~その時、その時間を笑顔で過ごせるように~
2024年9月5日
ページ番号:634847
受賞者
末浪 彩乃 様
概要
私が担当している入所者A様97歳の神戸への外出支援のエピソードです。A様は入所した時から股関節の骨折をしており常に痛みが伴う状態でしたが、出身の神戸の話をしている時は痛みを忘れているかのように常に笑顔で話していました。学生時代に施設でアルバイトしている際、高齢の利用者様にとって明日は当たり前に来るものでは無い、ということを学んだ経験から、A様のその時の想いを大事にしたいという思いから実現しました。 A様の状態をみて、遠出をすることが難しい現実の中どうしてもA様にもう一度神戸の景色を見て欲しい、アルバイトの経験から後悔してほしくないとの思いから実際に神戸に行く支援ができたお話です。
エピソードを通じて伝えたい「福祉・介護の仕事」の魅力
明日が来ることが当たり前ではない利用者様が、今日のこの日を笑顔で過ごすことはかけがいのないものです。その笑顔を、一番間近で見ることができるのが介護職員です。しかも、自分自身も笑顔になれます。互いに笑顔になれる。介護の仕事が私は大好きです。ぜひ皆さんにも、笑顔を生み出すことができる介護の魅力が伝わればいいなと思います。
本文
私は21歳です。特別養護老人ホームに就職して2年目となる職員です。4年前から学生アルバイトとして同じ施設で働いています。当時は、正職員とは違って週に5日3時間、夕食と就寝介助のみの業務でした。淡々とすぎていく時間、いつもあっという間に業務が終わりまた次の日と繰り返している日々でした。アルバイト時代は、介助と業務を行う事が精一杯で利用者様に寄り添ってその時間を大切にすることができていなかったと思います。
アルバイト時代、私が就寝介助をする機会の多い利用者様がいらっしゃいました。私の名前を憶えて下さり、話しかけてくださる笑顔が素敵な方でした。ある時、私は実家に帰省するために2週間の休暇を取りました。私が帰省中の2週間の間に、その方は体調が悪化して入院してしまいました。『近いうちに帰ってこられるだろう』そう思っていましたが、結局、その方はそのまま施設に帰ることなく入院退所となりました。初めての突然のお別れでした。帰省前の会話が最後になると思っていなかったのでとても後悔し、『もっとこの方のためにやるべきことがあったのではないか』と思いました。
正職員になり、働く時間がシフト制になり利用者様の24時間の生活に関われるようになりました。高齢者施設で働いてみて、私たちがよく使っている「また明日」。この何気ない言葉の中の『利用者様にとって明日が来ることは当たり前ではない』という現実に気づきました。その経験を得て私は『1日1日を大切にしよう』、『この時間を大切にしよう』『利用者様が笑顔になれる関わり方をしよう』と思うようになりました。
今年度から私が担当させていただいているA様の話です。A様は97歳の女性です。入所した当初、股関節を骨折されていました。常に痛みが伴う状態で、ベッドに横になる時、車椅子に移る時などに、とても辛そうな表情をされます。私は少しでも痛みが紛れればと、何気ない会話やA様が笑顔になれるようなお話を積極的にするように心がけていました。そんなA様が笑顔を見せる時があります。それは出身地の神戸の話しをされている時です。「六甲山や海が有名なのよ」と瞳が輝かせて話しをしている時は、股関節の痛みを忘れているかのようです。
何度もお話を伺う中で、「もう一度神戸に行きたいな」と話されるようになりました。もしかしたら来年は行けないかもしれない。今、この想いを大切にしてあげたいと思い、実際に神戸にお連れすることができないか考えるようになりました。上司に相談したところ、医療職と話し合ったうえでご家族の同意を得て進めてみてはと助言を受けました。ご家族にお話ししたところ「是非連れて行ってください」という言葉を頂きました。「一緒に神戸に行きませんか」とA様にお伝えしたところ「神戸に行けるの?」と驚き、とても喜んでくださいました。それから毎日、神戸に行くことを心待ちにしてくださるようになりました。そこから具体的な計画を進めていきました。A様と私、他の利用者2名とスタッフ2名の6名で施設の車を使っていくことにしました。日程も決まり、目的地はA様が特に思い入れの深い神戸ハーバーランドにしました。
そんな最中、A様に股関節の強い痛みと高熱の症状が出て、救急搬送してそのまま入院するという出来事がありました。高齢でもあり退院する事が難しいかもしれない、神戸に一緒に行く事はもうできないかもしれないと、不安な気持ちを抱えA様の退院を祈りながら待ちました。幸い、A様は2週間で退院されてきました。しかし、退院後は車椅子に座っているのもやっとの状態で、食事が済んだらすぐに横になられるような状態でした。A様自身もとても落ち込まれていて、神戸の話をしても「行けない」と暗い表情で呟かれるだけです。
A様に元気を取り戻していただくためにも、予定通り神戸にお連れすることができないか。上司や先輩、看護師とも相談して、体調とご本人の意欲が元に戻れば、神戸に行く計画を進めていくことにしました。そこで、お部屋のカレンダーに神戸に行く日に印をつけ、出勤の際に必ずA様に声掛けをするようにしました。他のスタッフも協力してくれ、A様を元気づけるように寄り添ってくれました。A様の表情も、少しずつですが以前の明るさを取り戻しつつありました。
こうした関わりが2週間も過ぎたある日、お部屋に伺うとA様がカレンダーの印を指さし、「神戸に行けるの?ここ神戸に行く日?」と自ら嬉しそうにお話ししてくださいました。A様のこの言葉を施設内で共有し、ご本人が神戸に行く意欲が再び戻ったと判断しました。体調も問題なく、予定通り神戸に行くことにしました。
それからA様は、私に会うたびに「神戸に連れて行ってくれるの?楽しみやわ」と嬉しそうな表情で私の目を見て話しかけてくださるようになりました。ご家族様が現地で合流することが決まると、「息子も来てくれるの?本当に?」とますます笑顔が増え、その日が来ることを楽しみにして過ごされました。
当日を迎えました。「今から神戸に行きましょう」とA様に伝えると嬉し涙を流されました。車内ではずっと車窓を眺めておられました。ハーバーランドは雨の予報が外れ、過ごしやすい曇り空で潮風が心地よい天気でした。海と港の景色を久しぶりに見たA様は「久しぶりや、来れてよかった。連れてきてくれてありがとう。」と、とても素敵な笑顔で私に話してくださいました。「気持ちいいね。海を感じられてよかった」と一緒に来た利用者様と談笑される姿が印象に残っています。写真撮影では、皆で手をつなぎ、とても楽しそうにポーズをとっておられました。昼食は、A様の息子様が「昔から母はお肉が好きなんよ」と話されたことから『びっくりドンキー』に決定しました。A様は、メニュー表を眺め「どれにしようかな、いっぱいあるから迷うわ」と嬉しそうな表情で悩みに悩んでおろしハンバーグに決定しました。普段の食事では、食べる量が少ないけど神戸に来た昼食では「美味しいわ」と話されいつも以上に沢山食べておられました。食べ終わると「お腹いっぱいや、ありがとう」と素敵な笑顔で話されました。現地の滞在時間は3時間ほどでしたが、A様が出発から帰るまで、ずっと楽しそうな表情をされていたことを今でも思い出します。股関節の痛みや急な体調の悪化に備えて、車には横になるためのマットレスを積んでいました。しかしA様は一度も疲れや痛みを口にされず、施設の中では見たことがないほど力がみなぎっておられました。施設に帰ってからも体調を崩すことなく、元気に過ごされています。「この前は神戸に連れて行ってくれてありがとう」と、数日たった今でも嬉そうに私に話しかけてくださいます。帰ってきて数日たった日、私は神戸の思い出写真を一枚にまとめてA様に渡しました。すると驚いた表情で「作ってくれたの?神戸楽しかったなあ」と写真を眺めていました。部屋に飾るか聞くと「まだ余韻に浸りたいから枕元に置いていつでも見れるようにするわ」とうれし涙を流し喜んでいました。A様にとってこれほど思い出深く思入れのある場所にお連れすることができたことを私自身もとても嬉しく思います。
A様を神戸にお連れしたのは、何気ない日々の会話がきっかけでした。きっとどのような方にも、そうした笑顔のきっかけが何気ない会話の中にあるのだと思います。利用者様の好きなこと、行きたかった場所、困っていること・・今回のように外出支援が笑顔につながることもあれば、日常の中の会話や施設の中での支援が利用者様の笑顔を引き出すこともあります。
明日が来ることが当たり前ではない利用者様が、今日のこの日を笑顔で過ごすことが、どれほどかけがえのないことか。アルバイト時代の利用者様やA様との関わりを通じて気づくことができました。
『1日1日を大切にする』『この時間を大切にする』そして『利用様が笑顔になれる関わり方をする』。これから介護職員としてどれだけ年数や経験を重ねても、私は、利用者様の一日一日を大切に考え、利用者様が笑顔でいられるような介護職員でありたいと思います。そしてそのために、私自身も常に笑顔で働く介護職員でありたいと思います。
『常に笑顔でいること』をモットーに、これからもA様や施設で過ごされている利用者様が笑顔で過ごしていただけるように精一杯、支援していきたいです。
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