事があり、少しでも違っていたら厳しい指摘が入ります。
 周りの方の情報も私より詳しく、私達にも「最近Yさんちょっとしんどそうやな、元気ないよな。あんたしっかり見たりや」等、私達が気付いていなかった細かい情報まで教えて下さる事がよくあります。私の最初の印象としては、入居者様や職員に対してもはっきり指摘をされる方であり、少し厳しい方なのかなと感じ、Kさんの前ではいつも緊張しながら支援に入っていました。

 しかし、関わっていく中で、その印象も変わってきます。

 Kさんは時事問題には詳しく、オリンピックが東京に決まった際は「聖火ランナーしようか」と自ら企画。当時募集されていた聖火ランナーへのエピソード応募も、職員と行われ、「これで受かったも同然や!」と胸を張っておられましたが、結果は落選。その後新型コロナウィルス感染症が拡大し「やっぱりやめててよかったな」と仰られ、その間も「皆でオセロ大会しようか」と皆が楽しめる企画を立案され実現した【第一回オセロ大会】では前日に考えすぎてしまい眠れず、残念ながら敗退されましたが、すぐさま「次の企画もするで」と職員を巻き込んでパワフルに活動されています。

 介護職員のみならず、施設職員全員がKさんの事を「何も出来ない人」ではなく、「一人の人」として意見を言い合っている姿を見て、こういうことを当たり前に行っているこの施設は本当に素晴らしいな。私も何かお手伝い出来たらと意気込んでおりました。

 そんな中、Kさんがある朝、毎日の生活に対し急に虚しさを感じたとのことで、職員に「今日は起きたくない」と、涙を流されました。
 特別養護老人ホームは文字通りお寄りが暮らす施設ではありますが、様々な方が生活を営まれて交流を持たれています。Kさんと住まわれている階は違えど仲良しのMさんがおられ、よくお話をされていましたが、Mさんは最近Kさんに、他の入居者様と意見が食い違う事が多く、喧嘩になってしまうと聞き、思い悩んでいたのです。
 「動かない身体で何が出来るのか」「この話を聞いたことには意味がある。」「自分に何か出来る役割があるのではないか。」「何とかしとかないと」と考えられたが、良い案が出ないとMさんのために流された涙でした。
 私も何か良い案が無いかとKさんを始め、他の職員とも話し合いますが、良い案が出ず。悩むKさんにせめて楽しい話題をと、Kさんがお好きな韓国ドラマの話をしたり、お知り合いの方との電子メールのやりとりを仲介します。

 「ここで私らみたいな施設に入っている人達で、仲良しの会を発足させたい」
 思い悩んでおられたKさんは、ある日機能訓練指導員にこんなことを言われます。

 入居者様が生活するうえで、私たち職員との関わりは本当に大切なものであり、私たちは日夜入居者様の事を考えます。しかし、Kさんはそのうえで「私たち生活している方も、仲の良い人を作り、生活を充実させたい。その時に「させてもらう」ではなく、互いに生活をしているので、関係を作り、自分たちでもより充実した生活を送りたい」と仰られ、話を聞いた他職員なども駆け付け、その思いをお聞きしました。
 Kさんの言葉に、私は羞恥心でいっぱいになりました。

 私は介護福祉士として資格も持ち、経験もあります。
 数々の入居者様に対しての身体的な支援もそうですが、精神的な支援としてお話をお聞きし、御意向に沿って動くことを心がけていました。
 Kさんに対しても、お体が不自由であるので、Kさんの代弁者として他の方との中継ぎを行っていけばいいと思い込んでいたのです。
 けれど、それは職員対入居者様の関係であり、それ以上ではありませんでした。

 ここで漸く「ここで生活をされているのは誰か」ということに気づきます。
 そして、Kさんは施設の1階~6階までどんな入居者様が生活をされているのか1ユニットずつ挨拶に回られました。その後、仲良が良い入居者様3名に協力してもらい、まずはKさんを含め4名で集まり、思いを伝えられます。
 職員は集まる場所の報告をし、寄り添うだけであり、意見などは一切せずに入居者様方主体でお話をされました。職員は書記をさせて頂いたり、失語症にて言葉を上手く伝え辛い入居者様の代わりに思いを伝えさせて貰ったりしています。コロナが流行している事もあり感染症対策を行いながら、Kさんの目的としては施設の入居者様に楽しみを提供したい。他階の方達ともしっかり関わっていきたい。息が詰まって、しんどい思いをされている入居者様がいるのであれば、自分たちが話を聴いてあげたいという目標に真っすぐ進んでおられます。

 Kさんが言われた言葉が「仲良しの会がある事で施設全体がどう変わっていくのか、どう成長していくのかを見ていきたい。そして、いつの日か天皇陛下が来る施設にしたいねん」と言われ、更に「毎日、目が覚めたらあんた達が幸せになるように祈ってるんやで」と言って下さりました。私はKさんや他の入居者様の生活において様々な支援をさせて頂き、毎日関わらせて貰っていましたが、自分の気が付かない所で入居者様からも目に見えない幸せを貰っていた事に気が付きました。自分の事を影ながら毎日お祈りしてくれているKさんがいる事を何とかサポートしたい!私は強く思いました。

 目標を決められたKさんは、さっそく仲良しの会の集会を重ねられ、入居者様と職員との仲介役として私を指名されました。他の階の職員も指名され、「まずはこの会があるということを皆に知ってもらいたい」という思いから「お好み焼きを振舞いたい」と、企画を挙げられました。施設では100名の方が過ごされており、100名様分のお好み焼きを作るため、管理栄養士が分量を計算し、介護支援専門員が買い出しの準備をし、介護職員が当日の段取りを行い、協力体制を作り、当日は大きなキャベツをとにかく刻むお友達の方に「私も手伝えたらなぁ」と仰られ「あんたは全体の監修やろ」と返され「ありがとう」と繰り返されました。
 出来上がったお好み焼きは職員と共にKさんが配りに回られます。「仲良しの会です。お近づきのしるしにお好み焼きをどうぞ」とお一人お一人に伝えて周り、全てを回った後にはKさんの声が枯れていました。
 全てが終わった後、Kさんは崩れるようにベッドに臥床されました。「ホッとした。できへんかったらどうしようかと思った。私は自分ではお好み焼きを作れないから、ちょっとでも皆のお好み焼きを美味しく食べてもらえるように声を張り上げたけど、全然出てなかった。もっと頑張らなあかんわ」と、涙を流しながら胸の内を語られました。
 少し余ったお好み焼きは職員にも振舞われ、私もいただきました。
 不揃いなキャベツは少し大きいものもありましたが、ふっくらと甘く、Kさんのお気持ちが詰まっていたように感じます。

 私達、介護職や施設に勤務する多職種職員がお年寄りに関することや、代表的な病名である認知症について理解をする事は大切だと思いますが、入居者様同士も日々の関わりから一人一人の事をしっかりと観察され、理解されているのだと思うと改めて信頼関係の構築には日々の関わりが大切なんだなと感じました。人生の先輩から何かを教わるってこういう事なんだなと実感した瞬間でもあり、私が働きたいと思っていた入居者様とゆっくり関わっていける施設とは、私だけがかかわるのではなく、職員全員がどれだけ入居者様の御意向や発言を広い上げ、入居者様主体で物事を考え「どうしたら出来るのか」を一緒に実行していける施設なんだなと改めて思います。
 この施設に来て、介護の仕事をしていて良かったと本当に思います。
 これからもKさんの目標に向かい、私も一緒に笑い、怒り、時には涙を流しながら、施設で暮らされている入居者様の支えになれるよう、毎朝・・は無理かもしれませんが、日々幸せを願っていきたいと思います。

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