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特別賞「チーム崩壊。その後に生まれた『絆』 ~新型コロナウィルス クラスター発生から得たもの~」

2023年4月1日

ページ番号:607535

受賞者

宮﨑 聖菜 様

概要

 新型コロナウィルスによって、世界中で暮らしの在り方が変更を余儀なくされた。特別養護老人ホームでもそれは押し寄せてきており、入居者様は勿論、家族様・職員においても、日常が大きく変わってしまいました。感染症に対しての研修も、毎月の委員会でも感染予防に努めていましたが、目に見えないウィルスは突如私たちに襲い掛かってきました。
 このお話は、コロナウィルスが入り込んだ時、私たち介護職員はどのようにして支援を行ったのか。施設はどのような判断をし、皆がどのように動いたのかをリアルに記載した内容となります。絶望の先に私たちが見たものを共有できればと思い、応募させて頂きました。

エピソードを通じて伝えたい「福祉・介護の仕事」の魅力

 介護という仕事は、24時間365日ずっと入居者様と向き合い、支援を続けていきます。
 その中で、介護職員一人では出来ないことが多々あり、その度に「出来ない理由を探す」のではなく、「どうしたら出来るだろうか」の方法を探しながら、チーム・施設全体で入居者様の支援を行っていくことが求められます。
 入居者様の生活を守るために必要なことを知っていただき、皆さんに伝われば幸いです。

本文

 西暦202212X
 特別養護老人ホームで、それは突然やってきます。
 「昨日から発熱されていたN様から、コロナ陽性反応が出ました!」 

 いつも通り私が早出の仕事をしていた際に、その連絡が医務から来ました。
 施設内でのコロナが発症するのは初めてではなく、ましてや私が所属しているフロアでは2回目。
 今回も防護服を着て、入居者様からは目しか見えない状態で支援をするのかと肩を落としているとき、介護係長からの激が飛びます。「今回の発症の原因になっている職員がわからない。もしかしたらこのフロアの職員がすでに罹っているかもしれない。全員今すぐに抗原検査をして、N95マスクとゴーグルを着用して!」
 その言葉に飛びあがるように、私たちは抗原検査を行いました。

 面会制限をしている中、前回であれば発症者は施設から出ない入居者様ではなく、職員からとなっていたのですが、今回は入居者様のN様から陽性反応。すでにコロナウィルス菌は施設内に入り込み、このフロアに充満してしまっていました。

 フロア一つを丸ごと封鎖し、入居者様にも事情を説明。いつもなら同意を得てから支援を行うのですが、非常事態につき出来るだけお部屋でお過ごし頂くように案内します。
 私の結果はその時は陰性だったのですが、その日の昼に職員一人が発熱。私はその夜に発熱し、共に陽性が出ました。

 それから10日間、日に日に送られてくる陽性罹患情報に愕然とします。
 クラスターの発生です。

 社内ツールのチャットでは情報が飛び交っており、入居者様は同じユニットの方が10名様中5名様・職員は1名が新たに陽性となっていました。
 普段は10名の職員が配属されているフロアが、濃厚接触者にて自宅待機となっている職員もおり、非常勤さんを含めてたった5名のみの従事となってしまいました。

 「この状態を自分が引き起こしてしまったのか・・・・。」 

 入居者様には基礎疾患のある方が大多数であり、中には肺疾患や心疾患と重度化しやすい方も多くおられました。
この状態で戻っても、自分は受け入れられないのではないか。何故コロナを持ってきたと責められるのではないか。
そう思いながらいよいよ現場復帰が出来るとき、ピコンとチャットが携帯に届きます。
 『不安がってないか?大丈夫やで。5階の事は俺に任せておけっていったやろ。この前も乗り切ったから、今回もまた皆で頑張ってる。明日からよろしくな』
 毎日の状態報告の際に、フロアマネージャーである上司から連絡がありました。
 『病み上がりやから無理しないでね』『もし動いてなかったらストレッチとかしておいた方がいいよ。私も陽性になったときそうだったから。』『防護服暑いよ~。大変やけど一緒に頑張ろう!』
 ピコンピコンピコン・・・同僚からの言葉が止まらずに届きます。
 泣きそうになりながらそれに返事をし、私は再び入居者様と仲間たちの顔を見ることが出来ました。ここからは私が皆に恩返しをする番であると気合を入れます。

 復帰した私は、発症者が多いユニットを受け持つことになりました。
 ユニット扉の前で防護服を着こみ、入居者様に挨拶へ伺います。
 発症前は賑やかだったリビングも、今は閑散としており、せめて寂しくないように入居者様がお好きな音楽を流します。
 防護服のため、全身青色の私たちですが、少しでも笑って頂こうと、明るい話を提供し、ご自分でお体を動かせられない方には手を取りながらぬくもりを共有します。

 M様は朝の散歩に行くのが日課で施設の周りを一周して帰ってくるのが決まりでした。しかし、今ではユニットから「出してー!」と大きな声で叫ばれていました。
 その都度職員から、現状を説明させて頂くも納得して下さらず怒ってしまう毎日でした。
 「お菓子を買いに行く!」と言われ「私をここに閉じ込めて殺す気か。」と何度も言われるようになった時、その話を聞いた介護係長が簡易の売店を作成し、棚ごとユニットへ運び入れてくれました。
 「こんないっぱいお菓子があるんやな。なにを食べるか迷うわ。」「散歩はここ(リビング)でしたらいいな。あんたらとやったらどこでも行くで」など嬉しそうにお話しされ、以前のような明るいM様に戻られました。
 日課である散歩も、一人で行きたいのではなく私たちと行きたいと思って下さっていたことがわかり、食べる事が大好きなM様に寄り添った対応が出来て、笑顔が増えたことはすごく嬉しかったです。

 ご自分でお体を動かしづらい方は、やはりベッド上の生活ではお食事もうまく召し上がることが出来ず、私たちが付き添い支援を行います。中には食事量が低下し、どうしたらいいのかわからなくなったとき、応援に来てくれていた機能訓練指導員が「この方はそろそろ車いすに座って頂きましょうか。股関節が硬くなってしまう」「この方はこのようにして食事をとってもらいましょう」と提案してくれます。

 そうです。
 私が復帰した時、すでにこのフロアには他部署の方々が応援に来て下っていたのです。 

 少し前に陽性になり戻った方を、フロアの応援に入ってもらうように、シフト作成者が頼んでくれていたのでした。
 「困ったときはお互い様ですよ」「僕はあまり経験がないので役に立たないかもしれませんが、休んだとき皆に迷惑かけたので」「私もパートだけど時間内一杯頑張る!何でも言って」
 日頃はフロアの仲間だけであるこの階には、機能訓練指導員・他階職員が応援に入ってくれており、私たちを支えてくれていました。
 以前から他の階でも陽性者が出て人が不足すると、他の階から応援に入られていたことは知っていましたが、実際目の当たりにするとこれほど心強いことはありません。
 少しでも私たちが不便な思いをしないように、理事長は飲み物を施設長はお菓子や食事も差し入れて下さり、医務の看護師も人手が足りない中、毎日の確認と職員の健康管理にも気を配ってくれ、生活相談員は毎日のように「不便なことない?皆元気―?」と声掛けを。事務員の方は物品の補充を、管理栄養士は使い捨て食器の確認を、介護支援専門員も心配されている家族様に毎日電話連絡をしてくれています。
 家族様も、お父様・お母様が心配でしょうが私達職員の心配をして「大変やけど頑張って下さい。協力出来る事はさせてもらいますのでよろしくお願いします。」と励ましを頂き、他階の職員からも「もうちょっとや、頑張ってや。」「しんどくないですか?なにかあれば言って下さい。」など温かい言葉をかけて下さり心の励みになっていました。

 私たちがコロナになった事でクラスターが起こるきっかけとなり、チームが崩壊した絶望と、入居者様に対して何も出来ないジレンマを吹き飛ばしてくれたのがこの絆でした。

 入職して6年
 これほど上司や仲間に感謝したことも、この施設で働いていてよかったと思ったことはなかったです。

 それから入居者様の状態も落ち着き、私たちにも少し余裕が出来てきます。
 「ちょっと清拭して差し上げよう」「順番に髪の毛もドライシャンプーしていこうか」「寒くないようにドライヤーをもってきたよ」入浴が出来ず、べたついていた髪の毛を整えさせて頂き、「洗濯物もそろそろ出していこうか。お着換えしよう」「掃除機は菌が飛ぶからモップ掛けして清潔にしようか」「俺がやるから休憩行ってきていいよ」と声を掛けながら支援を行っていると「ありがとうね、さっぱりした」「服からいい匂いがする」「そこの汚れが気になっていたの。綺麗な部屋はいいわね」と入居者様からの笑顔も見られてきました。
 そして、ついに最後の陽性者から潜伏期間が空けた際
 「お疲れ様!よく頑張ったね皆!」と閉鎖的な環境から一転して開放されました。
 全員で防護服を脱ぎ、入居者様の部屋の扉を開けさせてもらい、実に一か月ぶりに皆さまがリビングに集まり、お食事を召し上がられることが出来ました。

 陽性になった方はまだ本調子ではない方が多く、臥床時間を設けさせてもらいながら徐々に座位時間を長くしていきます。

 3年前の春頃、入居者様と共に見ていたテレビから流れてきた新型コロナウィルスによって、私たちの日常が突如として変わってしまいました。
 一人コロナ陽性者が発症し、対応する初動が遅くなると、今まで普通だったことが一瞬にして奪われてしまいやりたいことなどが実現できなくなってしまいます。
 ですが、買い物に行けなかったら簡易の売店を置いたら買い物が出来る、ずっとお部屋の中で一人寂しく感じてしまわれないように訪室した際は、沢山声掛けをさせて頂くなど、感染対策中でもいつも通り出来る事は沢山あると思いました。

 しかし、残念ながら、ご入院された方はそのまま転院され、戻ってこられることはありませんでした。
 コロナによって失われたものは多くあり、今でも高齢者施設であるからにはその脅威から抜け出すことは出来ておりません。

 けれど、その代わりに私たちには絆が生まれました。
 日頃は一緒に仕事をしていなくても、面会できず遠く離れていても、いざ入居者様を前にすると行うべき目標に向かって皆が同じ方向を向きます。
 私はそんな施設が大好きで、大切です。
 この大切な場所を自分でも守っていけるように、また辛い思いをされた入居者様がやりたいこと・イベントなど沢山実現し笑顔になって頂けるように努力していきます。
 これからも日々の手洗い・消毒や換気を細目に行い、ここで働き続けたいと思います。

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