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特別賞「めぐり逢い」

2023年4月1日

ページ番号:607534

受賞者

杉山 義彦 様

概要

 障がい者支援施設に入所されている利用者が言語のコミュニケーションが難しい場面について、どのように人間関係を構築し支援していくか悩みました。しかし、時間をかけて相手を理解する事で少しずつ前に進むことが出来ました。本人の長所である手や指先の器用さに注目し、陶芸活動に参加することで本人の楽しみとなり私自身の学びになりました。そこに至るまでの葛藤と出会いの話です。

エピソードを通じて伝えたい「福祉・介護の仕事」の魅力

 福祉の現場は常に出会いの繰り返しです。出会いは人を成長させてくれます。私が働く福祉の現場には成長の機会が多くあり、また環境もあることを伝えたいと思い応募しました。

本文

 私は障がい者支援施設で生活支援員として働いています。生活支援員とは障がい者の日常生活上の支援や身体機能、生活機能の向上に向けた支援をする仕事です。私が働いている施設で提供している障害福祉サービスは、生活介護、施設入所支援、短期入所等があります。生活介護は、主に昼間においての施設等の入浴、排せつ、食事の介護や活動の機会を提供します。施設入所支援は、主に夜間の介護や日常生活上の支援を行います。短期入所は、自宅で生活されている障がい者が短い期間に限って施設へ入所するサービスです。短期入所には家族や介助者の休息としての役割もあります。
 介護の仕事は体力的、精神的に大変な仕事というイメージを持たれる人が多くいます。近年では介助者の体力的な負担を軽減する為に様々な介護用品や移乗用リフト等の介護機器を導入する施設も増えています。また、私の職場では職員と利用者がお互いに安心・安全な介助を目標に介護技術の向上にも努めています。
 しかし私自身も利用者とのコミュニケーションや関係性が上手くできない時には精神的な負担を感じることがあります。私の働く施設では身体、知的、精神に障がいのある人たちが共同で生活をされています。発音や発声による意思表示や感情の表現が上手くできない人もいます。様々な障がいがコミュニケーションの障壁となって関係の構築を困難にします。相手の意思を汲み取れないことは互いのストレスになり精神的な疲労に繋がります。どんな人間にも感情があります。感情は私たち人間が適応的に生きるためにあるのです。施設の利用者はその感情をまっすぐに表現します。一緒に笑い合える時もありますが泣いたり怒ることも当然あります。
 ですが理解しなければいけないのは支援者が困難な過程は相手にとっても困難な過程であるということです。そのような時に私たち支援者は日常の生活を通して相手の心を理解していく必要があります。そして時間や思いを共有することで良い関係の構築に努めます。私は精神的な負担を感じるこの時間こそが支援にとって必要であると考えます。理解するための時間が経験となり成長した時にお互いの距離が近づくのではないでしょうか。そんな時に利用者の心に寄り添うことで初めて一緒に前へと進むことができるのだと思います。
 私は先輩職員から心に寄り添い支援することの大切さを教えてもらいました。そして私は教えてもらった事を大事に日々の支援に励んできました。そして、ある利用者との出会いが心に寄り添う支援には相手の心を理解するための時間が必要であることを学びました。私は支援に迷った時、その出会いに立ち返ります。そこで得た経験は今でも私の背中を優しく押してくれます。
 私は生活支援員として79歳の女性の利用者A様を担当することになりました。A様は先天性の脳性麻痺で身体障がいと知的障がいがあります。両足が不自由で自分の力では立つことは出来ません。私が担当職員として日常に関わる中で言葉が不明瞭で聞き取るのが難しい場面もありました。そのような時は私の表情を察してか身振り手振りで一生懸命に伝えてくれました。A様は手や指はとても上手に使うことが出来るのです。時には手をたたいて私を呼び外出先で買ってきた物を指差して教えてくれたりもしました。ですが言語によるコミュニケーションが難しい時や高齢による認知機能の低下もあり、私の話がどれほどA様に伝わっているのかが分からないことに支援者として自信が持てない日々でした。
 ある日、A様は手を挙げて私を呼ぶと手提げのカバンを指差しました。私はカバンが汚れていることに気付きました。カバンにはレースが付いていたので洗面器にお湯を入れて一緒に洗うことにしました。A様が丁寧に洗っている姿を見て私は本人の手と指を使って何かできることはあるのではないかと考えました。しかし私にはA様が主体で楽しめる活動を見つけられないでいました。そんな時に陶芸療法士として活動している先生がいることを知りました。陶芸療法とは陶芸作りを通して脳の活性化やメンタルヘルスの緩和、身体のリハビリや精神疾患の回復を目的とした療法です。また認知機能の低下を予防する効果も期待できます。私がA様の事情を説明すると先生は快く引き受けてくれました。コロナ禍で外出できない利用者のことを考えて施設で陶芸教室を開いてくれることになりました。
 私とA様は相談してコップを作ることにしました。当日、A様は粘土を前にして眉間に皺を寄せ何かを考えているように見えました。私は何も聞かず指が動き出すのをじっと待つことにしました。A様は少しずつ目の前の粘土を千切り丸め伸ばし始めます。表情は硬いままですが私にはイメージを具現化するための真剣な表情に見えました。本当に困った時は私の方をじっと見つめます。私は少しだけお手伝いをします。失敗を繰り返しコップ作りの行程を一時間かけて達成することが出来ました。完成後は手をたたいて喜びを表現しコップを指差してみんなに伝えていました。私も自分の事の様にうれしく一緒に手をたたいて喜ぶことができました。
 陶芸教室にはたくさんの利用者が興味を持って参加されました。芸術家の岡本太郎が好きで太陽の塔を作る人、電動車いすを使用する人は指のリハビリとして粘土を一生懸命に伸ばしていました。いつも家族にもらってばかりでお皿を作ってプレゼントをしたいと参加される人もいました。その後も陶芸教室は定期的に開催することが出来ています。2月には節分に合わせて鬼のお面を作りました。お面は粘土を上手く捻じれないと唇が分厚くなりました。粘土を薄く伸ばせない時は顔が小顔になったりもしました。完成したお面には利用者の個性と同様にそれぞれ表情がありました、障がいがあっても高齢になっても自分の身体を使って何かを作り表現する。それは私たち支援者にとっても嬉しい時間です。
 私が伝えたい福祉・介護の仕事の魅力とは「めぐり逢い」です。私はA様との出会いから色々なことを学びました。また他の利用者との出会いの中でも同様に学びになることが多くありました。人は出会いを通して成長します。福祉の現場にはその出会いの場面が多くあります。私はA様と出会わなければ陶芸療法士の先生とも出会わなかったように思います。陶芸作品を見てもらうために家族にも面会を通してお会いしA様の陶芸教室での様子を話し作品を見てもらい大変喜んでもらうことが出来ました。私は利用者の作品を見てもらうため施設の玄関に飾ることにしました。それからは施設に来所される色々な人から声を掛けてもらいました。
 私の働いている障害者支援施設は福祉施設の中にあるので多くの人が利用し来所されます。利用者それぞれに親や子ども、親戚等の家族がいます。利用者の友人や勤めていた会社の同僚が来所されることもあります。ボランティアでイベントを手伝ってくださる人も多く来所されます。ボランティアの人たちは毎週第4日曜日にカフェを開いてくれます。他にも花壇を手入れしてくれる人、紙芝居を催してくれる人、オカリナを吹いてくれる人等、本当に多くの人たちが施設を利用する障がい者の支援に携わっています。
 私たち支援者は障がいのある利用者の支援をする経験を通して自身も学んで成長します。その学びは支援者としての学びであると同時に人としての成長へと繋がります。人と出会える場と人として成長できる環境が私の働いている場所にはあります。
 施設を利用される人にとって、私も誰かの良いめぐり逢いでありたいと思っています。これからも色々な人たちとの出会いを楽しみに仕事に励んで行きます。

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