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優秀賞「第二の家族~「ありがとう」にあふれた仕事~」

2023年9月28日

ページ番号:607533

受賞者

河北 一貴 様

概要

 特別養護老人ホームで働いて4年が経ちました。
 日々の関わりや、看取り介護を経験し、いろいろな利用者様と関わることで、「介護」とは第二の家族のような立ち位置ではないかと思うようになりました。そして日々の「ありがとう」に心から「ありがとう」と思えるようになりました。
 「介護」は「感謝」にあふれた仕事であり、「介護」は私の人生を好転させました。
 感謝にあふれている「介護」の仕事を伝えたくて今回応募しました。

エピソードを通じて伝えたい「福祉・介護の仕事」の魅力

 「感謝」や「ありがとう」といった言葉の意味を深く感じれる仕事は「介護」であると私は考えます。認知症、そして終末期を迎えられる人のケアは貴重な体験であり、それらを通して私自身も大きく成長できたと感じます。
 このエピソードを通じて、少しでも多くの方に「介護」の魅力が伝わればと願っています。

本文

 私は特別養護老人ホームで働いています。介護職と聞いて皆さんはどんなことを想像しますか?私の介護のイメージは自分よりも年上の人に話を聞き、人生の教訓等を聞きながら必要な時にお世話させて頂くといったイメージでした。私が働く施設では要介護3以上の利用者様が入所しており、ほとんどの利用者様が短期記憶、そして生活する上での介助は欠かせないといった人ばかりです。ゆったり、のんびりしていると思っていた介護の現場がこんなにも専門性に長けており、忙しくて驚いたのを今でも覚えています。特に介護経験ゼロ、身内に認知症になった人もいない私にとってここは異世界のような場所でした。記憶が持続しない人との会話、身体が不自由になった人への介助は容易なものではありません。
 ですが日々そんな環境の中で働いていくうちに、私は介護職の奥深さに魅了されていったのです。
 とある夜勤の日私がいつも通り定時のパット交換をしていた時の話です。Mさんは生活する上で介助はすべて必要であり、私が出会った時にはほとんど会話もままならない状態でした。Mさんとの唯一の会話といえば私が名前を呼んでMさんがそれに応答していただけるほどの短い会話です。ですがその日、部屋を訪れた私にMさんは言いました「こんばんは」。私はいつもと表情や話し方が違うMさんに気が付き、話をしました。するとMさんは「あなた、綺麗な顔ね。いつもありがとう」。その日の夜Mさんはいつも以上に会話が弾み、私に笑顔を見せてくれたのです。意思疎通が難しい利用者様の介助はつい淡々としてしまいがちですが、私はこの日Mさんの貴重な一面を知り、お声がけや傾聴といったことがどれほど大切かそしてそういった当たり前とされることがその人の貴重な一面を知るきっかけになると身に染みて感じました。
 私が施設で働き始め半年が経ったころ、Iさんという女性の利用者様が入所してきました。Iさんは認知症で心臓の持病がある人でしたが、とてもしっかりされており、私たちが介入するのは排泄介助のみでした。そんなIさんはすこし寂しがり屋でもあり、人と話すのが好きな女性でした。周りに話しかけてくれる人がいなかったり自分にできないことがあると少し感情的になり、大声をだして助けを呼ぶことがよくありました。そんな時私はIさんの側に行きいつも会話をします。私はIさんと話していくうちにIさんが感情的になった時はどう対応するのが一番いいのかを探すようになりました。いろいろ試した結果、Iさんの好きな京都の話、昔の身の上話、そして気分転換にJazzを流す、この3つがIさんにとって気分が落ち着くことだと知ったのです。Iさんの身の上話はとても愉快で、面白いことばかりでした。Jazzが好きだったIさんはJazzを流すと良くソファに座りながら踊りました。Iさんは私の名前を憶えてくれるようにもなり、私が出勤する度に名前を呼びながら手を振ってくれるようになりました。その日から施設に出勤するのが楽しくなったのを覚えています。そして月日が流れIさんが入所してから二年が経過した頃、Iさんは心不全の症状が悪化し入院しました。その後無事退院しましたが、入院先の医師からは心臓の数値が高くいつ亡くなられてもおかしくないとの報告がありました。私はすごくショックを受けたことを今でも思い出します。そしてIさんとご主人は慣れ親しんだ施設での看取りを希望し、ターミナル契約を結びました。退院直後は元気に暮らされてはいたものの、食欲は低下していきIさんは終末期に入りました。ある朝、私はIさんがいる部屋へ行きIさんの好きなJazzを流しました。Iさんは以前のように踊ることはありませんでしたが、私の手を握り「ありがとう、ほんまありがとう」とささやいてくれました。最後まで私の名前を忘れることなく一人のヒトとして覚えていてくれたこと、そして亡くなる直前まで感謝の気持ちを示してくれたIさんの人柄に私は涙ぐみました。
 看取りケア行っている施設ではほとんどの利用者様がそこで人生の最後の時期を過ごされることになります。私たち介護職はその貴重で大切な最後の時期を共に過ごしていくことになります。それは第二の家族のようなものではないかと私は考えます。笑顔ではしゃぐ日もあれば、寂しくて涙ぐむ日もあり、イライラして仕方のない時も、私たち介護職はそのヒトの側でケアをさせて頂くのです。そしてそこにはたくさんの学びと気づきがあります。優しさや、悲しみ、愛、感謝の気持ち等に直接触れることの出来る職業はなかなかないのではないでしょうか。そしてそこにはヒトとして成長していけることがたくさんつまっているように思います。
 最後に私の担当利用者でもあったYさんの話をしたいと思います。Yさんは物静かでしたが話し始めるととてもユーモアがあり職員や他の利用者様の話をよく聞いておられる女性でした。Yさんも入所当初は食事もすこし食べこぼしはあるもののご自身で食べることが出来ていたので、職員が介入するのは排泄のみの利用者様でした。そして私の中で印象にのこっているのが、「君が代」をよく口ずさんでいたことです。実の息子様とは疎遠になり、唯一の連絡者はお孫様のみでお孫様もYさんとの関わりが少なかったため、Yさんの趣味や趣向が分からないといった状況でした。ですがYさんと過ごしていくうちに、Yさんは国歌と桜、お寿司やお茶を立てることが好きで昔は夫婦で雀荘を経営していたことを知りました。Yさんが施設での生活が充実するよう努めてはいましたが、Yさんが入所されてから程なくして施設で新型コロナ感染症のクラスターが発生してしまいました。施設での活動はもちろん、唯一の連絡者のお孫様とも会う機会が減り、施設での生活は徐々に閉鎖的になっていきました。クラスターが発生しYさんがコロナに罹患したこともあり、食事や水分も摂取が困難になっていきました。お孫様とも何度も連絡をとりながら、何とか食事がとれるよう多職種と連携しました。施設でのクラスターが終息したころ、Yさんは自身で食事を吐き出すようになりました。お孫様からは「住み慣れた場所で最期を迎えて欲しい」との希望がありYさんもターミナル契約を結ぶことになりました。そして食事を摂られなくなったYさんは終末期をむかえました。2週間先の散髪では間に合わないと判断し、私はお孫様に許可をもらいYさんの髪を切らせて頂く事にしました。静養室にはYさんが好まれていた物の写真をたくさん飾り、出勤した時には部屋で国歌を流しました。そしてちょうどその時期に桜が咲いていたこともあり、Yさんと施設の入り口にある満開の桜を観に行きました。私は満開の桜の下でYさんがよく唄われていた国歌をうたいました。Yさんは言葉を発することはなかったものの、感謝の気持ちが聞こえてきたようでした。そして翌日の早朝Yさんは息をひきとられました。その日私は夜勤で勤務していた為、息を引き取られる前にお孫様に連絡しお孫様の立会いの下、息を引き取られる形になりました。Yさんが亡くなられた後お孫様からは「孫よりも親身に向き合ってくれてありがとうございます」と感謝の言葉いただきました。
 「介護」とは第二の家族のような立ち位置でもあり、そして感謝にあふれた仕事だと私は感じています。「ありがとう」という言葉に素直にありがたいと感じれるこの仕事に私は魅力を感じます。
 介護職は対ヒトの仕事であり、毎日ヒトからの感謝の気持ちを感じます。どんな人でも必ず「ありがとう」という言葉を口にしてくれます。それは私たちのやりがいに繋がり、感謝するということの重要性にも気づかされます。
 そしてこれはすこしおおげさに聞こえるのかもしれませんが、私は「介護」が人生を好転させる仕事であると考えます。それはこの仕事が感謝にあふれているからです。
 入職して4年が経った今、私の「介護」のイメージは「感謝」です。
 これからも第二の家族のような立ち位置で、今の気持ちを忘れずにケアに努めていきたいと思います。

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