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優秀賞「光」

2024年9月5日

ページ番号:579231

受賞者

杉山 義彦 様

概要

 コロナ禍で地域で暮らす私たちと同じように、施設で生活されている利用者もストレスを感じていること。その中でも日々、支援にアイデアと工夫で職場の皆で取り組んだエピソードです。外出ができなくなっている利用者に何ができるのかを考え実行していくなかで、私自身が感じた介護職としての役割と魅力を書きました。

エピソードを通じて伝えたい「福祉・介護の仕事」の魅力

 人の歩幅にあわせて歩くのはとても難しいことです。しかし、利用者と共に歩いていく事で、今まで見たことのない景色が見れると思います。更に先には、見る事の出来なかった自分自身を見つける事が出来ると思います。困難な仕事ですが必ず結果が出て喜びや楽しさを共感できることができる。そんな魅力がある仕事だと伝えることができたらと応募しました。

本文

 2019年から世界中で流行しているコロナウィルスの影響で私たちの生活は一変しました。マスクを着けた生活が当たり前となり、働き方もリモートワーク等と変化していきました。しかし、利用者の生活を支援する介護職においてはコロナ前と変わることなく働いていたのではないでしょうか。私たちの生活も蔓延防止対策、非常事態宣言が出され外出や密にならない等の制限を強いられました。私が働いている障害者支援施設においてもコロナの影響はとても大きく、利用者は不便な生活を送っていました。多くの利用者は移動支援サービスを利用しヘルパーと外出されます。しかし、蔓延防止対策下においては外出が難しい状況でした。また、社会への参加の機会であった作業所への通所もできなくなりました。変化のない暮らしの毎日は、利用者の意欲を削いでいってしまったように感じます。施設の利用者も地域で暮らす人々と同じように、不安とストレスが募る日々でもありました。
 そんな状況の中でも、私たち介護職は前を向いて進まなければなりません。支援者が後ろを向けば利用者は前に進むことが困難です。そこで職員の中から施設の中でも変化をもたせるようなアイデアを募集しました。ある日は家庭用のプラネタリウムを使って天井に星空を写して楽しんでもらえるようにしました。
 2021年のコロナ禍においても日々「できる支援」を探していた私たちの印象に残っている想い出があります。ある日、女性の利用者であるFさんのタンスの上に大きい紙の箱があることに気付きました。今までは気にしたこともなかったのですが、居室で会話をする機会も増えたからでしょうか「何が入っているのですか。」と私は聞きました。Fさんは「帯と浴衣が入っているのよ。」と教えて下さいました。Fさんは朗らかで、とてもオシャレな女性です。年齢は74歳になりますが、若い頃は芸子として生活をされていたそうです。しかし、20代の若さで事故に遭い両足に障害が残ります。事故後は病院で療養、リハビリをされますが日常生活において車椅子が必要となりました。その後、障害者支援施設に入所されて20年以上になります。「もう何十年も着ていないわね。捨てようかしら。」コロナの影響からか利用者はどんどん消極的になっているように感じていました。「そんな淋しい事を言わないで下さい。着てみたらいいじゃないですか。」Fさんは高齢になるにつれて自身での更衣が難しくなってきています。「でも着る機会がないし。」Fさんの言葉と表情に違和感がありました。私はもう一度聞きます。「着たいですか。」Fさんは私をじっと見て言います。「もちろん着たいわよ。」それは、Fさんの表情と気持ちが重なった答えでした。コロナ禍で利用者から聞くことができた主体的で前向きな言葉です。私もFさんの目を見て答えます。「着ましょう。今年の夏、絶対に着ましょう。」私は職場の人たちへ「Fさんに浴衣を着てもらいたいです。」と相談をします。利用者へも一人一人に尋ねて回ります。「今年の夏は浴衣を着て外で写真を撮りませんか。小さくてもお祭りをしましょう。」利用者からは「やりましょう。」「ラムネを飲みたい。」「かき氷も良いですね。」と積極的な発言が出るようになりました。施設の外には行けない状況でとても困難な企画です。続くコロナの影響で皆が精神的に疲れているように感じていました。しかし、そんな状況の中だからこそ「今やるべきではないか。」と強く思いました。私が4年前に入職した時、先輩から「利用者の可能性を一緒に探して欲しい。」と言われました。コロナ禍においてくじけそうな時、その言葉の意味を今一度自身に問いかけます。浴衣を着る季節に間に合わせなければなりません。世間ではイベント、花火大会、夏祭りも中止しています。それでも施設の外には夏が近づいて来ています。外出の許可は下りませんので屋上を使用できないか検討します。使用できたとして暑さ対策が必要です。着付けができる人はいるのか。感染症対策はどうするのか。困難な状況に盛り上げた気持ちが沈み込みます。しかし、看護師から「着付けできます。」と声をかけていただきました。暑さはテントを立てる案が出ました。テントは施設にありました。屋上の使用許可も取れました。浴衣は他部署の備品として保管してあり快く貸して下さいました。希望する利用者分の浴衣が揃いました。職場の皆で1つずつ課題を解決して、無事に当日を迎える事ができました。職員は気分を盛り上げるためBGMを流して法被を着ます。暑い空の下、かき氷もあっという間に溶けてしまいます。楽しい時間はすぐに過ぎてしまいました。それでも皆で協力し、夏を一緒に体感することができました。職員と利用者が共に眩しい笑顔でポーズをとり記念撮影をします。その後も看護師と協力して体調の変化を見ていきましたが問題なく企画を終えることができました。
 この企画を通して私が学んだことは利用者への支援において可能性を探す時、自分の可能性にも向き合う必要があること。個人では出来ない事があっても、私たちなら出来ると可能性を広げていく事が支援において利用者の人生の豊かさに繋がるのではないか。その利用者に寄り添った思いが人と人を繋げることができる。そして可能性を信じて行動することが自分自身の成長へと繋がっていく。そんな役割がエッセンシャルワーカーにはあり、介護の仕事における魅力だと思います。介護に携わる私たちは利用者が射す道を共に歩むことで学び、成長していくことでしょう。
 後日、青く晴れた空の下で笑っている利用者の写真をご家族に郵送することができました。感染症対策として、面会場所や時間の制限が続いています。ご家族にとっても親や子供が笑顔で過ごされているのを見て少しは安心されたのではないでしょうか。終息の見えないコロナの状況において、支援に携わる介護職の力がますます必要になってきていると考えます。

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