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「施設に帰りたい」 ~末期がん利用者の希望~

2024年9月5日

ページ番号:634846

受賞者

 宮川 千里 様

概要

 末期がんで抗がん剤治療を受け、「今年の春までもたない(これが最後の入院となるだろう)」と医師から診断を受けている利用者が入院中に「施設に帰りたい」と熱望される。入院していても良くなることもなく、施設で診れないか医師から相談があり、ターミナルケア経験のない障害者支援施設で何ができるか、どうしたら希望を叶えてあげられるか明日亡くなられるかもしれない利用者を受け入れるため全スタッフで何度も話し合い、一丸となって試行錯誤の支援を続けています。春までもたないと言われた方が、今、外出や作業所へ行かれるまでになり、希望されていた焼き肉屋に行くこともできました。本人の強い希望が無ければ、今頃どうなっていたか。本人からの優しい言葉がけに感謝し、残りの日々を希望を持って生活を送っていただけるよう支援していきます。

エピソードを通じて伝えたい「福祉・介護の仕事」の魅力

 ターミナルケア経験のない施設で、本人の「帰りたい」希望と、スタッフの葛藤。そこから全スタッフが一丸となって考え対応し、余命わずかと言われた利用者の「奇跡」を目の当たりにし、スタッフも悔いが残らないよう支援し、それにまた本人が答えて新たな希望を持たれ生活されている姿に感動を覚える日々です。本人の優しい言葉に、感謝と支援者としての喜びを感じています。

本文

 私は高齢者施設で5年間勤務していましたが、昨年の異動をきっかけに障害者支援施設で生活支援員として勤務しています。今回は異動先で出会ったAさんについてお話したいと思います。
 Aさんは施設に入所されている50代の男性です。就労支援事業所(作業所)を利用されており「俺は今までいろんな仕事やってきたんやで」といつも自慢げに話をしてくれます。また、「体調大丈夫か?無理したらあかんで。」「この仕事は大変やろ。」といつもスタッフの事を気にかけて下さり、私はこの言葉に何度も助けられました。そんな明るくて優しいAさんですが、約3年前に大腸癌が発覚し手術を行うも1年後に再発、既に肝臓への転移が確認され手術ができず、抗がん剤による化学療法を開始し癌の進行を抑えていました。自分が癌であることはあまり理解されていない様子でしたが、「また今週も病院やな」と拒否されることなく辛い副作用に耐えながら治療を続けていました。Aさんの楽しみであった外出や作業所も続けていましたが、体調を崩すことが多くなり行けなくなる日が増えていきました。
 今年の3月頃から高熱や嘔吐が続き、徐々に食事や水分も取れなくなり入院となりました。病状は思っていたよりも悪く、退院がいつになるか分からない状況でしたが、入院中「施設に帰りたい」と何度も訴えがあり、面会の際も「迎えに来てくれたんか?」と話されていました。主治医からも「今後病状が良くなることはないため本人の希望を実現させてあげたい。最後に一度施設に戻ることはできないか」と相談がありました。障害者支援施設は高齢者施設と違いターミナルケア(看取りケア)が出来ないため、病状が悪くなれば入院して退所になるケースが多く今回のようなケースは初めてでした。また、末期がんということもあり、いつ急変するかわからない状況にスタッフの不安も大きく簡単に決断する事ができませんでした。それでもAさんの「帰りたい」という強い気持ちがスタッフの心を動かし、なんとか施設に戻れないかと考えるようになりました。それから看護師・栄養士などの専門職とスタッフ全員で今後の支援方法や急変時の対応などを何度も話し合い、Aさんを受け入れる体制を整えました。そしてついに退院の日、退院されたAさんは痩せ細っており以前の様な活気もなく、帰ってきて本当に良かったのだろうか…と思ってしまうほど衰弱している様子でした。退院直後は食事や水分を取ることが難しく、点滴やアイスクリーム等で栄養を補っている状態でした。好きだったコーヒーやパン、食べやすいアイスやプリン等を提供し少しでも食べられるようにとスタッフ全員で毎日試行錯誤していました。それから少しずつですが、パンやコーヒー等少しずつ食べられるものが増えていきました。
 ある日、「焼肉食べたい」とAさんが呟きました。もともと焼肉が大好物で、以前は外出時にお気に入りの焼肉屋さんへ通っていましたが、最近では大好物のお肉も食べられなくなるまでに体調が悪化していたため、Aさんの一言をきっかけに焼肉を食べに行く計画が始まりました。体調管理や日程調整・当日の天気・急変時の対応・移動ルート等入念に計画を立てました。Aさんも焼肉を食べに行くという目標ができたことで食事や水分を取るようになりました。そして当日、念願の焼肉屋へ行くことができました。久しぶりの外出・焼肉にAさんも笑顔で「美味しい」と喜ばれていました。
 主治医から春まで持たないだろうと言われていたAさんですが、徐々に水分や食事の摂取量も増え、5月からは作業所や外出に行けるまでに回復しました。今では「今度外出いつかな」「作業所行くねん」と以前のように活気も戻り笑顔も増えました。もしあの時、Aさんの「帰りたい」という強い希望がなければ、退院は叶わず違った未来を歩んでいたかもしれません。退院当初は不安の方が大きかったですが、今のAさんを見ると帰ってきてくれて本当に良かったと心から思います。これからもAさんが1日でも長く希望のある毎日を送れるように支援していきたいと思います。

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